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2008年12月 の投稿

1945年のクリスマス

カテゴリー:日本史(戦後)

著者:ベアテ・シロタ・ゴードン、 発行:柏書房
日本国憲法の誕生秘話です。日本で育ったユダヤ人女性が終戦直後、アメリカ本土からGHQの一員として日本に戻ってきました。ピアニストの父と母は、敵性外国人として軽井沢に追いやられ、栄養失調のため倒れていたのです。1941年、第二次大戦が始まると、軽井沢は第三外国人強制疎開地に指定された。300人の外交官が滞在し、5000人の外国人が軽井沢で生活した。
日本をよく知る22歳の白人女性は、日本国憲法の草案を短期間で作り上げるように命じられ、突貫作業に従事します。その様子が生々しく伝わってくる本です。
著者は5歳から15歳まで東京で育ち、日本語は上手に話せた。父シロタはロシア系のユダヤ人だった。親戚には、ナチスのため強制収容所に入れられ、殺された人が多くいた。
両親がキエフ生まれなので、ロシア語を話せる。著者はオーストリアのウィーンで生まれ、日本に来ても少女時代にはドイツ語学校に通っていたのでドイツ語は話せる。フランス語は家庭教師から習った。アメリカの大学ではスペイン語を学んだ。だから、英語と日本語を含めて6カ国語が自由に話せる。これが身を助けた。うむむ、こ、これは、す、す、すごい。すご過ぎる。語学のできない私にはうらやましい限りです。
1945年12月24日、著者はGHQの民間人要員の一人として、厚木基地に降り立った。そのとき、22歳だった。
職場は、皇居の前の第一生命ビルの6階にある民生局。同じフロアーにはマッカーサー元帥の執務室もあった。
GHQの民間人の民政局は、軍服こそ着ていたが、弁護士や学者、政治家、ジャーナリストといった知識人の集団だった。マッカーサー元帥の信任があって、元帥の信奉者だったホイットニー民政局長は、コロンビア・ロースクール出身の弁護士で、法学博士だった。ケーディス大佐もハーバードのロースクール出身の弁護士で、ユダヤ人。
メンバーの多くがルーズベルト大統領のニューディール政策の信奉者であり、アメリカで果たせなかった政革の夢を、焼け野原の日本で実現させたいという情熱を持っていた。
ホイットニー局長はこう言った。
「日本政府の憲法草案は、GHQとしては受け入れることはできない。なぜなら、民主主義の根本を理解していないから。修正するのに長時間かけて日本政府と交渉するよりも、当方で憲法のモデル案を作成して提供したほうが効果的だし、早道と考える」
人権に関する条項は、ロウスト中佐とワイルズ博士と著者の3人が任命された。そこで、著者はジープで都内の図書館や大学をまわり、アメリカ独立宣言、アメリカ憲法、イギリスの一連の憲法、ワイマール憲法、フランス憲法、スカンジナビア憲法、そしてソビエト憲法を集めた。GHQの草案は、日本政府がつくったものとして発表することになっていた。
それまでの日本では、妻は準禁治産者と同じ扱いを受けていた。つまり裁判を起こせないし、遺産の相続権もない無能力者だ。もちろん選挙権もない。しかし、マッカーサー元帥の5大改革の中に婦人解放と参政権は含まれていた。
1946年2月4日から12日までの9日間は、著者の生涯でもっとも濃度の濃い時間だった。GHQがつくった憲法草案は、2月13日麻布の外務大臣で吉田茂外務大臣と松本恭治国務大臣に渡された。
このときホイットニー准将は、これが受け入れられなければ、天皇制は守られないかもしれないと日本側を脅した。
3月4日、GHQ(民政局)は日本政府と草案の逐語的な詰めの交渉をした。これに著者も通訳の一人として参加した。審議は時間がかかり、人権条項に取りかかったのは、午前2時頃。日本側は次のように言った。
「女性の権利問題だが、日本には、女性が男性と同じ権利を持つ土壌がない。日本女性には適さない条文が目立つ」
これに対して、ケーディス大佐が次のように反論した。
「しかし、この条項は、この日本で育って、日本をよく知っているミス・シロタが日本女性の立場や気持ちを考えながら、一心不乱に考えたものです。悪いことが書かれているはずはありません」
冬の夜が明け、およそ終わったのは朝10時頃。全体としては夕方6時まで詰めの作業が続いた。
すごいですね。日本国憲法ができあがるまでの苦労話として、もっと知られていい話だと思いました。
(2003年9月刊。1748円+税)

