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2011年5月 の投稿

日本一の秘書

カテゴリー:社会

著者 野地  秩嘉      、 出版  新潮新書   
 
 弁護士である私は、サービス業の一員だと自覚しています。ですから、サービスの極意を極めたいという気持ちが常にあります。この本は、そういう意味で読みました。今さら私が秘書になろうというのではありません。この本は秘書のことも書かれていますが、要するにサービス業界で頂点に立つ人々を紹介していて、大変参考になります。
 トップバッターで登場するのは、横浜港に面したホテルニューグランドの名物ドアマンです。私も、このホテルには、昔、一度だけ入って、レストランでカレーライスを食べた気がします。戦前の1927年にオープンしたクラッシック・ホテルです。このドアマンさんは私と同世代のようです。ドアマン37年といいますから、まったく私の弁護士生活と同じです。このホテルに来るお客さんのほとんどの顔と名前を覚えているそうです。だいたい4万人の顔と名前が一致する。うひゃあ、す、すごいです・・・・。
 耳で聞いただけでは人の名前は覚えられない。はじめて来た人とは必ず握手をする。そのとき、相手の顔を見つめ、挨拶し、「お名前をうかがえますか?」と尋ねる。相手の人が「小泉です」とか言ってくれると、それで名前は忘れない。手を握りながら話をするから、相手の顔を忘れない。ええーっ、そうなんですか・・・・。
 ホテルに不倫のカップルが来たときには、タクシーのドアを開けてはいけない。男性が先に車から降りてフロントで手続をし、女性は一拍遅れて車から降り、ロビーで待つのが定法だから。その見極めが難しい。
 秘書は、カレーの「CoCo壱番館」の社長秘書が登場します。すごい秘書です。
 秘書の仕事でもっとも煩雑で、手間のかかるのがスケジュール調整だ。いかに上司にスケジュールを守らせるかが秘書の役割である。秘書検定の合格者が320万人もいると知って大変驚きました。
事務所のフロアで電話が鳴ったときには、電話を取るのは仕事に精通しているものだけで、しかも、一番、二番と順番まで決まっていた。そして、社長は客の名前を聞き直すのを許さなかった。名前を聞き直されたら、客は不愉快になるからだ。一度で、ちゃんと覚えないとダメ。
うむむ、これは難しいですね。発音の悪い人もいますしね。
 秘書は、いろいろ知っていても、ぺちゃくちゃしゃべってはいけない。秘書は、上司より目立ってもいけない。ところが、今では、パワハラやセクハラ防止のためか、一人の人間(社長など)を長く世話する秘書はいない現実がある。そうなんですよね。難しいところです。
 犯人の似顔絵を描き続けた警察官がいます。多いときには年に167枚もの似顔絵を描いたというのですから、たいしたものです。
 被害者から犯行状況の話を聞くときには、常にエンピツを動かす。そうすると、被害者は協力的になる。描くことに集中してはいけない。あくまで、聞くことが主体だ。いちばん大切なことは、絵を完成させようなど思わないこと。描きすぎてはいけない。また、本人が見て、怒るような絵を描いていけない。自分そっくりと驚くような絵を描く必要がある。似顔絵は、雰囲気と表情を描くものだ。
 写真は顔の造作を表現したようなもの。だから、絵のほうが、本人の生(ナマ)の姿をとらえている。目鼻立ちと雰囲気と表情のすべてを短時間で一枚の似顔絵につくりあげる。
 この似顔絵を活用する事件の大半は、強制わいせつと強姦罪だけである。
秋田のなまはげ素人一座の話も面白く読みました。子どもたちはサンタクロースは、小学校にあがる前には、本物のサンタクロースが来たわけじゃないことを知る。ところが、なまはげは小学校の高学年になっても、まだ本当にいると考えている子どもは多い。
 子どもだからといって、手抜きはできない。子どもは手抜きに敏感だ。子どもたちは、ヒーローが窮地を脱するところを見たいのだ。そして、ショーのあとに握手会。実は、これが大切。ショーよりも大切なのは握手会。子どもが本当に好きなのは、ヒーローと握手すること。
ふむふむ、なるほど、そうなんですよね。
 博多の焼鳥屋も登場します。さっと読めて、なるほどと参考になる、ひらめきの本です。
(2011年3月刊。700円+税)

絵が語る知らなかった江戸のくらし

カテゴリー:日本史(江戸)

