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2008年9月 の投稿

アンディとマルワ

カテゴリー:アメリカ

ユルゲン・トーデンヘーファー 岩波書店
  イラク戦争で、アメリカ兵が既に4000人も亡くなりました。イラクの人々はその何十倍も殺されています。こんな数字の裏に、一人ひとりにかけがえのない人生があったこと、それがある日突然に奪われてしまったことに、私たちはなかなか思いが行きません。この本は、アメリカとイラクの二人の子どもを通じて、アメリカによるイラク侵略戦争の悲惨な実態を浮き彫りにしています。
 そのとき、誰がこの本を書いたのか、それはどういう立場の人物なのかが問題になるでしょう。著者は、なんとドイツの保守的政治家だった人物です。ドイツ最大の保守政党CDU(キリスト教民主同盟)の議員であり、親米と反米主義を唱える右派議員として名高い人物でした。今は政界を引退していますが、ソ連によるアフガニスタン侵略にも抗議する勇気ある行動を起こしています。そのような経歴のドイツ人の語る言葉に耳を傾けるのも悪いことではありません。
 不正には不正で、テロにはテロで抵抗すべきではない。その国が民主的な法治国家であるかどうかは、敵をどのように扱ったかによって分かる。テロリストと同じ土俵に乗ってはならない。
 戦争は人間の卑しい本能を呼び起こす。アブグレイグ刑務所の捕虜虐待事件は事故ではない。イラクに対する横暴な戦争の当然の結果なのだ。残酷さや人間に対する軽蔑は伝染する。フェアな殺人や強姦がないように、フェアな侵略戦争もあり得ない。
 侵略戦争はまた、政治学や戦略家たちによる前線の若い兵士たちに対する裏切りでもある。兵士たちはいつも、侵略ではなく、防衛だと思わされている。そして、政治家たちは、自分やこどもたちが戦争へ送られる心配なしに、書斎や居間でのうのうと戦略を練っている。
 アメリカ海兵隊員(予備兵)として、18歳でイラクにおいて戦死したアンディはヒスパニック系で、フロリダ州立大学で経営学を学ぶつもりだった。ある日、アンディは海兵隊の広告を読んだ。資料を請求した人には、もれなく重量挙げ用のグローブをタダでくれるという。アンディはそのグローブが欲しかった。資料を請求すると、格好いい徴募係がやってきて、熱心に海兵隊入りをすすめた。予備兵として登録するだけなら・・・。アンディはいつのまにかイラクの戦場へ送られ、戦場で砲撃に当たって即死してしまった。
 イラクの少女マルワは12歳。イラク戦争が始まり、妹を殺され、自分も右足切断の大ケガをした。父親は戦争前に病死していた。著者は、マルワをドイツに招いて治療を受けさせた。そして、マルワの医師になりたいという夢を叶えてやるべく奨学金を送り続けている。
 個人の善意には明らかに限界があります。でも、こうやってイラク戦争で殺され、傷ついていった人々の詳しい実情を知らされると、この間違った戦争は一刻も早く止めなければいけない。そのために、日本と世界は何をしなければならないのか考えさせられます。
 
(2008年3月刊。1700円+税)

フランスに学ぶ国家ブランド

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:平林 博、 発行:朝日新書
 フランスは超大国ではない。核保有国であり、国連の安全保障理事会の常任理事国であるが、経済規模や人工などの観点からすると、中規模国家である。面積を除いて、日本の方が経済力などで上まわる。しかし、フランスには独特の国家ブランドがある。フランスには、独自の「国のかたち」があり、強い発信力がある。
 そうなんですよね。まるで下駄の雪みたいに、踏まれてもバカにされてもひたすらアメリカの言いなりになる日本とはまったく違って、フランスは独自路線を少しでも強調しようとします。もっとも、今のサルコジ大統領は露骨な親米政策を打ち出していますが…。
 サルコジはかつてトヨタ自動車がフランスに進出するに当たって、弁護士としてアドバイスしたことがあり、トヨタの招待で日本にも一度来ている。サルコジの父はハンガリー貴族であり、ソ連赤軍から逃れてフランスに亡命した。母はギリシャ出身のユダヤ人。サルコジはパリ大学は卒業したが、グランゼコール(シアンス・ポ)に入ったものの卒業はしていない。フランスのグランゼコールというのはエリート中のエリートを輩出する大学です。
 フランスは欧州諸国の中でもっともユダヤ人が多い。60万人いる。フランスを旅行すると、町並みを出た途端、豊かな田園風景が広がる。
 フランスは穀物、乳製品、ワインなどの生産量は自国民の消費量を上まわる。果物や野菜も十分に生産しているが、輸入もしている。カロリー・ベースで計算したフランスの食糧自給率は122%(2003年)。フランスより自給率が高いのは、オーストラリア(237%)、カナダ(145%)、アメリカ(128%)である。
 フランス人は食料の安全保障を当然に必要なことと考えている。
 そうなんです。そこが日本と決定的に違います。日本人は、政府の間違った食糧政策を盲信させられています。食べ物は、お金さえあれば好きなように買えると思いこまされています。でも、そんなことは決してないのです。食料と水は、今や世界を制覇する道具と化しているのです。少なくとも、食糧自給率の向上に今すぐ日本政府は真剣に取り組むべきです。だって、日本の食糧自給率は、せいぜい40%しかないのですよ…。
 フランスの就業人口の4分の1は公務員か国営企業に勤める準公務員である。
 今の日本では、公務員を一人でも減らしたらその政治家の大手柄になります。一方では政治家の口利きと称して子弟を公務員として送り込んできたわけですが、目下、そのことが最大争点の一つとなりつつあります。
 また、フランスでは、いくつかの宗教系の私立学校を除いて、学校はすべて公立ないし国立である。入学金も授業料もごくわずか。北欧となると、そのいずれもタダだそうです。
 ニースから電車に乗って、カーニュシュルメールというところに行きました。駅前に無料のシャトルバスがあるとガイドブックに書いてありましたが、見あたりません。駅から歩いてルノワール美術館を目指しました。強い陽射しを浴びながら坂道をのぼっていったのです。ちょうど昼前のことでした。なんと、午後2時まで昼休みだというのです。汗が一度に噴き出してきました。仕方がありません。もう一つの目的地である古城にまわり、一休みしたあと、再びルノワール美術館に出かけました。オリーブの木が植えられている広大な丘にルノワールが晩年を過ごした建物が残っていました。ルノワールの絵って、本当にいいですよね。見ていると、気持ちがほんわか、ゆったりしてきます。暑いなか苦労してたどり着いた甲斐はありました。
(2008年5月刊。740円+税)

