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2009年8月 の投稿

北欧、考える旅

カテゴリー:ヨーロッパ

著者 薗部 英夫、 出版 全障研出版部
 私もスウェーデンとデンマークには一度だけ行ったことがあります。言葉の問題がなければ、今度はツアーの一員ではなく、ゆっくり訪問してみたい国々です。
 デンマークのある市では、1.5万人の地区ごとに275人の福祉スタッフ(公務員)が配置され、高齢者住宅が206箇所もある。そのうち105箇所は、特別養護老人ホーム。そして、医療費も介護料も、なんとすべてタダなのである。
 むひょう、そ、それは暮らしやすいですよ。老後の心配をしなくていいのですから……。これって、日本人がもっと知って良い事実です。
 フィンランドの学力は世界一。フィンランドではテストがない。高校受験も大学受験もない。あるのは大学進学資格試験のみ。大学進学率は40%。なりたい職業の1位は教師だ。教師が社会から尊敬されているって、本当に大切なことですよね。
 すべての子どもが大学まで無償で教育を受けることができる。教員の専門的知識や技量のレベルは高く、研修が充実している。遅れた子を置いていかない教育がなされているため、平均点は高い。学校現場に裁量が与えられ、力を出し切れる環境が整っている。カリキュラムは、教員が父母と協議して、学校独自に決める。国の決めたものが押し付けられることはない。これって、すごく大切なことだと思います。
 義務教育のときには、教科書も文房具も、もちろん給食も無償である。
 消費税は25%と高いが、日常生活費は除外されている。所得税も50%と高い。しかし、老後の生活費や医療・介護費の心配はまったくしなくていいので、そのための保険や貯金の必要はない。
 これを支えているのが、80%前後の高い投票率。そうなんです。日本も現状を変えるためには、皆が投票所に足を運ぶしかありません。いえ、みんなが、8割の人が投票所へ足を運ぶようになれば、日本も、世の中が劇的に変化すると思います。
 日本では投票に行かないこと、棄権を勧めるマスコミや文化人が目立ちます。でも、それは結局、現体制を黙って支持しろ、文句も言わずに現体制に従えということなのです。世の中を良い方向に変えるためには、投票所に足を運ぶ手間を惜しんではいけません。
 ただ、今のように政権交代、政権交代と中身抜きに叫ばれると、いったい中身の方はどうなってんの、と叫びたくなります。高速道路料金をタダにするとか、1000円にするとかだけが争点ではないはずです。アメリカとの関係をどうするのか、憲法をどうするのか、国の根本についての議論が抜け落ちている気がしてなりません。
写真付きの楽しく分かりやすい旅行記でもあります。
(2009年5月刊。1700円+税)

任天堂

カテゴリー:社会

著者 井上 理、 出版 日本経済新聞出版社
 2009年3月、任天堂のケータイ型ゲーム機(ニンテンドーDS)は世界累計販売台数が1億の大台に乗り、据え置き型ゲーム機(wii)も5000万台を突破した。
 今やニンテンドーは、トヨタと肩を並べる世界的なブランドとなった。2008年度の売上高は、5年前に比べて3.3倍の1兆6724億円。営業利益は4.9倍の4872億円になった。3800人いる従業員1人あたりの売上高は4.4億円。2009年3月、売上高、そして営業利益は過去最高の5300億円となり、トヨタを抜いて国内首位となった。
 私はテレビを見ませんし、ゲームもまったくしません。興味ないからです。30年前にインベーダーゲームが流行したとき、2回か3回したことがありましたが、私には時間の無駄、つまらないものでしかありませんでした。任天堂は、私のような人間を初めからターゲットにしていません。それでも、大人がゲームをする余裕をなくしたことに目をつけ、そこで挽回しようと考えたというのです。すごい発想です。
 海外で売れているというニンテンドッグスは、画面のなかの愛犬の世話をするものだそうです。ひところ流行したタマゴっちのようなものですね。愛犬の名前を呼ぶと、音声認識機能で反応する。世界累計で2167万本も売れているそうです。すごいことです。
 電源をオフにした状態でも、ネットからの情報収集を続ける機能を残す。そのため、恐るべき低消費電力の眠らないマシンを開発し、完成させた。
 任天堂の研究開発費は、年々、増加傾向にある。2007年度は370億円。1人あたり3500万円もつかえる計算になる。キャノンは1200万円。任天堂の3分の1だ。
 任天堂のオーナー山内溥は日本一の大富豪。自分がビデオゲームで遊ぶことはなく、クリエイターでもない。しかし、その直感がズバリあたってきた。
 任天堂は、努力したあとは運を天に任せるという独特の世界観でやってきた。重圧に押しつぶされたり、悲壮感に打ちひしがれたりすることなく、ニコニコしながら種(タネ)を仕込み続ける。
 まさに世はソフトの時代である。今は、モノがあふれかえる飽和の時代。基本性能や耐久性がモノを言う時代は終わり、デザインや使い心地、利便性が消費者の心をつかむ分かれ目となっている。
 ゲームの世界の奥深さを感じさせる本でした。
 
