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2008年7月 の投稿

のぼうの城

カテゴリー:日本史(戦国)

著者:和田 竜、出版社:小学館
 非常にユニークな時代小説とオビにかかれています。なるほど、そうでしょうね。戦国時代のお城の攻防戦を描いているのですが、とてもユニークな物語です。そして、それが史実をふまえているというから、余計に面白いわけです。
 ときは戦国時代末期。秀吉の小田原攻めの最中に起きました。信長が本能寺の変で倒れる前、秀吉は毛利軍と戦っている最中でした。そのときとられた作戦は有名な備中高松城の水攻めです。
 秀吉がつくった人工堤は、下底が12間(22メートル)、上底が6間(11メートル)の幅があるという、途方もない分厚さがあるものを、3里半(14キロメートル)という気の遠くなるような長大さをもっていた。
 いやあ、これはすごいですね。北条攻めに動いた秀吉軍は総勢16万騎。そして、石田三成を総大将とする2万の大軍が忍城に向かった。忍城は関東7名城のひとつに数えられていた。忍城にいた成田長親は、周辺の百姓を城に呼びこみ、迎え入れた。
 三成は、籠城は内より崩れることを知っていたので、それを止めなかった。無駄な数の籠城兵は、兵糧を喰い散らす。兵糧が減るにしたがって裏切りの噂が噴出して城内は疑心暗鬼となり、裏切り者とされた者はどんどん粛清されてしまう。やがて籠城方の大将は、この状態では開城やむなし、と城を明け渡す。すなわち、城内に人が多いと、ほころびも増すことになる。
 やがて、忍城には3740人の籠城兵が充満した。ところが、城内には戦闘心旺盛で、士気は衰えなかったのです。
 三成は緒戦で忍城の計略によって負けたので、水攻めに切りかえた。7里(28キロ)の堤をつくることにしたのだ。秀吉の堤の倍である。のべ10万人を5日間、昼夜兼業で働かせる。人夫に対し昼は永楽銭60文、夜は100文。それぞれ米一升をつける。夜だけでも夫婦2人が5日間働くと、家族4人が1年食べられる米が買える。なーるほど。
 三成が人工堤の建設に着手したのは天正18年6月7日。数十万人が人夫として集まった。人工堤は、断面の台形の下底を11間 (20メートル)、上底を4間(7メートル)という厚さとし、高さを5間(9メートル)とした。秀吉のつくった備中高松の人工堤とほぼ同じ大きさ。三成は秀吉をはるかに上まわる長大な人工堤防を短期間のうちに完成させ、あわや忍城は落城寸前。ところが、アリの一穴が始まったのです。
 本を面白さがなくなりますので、これ以上は紹介しませんが、奇策によって忍城は助かってしまうのです。これだけ面白く読ませるのですから、たいしたものです。さすがに大絶賛を浴びた本だけのことはあります。
 三成は意外や意外、敗軍の将となってしまったのでした。
 最後に、「のぼうの城」というのは、「でくのぼう」の「でく」をとった呼び名からきています。「でくのぼう」でありながら、民衆の心をつかんでいた殿様だったというわけです。
(2007年12月刊。1500円+税)

