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2009年10月 の投稿

そして戦争は終わらない

カテゴリー:アメリカ

著者 デクスター・フィルキンス、 出版 NHK出版 
 アメリカのイラク侵略戦争に従軍したアメリカの若きジャーナリストのレポートです。
 表紙の写真がアメリカそのものを描いています。必死の形相です。恐怖で顔が引きつっています。女性兵士ではないかと思うのですが、ともかく若い白人兵士がイラクの町なかで襲撃にあい、小銃を構えながらも恐れおののいている様子がよくとらえられています。
 アメリカ兵は既にイラクで5000人近くも亡くなっています。もちろん、イラク人の死者は、それより桁違いに多いことと思います。それにしても、勝ったはずのアメリカ軍、占領軍のアメリカ軍が、毎日毎日いまだに殺されていっているわけです。やはり、このアメリカによるイラク侵略戦争は、かつてのベトナム侵略戦争と同じように、アメリカの大きな間違いだと思わざるを得ません。そんな侵略戦争に日本がアメリカ軍に加担したのを、私は恥ずかしく思います。
 オバマ政権がイラクから撤退する方針を打ち出しているのは正しいと思います。ところが、アフガニスタンにはアメリカ兵を増派するというのですから、私にはまるで理解できません。
 若いアメリカ兵が次のように語った。
ここは世界でも最悪の場所だと言われているが、それほど悪いわけじゃない。連中は自分たちのために戦っているだけだ。どこにでも内戦はある。アメリカだって内戦はあった。
 こっちは撃つだけだ。すると、向こうが反撃してくる。やつらをぶっ殺して家族のもとに帰るか、それとも連中に殺され、さらに多くの人が殺されるか、どちらかだ。撃たないと、オレは家族のもとにも、彼女のもとにも帰れない。ここで生き抜くほうが、よっぽど耐えられないことだ……。
 著者は現在のイラクを、精神の病んだ国だといいます。人々はかつて持っていた奔放な明るさを失い、じっと家に閉じこもっている。いつどこで起きるか分からない自爆テロにさらされ、隣人による告発を恐れ、警察をかたる誘拐一味からの電話に怯えながら生きている。母国の治安を守ろうと警察官募集の行列に並べばテロにあい、民主主義を根付かせようと選挙に行こうとすれば家族ともども皆殺しにするぞと脅迫される。身を守るためには、家の中にとじこもっているしかない。太陽の下にいるのは、アメリカ軍か、そうでなければテロリストだけなのだ。
 こんなイラクに、アメリカ人ジャーナリストが4年もいて無事だったというのです。奇跡としか言いようがありません。日本人ジャーナリストで、そんな人はいるのでしょうか。
 根本的な障壁になっているのが、言葉だ。イラクにいるアメリカ人で、アラビア語の単語を2つ以上知っているのは、兵士でも外交官でも、新聞記者でもほとんどいない。そして、その大多数が通訳さえ同行していない。
 多くのイラク人にしてみれば、サウスダコスタから来た19歳の典型的な陸軍伍長は、決してアメリカの善意を運んできた無垢な著者ではなく、むしろ武装した無知な若者という、最悪の組み合わせでしかない。
 アメリカがイラクに侵攻したあとの5年間に900人以上の自爆者が出ている。自殺志願者には事欠かない。殉教作戦中に殺された。自爆のことは、このように表現される。
 トイレは、とても重要な問題だ。6000人もの海兵隊が歩いて行進するというのは、とんでもないことである。どこか、その辺で用を済ますというわけにはいかない。夜も同じだ。武装勢力には、凄腕の狙撃手がいる。そして、便器は使い物にならない。
 バグダッド支局は、要塞化していった。クレーンを使って、厚さ30センチ、高さ6メートルのコンクリート防爆壁を建てた。天辺には、有刺鉄線を張る。武装した警備員を20人雇った。そして、30人、40人へと増やしていった。全員にカラシニコフ銃を買い与え、地下室にあるロッカーにはグレネード弾が置かれた。屋上にはサーチライト、そしてマシンガンがある。
 元兵士の警備アドバイザーを日給1000ドル(10万円)で雇った。装甲車を3台購入した。新聞社が記者にかけた生命保険料は、1か月1万4000ドル(140万円)。保険会社は、少なくとも1人は死ぬと推測していることになる。
 バグダッドの電力は、1日4時間しかもたない。自家発電できるようにイギリスから600万円かけて発電機を輸入した。
 警戒厳重のグリーン・ゾーンにいると、この戦争は負けるという気がしてくる。
 いやあ、おそらく、そうでしょうね。アメリカのイラク侵略戦争は間違っています。いかにフセイン大統領がひどい独裁者だったにせよ、アメリカのやったことを正当化できるものではありません。日本が、アメリカの間違いをこれ以上は追従してほしくないと、つくづく思います。
(2009年2月刊。1600円+税)

