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2008年11月 の投稿

貧困の現場

カテゴリー:社会

著者:東海林 智、 発行:毎日新聞社
 ホームレスは、3年を超える野宿生活が身体をむしばみ、内臓がボロボロの状態になる。
 いったん住居を失うと、再び住居を借りるのは至難の技だ。不安定な仕事では、驚くほど簡単に住居を失う。
 児童養護施設出身者のすべてが人生に失敗するわけではない。だが、貧困に陥っていく確率はかなり高い。
 店長になって、月収が8万円も下がった。残業時間は過労死の危険が指摘される80時間を超え、86時間にもなった。そして、店長として、1年間のうちに6回も店を変わった。配置転換が多すぎる。
 派遣労働者は名前を呼ばれない。「そこの派遣さん」とか「お兄さん」「お姉さん」。まるで機械の部品のよう。個を奪われてしまった。
 職場のいじめが増え始めたのは、成果主義が導入されたのと同じ。職場の雰囲気がギスギスしてしまった。成果主義の導入は、労働者同士の人間関係を押しつぶす方向での成果を上げている。職場の連帯感は希薄になった。成果を競い合い、その結果が正確にかは別として賃金に跳ね返るのだから、人にかまっている余裕はない。ギスギスした職場の人間関係は、小学校のようないじめさえ引き起こす。個性の尊重や労働者の意欲の発揮を狙うという旗のもとに導入された成果主義は、人件費削減の目的の方が最終的に強くなってしまった。
 今の日本社会は本当にギスギスしていますよね。政治の世界で嘘がまかり通り、なんでも自由競争を必要かつ善とするなかでは、強い者、お金持ちばかりが優遇される世の中だからです。やはり、弱者、貧乏人にもっと社会全体があたたかい目をもってきちんと人間らしく生きられるように処遇されるべきだと思います。
 庭のあちこちから水仙の仲間がぐんぐん伸びています。冬に咲く花たちです。急に寒くなって風邪をひいている人が目立ちます。新型インフルエンザが猛威をふるうと最大6万人の死者が出ると予想されているそうです。お互いに気をつけましょうね。といっても、結局のところ、その人の持つ自然免疫力ですよね。そのために私も、早寝早起きの健康的な生活を心がけています。
(2008年8月刊。1500円+税)

