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2009年10月 の投稿

日本の殺人

カテゴリー:司法

著者 河合 幹雄、 出版 ちくま新書
 こんな本を読むと、学者ってホント偉大な存在だ、とつくづくそう思います。だって、目をそむけたくなるような凄惨ないし残虐な殺人現場の写真を自分は見て、それを読者には示さず、殺人犯の処遇を読者に考えてもらうわけなんです。その大変な仕事に対して、ご苦労さまと心より労をねぎらいたくなります。
 殺人犯が社会復帰することについて、著者は次のようなたとえをあげています。
 毒蛇も熊も蜂も、毎年、何人もの人間の生命を奪う恐ろしい存在である。しかし、これらの生きものは同じ世界に人間と共存している。
 悪者だからといって、人間をせん滅できないからオリに入れておくという考えから、アメリカでは200万人もの人が刑務所に閉じ込められている。日本では、せいぜい10万人である。
 死刑に犯罪を抑止する効果のないことは実証されている。そうなんですよね。でも、案外このことは知られていません。
 日本では、犯罪への対処として、一部の人々ががんばる一方、残りの一般市民は何も知らずに安心してきた。その仕組みが、もはや維持できなくなっている。少し真剣に考えたら、犯罪者には厳罰でいいという単純な発想だけでは、いずれ刑務所を出てきて、一般市民と共存していくしかないことを考えていないことに気づくはずだ……。
 他人におまかせしてしまうと、楽ではある。しかし、裁判員になったとき、多くの人々がしっかり社会を支えていることを法廷で確認でき、実感できたら、それだけでも大きな意味がある。そして、悩み迷うことが人生を生きることであり、社会参加そのものなのだ……。
 いやあ、実に見事な指摘です。感心します。
 日本には、強盗殺人で無期懲役になったが、仮釈放されている人々が数百人おり、その人々が事件を起こしていないという奇跡的な現象がある。うむむ、そうだったんですね。
 日本で実質的な殺人は、年間800件くらい。そして、日本の殺人事件の典型は心中である。そして殺人事件のうち、半分近くが親族による犯行である。そういえば、福岡の裁判員裁判の第2号となった久留米の殺人事件も、父親が息子を殺した事件でした。
 年間200人も被害者のいる配偶者殺しのなかでは、病気が原因で自殺を企図したものが大半。男女の心中で片方が生き残ったケースでは、心中の失敗というより、もともと片方は死ぬ気はなく、相手の心中物語に引きずられたが、最後の瞬間になってようやく逃れたと理解できる。
 うへーっ、そういうことなんですね……。
 殺人事件をお酒のせいにするのは無理であり、もともと凶暴な人間が犯人である。
 銃の保持率でいうと、国民皆兵のスイスは高いが、銃による殺人事件はアメリカと比べて大幅に少ない。つまり、アメリカの殺人事件の多さを銃のせいにするのは、基本的な誤りである。
 日本の夜道が安全であることは、強姦の統計で分かる。事件が少ないし、その発生場所は住宅内が半分を占め、路上は14%に過ぎない。もちろん、届け出のない事件もあるが、それにしても日本が年2000件の届け出であるのに対して、アメリカでは20万件、つまり100倍にもなっている。
 1980年代以降の15年間に、夫に殺された妻は15人、妻に殺された夫は26人、それまでと逆転している。妻が加害者の30件のうち、25件について共犯者がいる。
 統合失調症の人のうち、9割以上は犯罪と無縁の人々である。精神病を犯罪の原因とすることは、科学的には否定されている。
 日本では殺人事件の大半は家族が犯人である。
 捜査本部が設置される事件は、全国に年間100~150件。そのうち数十件で死体が隠ぺいされている。そして、平均して6ヶ月で8割が解決している。
 刑務所は、犯罪の学校の機能を果たしている結果がある。
 刑務所で殺人犯は、もっとも手のかからない、問題の少ない人たちだと刑務官は体験を通して語る。
 大多数の国で死刑は実施されていない。死刑を執行しているのは、中国、アメリカ、そして日本くらいのもの。EUでも世論は死刑廃止に反対しているが、死刑は執行されていないし、死刑制度の廃止がEU加盟の条件となっている。
 本当に悪い奴は死刑にならない。
 わずか260頁ほどの薄っぺらな新書版ですが、ずしりと重たく感じる本でした。一読を強くおすすめします。
 