(2009年5月刊。1700円+税)

深海魚

カテゴリー:生物

著者 尼岡 邦夫、 出版 ブックマン社
 深海にすむ魚たちの、グロテスクとしか言いようのない姿と形を、しっかり堪能できる大判の写真集です。暗黒街のモンスターたち、というサブタイトルがぴったりです。
 深海魚の多くは発光器を身に着けている。なかには、肝門から発光液を出す魚もいる。これを塗って餌で魚を釣る漁法がポルトガルやインドネシアにあるそうです。面白いものですね。
 体内に発光器をもっている魚は、発光細胞内でのルシフェリンとルシフェラーゼの化学反応で発光する。ヒレの先端が光ったり、ヒゲが光ったりと、発光する場所はいろいろあります。しっぽの先が光ったりもするのです。
 長い柄の先に目が付いていたり、長い長い腸を体外にぶら下げていたり(消化と吸収の効率を高めるためとのこと)、なんとも奇妙な形の深海魚たちのオンパレードです。
 でも、もっとも悲しいのは、メス魚に寄生して一生を終わる哀れなオス魚です。大きなメスにくっついた小さな付属物としてしか存在しえないのです。ここまでくると、哀れというより、悲惨としか言いようがありません。
 スイスでは、今回は高級料理店はやめて、町なかのレストランに入ってスパゲッティやピザを食べるのがほとんどでした。町の広場に張り出したテラスで、道行く人たちを眺めながら(眺められながら)、ゆっくり赤ワインを味わいました。私はビールはやめました。シシリー島産の赤ワインの渋みのある重厚な味が一番印象深く残っています。
 
(2009年6月刊。3619円+税)

なぜ年を取ると時間の経つのが速くなるのか

カテゴリー:人間

著者 ダウェ・ドラーイスマ、 出版 講談社
 人間の一番古い記憶は、反復と決まった型が背景になければならないが、これは3歳より前には起こらない。幼児期健忘は、ハードウェアの欠陥が原因なのではなく、プログラム、つまりソフトウェアの問題なのである。 一番古い記憶は、その人のアイデンティティの獲得と関係している。
子どもは、実年齢に関係なく、18か月の精神レベルに達すると、「私」としての自分自身を理解するようになる。
 匂いほど、突然に自分の思考の流れを止める刺激はない。
 感情が高ぶると、通常より短時間のうちにより多くの詳細を貯蔵せよという命令が脳に下される。
 既視感(デジャヴュ)について、左右2つの脳半球の存在から証明されています。
 2つの映像の時差は、ほんの一瞬。既視感において2度目だと感じるのも無理はない。2つの脳半球は交替で活動する。一方の脳半球が活動しはじめていても、他方の脳半球がまだ休止していないと、一種の「2重像」が現れる。現在の像のなかで、休止状態に入りつつある他方の脳半球の像が明滅し続けるので、まるで同じことを2度経験しているように見えるのだ。
 既視感は3つの錯覚をともなう。一つは、思い出のように感じるが、実際はそうではないというもの。二つは、これから何か起きるのか知っているような気がすること。三つには、漠然とした不安をかきたてられるというもの。これらの錯覚が心に混乱を招く。
 ほとんどの自分史に共通する特徴がある。つまり、語り手は、自分史をできるだけ筋の通ったものにしようとする。
 高齢者に思い出を語ってもらったところ、50歳から80歳までを全部あわせた期間の出来事よりも、10歳から20歳までのあいだの出来事のほうがずっと多く語られた。自伝的記憶と自叙伝に共通しているのは、そのなかにある思い出がテーマ・動機・話の筋に適合していること。それらは一つの発展の要素として、少しずつ現れる。自分や他人に向けて話す想い出話は、「公」に向けられているので、もはや出来事そのものではない。
 老人は若いころの思い出に自分自身を書き込んでいくのだ。
 人生が変化に富んでいるときには、記憶の標識の数が多い。年齢の高い人の方が、20代のころの出来事を比較的楽に思い出せるのは、利用できる時間標識がその期間に非常に多いことの結果である。
 時間標識は、期間や日付を記すだけでなく、老年期に夢想をも生じさせる。
 たくさんの思い出の詰まった期間は、振り返ってみたときに伸びるだろうし、思い出がほとんどない同じ長さの期間より長く続いていたように感じられる。逆にいうと、中年以降には時間標識の数が少なくなるので、そうした空白時期では、時間は主観的に速く過ぎるのだろう。
 時間を測る能力は、年齢とともに上昇し、20歳でピークに達し、その後は下降していく。高齢者の能力は幼児のレベルにまで低下する。
 何かをしていて忙しいときには、時間がかなり速く過ぎる。
 老齢とともに、人間はだんだん、ゆっくりと時を刻む昔の旅行用携帯時計になっていく。体内のメトロノームが減速していくために、外界のほうが加速しているように思えてくる。
 客観的な原則が主観的な加速を生み出す。体内時計の速度が一定の役割を果たす。体内時計のほうは、老人よりも若者の体内の方が速く動く。だから、子どものころの日々はとても長かったのに、年をとると時間は驚くほど速く過ぎていくことになる。
 また一つの解を得ました。でも、ということは、日々の生活を充実させるしかないということなんですね。
 