さらば!同和中毒都市

カテゴリー:社会

著者:中村和雄・寺園敦史、 発行:かもがわ出版
 京都の弁護士が京都市のひどい実態を鋭く告発した本です。いやあ、これはひどい。こんなにひどいのか、と改めて怒りがわいてきます。この本を読んでいてただひとつの救いは、このひどい現状を改革しようとする中村弁護士がいることです。といっても、残念なことに、中村弁護士は京都市長選に立候補したものの、惜しくも当選できませんでした。
 桝本・京都市長が1996年に誕生してから12年間に、逮捕された京都市職員は94人。2006年には1年間に15人も逮捕された。逮捕された京都市職員の犯罪で多いのは覚せい剤の使用と譲渡容疑である。
 その原因について、桝本市長は次のように述べた。
「採用に当たり、社会正義の実現のために同和地区の出身者の優先雇用をするという現業の問題が構造的な問題と言える」
「採用時に、部落解放同盟や当時の全解連に優先雇用枠を与えた。その結果、任命権まで京都市から運動体の一部の人物に行ってしまった。そこにもっとも大きな問題があると考えている」
 そうですよね。市職員の採用が「一部の人間」の恣意によってしまったら、何が起きるか分かりません。犯罪者多発と公金横領の温床です。
 京都市で明るみになった同和補助金搾取事件は総額8000万円。大勢の市職員が関わって日常的に実行されていた。ところが、2003年7月に発表された処分は、対象となった57人のうち誰一人として免職にならず、せいぜい減給・戒告どまりだった。それどころか、当時の市教委総務部長は教育長に、人権文化推進部長は副市長に、もっとも多額の公金搾取を繰り返していた2支部に協力していた担当課長は局長へ昇進した。
 京都市政に巨額の損害を与えても、運動団体とのあつれきを避け、同和行政を「円滑」に進めたことが評価されたわけである。
 いやあ、これでは真面目に同和問題に取り組み、部落解放を目ざしてがんばってきた人は浮かばれませんよね。
(2008年9月刊。933円+税)

40年のあゆみ

カテゴリー:司法

きづかわ共同法律事務所
 大判の絵本スタイルです。表紙の絵は下町の人情味たっぷりの風情をよく描いていて親しみを持たせます。それほど厚くはない(160頁)し、手に取ったら、中をちょっとのぞいてみようかな、という気にさせます。
 そうなんです。本は、表紙、タイトル、それがとても大事なんです。この本はそこでまず優れています。
 さあ、ページを開いてみました。見開き2頁に一つのテーマが基本です。いわば読み切りスタイルです。しかも、写真があり、親しめる大きなマンガカットがあったり、事件関係者の一口コメントがあったり、いろんな工夫がされていて、とても読みやすくなっています。
 おっと、形式ばかりほめていてはお粗末な内容をカバーしているのかという、あらぬ誤解を招きかねません。いえいえ、決してそんなことはありません。読み切りの内容がまた素晴らしいのです。ともかく、弁護士たちの活動分野が実にバラエティーに富んでいるのです。感嘆してしまいました。
 今から20年も前に、少年事件の取り調べに弁護士たちが交代で立ち会ったというのには驚いてしまいました。そんなこと聞いたこともありませんでした(20年前に聞いたのかもしれませんが、すっかり忘れていました)。なりたての弁護士7人が毎日、午前と午後、交替で少年2人の取り調べに立ち会ったというのです。すごいですね。
 労働事件で、解雇通告を受けた労働者が相談に行ったときに弁護士から言われた言葉は……。
「私たちに何をしてほしいのですか。骨を拾えというのではあれば拾います」
 うひゃあ、す、すごいですね。この言葉を聞いて、その労働者は「えらいことに足を踏み入れた」と腹を固めたそうです。
 大阪事件で「肥後もっこす」という言葉が出てくるとは思いませんでした。集団就職で熊本から大阪に出て行って、整理解雇された組合員10人が、解雇無効・地位保全を求めて裁判を起こしたのです。正義感が強く、一度決めたらテコでも動かない。そんな熊本県民気質を反映して、地道な活動を展開していったといいます。お隣の県民がほめられると、私までなんだかいい気分になります。
 大阪の法律事務所なのに、なぜか東京地裁を舞台とした裁判にも果敢に取り組み、大きな成果をあげているそうです。たとえば、株主の信頼を裏切った西武鉄道に対して、株主としての損害賠償請求事件です。アメリカ航路の船長の過労死事件も、東京地裁、高裁の事件です。そして、株主オンブズマン訴訟にも取り組んでいます。すごいですね。
 この法律事務所は、正森成二代議士の出身母体でもありました。田中角栄と国会で堂々と論戦する共産党の正森代議士の歯切れ良い大阪弁の追及は、胸のすく思いがしたものです。540回も国会で質問したとのことですが、本当に惜しい人を亡くしてしまったものです。大変勉強になる冊子でした。
(2008年11月刊。非売品)

