法律相談センター検索 弁護士検索
2008年3月 の投稿

臥竜の天

カテゴリー:日本史(戦国)

著者:火坂雅志、出版社:祥伝社
 伊達政宗の生涯を描く、スケールの大きな時代小説です。
 東北地方、出羽米沢城で生まれた伊達政宗は、生みの母から愛されなかった。母は次男を溺愛し、あばた面で独眼の政宗を遠ざけた。天然痘にかかって、右眼を失明したのである。政宗を支えたのは、父の輝宗。その輝宗が畠山勢に拉致されていこうとしたとき、政宗は、畠山勢に向かって鉄砲を打ちかけた。そして、輝宗はあえなく最期を遂げた。
 のちに、母の意志に逆らって行動しようとした政宗は母の招待宴で毒を盛られた。そこで、政宗は母はそのままにして、弟を自らの手で殺した。家中の政争の種を根絶したのである。ひやあ、すごい時代ですね。何も罪のない弟を刺し殺したというのです・・・。
 伊達家は、最上と争い、佐竹と争い、一進一退。そこへ秀吉が登場する。秀吉になびくのかどうか。政宗は秀吉に簡単になびく気はなく、遠ざかっていた。
 しかし、ついに北条討伐にやって来た秀吉のもとへ参上することにした政宗は、決死の白い陣羽織姿でのぞんだ。いやあ、たいした度胸です。恐れを知らない若者だからこそ出来たことでしょうね。
 もう一度は、蒲生氏郷に秀吉支配に反抗する一揆をあおった証拠を握られ、秀吉に申し開きができない状況に追いこまれたとき、再び白装束になった。こうやっても何とか生きのびいった政宗の運の強さはすごいものです。
 まだ20歳台の青年武将という気迫が秀吉に気に入られたようです。中央政界に面従腹背を続けた気骨の士だったことがよく分かる本でした。
(2007年11月刊。1900円+税)

フクロウ

カテゴリー:生物

著者:石川 勉ほか、出版社:文一総合出版
 フクロウの生態を紹介する素敵な写真集です。
 フクロウは、メンフクロウとフクロウの2科からなる。
 最小のフクロウは、中南米にすむコスズメフクロウで、前身12センチ、重さ40グラム以下。最大のフクロウは、ワシミミズクなどで前身70センチ、体重も4キロをこえ、翼を広げると2メートル近い。
 フクロウの耳は、左右の穴の高さと向きが非対称のため、音源から左右の耳までの距離に差が生じ、両耳に達する音の時間差と音圧の差から音源を立体的に突き止めることができる。
 フクロウは森の忍者と言われるほど、音もなく飛ぶことができる。それは、身軽な体重であるうえ、幅広く丸みのある翼と体の羽毛には表面に細かく柔らかい毛が生えており、初列風切の外側がギザギザと鋸歯状に発達していて、飛行中に音がしないことによる。新幹線のパンタグラフや風力発電は、この構造をヒントに開発されていて、すぐれた消音効果を発揮している。
 フクロウの平均寿命は8年で、3〜4年目に初めて繁殖し、その後5年くらい繁殖を続ける。しかし、20年以上も生きる個体もいる。
 フクロウは、通常は一夫一婦で、つがいが分かれる割合は低く、どちらか死なない限り生涯、つれ添う。
 実は動物園でしかフクロウを見た覚えはありません。フクロウって、あまり身近な動物ではありませんが、なんとなくユーモラスな顔つきに魅かれてしまいます。
(2007年11月刊。1600円+税)

貸し込み

カテゴリー:社会

著者:黒木 亮、出版社:角川書店
 オビには、モラルなき銀行の実体を暴く超一級の経済ミステリ、と書かれています。脳梗塞患者への過剰融資、書類偽造、元上司の偽証・・・。濡れ衣を着せられた元行員が、組織悪に敢然と立ち向かう。
 いやあ、銀行マンって、ホント、大変な職業なんですね。バンカー、とも呼ばれますが、この本を読むと、なんだか気の毒になるほどダーティー・ワークをさせられるようですね。とりわけ、アンダーワールド(要するに暴力団、ヤクザ)とのつきあいは、大変だろうと思います。
 岩淵頭取は、周囲との調和を図るあまり、実行力に欠けた。個々の案件の問題点を指摘されると、妙に物わかりが良くなって、引き下がってしまうことが多かった。しかし、多少の波風を立ててでもリーダーシップを発揮してほしかった。頭取として成功しなかった理由の一つは、そこにあった。
 アメリカにはディスカバリー(証拠開示)という制度があり、訴訟を提起したら、原告は被告側の文書を広範囲に閲覧し、被告側の役員や従業員に対して質問する権利が認められている。ディスカバリーの対象は、企業の文書にとどまらず、従業員が別に保管している文書、Eメールや会議の非公式メモなど関連するすべての文書に及ぶ。
 しかし、日本には、このような制度はない。そのうえ、裁判官が、文書提出命令の適否が争われるのを避けようとして、提出命令をなかなか出さない。
 銀行がまともに対応してこないため、主人公は週刊誌や月刊誌にとりあげてもらって銀行の非を社会的に明らかにしようと決意します。しかし、銀行側も、お金の力もふまえて機敏に対応し、編集部に圧力をかけます。
 果たして、このあとどうなるのか、ハラハラドキドキの展開です。さすがプロですよね。読ませる本です。
 貸し込め。あらゆる理由を見つけて、貸し込むんだ。
 これは、実際にバブル前までの日本の銀行のモットーだったのでしょうね。恐ろしいことです。
(2007年9月刊。1400円+税)