(2009年5月刊。2400円+税)

憎悪の世紀(上巻)

カテゴリー:ヨーロッパ

著者 ニーアル・ファーガン、 出版 早川書房
 1925年ころのドイツでは、人口はドイツの100に対してユダヤ人は1にも満たなかったが、医師の9人に1人、弁護士の6人に1人がユダヤ人だった。富裕層の31%もユダヤ人だ。ユダヤ人が少ないのは、軍の将校団のみ。
 ロシアの革命運動においてユダヤ人は存在感があった。ボルシェヴィキの11%、メンシェヴィキの23%をユダヤ人が占めていた。ロシアの総人口に占めるユダヤ人の割合は4%だったが、国会議員の29%がユダヤ人だった。そして、ロシア社会主義者のうち、9割近くはユダヤ人だった。ただし、ボルシェヴィキ指導者のうち、トロツキーとジェルジンスキーの2人だけがユダヤ人だった。
 1900年から1913年にかけて、ヨーロッパでは40人もの国家元首、政治家、外交官が殺された。国王4人、首相6人、大統領3人。うへーっ、そうだったんですか……。
 19世紀、ヨーロッパの王室は、みな互いに親戚関係にあった。ヨーロッパの王室は、すべて純粋のヨーロッパ人である。新しい血が時折入らなければ、一族の血統は、身体的にも道徳的にも変質してしまう。現に血友病が発生した。しかし、ナショナリズムに対抗するため、大陸の支配層は意図的に近親結婚を繰り返していた。
 王室外交は、まぎれもなく親族の集まりであり、拡散したメンバーは、互いに愛情をこめてニックネームで呼び合った。このシステムは、各王朝のメンバーが互いに結婚し続けることによってのみ存続できる。結婚は、同族である王室メンバーとのものであることが原則であり、その例外は非常に限られていた。
 スターリンの統治下で、あわせて1800万人もの老若男女が収容所に送り込まれた。流刑になった600~700万人のソ連市民をふくめると、労働の使役に駆り出された国民は全体の15%にも上った。この収容所の本来の目的は、囚人を始末することではなかった。ソ連の収容所は、囚人を労働力として利用するためのものであって、殺すことが目的ではなかった。その意味でナチスの収容所のような絶滅収容所ではなかった。
 1935年1月から1941年6月までに、2000万人が逮捕され、少なくとも700万人が処刑された。1936年1月の時点で、コミンテルンの執行委員は394人いた。うち223人が1938年4月までにスターリンの大粛清の犠牲になった。
 ヒトラーは、チャップリンが演じた人物より、ずっと複雑怪奇な人物だった。ヒトラーは憎しみのかたまりで、愛を知らなかった。
 ヒトラーは救世主の生まれ変わりであり、マレーネ・ディートリッヒと同類だとドイツの民衆に印象付けられた。
 ナチスはドイツのあらゆる地域で広範な支持を集めた。地方の共産党のなかには、資本主義と社会民主党を打倒するためと称して、公然とナチスと手を結ぶグループさえあった。
 ナチスは弁護士や医師などの知識人たちも入党した。ヒトラーはビスマルクの後継者にうつったからである。
 ヒトラーが首相になったころ、ドイツに600万人もの失業者がいた。ところが、1935年6月には失業者は200万人弱になり、1937年4月には100万人を割り、1939年8月にはわずか3万人ほどになってしまった。1935年から39年にかけては、強制収容所より休暇を楽しむ施設のほうがずっと多く、ドイツは好景気にわいていた。
 1939年の時点で16万4000人のユダヤ人がドイツにいたが、うち1万5000人は異民族の相手と結婚していた。ドイツ系ユダヤ人はドイツ社会に同化していたのである。
 世界史を理解するために知っておくべき基本的な知識が次々に語られています。
 上巻だけで500頁近い大作で、いかにも読み応えがありました。
 スイスのサンモリッツからポストバスに乗ってイタリアのルガーノまで行きました。バスで4時間の旅です。途中の休憩は1回だけです。急峻な山道を九十九折で降りて行くのは怖いほどでした。山の中の小さい村の中をいくつも通過します。狭い路地を走りました。湖が見えます。阿蘇の外輪山のように屹立した山々を横目で見ながら走ります。湖畔の狭い道を離合するときには、車体をこすり合うほどでした。4時間以上たっぷりバスに乗って、自信をつけることもできました。
 
(2007年12月刊。2800円+税)

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