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2009年7月 の投稿

法律相談のための中国語ノート

カテゴリー:司法

著者 宇都宮 英人、 出版 林田印刷
 これはすごい。心底、そう思いました。著者は私と同世代、福岡市内で活躍しているベテラン弁護士です。京大空手部で主将をつとめていた猛者だなんてとても信じられない優男(やさおとこ)です。でも、今でも日の里団地で子どもたちを中心とした空手サークルを主宰しているのです。いつぞや、結婚式で空手の型を演じてくれましたが、さすがに見事に決まっていました。身体がぶれないのです。
 そんな著者は、これまた見かけによらない語学の天才なのです。以前、一緒に中国領事館を訪問したことがありますが、そのとき中国語を苦もなく話をしているのを、私など呆気にとられて眺めていました。
 その著者が、今度は中国人が日本で法律相談をするとき、どんなことを訊いてくるのか、それにどう回答したらいいのか、例文をあげて中国語表現を併記した本を作ったのです。まことに実践的な本です。たとえば次のような例文が紹介されています。
 Q,離婚したら在留資格はどうなりますか。日本にそのまま住み続けることができますか。
 A,離婚したら、配偶者という在留資格を失います。ですが、子の親権を取得して一緒に生活していたら、定住者の在留資格を取得できます。
 A,中国人の夫婦であっても、日本の裁判所に離婚訴訟を起こすことができます。ただし、裁判所は、離婚の成立や効果について、中国の法律によって判断を下します。
 著者は、弁護士活動の中の得意分野の一つとして、高齢者・障がい者問題も扱っていますので、その分野の問答もあります。
 たとえば、「合理的配慮をしないことも差別である」という文章は、実は、中国語表現では、「合理的な便利さの提供を拒絶する」となるといいます。これは視点の違いから来ているのではないかと著者は指摘しています。なるほど、と改めて感心してしまいました。
 私も、外国人と結婚した夫婦の破綻後の子どもの親権などをめぐる相談を受けることがあります。この本は、それが中国人だったらどのように言ったらよいのか、分かりやすい例文と中国語が併記されていますので、すぐに使える実践的な手引書です。
 福岡を拠点として、中国語の同時通訳者として活躍中の張愛氏が監修していますので、一段と安心して使える本になっています。ぜひ、みなさん手にとって見てください。なお、この本は、単行本としては著者の3冊目となります。
 
(2009年6月刊。1260円+税)

罪祭

カテゴリー:日本史(戦後)

著者 山下 郁夫、 出版 創思社出版
 戦争中、大牟田にフィリピンでバターン死の行進をさせられたアメリカ兵捕虜を収容していた俘虜収容所があり、そこで捕虜を虐待したことを理由として極東軍事裁判で4人もの死刑判決が出て、巣鴨プリズンで実際に絞首刑が執行されていたことを伝える本です。
 私がある小集会でうろ覚えの話をしたところ、その場で私の話を聞いていた依頼者の一人からこの本を提供していただきました。実は、この俘虜収容所は、私が小学1年生のころまで住んでいた自宅の近くにあったのです。もちろん、今では跡形もありません。そもそも捕虜を駆使していた三池炭鉱自体もないのです。
 昭和18年8月から昭和20年9月まで、大牟田市新港町に福岡俘虜収容所第17分所があった。その初代所長が五島出身の由利敬少尉だった。ここに、バターン死の行進の生き残り捕虜505人を三池炭鉱で働かせるために連れてきた。この収容所は、最盛時には2000人もの捕虜がいて、敷地面積は1万1000坪あった。
 2代目の福原所長も絞首刑となった。その訴因は、捕虜に対する殴打だった。
 由利所長の死刑判決の理由は、逃亡常習癖のある捕虜を裁判にかけることもなく、部下に命じて背中から刺殺させたこと、盗癖のおさまらない捕虜を独房で死亡(餓死)させたことである。
アメリカ軍GHQは、横浜において軍事法廷を昭和20年12月から開始した。その第1号死刑判決が由利所長であった。また、衛兵だった軍属2人(33歳と40歳)も死刑になり、そのほか、福岡の俘虜収容所長(菅沢大佐)も死刑となった。
 由利所長の裁判は、翌21年1月7日に判決言い渡しで終わった。3対2で有罪、絞首刑が宣告された。そして4ヶ月後の4月26日に処刑された。戦犯として絞首刑となった第1号が由利初代所長で、第2号は福原2代目所長であった。
 戦前の日本に起きた捕虜虐待、そして戦犯としての日本人処刑という悲しい話を忘れるわけにはいきません。
(1983年7月刊。1800円+税)