地獄のドバイ

カテゴリー:アフリカ

著者:峯山政宏、出版社:彩図社
 北大理学部を出た日本人の若者が海外で寿司職人となって一旗上げようと、いま世界最先端のドバイで渡って体験した悪夢のお話です。世の中、何ごとも表があれば裏があるというわけですが、このドバイの話は、ちょっといくらなんでもひどすぎる。そう思いました。ドバイは地獄だという英文タイトルのとおりです。大金持ちにとっては天国のような国なのですが・・・。
 ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)の一つ。いま大変な建設ラッシュのため、世界のクレーン車の25%が埼玉県ほどの面積しかないドバイに集まっている。ドバイの経済成長率は16%。いくらでも入れ替えのきく外国人労働者は奴隷のように扱われる。出稼ぎ労働者のために職場環境をよくしようという発想はない。高層ビル建築現場に働く外国人労働者の賃金は105ドル。一流ホテルの従業員であっても、月給3万円もあればいいほうだ。
 著者は東京の江戸前寿司職人養成学校に入った。3週間で一人前にするというふれこみだ。受講料はなんと40万円。しかし、ドバイでは寿司職人にはなれませんでした。何のコネも紹介状もなかったからでもあります。やむなく肥料会社に入り、大金持ちの社長邸宅の芝生に水やりをする仕事につきます。水道管のパイプがよく詰まるのです。
 外国人労働者の賃金をケチるから手抜き工事が蔓延し、結果的に水をロスすることになってしまう。そんな皮肉な現実があっても、大金持ちは、何とも思いません。すべてはお金で解決できるからです。
 著者は肥料会社に勤めていた。パスポートもあり、3年間のUAEの居住許可証も労働ビザも持っている。そのうえ、日本に帰ろうとして飛行機も手配していた。にもかかわらず拘置所へ入れられた。ええーっ、なぜ、なぜ・・・?
 勤めていた会社が閉鎖されたら、次の職場に移る前に拘置所に入れられることになっている。そんなバカな・・・!?
 しかし、それがドバイという国の法律。うひょう、し、信じられませんよね、これって。
 拘置所に入れられる。そのときスーツケースに拘置所の係官がわざと番号を間違える。荷物を行方不明にして巻き上げるため。な、なんと、そんなことが堂々とまかり通っているとは・・・。
 そして拘置所内のひどい生活ぶり。読むだけで鼻の曲がりそうな汚濁にみちみちた雑居房に前科もない日本人が一人ほうりこまれるのです。心細いですよね。200畳ほどの部屋に300人をこえる囚人が押しこまれている。囚人には、くの字になって寝るだけのスペースしか与えられていない。新参者は悪習臭を放つトイレの側で寝るしかなかった。そして、1年以上も風呂に入っていない囚人たちの強烈な体臭が押し寄せる。
 幸運にも、わずか4日間で出所できた著者による、この世の地獄ドバイだよりでした。あなたもドバイに行く機会があったら、その前にぜひ読んでみてください。
 私の娘がドバイへ一人旅に出かけ、無事に戻ってきましたが、旅行中にこの本を読みましたので、それなりに心配したことでした。
(2008年5月刊。590円+税)

