著者 ディヴィッド・A・プライス、 出版 早川書房
「トイ・ストーリー」、「バグズ・ライフ」、「モンスターズ・インク」、「ファインディング・ニモ」、「Mr.インクレディブル」、「カーズ」、「レミーのおいしいレストラン」、どれも見たいとは思いましたが、見ることのできなかったアニメ映画です。
この本は、アニメ映画をコンピューターをつかって映像を作り上げていった苦労話が紹介されています。なるほど、そんな苦労があったのか、と理解できました。
テクスチャ・マッピングをつかって3D物体をコンクリートの画像で包装紙のように包むと、コンクリートのように見せることは出来ても、表面にコンクリートの凹凸の奥行き感はない。物体の表面に3Dテクスチャを張り付けることで、この限界を克服しようとした。そうすると、ざらつき、浮き出し、隆起など、必要な質感を与えることができるはずだった。
1ピクセルあたりのメモリが多ければ多いほど、画像の各点で選択できる色や階調の数が増える。たった256色では、現実感が出せるはずもない。
コンピューターで描かれた直線や縁は、ギザギザに見えることが多い。滑らかなはずの線に階段現象が生じる。縁にそって、アリがはっているようにも見える。しかし、1600万色のパレットなら、線を見せたいように見せることができる。
パーティクル・システムは、数千の粒子を使って、雲を表現する技術で、これを使って火事や煙、水、ホコリといった現象のリアルなアニメーションを作成することが初めて可能となった。
「ファインディング・ニモ」をつくるとき、技術チームが水中の世界を見事に再現したので、コンピュータ・アニメのテストは現実と見分けがつかないほど。困ったことに、写真のような海の中では、しゃべる魚は浮いてしまった。そこで、ツールを調整して、ハイパー・リアリティに戻した。写真実ではないが、現実感のある、定型化したリアリズムを指す。なるほど、現実を単純に再現するだけでもいけないというわけです。そりゃそうですよね、現実の海中で、魚がしゃべるわけないのですから……。
写真のようにリアルな描写(写真的リアリズム)よりはるかに意義深かったのは、感情的にリアルな描写(感情的リアリズム)だった。うむむ、なるほど、受け手の感情にしっくりくることが最優先なのですね。
一番難しかったのは、映画品質の映像を、コンピューターからどうやって映画フィルムに移すか、という問題であった。デジタル映像に、どれだけの解像度があれば観客を満足させられるかさえ、誰にもわからなかった。
しかしながら、映画は技術の才能だけではダメ。やはり、価値ある映画をつくるためには、映画のストーリー作りを心得たメンバーを加える必要があった。映画では、ストーリーが何より大切。
映画の完成にあたっては、試写会のときの観客の反応によって結末を変えたりするのですね。初めて知りました。出来上がったものを先行上映するだけだと思っていました。
(2009年3月刊。2000円+税)
メイキング・オブ・ピクサー