宇宙の向こう側

カテゴリー:宇宙

横山 順一・竹内 薫  青土社
  ビッグバンは宇宙の始まりではない。ビッグバンには「前」がある。宇宙が始まって、何かものすごいことが起きてから、ようやく「ドカン」と宇宙は爆発した。
 量子力学の特徴は揺らぎというものがあること。ビッグバンは宇宙の中で起こるけれども、起こっていることは、私たちには見えない。それは私たちにはブラックホールが出来ているようにしか見えない。
 量子とは、「とびとびの値をとる」という意味。数値が連続してなめらかに変化していくのではなく、とびとびの値しかとらないということ。量子化された状態というのは、デジタル時計のようなもの。いろんな量が、とびとびの離散的な値しかとらない、その意味で、デジタル的な世界というのが量子力学の描く世界である。
 量子は状態を表すものであって、個性がない。
 量子力学の一番の特徴は、ある状態をぴたっと特定できないこと。例えば、ある粒子に着目したとき、その粒子が今どこにあるのか特定できない。もっとモヤモヤした状態でしか言えない。位置と速度を同時に決めることが出来ない。そんな不確定性関係にある。そのモヤモヤこそが、ある意味で、宇宙の全ての構造のもとになっている。
 いろんな宇宙がある。実は、近いところに別の宇宙がポーンとあるかもしれない。あるけれども、全然見えていない。
 私たちの見える範囲、差し渡し140億光年の宇宙というのは、非常に綺麗なかたちをしていて、つるつるで綺麗なもの。140億光年しか見えないからと言って、そこで宇宙が終わっているわけではない。もし140億光年離れたところまで行くことができれば、その先も見えるはず。しかし、行くことが出来ないのでそこから先は想像するしかない。端は、今みえている範囲の500倍以上は遠くにあるだろう。
 200億年経てば、あと200億光年を見渡すことができるというように、時間が経てば見える範囲が広がる。しかし、そのあいだにも宇宙はどんどん膨張していくので、ぐしゃぐしゃな場所もさらに遠ざかっていってしまう。見えるようになるよりも遠ざかる(宇宙が膨張する)スピードのほうが速いので、追いつくことはできない。宇宙の果ては、恐らく、いくら時間をかけても見ることはできない。
 アインシュタインの理論では、地球があると、地球のまわりの空間が曲がる。
 現在、遠くにたくさんの銀河が見える。これらの銀河はどんどん遠ざかっていって、1000億年もしたら、一個しか、つまり私たちの住む銀河しか見えなくなる。ほかの銀河は遠ざかって見えなくなってしまう。それだけ宇宙の膨張は速い。
 ただし、人類があと1000億年もつのかどうか・・・。生命が誕生して38億年というので、更にこれから1000億年ももつのかどうか、ということだ。
 宇宙には、人間を構成しているバリオンとよばれる物質が4%、銀河の周りに目には見えないけれど重力を測ることによってあることが分かるダークマターが22%、それ以外にダークエネルギーが74%あることが分かっている。この宇宙全体で7割以上を占めるダークエネルギーが、つい最近まで、存在することすら分かっていなかったというのは、極めて面白いことだ。今、宇宙に関しては、ダークエネルギーが一番の課題。
 ううむ、宇宙のことはともかくスケールが大きいですね。人生わずか50年と信長は桶狭間の合戦の前に歌ったそうですが、ここで登場するのは何億年というスケールなのです。まるで人間業ではありません。
 
(2008年6月刊。1800円+税)