著者  本田 豊、  出版 遊子館
農山漁民の巻です。たくさんの絵があって丁寧に解説されていますので、江戸時代の農村、山村そして漁民の暮らしぶりが実によく分かります。
江戸時代は離婚率の高い社会だった。女性も男性も、結婚と離婚は何度か繰り返した、というのが本当の姿だった。
農薬が普及する前、稲作農家にとっての大敵はイナゴだった。鯨油を田んぼに流して幼虫のうちにイナゴを駆除する。また油を燃やして駆除する方法もあった。
農村では、意外に麦が作られていた。麦からは味噌が作れたし、麦は栄養価が高い。アワやヒエなどの穀物と一緒に食べると、かなり栄養価があった。
牛は農家の重要な労働力だったが、食肉でもあり、牛肉の美味は庶民も知っていた。江戸時代には、馬は5軒の農家で1頭は飼っていた。しかし、農民が馬に乗って走りまわることはなく、馬は大切に扱われていた。
全国の被差別部落のうち、皮革に関係していたところはごく少なく、圧倒的多数は農業を営んでいた。動物の解体をしていたのは、穢多や皮多といわれていた人たちだけではなく、農民もやっていた。農民と長吏や皮多は、お互いの権利を侵害しないように住み分けていた。
冬にはワラ布団に家族全員が入って寝ていた。
農家は野良仕事の合間にしっかり食べていた。そうしないと体力が持たないからだ。
江戸時代には、風呂というと行水のことだった。
上野国(群馬県)がカカア天下だというのは、養蚕が女性の仕事だったから。現金収入があり、女性は権利意識が強くなって、発言力も強かった。
ゴボウは漢方薬として日本に渡来した。ゴボウは便通を良くし、腸内でビタミンを生産する。ところが、ゴボウを食品として利用しているのは、世界でも日本くらいのようだ。
土人というのは地元の人という意で、明治になって差別的な考え方がついたが、江戸時代には差別語ではなかった。
旗本としての吉良家の財政は三河国で良質の塩田をもっていたことから、豊かだった。ところが、後発の赤穂藩で塩田経営に乗り出して成功したため、三河の吉良家の塩が売れなくなった。こうして浅野家と吉良家は対立を深めていった。吉良家では、浅野家の塩が売れないように妨害した。その恨みが、江戸城で刃傷沙汰になった。
 うひゃあ、忠臣蔵は塩の販売競争が原因だったんですか・・・。とても面白い本でした。
 
(2009年5月刊。1800円+税)

さもなければ夕焼けが こんなに美しいはずがない

カテゴリー:社会

著者 丸山 健二、    出版 求龍堂
 
 安曇野にこもり、ただ一人の力で執筆と作庭に明け暮れる小説家のエッセイです。
 芥川賞受賞作家が執筆活動とあわせて壮絶な庭づくりに挑んでいる状況が伝わってきます。ちょっと真似できません。今回も口絵の写真で庭が紹介されていますが、まさしく芸術作品と言うべき庭です。私の庭のように、春はチューリップ、なんていうのんびりしたトーンとはうって変わって、自然との真剣勝負を感じさせる緊張感あふれる作庭の業です。
 庭作りは、自分好みの植物を片っ端から集めて植え、あとは水と肥料さえ与えておけばひとりでに様になってゆくと考えるのは大きな間違いだ。
庭と自然の決定的な差異は、要するに秩序と無秩序の違いだ。庭においては、膨大な時間を短縮するための絶え間のない手入れが欠かせず、人為的に、やや強引とも言える秩序を施してやらなくてはならない。
 大胆に棄てられない、優柔不断な性格の持ち主には作庭は向いていない。
 美は無限であり、底無しであって、ために、ひとたびそこに足を踏み入れ、本道を歩むことの醍醐味を味わってしまった者は、二度と抜け出せない。
となると、日曜の午後に何時間か庭に出ているだけの私なんか、とても庭づくりをしているとは言えないわけです。それでも、1年中、庭に出ていると、少しずつ庭の様相も変わってはきているのですが・・・。
 著者の庭は350坪。私の庭はせいぜい80坪もあるのでしょうか・・・。その350坪をめぐって展開する美の葛藤・・・。
華道家と作庭家との決定的な差異は、植物を単なる物と見なすか、生き物と見なすかにある。
 私は、庭に咲く花を摘んで生花として家の中に飾ることはしません。できないのです。せっかく生命を咲かせてくれた花を摘むなんて、心情として忍びがたくて、私にはできません。ただ、風に倒されてしまったような花は、もったいないので、摘んで花瓶に差して賞でてやります。その美がもったいないからです。
 この本のタイトルは18世紀の詩人の詩の一節だそうです。
 庭作りの執念を文章にすると、こんな本になるのですね。都会ではない、田舎に棲む良さの一つが花を育てることです。その一点で、私は著者の言動に共感します。
(2011年2月刊。1600円+税)