中国、静かなる革命

カテゴリー:中国

著者:呉 軍華、 発行:日本経済新聞出版社
 著者は、2022年までに中国は共産党一党支配の現体制から民主主義的な政治に移行するが、それは、農民・大衆の反乱という下からの革命に触発されてではなく、中国共産党のイニシアチブによって粛々と進められていくとみる。その理由が詳細に述べられていますが、なるほどとうなずくところが多くありました。でも、まだ中国は一応は社会主義社会を目ざしているのだと思うのですが……。
 旧ソ連の社会主義体制の崩壊は、ソ連邦の解体とともに進んで行った。これは、伝統的に「中国は一つ」という思想の影響を強く受けてきた中国人、とりわけ知識人をふくむ人口人の絶対多数を占める漢民族(全人口の92%)の人々にとって、感情的にとても受け入れがたいことだった。
 そこで、共産党体制に対する人々の考え方は、共産党に強い不満と怒りを持ちながらも、とりあえず共産党体制のままほうが無難だという方向に大きく変わった。
 現在の中国においては、金銭的なゆとりを持っている層が予想を超えてはるかに大きくなっており、その生活実態は、裕福さが日本の平均的サラリーマンと比較して決して遜色のない水準にまで達している。
 中国では、中産階層は現体制の安定を支える大きな柱の一つとして期待されている。
 2007年現在、中国の中産階層は、人口の1割を超える1億5000万人以上に達しているとみられている。2020年には、全人口に占める中産階層の比率が45%に達するという予測がある。中国は、いまや、アメリカに次いで世界でもっとも多くの億万長者を輩出する国になっている。
 程度の差こそあれ、中産階層入りしたほとんどの人は、所得を増やし、富を蓄積する段階において、共産党一党支配体制の恩恵を受けてきた。つまり、中国の中産階層は、共産党の「育成」があってはじめて、ほぼ皆無の状態から短期間に、ここまで急拡大することができた。
 1990年代に入って、北京、上海、広州といった大都市だけでなく、地方都市まで不動産開発ブームが巻き起こった。中国は、いまや世界の土建国家となった。
 中国の富豪の多くは、不動産業に携わっている。不動産業が蓄財産業となったのには、まさしく権力と資本の結託があった。
 経済的利益を上げるに際しての国民の自由度は大きく拡大された。これを受けて、中国社会は劇的に変化した。
 政権の維持が至上命題になったのに伴い、政党としての共産党の政治的目標と行政の目標との一体化が急速に進み、政治は実質的に行政化した。
 そして、中国社会は脱政治化に向けて大きく動き出した。
 政府レベルでGDP至上主義、個人レベルで拝金主義が蔓延した結果、中国社会の脱政治化は急速にすすんだ。
北京オリンピックを成功させることによって、長い文明の歴史を有しながらも、アヘン戦争以降、列強に蹂躙された過程で鬱積してきた中国の人びとは、その民族的屈辱感をかなり晴らすことができた。
 かつての共産党は、上層部から末端までの利益が一致していたが、今は、こうした構造が大きく変わった。党員数7730万人という巨大組織のうち、ほとんどの人は党員であっても、自らの専門知識・技能をベースに官僚やエンジニア・教師などの職業についた専門家、または労働者、農民である。共産党という組織の一員になることは、彼らにとって、よりよい出世につながるキャリアパスになりえても、生活に不可欠な要件ではない。
 共産党は、一見するとひとつの利益集団になっているが、その内部では利益の多元化が急速に進んでいる。
中国社会の現状分析として、なるほど、と思うところの多い本でした。私も中国には何回か言っていますが、行くたびに、その近代化、大変貌ぶりに驚かされます。 
(2008年8月刊。2000円+税)

学歴・階級・軍隊

カテゴリー:日本史(戦後)

著者:高田 里恵子、 発行:中公新書
 日本の高学歴者たちは、ドイツと違って、兵役をすませて予備役少尉になっておくことを男の名誉ととらえる心性をついに持たなかった。
 日本の官僚や高級サラリーマンにとって、兵隊さんの位はなんの益ももたらさなかった。
 日本における職業将校の社会的威信は低かった。
 職業将校への道は、あまり元手をかけずに「月給取り」になれる道の一つだった。ただし、軍人の給料は、「貧乏少尉のやりくり中尉のやっとこ大尉で114円」と揶揄されたように、大学出のサラリーマンと比べて低かった。職業将校も世俗的な学歴序列、「月給取り」序列のなかに組み込まれ、しかも大学出よりも下位のランクを与えられていた。
 多くの優秀な少年たちは、立身出世やエリート志向ではなく、精神の自由を求めて旧制高校への進学を希望した。とりわけ昭和10年代の後半は、そうだった。
 そこで、庶民の味方を自称した陸軍が、国家のための官僚養成所のように見える一高と東京帝国大学法学部を「自由主義者の温床」あるいは「左翼と反戦主義者の温床」として憎んだ。
日本軍は、最後の最後まで、学生、学徒兵の力を信じていなかった。
 それでも兵営は、高学歴者が、教育を受けない、受けられない層と接触しうる数少ない場所だった。
 三島由紀夫は即日帰郷になって入営を免れた。つまり、徴兵を疫病か、あるいは軍医の好意的な「誤診」によって忌避したのだろう。
  日本軍の構成、そして欧米の軍隊との違いを考えさせられました。
 朝、庭に出るとエンゼルストランペットのピンクの縁取りのある白い花が露に濡れていました。霜でやられてしまうのも、もうすぐです。クルミの木と桜の木の間に大きな黄金グモの巣がかかっていましたが、取り払ってしまいました。夫婦なのか、兄弟なのかわかりませんが、見事な2匹の黄金グモでした。庭仕事の邪魔になりますので、ゴメンネと言ってはらいのけました。今、イチゴの木が白い小さな壺のような花をたくさん咲かせています。
(2008年7月刊。880円+税)

