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2010年7月 の投稿

インドの鉄人

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:ティム・ブーケイ、バイロン・ウジー、出版社:産経新聞出版
 2006年6月、ロンドンに本社をおくインド人のラクシュミ・ミッタルの率いるミッタル・スチールが、フランス人のギー・ドレ率いるアルセロールの買収に成功した。
 このとき両サイドに顧問を派遣した13の銀行は、その顧問料として合計2億ドルを請求した。ミッタルがアルセロールを取得するために銀行顧問、法律顧問、ロビー活動、広報活動に支払った金額は1億8800万ドルにのぼる。これは1日あたり100万ドルになる。
 この本は、この買収劇をドキュメント・タッチで紹介しています。日本の新日鐵だって、いつミッタルに買収されてしまうか分かりません。
 その前年(2005年)までに、55歳のラクシュミ・ミッタルは、15年間に47社を合計150億ドルで買収していた。世界最大の鉄鋼会社の経営者であり、世界第5位の富豪であって、その資産は150億ポンド。
 ラクシュミ・ミッタルはどちらかというと貧乏な家族の出身である。裕福な家族の出身ということは出来ない。
 1995年の時点で、ミッタルは年間1120万トンの鋼鉄を生産していた。そして、このとき目標は2000万トンだと言って笑われた。当時、世界一の新日鐵が年2700万トンの時代だから、それも当然のこと。
 鉄鋼業の不景気が、2000年から2002年に続くなか、多くの会社が買収戦線から遠ざかるなかで、ミッタルは逆に会社買収につとめた。スピード、意外性、多様性、そして忍耐。これがミッタル社のスローガンだった。
 ミッタルは、たった20年で、277億ドルの財産を築いた。ミッタルをこえる資産はビル・ゲイツなどわずかしかいない。ミッタル・スチールは世界中で17万9000人の従業員をかかえ、アメリカの自動車メーカーのつかう鋼鉄の30%を供給するまで成長した。
 会社が敵対的買収に直面したとき、経営者が守るべきもっとも重要なことの一つは、よく眠ること。戦いは疲れるものなのである。なーるほど、睡眠不足は判断を誤らせますよね。
 アルセロールは、日本の新日鐵に救いを求めることも考えた。しかし、日本人は交渉にやたらと時間をかけるので評判が悪い。アルセロールは日本人を尊敬してはいたが、日本人とゆっくり時間をかけている余裕はなかった。
 アルセロールの買収に成功したことから、新会社は世界の鉄鋼生産の10%、つまり毎年1億2000万トンの粗鋼を生産するようになった。従業員は32万人。時価総額460億ユーロである。売上高は1052億ドルに達しようとしている。年間総生産量2億ドルも「史上初」になりそうである。
 インド人の起こした製鉄会社が、またたく間に世界中を席巻したわけですが、その内実の一端を知ることのできる本です。
(2010年2月刊。2000円+税)
 消費税を10%にするのは、ギリシャのようにならないためと管首相が言っているようですが、ギリシャと日本は事情が違うのではないでしょうか。日本の国債は大半が日本国民が買っていて、ギリシャは対外債務が大きい。そして、ギリシャは消費税を上げたけれど、法人税率は大きく引き下げた。それで国家の財政収入がひどくなったと聞いています。
 それが本当だとしたら、日本で消費税を10%にするのと合わせて法人税率を大きく引き下げたら、ギリシャと同じように財政破たんしてしまうのではありませんか……。