いつか春が

カテゴリー:司法

著者:副島健一郎、出版社:不知火書房
 佐賀市農協の組合長が背任罪で逮捕され、てっきりいつものような「汚職」事件かと思っていたら、なんと無罪となり、無罪が確定したというのに驚いた記憶があります。この本は、その組合長の実子による無罪判決を得るまでの苦難の日々を再現しています。
 それにしても、取調べにあたった検察官の脅迫と悪口雑言はひど過ぎます。いったい検察庁はどんな内部教育をしているのでしょうか。大いなる疑問を感じてしまいました。「拷問」をするのは警官ばかりではないという典型的見本でもあります。そして、裁判官が、検察官の脅迫言動をきちんと認定して、その検察官が作成した調書を任意性なしとして排除したことを読んで救われた気がしました。これで裁判所が検察官をかばったら、日本の司法は、もうどうしようもないとしか言いようがありません。
 検事は立ったままいきなり右手を頭上に上げた。
 「何をーっ、こん畜生」
 次の瞬間、「ぶち殺すぞおーーー」という怒声とともに、右手の手刀が目の前に振り下ろされた。
 バンッ!
 机が壊れるのでは、と思うほどの大きな音が炸裂した。
 「この野郎、検察をなめるなっ!」
 「お前には第二弾、第三弾があるんだぞ!」
 検事の怒声は止まず、再び手刀が振り下ろされた。バンッ!
 「嘘をつくなー!こん畜生、ぶち殺してやるーっ!」
 ドーン。今度は机がガタンと鳴って大きく動いた。
 検事の怒声は止まず、気が狂ったかのような大声でわめき続けた。
 「法廷には、お前の家族も来るぞ。組合員も来るぞ。裁判官も言われるぞ。検察は闘うぞ。誰がお前の言うことなど信じるか!」
 「この野郎!ぶっ殺すぞー!」
 「なめるな、この野郎!嘘つくな、殺すぞー!」
 「この野郎、顔を上げんか!顔を上げろっ!ぶち殺すぞ!」
 「この野郎、否認するのかっ!こん畜生!」
 バンッ!
 「この野郎っ、署名せんかーっ!署名しろーっ!」
 「こん畜生っ!否認するのか。刑務所にぶち込むぞー!」
 署名したあと、組合長は皮肉のつもりで、「完璧ですね」と言った。
 いやあ、まさかの言葉のオンパレードです。
 ところが、この検事は法廷で次のように述べて、暴言を吐いたことを認めたのです。
 「いや、腹立ったんで、ふざけんなこの野郎、ぶっ殺すぞ、お前、と、こう言ったわけです」
 ええーっ、「ぶっ殺すぞ、お前」と言ったことを検察からの主尋問で早くも認めてしまいました。これにはさすがに驚きます。否認して、ノラリクラリ戦法をとらなかった(とれなかった)わけなのです。
 そして、圧巻なのは、被告人がこの取調べ検事に質問するということで対決した場面です。さすがに迫力がありますよ。当の本人が再現したわけですからね。
 裁判所は、この検事調べのあと、「調書は検察官が威迫して自白を迫ったもので、証拠能力が認められないので、検察官のつくった調書は証拠としてすべて不採用とする」と決定しました。
 この本には、突然、被告人の家族とされて、社会から切り捨てられていく苦悩、被告人の精神的かっとう、そしてマスコミの警察情報たれ流し報道など、さまざまな問題点も紹介されています。惜しむらくは、弁護人の活躍ぶりにも、もう少し焦点をあてていただけたら、同じ弁護士として、うれしいんですが・・・。被告人と家族を支えて立派に弁護活動をやり通した日野・山口両弁護士に敬意を表します。
 夏の朝は目が覚めるのも早くなります。あたりが明るくなると、蝉が鳴き出す前に小鳥たちのさえずりが聞こえてきます。小鳥の名前が分からないのが残念ですが、澄んだ鳴き声が聞こえてくると、心も安まります。午前7時になると、シャンソンが鳴り出します。10分ほどフランス語の聴きとりを兼ねて耳を澄まし、やおら起き上がります。
(2008年6月刊。1785円)