(2009年6月刊。780円+税)

目覚めよ!借金世代の若者たち

カテゴリー:アメリカ

著者 アーニャ・カメネッツ、 出版 清流出版 
 日本の学費は、本当に高いですよね。高くなりすぎました。40年も前のことになりますが私が大学生のころは、月1000円でしたから、年にしても、1万2000円の授業料でした(国立大学)。そして、寮費も同額でした。奨学金のほうは給付5000円、貸与3000円です。寮に住んでいると、最低月1万3000円で生活できました。家庭教授のアルバイト月8000円(週2回)をして、机運びの臨時アルバイトをしたら、親の仕送りがなくても(私は、もらっていましたが…)どうにか生活できていました。
 いま、日本の大学生にも授業料をタダにすることを求める動きが出てきていますが、圧倒的少数派ですし、目立つほどの運動にはなっていません。でも、北欧もフランス・ドイツも、大学の授業料はタダです。それどころか、生活費を国が支給してくれるところだってあります。要するに、子どもに投資して人材を育成したら、そのリターンは大きいということから、国の政策になっているのです。ところが、日本が何かにつけて手本にしているアメリカはまるで違います。ともかく大変高額の授業料をとります。そして、学費ローンを発達させ、学生を卒業してまでローン返済でしばりつけているのです。アメリカって、本当に人間を大切にしない国ですよね。そして、貧乏人は大学へいけないようにしたうえで、軍隊へ勧誘するのです。イラクとアフガニスタンで亡くなった5000人以上のアメリカ兵のかなりの部分が、そんな人たちだったのではないでしょうか。
ここ30年間、アメリカの大学授業料は、インフレよりも、さらにここ15年では、家庭の収入よりも速いスピードで上昇している。4年制大学の学生の3分の2は、学資ローンによる借金を抱えて卒業する。その借金は、平均192万円で、これは毎年増大している。
 教育のあらゆる段階で公的な投資が減少しており、その直接的な結果が、実際に、今日の若者は、親の世代よりも教育を受けていないという現象になって表れている。
 高校の卒業率は、全国平均67%である。アメリカの大学生は、半数が24歳以上で、56%が女性である。20代のアメリカ人の若者の3人に1人近くが大学の中退学者である。
 クレジットカードは、学資ローンというサメのうしろを泳ぐピラニアだ。サメより小さいけれど、もっと貪欲である。学資ローンを扱うのは民間企業であり、数千億円という利益をあげている。学資ローンは、いまのアメリカで数千億円の利益をもたらしながら、補助金や保証によって、リスクからしっかり守られている。
 大学を卒業した時点で、月9万円ものローン返済をしなければならないとしたら、大変なこと。そこで、学生返済のため必死になっているので、法律扶助教会や公的な目的のために活動している団体は、優秀な学生を集めるのに苦労している。
 アメリカが徴兵制度を廃止してからの30年間に、軍隊は、労働者層の野心的な若者たちが職業訓練や大学援助金を得るための数少ない選択肢となった。アメリカ軍は毎年36万5000人を入れる必要があるが、空軍以外はずっと募集目標を達成しできていない。そこで、軍の新兵募集係は、毎週1回は高校にやってくる。
 アメリカの財政赤字のおもな原因は、ブッシュ大統領が数回にわたって大幅な減税をしたため。ブッシュの減税のほとんどは、企業や最高富裕層を対象としたもの。若者の賃金のうわ前をはねて、今日の大金持ちへの懐を太らせている。このことがアメリカの財政赤字を生みだしている。いやはや、格差拡大はアメリカの政権の政策の結果なのです。
 全国的に労働組合運動はひどい状況にある。このような現状を打開するため、若者は政治行動に立ち上がることを呼びかけている。
 この本は、現状に絶望せず、変革のために立ち上がることを呼びかけています。
 日曜日に庭仕事をしていると、えもいわれぬいい香りが漂ってきました。見上げると、キンモクセイの花が木を前面に覆わんばかりです。黄色というより橙色です。そのそばに、紫式部の小粒の花も咲いています。いよいよ稲刈りが始まりました。秋本番です。
 