ネットカフェ難民と貧困ニッポン

カテゴリー:社会

著者:水島宏明、出版社:日テレノンフィクション
 現代日本の青年を取り巻く状況を一語であらわす言葉、それがネットカフェ難民です。フリーターとかハケンとか言っているうちはまだ良かったのです。ネットカフェも、単なる流行語でしかありませんでした。ホームレスも中高年の話だと思っていました。ところが、青年たちがネットカフェで寝泊まりしている。社会のなかに定着できない青年が大量に存在する。そのことを、たったひとつの言葉であらわしたのです。衝撃的な言葉でした。私は、福岡・天神にあるネットカフェを、恐る恐るのぞいてみました。いえ、もちろん暴力団事務所をのぞくような怖さがあったわけではありません。夜10時ころでしたが、たしかに、若い男性も女性も次々に入ってきます。背広姿のサラリーマンもやって来るのです。ええーっ、まさか、帰るところがないはずはないだろうに、なんで、こんな夜遅くに、ネットカフェなんかにやって来るのだろう、不思議に思いました。なんとか全身を伸ばせるようなブースがいくつもあります。でも、こんなところで寝ても、安眠できないでしょうし、身体の節々がきっと痛くなることでしょう・・・。
 著者は、このネットカフェ難民という言葉をつくったジャーナリストです。テレビの世界で報道ドキュメンタリーの制作と、ロンドンとベルリンに9年あまり海外特派員をしていました。日本の東京で、1晩1000円で過ごせるネットカフェで暮らす人たちがじわじわと増えている現象は、なんだかおかしいぞという問題意識をもったのです。なーるほど、ですね。私も、日テレの特集番組はビデオでみましたので、この本に紹介されている写真は記憶があります。
 ネットカフェは、韓国に3万店ある。日本には、まだ4000店ほどしかない。東京・蒲田にある格安ネットカフェは、1時間100円。安くしたところ、店の回転率は上がり、客の入りは倍近くになった。200席ある店内の一日の延べ利用客は300人。ネットカフェを利用する人の食費は、1日1000円。チェーン店の牛丼380円。格安外食レストランのハンバーグ定食380円。ハンバーガー1個100円。赤飯弁当180円。弁当屋の豚汁120円。これを一度でなく、2回に分けて食べる。
 ネットカフェ生活は、アパート暮らしよりも効率が悪い。外食代、コインロッカー代、コインランドリー代、シャワー代など、アパート生活ではかからない費用がかさむ。
 さらに、新品の下着を使い捨てにしたり、意外に高くつくのがネットカフェ生活だ。ほとんど、その日暮らしの自転車操業状態になっている。
 徹底して、自尊感情がない。必死さがなく、無気力で、可愛げがない。できれば放っておきたいタイプ。怠情けとも目に映る。自分はダメな奴・・・、と思っている。
 いま、日本に起きているのは、一般社会の寄せ場化である。かつての山谷などで見られた光景が、いまや日本全国津々浦々に広がっている。それも、日雇い派遣という形をつかって、合法的に。しかも、ケータイ、メールをつかって現代的に・・・。
 専門的なスキルのないハケンが急増している。派遣の対象業種が拡大し、単純労働にまで派遣が恒常化している。日雇い派遣のように細切れで低賃金の労働では、何年やってもスキルの向上や経験の蓄積につながらない。
 1985年に労働者派遣法ができて、派遣は解禁された。1999年の労働者派遣法の改正によって、派遣は原則自由化された。2003年には、製造業への派遣も解禁された。
 そして、日本の大企業は空前の利益を得ている。4年連続で過去最高となった。景気回復にともなう企業業績は好調だ。人材派遣業は、2006年度は4兆351億円で、前年比41%増。01年度の2倍だ。
 働く者が、部品みたいに兵器で使い捨てされる社会。正社員も安心できないし、非正規だともっと人間扱いされない。一度落ちると、トコトン落ちてしまって、はいあがれない。ネットカフェ難民は、そんな社会の象徴だ。とくに若い人たちがボロボロにされている。こんな状態に無関心でいてよいわけはない。社会全体が意識して取りくんでいくべきだ。
 私もまったく同感です。お互い、できるところから、やっていきましょうよ。それにしても、日テレも、たまには、いい番組をつくるものですね。心から拍手を送ります。
 とりたての竹の子が届きました。シャキシャキとした歯ざわりで、美味しくいただきました。食べながら春を実感したことです。
 隣の家のハクモクレンの白い花が咲いています。朝、庭に出ると、ウグイスがあちこちで澄んだ声でホーホケキョと鳴くのが聞こえます。メジロの姿は見えますが、ウグイスのほうは、声はすれど姿は見えず、です。
 鼻づまり解消のため、鼻うがいを始めました。塩を入れると、そんなに苦しくはないのですね。昼間のポカポカ陽気はいいのですが、花粉症には悩まされます。
(2007年12月刊。952円+税)