10年後、あなたは病気になると、家を失う

カテゴリー:社会

著者 津田 光夫・馬場 淳 ほか、 出版 日本経済新聞出版社
 いま、日本は、病気にかかるリスクの高い人を、国民健康保険という一つの保険に集めている。当然、保険料は高くなり、払いたくても払えない人たちを増やすことにつながる。
 国保の保険料(保険税)の滞納が1年以上も続くと悪質滞納者とみなされ、保険証が取り上げられて、代わりに資格証明書が発行される。資格証明書では、窓口でいったん全額を支払わなければいけない。あとでその7割が返還されるはずだが、実際には滞納分に充当されるので、お金は戻ってこない。つまり、資格があるというだけで、事実上は無保険を意味している。このような無保険世帯が34万世帯もある。このように、国民皆保険は崩壊しつつある。
 民医連の調査によると、国保の保険証が取り上げられて、医者にかかれないうちに亡くなった人が、05~06年に29人、07年に31人、08年も31人いる。
 そして、医療機関に多額の未収金が発生している。3270病院の累積未収金は、1年間で219億円、3年間で426億円になっている。
 国保財政が赤字になったのは、国庫からの拠出金が減少しているため。
 そもそも、社会保障制度にはすべての国民に対して、負担の如何にかかわらず国が面倒をみるという基本概念がある。
 生活習慣病という呼び方には、自己責任と共通する意味がある。本人の生活習慣が悪いために慢性疾患になった、という意味が込められている。
 うへーっ、ちっとも知りませんでしたよ……。
 医療・介護・年金の分野で、国は自らの責任を後景に追いやり、代わって国民の自助と共助を強調している。それは、戦前への逆戻りである。そうなんですね……。
 アメリカの民間医療保険は、生命保険会社や損害保険会社が運営する営利目的の保険である。アメリカのように公的医療保険が不十分だと、企業負担が増大する。日本の医療・福祉制度は絶対にアメリカのマネをしてはいけない。著者は、このように強調しています。やはり、アメリカではなく、イギリスを含めたヨーロッパ型を日本は目ざすべきだと痛感させられました。
 日経新聞を私も毎日読んでいますが、そこから出ている本だとは思えない、とてもまともで、道理のある本です。
(2009年4月刊。1700円+税)

小沢一郎、虚飾の支配者

カテゴリー:社会

著者 松田 賢弥、 出版 講談社
 ついに政権交代が実現しました。政権が変わることによって、すべてがたちまちバラ色に変わるなんて、まったく思いません。でも、長く続いた自民党政治を、一刻も早く終わらせたいとは、大学生のころから、つまり40年間、ずっと思い続けてきました。それがようやく実現して、感無量です。
 アメリカでは一足早く、チェンジつまり変革を叫んだオバマ政権が誕生しました。どうせ同じアメリカ帝国主義じゃないか、そんな冷めた見方もあります。だけど、オバマ大統領は核廃絶を真剣に呼びかけているじゃないですか。環境問題についても、前のブッシュとは比べものにならないほどの真面目な取り組みをすすめています。イラクから撤退するという方針も評価できます。ただし、なぜ今もってアフガニスタンにこだわるのか、その点はさっぱり理解できません……。
 いいものはいいと、高く、きちんと評価する。それは、オバマ政権であれ、今度の民主党政権であれ、必要なことだと思います。無用なダム建設をやめる。後期高齢者医療制度を見直す。子ども手当を支給する。いろいろ、いいことを打ち出しています。私は、大歓迎です。教育予算を増やして、高校だけではなく、大学まで授業料も無料とし、学生には生活費も補助するというように、日本は人材(人間)育成にもっとお金をかけるべきです。ダム建設よりも、よっぽど有効なお金の使い方だと思います。
 それにしても、気になるのが、「ダーティ小沢」です。この本は、次のように叫んでいます。
政権交代の前にはすべてが許されるのか。政権交代という看板を掲げていれば、ゼネコンから巨額なカネをもらい、その金も化けた政治資金で10億円にのぼる不動産を買い集めたことに一片の釈明もしなくていいのか。
 小沢は、「やましいことは一点もない」という。果たして、本当なのか……。
 小沢にとって、権力とはカネだ。小沢にとって、政治とは自身のあくなき権力欲を満たすためのものではないのか……。
 民主党の幹事長という要職を占める小沢一郎は、今こそ国民の前で自らの疑惑について語る必要があると思います。秘書に責任をなすりつけてはいけませんよ。
 西松建設の裏金の総額は、20億円をこえる。うち、国内分が10億円、海外分が10億円。国内分は、全国の支店が下請業者から工事費を還流させたり、架空経費を計上したりする手口を使っていた。
 ところが、小沢は次のように開き直っている。
 「ゼネコンから選挙の応援を受けたり、資金提供を受けてなぜ悪いのか。応援してもらうのは、あたりまえでしょう」
 小沢一郎の政治団体は、政治資金パーティを開いて、4年間で4億円近くも集めた。ところが、そのパーティ券は、どこの誰が買ったか明らかにされていない。これではまったくのザル法ですよね。
 小沢は、陸山会の政治資金によって、1994年から都内にマンションを買い始めた。今や、10億円を超える。すべて小沢一郎名義である。
 虚飾に覆われた小沢の支配者の仮面は、いつか剥がれおちる日が来るだろう。小沢一郎の仮面が剥がれたとき、民主党も政権を手放すことになるのか、それは今のところ予測がつきません。脱ダム、脱公共工事をすすめていったら、脱小沢一郎になってしまいます。それを小沢一郎が許すのかどうか。そのせめぎあいが当分つづくのではないでしょうか。
 民主党の暗黒面、自民党と同じ利権体質の政治家が生き延びるのか、ぜひとも注目していきましょう。
 連休中に、青空の下、モズの甲高い鳴き声を聞きながら、庭にチューリップの球根をせっせと植えつけていきました。畳1枚半ほどのスペースに、200個の球根を植え付けました。スコップで一個一個掘るので、ついに親指の付け根のところに豆ができて、つぶれてしまいました。
 いま、庭には黄色いリコリス、そして同じく黄色のエンゼルストランペットが咲いています。地面の足もとにはピンクかかった白いゼフィランサスの可憐な花もあちこちで咲いています。
 空を見上げるとピンクの芙蓉もまだまだ咲いていて、そのそばを赤とんぼが悠々と飛んでいました。稲刈りも間近です。秋も深まりました。
 