日米核密約、歴史と真実

カテゴリー:社会

著者:不破哲三、出版社:新日本出版社
 核兵器のない世界は私たち誰しもが願うところだと思います。オバマ大統領がプラハ演説のなかでそのことを高らかに宣言したことは、この分野での具体的前進に期待を持たせるものでした。そして、この6月に、ニューヨークで開かれたNPT(核不拡散条約)の再検討会議は、それを前進させることで一致をみました。素晴らしいことです。ただし、私たちは他人事(ひとごと)のように手を叩き、腕を組んで模様眺めをしていてはいけないと思います。
 日本政府は「非核三原則」(核兵器をつくらず、持たず、持ちこませず)を守ってきたと言っています。おかげで佐藤栄作首相はノーベル平和賞を受賞したのでした。ところが、実は、佐藤首相はアメリカとのあいだで核に関して、日本に持ち込むことを認める密約を交わしていたというのです。それが核密約の問題です。問題は、これが単なる過去の話ではないということです。
 アメリカは、今でも(オバマ政権においても)、依然として先制核攻撃戦略を基本としている。そのため、アメリカは「重大な緊急事態」が起きたときには、核兵器をふたたび沖縄に持ち込む必要がある。日本は、そのとき、直ちに承諾する。これが核密約の中味である。沖縄にあるアメリカ軍基地に、今は核兵器はない。しかし、何かあったら、アメリカが核弾頭を持ち込む。すると、直ちに核攻撃基地として活用できる機能をもった基地として整備され維持されている。
 いやはや恐ろしい内容です。
 アメリカ政府は、事前協議の制度はつくるけれども、肝心なことは、日本政府と相談しないですむ、これまでどおり、アメリカが勝手にやれる、この道を見つけ出すことが、安保条約改定交渉(1958年10月)の一番の核心だった。
 そして、日本政府は、それを受け入れた。しかし、日本政府は万一それが明るみに出たときに言い逃れができるように、この秘密の合意文書に「討論記録」という名前をつかった。しかし、どんなタイトルをつけようと、それは国家間の法的拘束力をもつ合意文書なのだから、まさに条約にあたるものなのである。
 日本政府は表向きでは事前協議なしに核兵器の持ち込みはありえないと言いつつ、実は、こっそり事前協議を事実上、空洞化させる取り決めをアメリカと結んでいたわけです。
 この核密約について、アメリカ政府は、「密約」の秘密性を維持する必要はなくなったと考えて、機密指定を解除して「核密約」の内容を公表している。そこで、日本共産党の調査団がアメリカの公文書館の膨大な書類のなかから、この「核密約」そのものを探り宛てることが出来た。
 しかし、日本政府は、核密約なんて存在しないと今も言い張っている。
 そして、現在の民主党政権も自民党政権と同じく核密約を廃棄するつもりはないと明言している。
 こんなインチキはありません。許せないことです。
 アメリカ軍のある提督は、「1950年代の早い時期から核兵器は通常、日本の港湾に寄港している空母の艦上に積載されてきた」と発言した。
 核密約の問題は、決して過去の歴史問題ではない。アメリカは、今は艦船や航空機に日常の体制としては核兵器を持たせない体制をとっているというが、核戦略を放棄したわけではない。現在も、核戦略を強固に堅持しており、その発動を必要とする事態が生まれたら、アメリカの艦船や飛行機は核兵器を積んで行動することになる。
 そのとき、核兵器を積んだ艦船や飛行機が日本に自由に出入りできる仕組みが、この秘密協定によって今なお存在し、その意味で、被爆国である日本が現在も核戦争の出撃拠点となっているのであり、ことは重大である。
 この本を読んで、なにより腹が立ったのは、日本政府は表向きは「非核三原則」を口にするものの、実は、日本を守る「核」がなくなったら困る、だからアメリカには核兵器は積んでいてほしい、おろさないでくれと頼んでいるという事実です。ひどい話です。許せません。
 沖縄の普天間基地の「県外移設」が、いつのまにか「県内移設」で収拾されようとしています。しかし、そもそも、このような核密約をふくめて、日本政府はあまりにもアメリカ言いなり過ぎます。弱腰だというのではありません。まるで主体性がないのです。こんなことでは世界から笑いものにされるだけではないでしょうか。
(2010年6月刊。1300円+税)
 日曜日、雨が上がりましたので、午後から庭に出て少しだけ手入れをしました。いま、ぐんぐんとヒマワリが伸びています。朝顔のツルも塀にそって上へ上へと伸びあがっているので、楽しみです。
 近くのレストランの店主さんからいただいたキューリの苗が、みごとにキューリを実らせてくれました。早速、3本もいで、水洗いして、マヨネーズを少しかけて丸かじりしました。とても新鮮な味です。産地直送、完全無農薬、もぎたての野菜は本当においしいですよ。

イラクで航空自衛隊は何をしていていたか

カテゴリー:社会

著者:「イラク派兵差止訴訟」原告・弁護団有志、出版社:せせらぎ出版
 名古屋高等裁判所(青山邦夫裁判長)は2008年4月17日、「現在、イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいる」という判決を下しました。この判決は確定しています。
 そして、原告側弁護団はイラク復興支援の名目で派遣された航空自衛隊の空輸実情報告文書の開示を求めたのでした。ところが、肝心の部分は真っ黒に塗りつぶされていて、内容を知ることが出来ませんでした。
 政権交代によって民主党政権が誕生したあとの2009年9月24日、すべての記録が開示されました。この本はその開示された文書を集約し分析して紹介しています。
 陸上自衛隊がイラク(サマーワ)から撤退したのは2006年7月19日。この撤退のあと、航空自衛隊の輸送は1.4倍に増えた。その前が346回なのに対して、撤退後は475回となっている。
 撤退前には、陸上自衛隊が6割を占めていたが、撤退後はアメリカ軍が6割を占めている。軍属やオーストラリア軍その他の軍人をふくめると8割になる。全期間の合計は3万人をこえる。逆に「国連」関係者の輸送は1割以下でしかない。
 アメリカ軍兵士は武装していた。イラク航空隊の空輸活動は、主としてアメリカ軍の指揮・調整のもとで、アメリカの戦略と軍事作戦に深くコミットして行われた。アメリカ軍にとって危険な陸路で兵員を輸送する必要がないという大きなメリットがあった。
 日本の航空自衛隊は、「他国による武力行使と一体化した行動」を行い、「自らも武力行使を行ったと評価を受けざるを得ない」のである。
 つまり、日本はアメリカのイラク侵略戦争に加担したのです。このことを多くの日本人は真剣に考え、自覚すべきだと思います。
 わずか60頁ほどの薄いパンフレットですが、ぎっしり中味の濃いものです。おかげで首・肩・背すじがこってしまいました。お疲れさまです。
 今度の参院選で沖縄の普天間基地の移転問題が大きな焦点となっていないようなのは、とても残念です。鳩山前首相の迷走ぶりは菅首相に交代したからといって解消したわけではありません。
 沖縄の海兵隊が日本の平和維持のために抑止力になっているというのは果たして本当なのか、また日米安保条約はまだ今のまま保持してよいのか、選挙の争点にして問われるべきではないでしょうか・・・。
(2010年5月刊。600円+税)

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