近代日本の右翼思想

カテゴリー:社会

著者:片山 杜秀、 発行:講談社選書メチエ
 私は右翼とか左翼とかいう言葉が好きではありません。ですから、自分が右翼だということはありませんが、自分が左翼だという意識もあまりありません。では何か、と問われると、革新派だというのが私の自称です。それに対する言葉は、もちろん保守です。保守というのは守旧派です。それには頑迷固陋というイメージがまとわりつきます。革新は変革。オバマ次期大統領ではありませんが、change、変えようということです。今の世の中の悪いところは大胆に変えていきたい。私は本気でそう思っています。昔のままの自民党政治でいいなんて、私はまっぴら御免です。汚職、腐敗、土建政治、財界本位、弱者切り捨てではありませんか。
 この本は、少し私にとって難し過ぎました。でも、安岡正篤(まさひろ)についてだけは、私の関心をひきつけました。
 歴代首相の指南番と呼ばれ、財界の大物にとっても指導者だということで高名だった人物です。晩年に、あの細木数子と浮き名を流していたなんて、まったく知りませんでした。それほど私にとってはどうでもいい人物なのでした。ところが、財界人に大モテだった安岡は、右翼から嫌われ、馬鹿にされていたというのです。いやあ、そうだったの……と、私は驚いてしまいました。
 竹内好は安岡正篤を口舌の徒と評している。口先のみ発達し、言葉をもてあそび、さももっともらしいことを言いながら、実際には革命家らしいことは何もしない者の典型だ。
 松本健一も、安岡のことを大川周明と同レベルにまで価値が下がっているとして、安岡をバカにしている。
 その大川周明は安岡のことを日記で次のように書いている。
 ひさしぶりで安岡君の話を聞いたが、言うことが万事そらぞらしく響いて、まことに不快だ。安岡君と藤田君と相並んでいると、嘘と真の標本を並べ見る気がする。
 安岡は過激な変革を叫ばない。体制側に安心と思わせる思想傾向は、政官界に安岡の名声を一段と高からしめた。
 安岡にとって、天皇が革命の唯一の主体であった。だから、日本の具体的な変革を目ざす右翼からは、安岡は微温的と非難された。下からの革命を企む者にとって、安岡は最悪の思想家だった。安岡は革命を説いた。しかし、その革命論は下々は絶対に革命を起こしてはならないという革命論だった。
 安岡が教え導き、言いなりにしたいと熱望していた要人とは、首相ではなく、天皇だった。安岡は国家の「最高我」(天皇)の師となることで、倫理国家実現のための、あらゆる具体的施策をたちまち断行できるような種類の革命を起こしたかったのだろう。
 世の中に不満がある。変革を考える。けれど、うまくいかないから、保留する。決定的なことは天皇に預けて考えないようにする。もう、ありのままに任せて、考えるのをやめる。考えなくなれば、頭がいらなくなる。正しく考える力は天皇にある。それなら、変えようなどと余計なことは考えない方がいい。
 今、日本の右翼はいまの天皇を苦々しく思っているようです。そうでなければ、雅子妃バッシングが相変わらず続いているのを黙って見過ごすはずはありません。昭和天皇の過ちを一身に受け止めて、世界に向かって謝罪しつづけている今の天皇に不快に思っているのです。ということは、右翼にとっても天皇は絶対至高の存在ではないということでしょう。自分の都合のいいように支配できるときだけ天皇には利用価値があるわけです。私はむしろ、父である昭和天皇の犯した過ちを繰り返し謝罪し続ける今の天皇には人間味を感じています。
(2008年2月刊。1500円+税)