廃墟となった戦国名城

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  澤宮 優、  出版  河出書房新社 
 
 この本に登場するお城のなかで私が行ったことのあるお城を先に挙げてみます。
 安土城、大阪城、肥前名護屋城、上田城そして原城です。
 安土城には2度行きました。安土城の大手道は広くて一直線に山をのぼっていきます。両側に秀吉邸跡そして前田利家邸跡があります(いずれも「伝」となっていますので、確定したものではないようです)。そして、天守閣のあとの礎石が残っています。
五層七階、地下1階、地上6階。壁の色は、下部が黒、上部が白。上部3層は金や朱の色で飾られていた。この天主台跡地に立つと、信長が天下を見下ろしていた気分をいくらか偲ぶことが出来ます。安土城の石垣をつくったのは石工集団の穴太(あのう)衆だとされていますが、この本は、それを否定しています。
むしろ、信長は寺院建設に生かされてきた石垣をつくる技術者たちを寺院から解放し、再編して安土城の石垣造りに生かした。
 肥前名護屋城は、玄界灘に面した高台に今も廃墟が残っています。すぐそばに立派な博物館があって、住時を偲ぶことが出来ます。秀吉は16万の兵を朝鮮に渡らせた。名護屋城には徳川家康ら11万、京都に警護として秀次ら10万の兵が置かれた。総勢37万の挙国態勢だった。
 この出兵は朝鮮半島を植民地として支配するのではなく、明(中国)征服のために朝鮮半島全滅に道筋を確保することにあった。実に途方もない発想です。いくらなんでも、誇大妄想としか言いようがありませんね。独裁者の思い込みというのは、いつの世も恐ろしいものです。今も昔も何もない名護屋城がこのときばかりは20万人の大都市に変貌したというのです。
 島原の乱の激戦地である原城跡に行ったのは、つい最近のことです。現地に着いてみると、海に面した丘陵地帯で、ほとんどが農地になっています。土産品店も何もありません。立て籠もった兵力は2万3千人。女性と子どもも1万4千人いた。命令系統をきちんとして、住居グループごとにまとまった小屋を建てた。信仰を基盤とした結束が生かされた。戦後、徹底的に破壊されたわけですが、それでも地下を掘ると、今でも当時の人骨が出てくるそうです。幕府軍は3万7千人を皆殺しにしており、一人も(1人の画師を除いて)助かった人はいません。
日本には、まだまだ行ってみたい廃城があることを知ります。小田原城も高天神城もいってみたいものです。
(2010年12月刊。1700円+税)

33人チリ落盤事故の奇跡と真実

カテゴリー:アメリカ

著者    マヌエル・ピノ・トロ 、 出版   主婦の友社
 
 チリ鉱山で、700メートルの地底に2ヶ月以上も閉じ込められ、全員が無事に救出された状況が描写されている本です。
サンホセの鉱脈は、1889年に拓かれてから100年以上たっている。坑道は地下800メートルの深さまで、らせん状のスロープになっている。100年もの間、作業員は量りきれないほどの銅や金を採取してきた。
 落盤事故から2週間たった。33人の居場所を探すために、砂漠の地面を掘る掘機を操作していた。ドリルがふっと何かをつき抜けた感触がした。そして、かすかな衝撃があった。急いでドリルを地底から引き揚げる。ドリルを見ると、先端あたりに赤い色がついているのが見えた。地底の作業員たちがドリルに色を塗ったのだ。ドリルの中身を引き抜くと、何かくくりつけたものが出てきた。湿ったビニール袋がくっついている。しかも中に紙が入っていた。くしゃくしゃの紙に文字が書かれている。
「我々33人は、避難所にいて、生きている」
 すごい感激の一瞬でした。しかし、問題はそこから始まります。どうやって救出するか。地底の人たちが耐えられるかです。
やがて地下700メートルの深さから映像が届き、電話で会話できるようになった。地下の気温は34~35度。湿度は80%をこえる。避難所は50平方メートルの広さで50人が収容できる。酸素ボンベで、食料、水が貯蔵されていた。乾電池もライトもある。地下には人工的な昼と夜がつくりあげられた。
 地下の作業員が四六時中、救出のことばかりを考えて過ごすようなことがないように、不安材料はなるべく取り除く。地下の作業員はグループに分かれ、仕事を割り振られてシフト制で働いた。これが士気を高め、雰囲気の改善につながった。
 家族との対面は1分間。そして絶対に落ち込ませないよう、明るく穏やかな話題だけにすることという条件がついた。
アルコールは地下の作業員には差し入れなかった。集団に深刻な精神的不安定をもたらす危険があるからだ。湿度のせいで、より早く汗をかくので、外の環境と同じ方法では、アルコールは身体に吸収されない。
33人の着る服は、特殊繊維のもの。非常に優れた通気性をもち、防水性があって汗を効果的に発散できるため、皮膚を常にドライに保てた。そして、抗カビ作用もあった。
2010年10月13日、70日ぶりに地上へ生還した。救出作戦は23時間に及んだ。
すごいですね。33人もの男たちが70日間も700メートルの地底に閉じ込められ、そして全員が生還したのですからね。勇気と知恵あふれたチリの人々に拍手を送ります。
(2011年2月刊。1500円+税)

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