宇宙開発戦争

カテゴリー:アメリカ

著者 ヘレン・カルディコット、 出版 作品社
 宇宙を武装すると、世界はより安全になるか?宇宙に兵器を配備する必要があるか?その答えは、宇宙に兵器を配備すれば、世界は今よりはるかに危険になる。宇宙兵器を持つと、さらに危険な状態に陥ってしまう、ということである。なぜなら、宇宙を武装すれば、間違いなく宇宙での軍拡競争が始まり、恐ろしい戦争が勃発しかねない。こんな危険なスターウォーズを防ぐには、今すぐに声をあげなければならない。
 ミサイル防衛というのは、実効性のあるシステムは不可能である。ところが、はっきりしていることは、相互抑制システムを維持するコストだけは、どんどんつり上がっているということ。アメリカは、およそ1500億ドルを投入して、ミサイル防衛システムを開発してきたが、実のところ、大陸間弾道ミサイルに対しては、まったく無力だった。おとりの一群に囲まれた核弾頭を打ち落とすことはできない。つまり、実戦で確実に考えられる状況には対応できないのである。
 アメリカがミサイル防衛計画にかけている年間費用は、104億ドルから2倍になりかねず、2007年度で最大の単独計画になっている。この費用は、2013年までに190億ドル、2006年度から2024年までを合わせると、合計2470億ドルにまで膨れ上がりかねない。
 ペンタゴンが曖昧にしておきたがっているのは、ミサイル防衛システムの主な能力が完全に機能しても、ほとんど効果はなさそうだということ。日本政府も、それを知っておきながら、計画をすすめているのです。
 北朝鮮のミサイル実験を問題にしているアメリカは、インドが2006年7月に行ったミサイル実験については一切抗議しなかった。うひゃあ、これっておかしいですよね。
 通信衛星にかかる費用は、海底ケーブルよりもかなり安く、海底ケーブルが1億7500万ドルかかるのに、8000万ドルですむ。
 GPS衛星は、1978年に初めて打ち上げられたが、全面的にシステムが稼働したのは1995年のこと。GPSは、現在、28基の衛星を利用していて、それぞれの衛星は12時間ごとに地球を周回している。GPSの年間維持費用は、4億ドルである。
 アメリカは今、4000億ドルの年間赤字と膨大な貿易不均衡を抱え、貧困層などへの福祉の切り捨てをすすめている。そのときに、こんなとてつもない費用を実働性の保障されていないミサイル防衛計画に投資するのは、国民の価値基準を根本から明らかにするだろう。
地上と違って平和と思っていた宇宙が、実は熾烈な開発競争のターゲットになっていることを知り、驚きました。
 
(2009年4月刊。2400円+税)

院政期社会の研究

カテゴリー:日本史(中世)