(2009年7月刊。1500円+税)

アウシュヴィッツでおきたこと

カテゴリー:ヨーロッパ

著者 マックス・マンハイマー 、 出版 角川学芸出版
 1920年にチェコスロヴァキアで生まれたユダヤ人が生き延びた体験を語った本です。著者は1943年にアウシュヴィッツへ入れられ、労働用ユダヤ人としてワルシャワ、そしてダッハウ収容所に入れられました。家族は8人いましたが、弟を除いて全員が収容所で死亡しています。
 殴打、下痢、高熱……。死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人、死人……。
 この本で著者が書いただけ書き写しました。収容所のなかが少しでもイメージできるようにと思って書いたのです。
 飢餓と汚水が私たちの隊列のメンバーをひとりまたひとりと、どんどん減らしていった。
 一番抵抗力の強かったのは、ポーランドから移送されてきたユダヤ人たちだった。彼らは、もともと職人や作業員だったから、肉体的にもはるかに優れていた。オランダ人やチェコスロヴァキア人のような軟弱体質ではなかった。
 収容所の一日は、何もせずにバラックの前にただ立っていることと、シラミ検査、ほんの一握りの配給食をむさぼり食うことで過ぎていった。
 この本には、まさに奇跡そのものの話が紹介されています。
 ナチスは、収容所についたユダヤ人からすべてを奪います。持っていたトランクの中身全部です。ところが、トランクのなかを点検したユダヤ人が、一枚の写真を見つけました。なんと、友人の家族がうつっていた写真なのでした。そして、その写真を友人に渡すことができたのです。その写真がこの本の表紙を飾っています。いかにも裕福で賢そうな家族です。この人たちが、ユダヤ人だというだけで人間扱いされずに虐殺されたなんて、信じられません。
 ユダヤ人大虐殺は嘘だったなどと言う人が今もいることに私は驚き、かつ、呆れます。真実に目をふさいでしまったら、この世は終わりではないでしょうか。
 著者は収容所で病気で倒れたあと、ナチスの医師の選別の前に立たされます。労働不能と判定されるとガス室行きです。医師によって労働不能と判定された直後、著者は恐る恐る、「話があります。仕事させてください」と申し出たのです。その医師は、疑わしそうな目で著者を見たあと、「まあ、いいでしょう」と言ってくれたのでした。これで助かったのです。最後の最後まで、あきらめてはいけないということなんですね。大変な教訓です。
 この本の救いは、大虐殺のなかを生き延びた人がいて、今もそのことを語り続けているという事実です。いやはや、たいしたものです。すごいです。
 土曜日に鹿児島に行ってきました。弁護士会の主催する憲法シンポに参加しました。東京新聞の半田滋記者のスライドをつかいながらの講演は、日本の自衛隊の実情を知ることが出来て、大変勉強になりました。
 半田記者によると、北朝鮮は日本に侵攻する能力はまったくないし、防衛省もそんな想定はしていないということです。空軍のパイロットはジェット燃料がないので訓練飛行もろくにしていない。ロケットも目標にあてる精度は高くない。海軍の艦船は弱体であり、海上自衛隊は演習したらたちまち大勝利してしまい、今では演習もしていない。陸軍は人数こそ多いが、日本に攻めて行くことは想定していない。
 ただ、朝鮮半島有事のとき、人口の1%が難民化すると言われていて、20万人の難民の多くが日本にやってきたとき、そのなかに特殊部隊員が混じっていたら厄介になる。といっても、それは北朝鮮が攻めてくるという話ではない。
 なるほど、北朝鮮の脅威をあおるのは一部の政治家がためにするものなんですね。
 このシンポジウムのとき、オバマ大統領へのノーベル平和賞について、まだ実績をあげていないから辞退すべきだったという話が出ました。しかし、核問題では下手な「実績」は怖いことを意味しかねません。なるほど、アメリカはイラクやアフガニスタンで侵略戦争をしています。しかし、核廃絶を呼びかけたオバマ大統領はえらいし、みんなで後押しする必要があると私は考えています。その意味で、ノーベル賞委員会も偉いと思います。
(2009年7月刊。1500円+税)