アメリカの宗教右派

カテゴリー:アメリカ

著者:飯山 雅史、 発行:中公新書ラクレ
 アメリカ人と宗教というのが密接不可分のものだということを改めて認識させられました。アメリカでは州によって多数派の宗教が異なっているのですね。そして、そこそこの州は自分のところの多数派宗教を守るために連邦政府の介入を排除したいわけで、そのために憲法で政教分離がうたわれている。これって、初めて知りました。
 バージニア州では、イギリス国教会が唯一の公認教会だった。ピューリタンはマサチューセッツを拠点とした。クエーカーはペンシルバニアをつくった。バプテストは、ロードアイランドに移り住んだ。カトリックはメリーランドに住んだ。アメリカ独立のときの13植民地は、こんな状態だったから、合衆国憲法を定めるにあたって、「連邦政府は国教を樹立してはいけない」という項目が入ったのも当然だった。それぞれの州が長い歴史と犠牲の末に樹立した宗教政策に対して、連邦政府が干渉するなんて言語道断だった。それに対して、州政府が州内に公認宗教をもつのは違憲ではなかった。ううむ、なるほど、なるほど、ですね。
 会衆派はハーバードとエール大学。イギリス国教会(聖公会)はウィリアム&メリー大学とコロンビア大学、長老派はプリンストン大学を建設した。
 アメリカ国民の8割以上は、信仰は自分の生活にとって重要だと考え、同じくらいの人が何らかの教派に所属している。
 アメリカの宗教右派はこれまで3度にわたって隆盛を誇った。第一期は1980年代のこと。このとき共和党は奇妙な新興勢力が票を集めることを歓迎したが、あまり真剣に相手はしなかった。第二期は1990年代で、共和党はモンスターに成長した宗教右派のパワーに恐れをなし、ギングリッチの暴走をコントロールすることもできず、黄金の中間世帯からそっぽを向かれて支持率を落とした。第三の全盛期である2000年代になると、共和党は宗教右派を同志として受け入れ、赤い絨毯を敷いて厚遇したが、決して宗教右派の囚われの身になっていたわけではない。むしろ、共和党の集票マシーンとして、宗教右派のほうを手なずけた。ううむ、なるほど、このように荒廃を繰り返していたのですか……。ところで、今はどうなんでしょうか?
 かつて何十万人もの信徒を熱狂させたカリスマ的な宗教右派の指導者たちは高齢化して、力を失い、他界する人も出てきた。最強の選挙マシンだった「キリスト教連合」は指導部の内紛や分裂から、もはや弱小組織にすぎない。そして、オバマ候補に敗れ去ったが、共和党の候補者として、マケインの選出を許してしまった。マケインは宗教右派をこけにしてきた人物だとのことです。
 アメリカ人の70%は、死後の世界を信じている。フランス人は35%だ。悪魔を信じるアメリカ人は65%もいる。イギリス人は28%でしかない。
 アル・カポネの名前と結びついて有名な禁酒法の制定(1919年)は、カトリックへのプロテスタントからの嫌がらせという側面を無視できない。アメリカ新参者のカトリックは貧困層が多く、強い飲酒癖をもっていた。
 アメリカにおける「家族の崩壊」は、幻想ではなく、現実である。1994年の政府統計によると、母親と子供だけのシングル・マザー世帯は全世帯の3割近い。ワシントンの黒人でみると、9割の子どもが非嫡出子である。黒人社会では、親と子どもとおばあちゃんで暮らすのが「普通の家族」なのである。
 アメリカのカトリック教徒は6600万人もいて、単一の教派としては最大の勢力をもっている。そして、この膨大なカトリック票が共和党から民主党へ激しく揺れ動く、究極の浮動票なのである。民主党も共和党も、カトリックの意識にはぴったりはまらない。だから、選挙のたびごとに投票先が変わる。
 黒人教会は、もっとも忠実な民主党支持層である。ユダヤ教徒も、黒人有権者と同じくらい忠実な民主党支持層である。
 アメリカの宗教右派運動には、しばらく冬の時代が到来しそうである。宗教右派運動は絶頂期を過ぎて、今後は長期的にも下降線をたどっていくのでしょうか・・・・・・。 
(2008年9月刊。760円+税)

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