嘘発見器よ、永遠なれ

カテゴリー:アメリカ

著者:ケン・オールダー、出版社:早川書房
 嘘発見器は、今日もなお、容疑者の尋問や不正の摘発や核兵器の機密保持、テロとの戦いにつかわれている。しかし、アメリカ以外に、この方法を積極的に取り入れている国はない。
 そのアメリカでも、嘘発見器は、刑事法廷から門前払いを受け続けているし、アメリカ科学アカデミーなどの一流科学者団体からも不信の目で見られている。いやあ、そうだったんですか・・・。日本でも、昔は刑事裁判手続のなかで嘘発見器の結果が出てきたことがあります。今では、とんとお目にかかりません。
 嘘発見器が被験者の罪悪感を探知できた率には、大きなばらつきがある。成功率は55〜100%があって、どうみてもまちまちである。勘であてるのと大差がない。
 にもかかわらず、アメリカではいぜんとして大々的に使われ続けている。なぜか?
 法が頼りにならないとき、アメリカの伝統的な解決策には2つあった。1920年代のロサンゼルスでは、その2つともおこなわれていた。一つは群衆によるリンチ。人々は当然の報いを受けさせるために集まり、みずからの正義に酔いしれながら犠牲者を殺害した。もうひとつは、第三度(サード・ディグリー)。これは、警察官によるもので、リンチの代替手段として、警察署内でおこなわれていた。
 1920年代のシカゴは、犯罪にひかれる者にとって、おあつらえ向きの町だった。世界一の殺人多発都市であり、ギャングや酒類密造者の新興都市であり、犯罪組織とその構成員のすみかだった。
 警察は腐敗し、怠慢で、誰もが賄賂を要求した。警官は残忍で、検事は不誠実で、判事や看守は買収されていた。政治家は堕落し、犯罪組織のボスの意にかなう人物を判事や看守につけていた。うひゃあ、これぞまさしく、アル・カポネの『アン・タッチャブル』の世界ですね。
 嘘発見器が容疑者の尋問や従業員の審査につかわれた。それはアメリカだけのこと。外国では、アメリカのいつもの怪しげな機械だとして相手にされなかった。
 政治の舞台で嘘発見器が強力な武器になりうることを初めて見いだしたのは、リチャード・ニクソンである。ニクソンは嘘発見器の検査を実際におこなおうとおこなうまいと、新聞の大見出しになることに気づいた。な、なーるほど、そういうことだったのですか。
 ラベンダーの恐怖。同性愛者への攻撃は、共産主義者を攻撃するときと、よく似た恐怖心を利用していた。すなわち、ラベンダーの恐怖というのは、赤の恐怖より多くの人々の生活を破壊し、アメリカの国内政治と外交政策を強硬右派のものへと変えるとき同じくらいの大きな役割を果たした。外交政策を決めるエリートたちが躍起になって男らしさを示そうとするあまり、アメリカをベトナム戦争へ導いたのである。
 嘘発見器は科学から生まれたものではない。だから、科学では抹殺できない。嘘発見器のすみかは研究室でもなければ法廷でもなく、新聞印刷用紙であり、映画であり、テレビであり、大衆誌やコミックやSFである。嘘発見器は需要に主導されている。
 政治の舞台では、嘘発見器はずっと出番を与えられている。2003年、アメリカ科学アカデミーは数十年にわたる嘘発見器の研究結果を分析し、これを職員の審査につかっても効果はなく、むしろ保守体制への過信を生んで国家の安全保障を損なうと警告した。
 いまも昔も、ポリグラフの罠にかかるのは無実の人間であり、悪人は動揺しないことが多い。FBIはテロリストの疑いがある者を何人も嘘発見器にかけているが、必ずしも成果は出せていない。
 ポリグラフは医療技術を利用した平凡な機械にすぎない。つかわれている生理学機器は、どの先進国でも1世紀前から入手できるもの。にもかかわらず、それに尋問という新たな目的を与えた国はアメリカ以外にない。
 いやあ、この本を読んでも、アメリカっていう国は、つくづくいい加減な、野蛮な国だと思いました。そんな国に、いつもいいなりになる日本って、ホント、もっといい加減ですね。いやになってしまいます。
 真夏の夜の楽しみは、ベランダに出て望遠鏡で月面をながめることです。真夏でも、さすがに夜は涼しいので身体のほてりを冷ますこともできます。遠い月世界のデコボコした地表面をみていると、いさかいにかこまれた毎日の生活が嘘のように思え、心のほうも静まります。
(2008年4月刊。2500円+税)