人が学ぶイヌの知恵

カテゴリー:生物

著者 林谷 秀樹 渡辺 元ほか、 出版 東京農工大学出版会
 私は犬派です。幼い頃から犬と一緒に育ちましたから、犬には愛着があります。猫はどうも好きになれません。
 子どもたちが小さいころ、柴犬を飼っていましたが、私の不注意もあって蚊に刺されてフィラリアで死なせてしまいました。この本を読んで、犬について改めていろいろ知ることが出来ました。
 メス犬の生理出血は人間と違って、排卵前後に起きるから、もっとも妊娠に適した時期である。
 イヌは汗をかいて体温を下げることが出来ない。かわりに唾液を蒸発させて、熱を放散させている。
 イヌは肉食に近い雑食なので、丸呑みするのが正しい食べ方である。
 イヌは食べ物の味より臭いで学習し、それによって好き嫌いがある。一般に大型犬は味オンチで、小型犬は好き嫌いの激しい傾向にある。オスよりもメス犬の方が好き嫌いが多い。
 イヌは甘いものが大好きだ。イヌはネコと違って腐肉も好き。イヌはビタミンCを体内で合成できる。イヌは汗をかかないから塩分の排泄が出来ないので、ヒトと同じように塩分をとると、塩分の取り過ぎになって高血圧になる恐れがある。
 イヌの嗅覚はヒトの1億倍もの感度を持っている。イヌの動体視力は優れているから、テレビ画像はヒトと違ってコマ送りにしか見えない。
 イヌがヒトと同じものを食べていると栄養学的に問題があり、虫歯にもなりやすい。ドックフードが好ましい。そして、イヌにはタマネギやチョコレートを与えてはいけない。
イヌも心の病にかかる、飼い主の夫婦げんかが絶えないと、神経性の脱毛症を引き起こすことがある。飼い主と離れていると、鬱状態になり、食欲をなくしてしまう。
 イヌは排便したあと、うしろ足で土をかけるような行動をとるが、それは便を隠すためではなく、自分の臭いをつけるため。
 イヌにとって、臭いは大切な社会的コミュニケーションの手段の一つなのである。
 イヌは叱られると、あくびをしたり、自分の口をなめたり、目をそらしたり、背中を向けてすわったりする。これは飼い主を馬鹿にしているのではなく、怒っている飼い主に対し、落ち着いてよ、もうやめてよと伝えていると同時に、自分を落ち着かせようとしているもの。
 イヌは、もともと群れで生活する動物なので、ひとりで放って置かれるのは苦痛に感じる。そこで、飼い主の外出がイヌにとっての一大事にならないよう、日頃から、慣れさせておくべきだ。留守したときにイヌの気が紛れるようなオモチャを与えるのもいい。
 イヌは、過去の出来事を記憶する能力はあっても、判断応力は欠けている。悪いことをしたイヌを後になって怒っても、なぜ怒られているのか、理解できない。
 イヌは、ヒトの感情や意図を敏感に読み取ろうとし、その動作を積極的に模倣しようとする。イヌが飼い主の家族に順位をつけて認識しているという話は最近は否定されている。
 イヌが腹を見せるのは、服従や信頼を示すシグナルである。しかし、それを強制すると、イヌとの信頼関係を壊してしまう。
 イヌとのことで知らないことが多すぎたと反省させられました。
(2009年7月刊。1400円+税)

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