(2009年7月刊。1900円+税)

ホタルの不思議

カテゴリー:生物

著者 大場 信義、 出版 どうぶつ社
 初夏というより、晩春でしょうか。5月の連休(ゴールデンウィーク)が終わって間もなく、我が家から歩いて5分のところの小川に、毎年、ホタルが飛び交います。ほっとするひとときです。
 著者は企業の研究所に入り、そして中学校の教員となったあと、博物館の学芸員としてホタルの研究に専念するのでした。これもすごいですよね……。
 私が東京のような大都会ではなく、田舎で弁護士を続けているのも、歩いて5分のところでホタルの光を眺めることができることの良さに価値を見出しているからです。
 ホタルの放つ光は、次のような生化学的な酸化反応による。酵素であるルシフェラーゼとルシフェリン、ATP(アデノシン三燐酸)などの物質が混ざり、そこにマグネシウムイオン、酸素が加わると反応がすすみ、発光する。この反応は効率が非常に高く、蛍光灯などとは比較にならないほどエネルギーを光に変えている。このため、ほとんど熱を伴わないことから、冷光とも言われる。そしてホタルは発光反応を自由に制御している。
 ホタルには、せっかちな西日本型(2秒に1回発光する)と、のんびり発光する東日本型(4秒に1回発光する)がある。発光パターンだけでなく、産卵習性も異なっている。
 ゲンジボタルの幼虫は、4月の雨が降るあたたかな夜にサナギになるため、一斉に発光しながら川岸に上陸して、土に潜る。ホタルは、幼虫も光るのですね……。見たことはありませんが、なんだか夢幻的な光景です。
  西日本のゲンジボタルのメスは、100個以上の集団となって産卵する。しかし、東日本のゲンジボタルは、同じ種でありながら、集団産卵はしない。
パプア・ニューギニアにはホタルの木というのがあるそうです。オスのホタルが集まり、集団となって発光してメスを呼び寄せるのです。この木が切られてしまったら、このホタルは絶滅するだろうと予想されています。そうならないことを祈ります。
 我が家から歩いて5分のホタル出現地にも、すぐそばに新しく道路がつくられています。レジャーランドへ通じる便利な道路として開設されつつあるのです。でも、いったい、このレジャーランドが、いつまでもつのか、私には疑われてなりません。
 自然環境を孫の代にまで残したいものですよね。
 
 庭の合歓(ねむ)の木が、またふわふわとしたピンクの花を咲かせ始めました。この花を見ると、なぜかいつも子どもの頃の心のときめきを覚えます。どうしてかなと考えていると、夏祭りの提灯に描かれていた花や金魚などの鮮やかなピンクの色を連想させるからだと思い当りました。
 我が家の庭の合歓の木は小さいのですが、お隣にあるのは大きくて、慮杖を大きく広げるほどに全面に咲いて、それはそれは華やかです。
 朝、居間の雨戸を開けると、目の前に秋明菊の花が飛び込んできます。すっと高く延びた茎に、純白の花びら、そして真ん中はクリーム色になっています。気品あふれる、見るからに清々しさの伝わってくる花です。そばに紫色の斑(ふ)入りの不如帰(ほととぎす)の花も咲いています。稲刈りも間近の秋です。
 
(2009年7月刊。2200円+税)