もの思う鳥たち

カテゴリー:生物

著者:セオドア・ゼノフォン・バーバー、出版社:日本教文社
 鳥はバカな生きものではない。そのことがよく分かる本です。
 人間に苦しめられている地域にすむカケスやカラスの群れには、ひとりひとりの人間を細かく観察する監視役ないし番兵がいる。監視役の鳥が、銃をもっている人間を見れば、群れはすぐにそのあたりから離れるし、同じ人物でも銃をもっていなければ、そのことをはっきり認識する。銃をもっている人間と棒をもっている人間とは、きちんと見分ける。
 ハンターに撃たれて傷ついた一群のカラスは、ハンターたちが自分たちを撲殺しようと迫ってきたとき、激しい鳴き声をあげた。それを聞きつけた仲間のカラスたちは、現場に急行すると、ハンターたちを撃退した。
 仲間が傷ついたとき、自分が撃たれる危険をかえりみることなく、哀しそうな鳴き声をあげながらそばに寄りそうという、自己保存本能とはあいいれない行動が目撃されている。
 ボタンインコのつがいは、引き離されると、互いに相手を恋い慕い、思いがけず再会すると非常に喜ぶ。まるで人間と同じですよね、これって。
 鳥類のオスもメスも、性格特徴や身体的特徴をみて相手を決める。基本的には人間と同じだ。いやあ、そういうことなんですね。
 つがいを形成している鳥は、二羽がまるで会話でもしているかのようだ。語りかけられた側は、語りかけている鳥に注意を集中しており、同時に発声することは一度もない。多種多様の柔らかい抑えた音を出すのは、内輪の、親しい間柄にある相手のための、とっておきの声である。ふむふむ、鳥にも恋の語らいがあるわけです。
 ひなのときに捨てられ、親切な家庭で育てられたコクマルガラスは非常に社交的だった。自分の気持ちや感情をはっきり伝えた。無礼な扱いをされると、カラスは相手の爪にかみついた。ただし、傷つけはしなかった。自分が尊重されるべき存在であることを相手に伝えようとした。な、なーるほど、です。
 このカラスはテレビを観たし、はっきりした番組の好みをもっていた。特定の番組はいつも観ていた。気に入った曲(ジャズの一種)が流れると、激しく踊り狂った。自分の歌をうたい、その録音テープを聴くことを喜んだ。
 ブルーバードと名づけられたセキセイインコの観察記録は、さらに驚くべきものがあります。
 オスのブルーバードと一緒に生活するようになったメスのブロンディーは、ひと目ぼれの関係だった。これは、人間と同じく、セキセイインコにおいても、実はまれなことだった。ブルーバードとブロンディとは、陽気で喜びにみちあふれ、満足そうにみえる自然な性的関係を速やかに発展させた。いつも一時間ほど、前戯が長々しく続く。ブルーバードはブロンディに歌をきかせ、2羽は、愛の語らいにふけった。いやあ、すごいです。うらやましいです。
 ブルーバードが死んだとき、ブロンディは落ち込んでしまった。何もせず、いつもよりたくさん食べて、眠ってばかりいた。ブルーバードの代わりにラヴァーという3歳のオス(セキセイインコ)を同居させてもブロンディは相手にしなかった。ラヴァーはブロンディに相手にされないので、鏡の前に行って自慰的行動をしていた。そして、ブロンディが死んだときには、なんと、「かわいそうなブロンディちゃん。かわいいブロンディちゃん」と、ブロンディを思いやる言葉をかけながら、ブロンディの遺体のそばを飛びまわったというのです。これは、想像で簡単につくりあげることのできない、本当の話だと私は思います。いかが、でしょうか・・・。
 この本は、鳥にも人間と同じような感情があり情緒があると主張しています。私は、それを頭から否定するのは正しくないと考えています。
 鳥たちには、人間とまったく同じように、美しいものに対する感覚、美的感覚というものがある。鳥は、自分で歌を作曲して歌うこともできれば、2重唱や5重唱で歌うこともできる。
 私は、ある晴れた日の昼下がり、公園のフェンスに2羽の鳩がとまっているのを見たことがあります。鳩たちは、はじめは少し離れて止まっていたのですが、次第に近寄り、くちばしを重ねあい、やがて、いかにも濃厚なラブシーンを始めました。10メートルと離れてはいない人間の私がいることなど、まったく気にせず、ラブシーンは延々と続いていきます。人間でいうと、濃厚なフレンチキスの段階に至ったあと、鳩の一方が他方におおいかぶさり、交尾しました。その時間は長くはなかったように思います。2羽の鳩は、やがて何事もなかったように2羽とも仲良くフェンスから飛んでいってしまいました。
 相思相愛の鳩の夫婦のむつみあい、そして交尾の瞬間を初めてじっくりと見せつけられたわけです。その間、少なくとも10分間以上はありました。
 私は公園のフェンスの他方で、じーっと動かずに眺めていました。幸いにも、他の人間は誰も来ることがありませんでした。ある晴れた春の日に起きた、本当の出来事です。
(2008年6月刊。1905円+税)

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