悩めるアメリカ

カテゴリー:アメリカ

著者:実 哲也、 発行:日経プレミアシリーズ
 アメリカの国民は、いま3つの大きな不安を抱えている。
 一つは安全に対する不安。9.11同時テロ以来、大きな不安が消え去らない。国民は、どう対応していいのか分からないもどかしさを感じている。
 二つ目は、暮らしの不安。失業や病気になっても病院に行けない、マイホームも値上がりしない。この不安の背景には、急成長する中国やインドが経済大国としてのアメリカの立場を危うくしてしまうのではないかという脅威認識もある。
 三つ目は、社会の変容に対する不安。不法移民を含む移民の増加に対する警戒感である。
 アメリカでは借金を支払えなくなって破産する人が多いが、その半分は治療費が支払えないため。だから、病気になっても医者にかからない人が増えている。それには、医療費の高騰と無保険者の増加がある。
 テキサス州ヒューストンは、世界でも最高レベルの病院が集まっている。しかし、ヒューストンでは無保険者の比率が3割をこえている。テキサス州に中小企業が多いことが、無保険者を作り出している。
 イラクに派遣されているアメリカ軍の3分の1は、パートタイム兵士である。つまり、予備役や州兵である。予備役と州兵の総数は130万人。これは、正規軍140万人とほとんど同数である。
 イラクのアブグレイブ刑務所の虐待事件に関わり処分された女性兵も、予備役だった。大学費用稼ぎが予備役志望の動機になっている。お金にゆとりのない家庭の若者たちが人員募集のターゲットになっている。アメリカの若者にとって、軍隊に入るのは、非常に現実的な選択肢なのである。その意味で、戦争は遠い存在ではない。
 国務省にいたときには、公式答弁から外れることのなかったアメリカの外交官たちは、退官した時に、口をきわめてブッシュ政権の外交を批判する。
 アメリカでは、大学教育さえ受けていれば所得が落ち込む心配はないという時代は遠い昔になってしまった。
 差し押さえによって、せっかく手にしたマイホームを失う人は、2007年は前年比5割アップの150万件、2008年には250万件に達する見込みだ。
 アメリカ発の金融危機が世界の経済を直撃し、日本でも次々に首切り旋風に見舞われています。でも、日本では、まだ赤字になってもいないのに、早々と労働者の大量首切りを断行しようとしています。まさに、大企業は社会的存在ではなく、目先の利益ばかりを追う私企業にすぎないわけです。そんな大企業に対して、税制面で手厚く優遇しているなんて、許せません。
(2008年10月刊。850円+税)

JRのドン葛西の野望を警戒せよ

カテゴリー:社会

著者:樋口 篤三、 発行:同時代社
 葛西敬之(かさいよしゆき)は、JR東海の社長そして会長になり、国家公安委員をつとめる大物財界人です。
 葛西は1980年代の国鉄分割民営化にあたって「改革三人組」の一人と言われた。国鉄職員局次長として「労組とのつばぜりあいの前線指揮官だった」と本人が自らを振り返っている。
 そして、この20年間、松崎明打倒、JR総連解体を執拗に追求してきた。葛西は、その直系のJR連合に、国労をふくめてJRの全労働者を吸収することを目標としている。
 私には、この本に書かれていることが真実なのかよく判断できません。しかし、国鉄を分割して民営化して本当に良かったのかについて、私は根本的な疑問を抱いています。サービスが良くなったとも思いませんし、何より、日本の労働組合全体が決定的に弱体化させられてしまいました。ストライキが死語になって、日本の民主主義を支える基盤の一つがなくなったも同然です。企業・財界が異常に強くなりすぎました。いま、問題になっている非正規雇用の問題についても、労働組合の弱体化と裏腹の関係にあります。なんでも資本の思う通りというのでは、日本の若者から職を奪い、それでは健全な日本の将来がないことは、今の事態が見事に証明しています。
 JR総連を指導してきた松崎明については、本人も革マル派だったことを認めています。しかし、今は革マル派とは関係ないとしています。著者もそれを認めています。
私は何年か前、憲法改正手続法が成立する前の福岡での公聴会のとき、久しぶりに革マル派という大きな旗とヘルメット集団を見て、あれっ、まだいたの、と思ってしまいました。学生時代はよく見かけましたが、その後、内ゲバで他党派との殺し合いをして、ほとんど捕まらないうちに姿を消したとばかり思っていました。
 革マル派には三大拠点があった。早大、沖縄、そして動労。JR内の革マル派は、1992年から93年にかけて全員が脱退した。沖縄の革マル派は、2000年ころに脱退した。そのころ、人間関係を含めてJR内の人間は革マル派と完全に切れた。今あるのは、動労を率いてきた松崎明の周囲に集まった松崎組のようなもの。
 ところが、警察はその実体をよく知りながら依然として、JR総連内に松崎の率いる革マル派が相当数いると国会などで公式答弁を繰り返している。
「週刊現代」は2006年7月から24回にわたって、松崎・JR総連たたきの記事を連載した。テロリスト、労組の革マル派による暴力支配、公金横領など……。
 しかし、公金横領について、2007年12月27日、検察は不起訴とした。
 これは一体、どうなっているのでしょうか。国鉄(いまのJR)には、なんだかドロドロしたものが昔も今もたくさんあるようで不気味です。これでは安心してJRを利用できません。
 私の身近な人に国労争議団のメンバーがいます。とても気のいい方です。資本が労働者をモノとして使い捨てしていいという風潮だけは絶対に改めるべきだと思います。国鉄時代の労使紛争が今も解決していないなんて、日本社会の恥ではないでしょうか。
(2008年12月刊。510円+税)

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