著者 五味 文彦、 出版 山川出版社
 院政期は、腕力こそがものを言った社会であった。しかし、腕力だけがすべてではなかた。常に文書なるものが作成される必要があり、その文書の理が腕力ともども院政期社会を支配していた。
 たとえば、この時期の訴訟は、証文をそえて、その「調度文書理」「次第文書理」に任せて裁可されることを要求するのが通例であった。腕力といえども、この文書の理を真っ向から否定するわけにはいかなかった。
 このように、腕力も文書を必要としていた。謀書といわれる偽文書が多く作成されたのも院政期社会の特徴である。それは、腕力が文書の理を認めざるをえなかったことを物語るものである。すなわち、腕力と文書の理との微妙な共存関係こそが、院政期社会の一つの特徴なのである。武士の腕力は、結局のところ、文書の理と争って、それを退けることになったが、それはその後の武士の発展を暗示するものであった。
 白河、鳥羽、後白河の3上皇の院政の時期を院政期という。
 承久の乱(1221年)は、西国に支配の基盤をもつ院と、東国に政権を樹立した鎌倉幕府(北条義時)との武力衝突であった。鳥羽院は、「朕の生まるるは、人力に非ざるなり」と述べ、天皇家の血統性の故ではなく、直接、神と結ばれている点に自己の権威を位置づけた。
 中世社会において勧進聖人の果たした役割はすこぶる大きかった。東大寺再興に寄与した重源をはじめ、諸大寺の再興・造営の多くは勧進聖人の活動を待たねばならなかったし、港湾の修築、道路や橋梁の修造など、さまざまな土木・建築事業に勧進聖人は多大の貢献をした。
 院政期以来、造寺・造仏・造橋などに勧進聖人は庶民に受け入れられていたが、そのなかでもことに大仏の造営において庶民の熱狂的な歓迎を受けた。東大寺の大仏開眼や大仏殿供養に、庶民は熱狂的に参加した。
 鎌倉の大仏は何度かの造営を繰り返したが、それを可能にしたのは、それを支持する庶民がいたからであった。苦しみにあえぐ人々にとっての救済への願望が大仏に託されていたのだ。なーるほど、そういうことだったのですね。
 悪左府、悪源太、悪僧。これらに共通する「悪」とは、単なる反価値としての悪ではない。地方社会の深部から作り出されたエネルギーが、そこに盛り込まれている。ここでは、悪はアクであってワルではありません。ワルだと少し軽いノリですね。
 中世の裁判制度の歴史をみると、社会の動揺や政治的内紛があるたびに裁判の改革が行われていることが分かる。鎌倉幕府では、承久の乱のあとの評定制、宝治合戦のあとの引付制など、主要な改革は内乱や内紛のあとになされている。朝廷においても、院評定制は宮騒動後に設けられている。さかのぼると、治承・寿永の内乱のあとの記録所や、保元の乱のあとの記録所も同じである。
 これは、裁判制度が、徳政の一環として秩序の維持に重要な役割を果たしていることを為政者が認識していたからである。裁判が秩序維持機能を果たしうるためには、何よりも裁判に公正さが要請される。公正さを欠いた裁判は、むしろ秩序を乱す結果すら生む。鎌倉幕府はつとめて裁判の公正さを保つために心を砕いた。退座規定を設けたり、評定衆から起請文をとって公正を誓わせている。昔から日本人は裁判が嫌いだったなんてとんでもない嘘です。日本人が昔から裁判大好きだったことが、ここにも裏付けられています。
 花押は、個人の表徴として文書に証拠力を与えるものであった。すなわり、花押こそ文書に証拠力を与えたのである。そうはいっても、この花押なるものは、よく読みとれませんよね。英語のサインと同じで、読みとれないから他人が容易にマネできない。だから価値がある、ということなのでしょうか……。
 女院制度が制度的にもっとも充実していたのは院政期だった。源氏は、為義・義朝・頼朝の三代にわたって女院に接近して、政治的進上を果たした。院につかえていた京武者の源氏が「貴種」と呼ばれ、さらに政権をつくるのにあたって、女院の存在はきわめて大きな意義をもっていた。平氏も同じで、平忠盛は待賢門院に仕え、続いて美福門院に接近した。平氏一門が「公達」として高位高官についたのも、また女院の存在なくしては考えられない。
 待賢門院以後の女院は、大規模な荘園をもつ荘園領主として存在し、その女院につかえる女房はそれらの荘園を知行して経済的基盤としていた。しかも、女院領は女院から女院へと伝領され、女房の所領も女房へと伝えられてゆき、そこでは女院・女房が一体となって社会的な影響力を与えていた。
 日本では、昔から女性は政治の舞台でも大いに力を発揮していたというわけです。
 院政期の日本社会の実相を、少しながら知ったように思いました。500頁近い大作ですが、分からないなりに読み通して学者の偉大さを思い知りました。
 昨日(7日)、今年初めてセミの鳴き声を聞きました。歩道わきのビルの壁にセミの抜け殻を見つけたのが先でした。あちこちでヒマワリの花も見かけます。我が家の庭は今年はヒマワリがなぜかとても少なく、寂しい気がします。そして、ヒマワリはまだ花を咲かせてくれません。
 
(2005年12月刊。 円+ 税)