公認会計士VS特捜検察

カテゴリー:司法

著者:細野祐二、出版社:日経BP社
 粉飾決算したとして無罪を主張しながら一審も二審も有罪となった公認会計士が、いまの司法制度を厳しく弾劾した本です。検察と裁判所だけでなく、弁護士までもが鋭く指弾されています。経理処理のあり方については分からないことだらけですが、著者の憤慨ぶりはよく伝わってくる本です。
 日本の司法は激しい制度疲労を起こしている。制度疲労は、検察官だけでなく、裁判所にも、そして弁護士にもある。
 報道記者は、なぜ真実を報道しないのか。司法記者クラブの存在、そして、99.9%の起訴有罪率のなかで、報道機関自身が本来の健全な批判精神を忘れ、逮捕すなわち有罪という予定調和に安住しているのではないか?
 検察官は取調の冒頭でこう言った。
 あなたには黙秘権がある。しかし、行使するな。黙秘権を行使することは、あなたのためにならない。今日の(任意の)取り調べについては、弁護士にも話してはならない。ところで、テープレコーダーなどを持ち込んでいないだろうな?
 否認すると・・・。
 いい加減にしろ。すべて分かっているのだ。いつまで、ふざけた態度をとっているのだ。検事の声は怒りに震えている。立ったまま大声を出し、足を踏み鳴らしながら、机の上から身を乗り出すようにして、まくし立てる。自分の大声で興奮し、その興奮で、また怒りが加速される。
 著者は高血圧のため常に水分を補給しなければ血液の循環障害が出るので、医師からはこまめに水分を補給するよう注意されているのに、飲むことが許されない。ところが、取り調べにあたった検察官は、大きな湯飲み茶碗でお茶を飲みながら取り調べをした。
 検察官は、こう言った。
 検察官面前調書は、被疑者の言うことをそのまま書くものではない。被疑者と検察官の合作なのだ。したがって、調書には検察官も署名する。
 特捜検察は時流に乗った事件の立案を求める。公認会計士の責任がマスコミをにぎわしているので、本件は立件された・・・。
 著者の勾留期間中の取り調べは、21日間、合計95.5時間にわたって行われた。190日後に、やっと保釈された。逮捕の翌日から最初の日曜日までの6日間は、徹底した脅迫で痛めつける。その後は、罵声や恫喝による脅迫は止む。その後の10日間は、シナリオにあわせた論詰に変わる。最後は、昼に自白調書への署名を説得し、夜になると強要するというパターンだ。
 21日間の勾留期間中の取り調べで、何度も、「もうダメだ。署名するしかない」と観念した。それを踏みとどまったのは、弁護士の励ましがあったから。
 判決は、検察官の論告をそのまま認め、求刑どおりの懲役2年、執行猶予4年だった。即日、控訴した。
 弁護人は、アリバイ証明のための証拠請求をしてくれなかった。
 どうせ、請求しても、検察官が開示するかどうか分からない。裁判官が証拠開示命令を出してくれるかどうかも疑問だ。弁護人は、こう言った。
 でも、やってみないと分からないではないか。著者は、こう批判します。もっともです。でも、私も、ときどき同じようなことを言うことがあります。
 日本の弁護士は、どうせ有罪に決まっているという日本の司法の予定調和のなかで、多かれ少なかれ検察官となれあい、裁判官に対する執行猶予おねだり型の弁護活動しか行わない。容疑を全面否認して検察官と全面対立する被告人の弁護においても、弁護人は裁判所の心証を良くするなどと非論理的な理屈を言い立てて、やはり無罪判決おねだり型の弁護活動を行ってしまう。これでは、検察官も裁判官も、弁護士なんか怖くない。だから弁護士は、検察官からも裁判所からも軽んじられる。なぜ法の正義と被告人の人権を全面に打ち立てた弁護活動をしないのか?
 検察官は、証人尋問の前にリハーサル(証人テストという)をやる。そして、証言が終わると、検察官の部屋で反省をする。これは、前もって証言のあと検察官の部屋に来るよう証人はクギを刺されることによる。検事の手直しを受けたうえ、丸暗記させられた。 40回ものリハーサルをやらせられた。
 要するに、この事件は、著者が捜査段階で公認会計士としての守秘義務を理由に供述調書への署名を拒否したことから、捜査当局が不当な私憤を抱き、その私憤の上に強制捜査を行ったところ、たまたま机の引き出しから100万円の現金が発見されたことから、証拠にもとづかないで逮捕したことによる免罪事件だ、と主張しています。
 著者の怒りが迫力をもって伝わってくる本です。裁判員裁判を批判する人が少なくありませんが、私は今の職業裁判官による裁判に任せていいとは思えませんので、裁判員裁判を地道にすすめていき、少しでもより良いものに改善していったほうが良いと考えています。
(2007年11月刊。1800円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.