誘拐

カテゴリー:未分類

著者:五十嵐貴久、出版社:双葉社
  スタートは会社のリストラから始まります。中高年でリストラされたら、いまの世の中、はっきり言って、お先まっ暗です。ですから、一家心中に結びついても何の不思議もありません。
 目先の利益しか追わない投資会社やら銀行がつぶれかかった企業に乗り込み、大胆なリストラを強要します。リストラは、する方にも大きな心の傷を残します。ましてや、リストラを言い渡した相手が一家心中でも図った日には、一体どういう心境になるでしょうか・・・。
 ここから話が始まります。そして、警視庁vs頭脳犯の対決が展開していきます。警視庁は捜査一課特殊捜査班が登場します。首相の孫娘が誘拐されてしまったというのですから、国家の一大事です。
 通常、誘拐事件の捜査は最低でも2000人体制で臨むことになっている。
 誘拐事件は、いわゆる犯罪事件の捜査とは違い、基本的にはただ犯人からの連絡を待つことがほとんどの時間を占める。当然、その間は常に強烈な緊張を強いられている。
 それは、学者の言う「強いストレスにさらされている状態」を意味する。
 人間の集中力には限界があり、通常、4時間までは保たれるが、強いストレスのある場合には半分の2時間で集中が途切れてしまう。
 そこで人海戦術が採られる。6人編成の犯を6チーム作り、2時間おきに交替させる。警視庁の誘拐捜査マニュアルによると、最低でも4チーム、3時間毎に交替することになっている。そして、睡眠は最低6時間とらなければならない。
 犯人が現金を要求したとき、お金を入れるバッグは特別仕様。72時間連続稼働するデジタル発信機と録音機が仕込まれている。お金の帯封には、ICチップを利用した、薄さ1ミリ、幅3ミリの発信機が貼り付けてある。
 推理小説ですから、ここで種明かしをするわけにはいきません。私も途中で、なんだかおかしいな、これってどうしてかな、と思ったところが、最後のどんでん返しの伏線になっていました。なかなか読ませる面白い警察小説でした。
(2008年7月刊・1500円+税)

ケータイ・ネット時代の子育て論

カテゴリー:社会

著者:尾木直樹、出版社:新日本出版社
 私の法律事務所でも最近、ケータイにホームページを開設しました。今のところ、毎週140人ほどのアクセスがあります。もちろん、まだまだです。名刺や封筒にQRコードを刷りこんで大いに宣伝しているところです。今や若者のほとんどが手にケータイを持っている時代です。そこへアクセスして客を誘引しようという試みです。ちなみに、作成したのは最若手の事務職員です。したがって開設費はタダ。運営費もタダなのです。いやあ、信じられませんね。
 ケータイが鳴ると、多くの子は即座に返信する。このレスポンスが15分も遅れると、その子は「友人」のワクからはずされてしまう。メールの送信回数が1日41回以上の生徒は、5回以下の生徒に比べて、男子で1.7倍、女子では1.4倍も、いじめの加害者になっている割合が高い。
 小学校や中学校でいじめにあった被害者のうち、高校で加害者側に転換した者は、一貫した加害者に比べ、何と17倍にも達している。
 今やメールで知り合い結婚にまで進むカップルも珍しくない時代である。
 実際、私の知っている弁護士本人、そして弁護士の妹さんがメールで知りあった相手と結婚して、幸せな家庭生活を営んでいます。いかがわしい「出会い系サイト」ばかりではないのですね。
 親が子育てにどう関わるかで、最近、目立った特徴がある。それは、父親が子育てに参加するのがきわめて多くなったということ。授業参観に参加する父親は2割くらいいるし、学習塾の説明会となると6割になることもある。大学でも入学式から就職説明会まで保護者同伴が当たり前となった。
 そして、それはモンスターペアレントがダブルモンスターになることもあることにも直結している。つまり、父親が「まあまあまあ」と言う止め役、なだめ役にまわるのではなく、夫婦一緒になって興奮しながら教師や学校に抗議し続ける姿である。
 しかし、父親と母親とが同じ立場から子どもの教育に熱を入れ口出しすると、子どもが逃げ場を失いかねない。まずは、離れた目線で、子どもの表情や態度を観察してみる必要がある。そうなんですよね。でも、これって、口で言うのは易しでもあります。
 最近、連続して起きた家庭内殺人の家庭には共通の特徴がある。親が地域の名士、高学歴で社会的地位の高い職業に就いている、加害少年少女はまじめで成績優秀、という傾向。その子どもたちは受験などへの親からの圧力にさらされている。
 また、これらの少年少女には自尊感情がたくましく育っておらず、自己肯定感がきわめて脆弱である。家庭が心安らぎホッとできる居場所ではなくなり、息詰まる緊張感や抑圧感に満ちていた。
 うむむ、かえりみると、わが家は果たしてどうだったのでしょうか。胸に手をあててみて、深く反省せざるをえません。子どもに対して、かくあれかし、というのを強く押しつけ過ぎたように思って、顔から汗が噴き出してしまいました。一言、弁解すると、まあ、それだけ真剣に子育てに向かいあってはいたのですが・・・。ネット、ケータイ時代において子育ては、一段と難しいと思ったことです。
(2008年1月刊。1500円+税)

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