武士猿

カテゴリー:社会

著者 今野 敏、 出版 集英社
 ブサーザールと読みます。この著者は警察小説の書き手だと思っていました。なんと、空手のこともかけるのですね。たいしたものですね。すごいな、すごいぞと感心しながら、夢中で読みふけり、時の経つのを忘れてしまいました。いやあ、身体の鍛錬というのは、毎日欠かさず、日常不断にやるものなんだと、つくづく思ったことでした。沖縄空手の偉大さを少しは味わうことができたと思います。
 カラテつまり空手は、その前には唐手と書いていたのですね。戦前のことではありますが、剣道とは違って、本土では江戸時代からあっていたわけではないようです。
大学生のころ、私の身近で流行していたのは少林寺拳法でした。その集団演武を入学式のときに見たような気がします。すごくカッコいいと思いましたが、運動神経に自信のない私は手を出しませんでした。
 明治維新の後、琉球王族の一員でもあった本部(もとぶ)家の三男坊だった朝基は、兄に勝つために琉球伝統の「手」(ティー)の修業を始めた。実戦で強くなるため、夜の路上に出て他流試合を重ねた。すごいですね、本当のことなのでしょうか……。
 沖縄武士(ウチナープサー)という言葉を初めて知りました。九州男児に匹敵する言葉なのでしょうかね。著者自身が空手の有段者とのことですから、空手のすごさが文字になってよく描かれています。読んでいる私まで、なんの技もないのに、肩に力が入ってしまいます。
 うへーっ、すごーい、こんな攻め方、かわし方があるのか、などと想像をたくましくしながら、もどかしい思いとともに頁をめくっていきました。正味90分で読み切りましたが、価値ある1時間半でした。ヤンヤヤンヤ。拍手を送ります。
 
(2009年5月刊。1600円+税)

青嵐の譜

カテゴリー:日本史(鎌倉)

著者 天野 純希、 出版 集英社
 13世紀の鎌倉時代。博多湾に元寇が襲来します。その前に、もちろん壱岐や対馬が、日本兵は島民とともに壊滅させられます。
 文永の役も弘安の役も、決して神風で日本軍が勝ったわけではありません。この史実は、この小説にも生かされています。
 元のフビライ自身は、本気で日本を占領しようと考えていたようで、第3回目の遠征軍まで準備しつつあったのでしたが、中国の国内事情がそれを許しませんでした。中国軍といっても、南宋の敗残兵を駆り集め、また、朝鮮・高麗の兵を無理やりひっぱって来ていたのです。侵略軍としての統制がとれていなかったんですね。
 それでも、今の裁判所のある赤坂あたりの小山というか丘をめぐって、蒙古軍と日本軍とが激しくたたかい、一進一退していたということです。蒙古軍はずっと海上にいたのではなく、かなりの部隊が博多湾から上陸して陸地で日本兵と戦ったのでした。
 蒙古襲来絵詞で有名な竹崎李長も登場します。このときの戦いで、失地回復しようと必死でした。そのため、この絵巻物を鎌倉まで持参して、その手柄をなんとか公認してもらったのです。おかげで、このときの合戦の様子を、現代日本の私たちは視覚的にもとらえることができます。
てつはうという鉄砲のようなものもあります。蒙古軍は集団戦法はには強くて、日本軍をさんざん打ち破りました。日本兵は一騎打ちでは負けなかったのですが、その前にやられてしまうのですから、話になりません。
 ほとんど負けと思ったところ、はじめからやる気のうすい蒙古軍が博多湾に引き揚げて休んでいるところを、突如として台風が襲ったのでした。まあ、日本は運が良かったのでしょう。
 私の子どものころ、「ムクリ、コクリ」という言葉を聞いた記憶があります。とても怖いものというイメージです。ムクリは蒙古、コクリは高句麗のことです。700年たっても、人の記憶って生きているんですね。
 いずれにせよ、30歳にもならない著者の想像力には脱帽してしまいました。 
(2009年8月刊。1600円+税)

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