語りえぬ真実

カテゴリー:アメリカ

著者 プリシラ・B・ヘイナー、 出版 平凡社
 ずっしりと重たい本です。500頁近い大作だというだけでは決してありません。書かれている内容があまりにも重たいし、重たすぎるのです。なぜ、どうして、人間って、ここまで残虐なことができるのだろうか。そして、平然とその後の日常生活を何事もなかったかのようにして家族とともに生活できるのでしょうか。不思議というほかありません。
 この本に出てくる大虐殺に、すべてアメリカが関与しているというのではありませんが、たいていアメリカが多かれ少なかれ関わっています。なにしろ世界の憲兵を自称し、世界最強の軍隊を世界中に、いつでもどこでも派遣する能力をもっているわけですからね……。
 裁判と真実委員会とでは、被害者に対する見方の性質と範囲が根本的に異なる。多くの真実委員会は、まず被害者に焦点を合わせる。被害者たちの苦しみの体験を聴く。真実委員会は被害者に「公の声」を与え、彼らの苦しみを多くの人々に伝えようとする。また、被害者や遺族への補償プログラムを計画する。
 真実委員会は、加害者の説明責任を追及する。真実委員会は、個々の加害者の責任を問うだけでなく、公的組織の責任範囲を評価する役割も与えられる。
 アルゼンチンでは、1976年に軍が政権を握ってからの7年間に、破壊活動分子を掃討するという名目で1万人ないし3万人もの人々が行方不明にされた。
 真実委員会は、9か月間に7000件もの証言を聴取し、8960人の行方不明者を記録した。軍による拘禁を生き延びた1500人に対するインタビューによって収容所と拷問の実態が詳しく報告書に記載された。
 チリのピノチュト軍事政権によって拷問を受けて生き延びた人は、5万人から20万人と推定されている。クーデター後の1年間だけで、1200人が殺害された。
 エルサルバドルでは、真実委員会が調査して残虐な事件の責任者を明らかにすると、国会で免責する法律が制定された。そして、30年の任期満了に伴う軍の叙勲を授与されて退役していった。大統領も働きぶりを賞賛するばかりだった。
南アフリカの真実委員会は、300人ものスタッフをかかえ、証言者保護プログラムも作り上げ、年額1800万ドルの予算を確保してスタートした。
 チャドの真実委員会が公表した報告書によると、アメリカ政府が最悪の犯罪人たちに毎月100万円もの資金を援助し、訓練していた。アメリカ以外にも、フランス、エジプト、イラク、ザイールが関与していた。実際、アメリカ人顧問の執務室の近くで、毎日、政治囚が拷問され、殺害されていた。
 真実委員会によらず、裁判で加害者の責任を追及しようとすると、大きな壁にぶつかります。
 加害者に対する裁判が成功しないことには、いくつもの理由がある。ほとんど機能していない司法システム、腐敗し、あるいは妥協した判事や役人、それに具体的な証拠が欠如することも多い。資金不足の司法システムは、証人保護プログラムを欠いており、目撃者の多くは証言することを恐れている。警察や検察は捜査能力を欠いていて、強力な証拠を提示できない。判事・検事への給与の支払いが滞っている。裁判所は乏しい予算とスタッフでやりくりしなければいけない。そのうえ、前体制の加害者らは、政権を離れる前に一括免責を発布しておくことが多い。
 刑事裁判の目的は、真実を明るみに出すことではない。犯罪の証拠が、当該告訴の内容を満たしているか否かが検討されるのである。このプロセスにおいても、ある程度の真実はあらわれるだろう。しかし、そこでは重要な事実がしばしば排除され、結果として、裁判では限られた真実しか表に出てこない。
 このように大きな限界のある裁判とは異なり、どの真実委員会にとっても、一番重要な目的は、暴力と不正の再発を防ぐことにある。かつての敵同士の憎悪と、復讐の連鎖を断ち切ることで、その目的が期待される。
 恐怖を投影し合う理由が歴史の中にたくさんあると感じる対立集団のあいだで和解を促すことになる。
 ほとんどの真実委員会は、軍・警察・司法さらに政治制度を変革するよう勧告する。そのことによって、不正を抑制し、仮にそうしたことが生じた場合に対応するはずのメカニズムを強化することが期待される。
 世界各国の大虐殺について、そこから教訓を引き出し、将来に生かすべきことです。それにしても、人間って、本当に残虐な存在ですね。
 
(2006年10月刊。4800円+税)

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