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2008年3月 の投稿

不屈

カテゴリー:日本史(戦後)

著者:瀬長亀次郎、出版社:琉球新報社
 こんな凄い政治家がいたのか。米軍統治下の沖縄で、常に大衆の先頭に立ち、平和と民主主義を求め続けたカメジローの闘い。これはオビに書かれた言葉です。本の表紙は、刑務所から出てくるカメジローの写真です。にこやかな笑顔で、右手を高く上げています。いかにも芯の強い人柄がにじみ出ています。この本は、カメジローの獄中日記からなります。
 日本にこんなすごい政治家がいたことを知って、誇らしく、また、うれしく思いました。序文に、琉球新報社の編集局長の次のような文章があります。なるほど、そうだよなと思いましたので、紹介します。
 日本の民主主義が未熟なのは、与えられた民主主義だからだ。こんな指摘がある。でも、沖縄については明確に否定できる。戦後27年間のアメリカ軍統治時代、沖縄では自由も人権も制限されていて、日本国憲法なるものは、はるか彼方の存在だった。そんな状況において、沖縄県民は為政者とたたかいながら、一つ一つ権利を手にしてきた。そのたたかいの先頭に立ったのが瀬長亀次郎だ。カメジローは、権力を恐れず、自らを犠牲にして立ち向かった。そうなんですね。沖縄のたたかいに日本人はもっと学ぶべきですよね。
 1952年4月、琉球政府発足式典で、立法院議員の瀬長は起立せず、USCARに対する宣誓を拒否した。
 沖縄人民党は、綱領の中に共産主義も社会主義もうたっていなかった。しかし、アメリカ軍は人民党を共産主義者の集まりとみた。
 1954年の人民党事件で、カメジローは、奄美出身の活動家をかくまったとして逮捕された。そして、その活動家が釈放されたのに、カメジローは収監されたままだった。
 そして、カメジローが刑務所にいるとき、刑務所で囚人による暴動が発生した。カメジローは、暴動を沈静化させた。受刑者大会では実力行使しないことが確認された。玉砕戦術は身をほろぼし、受刑者を不利にし、全県民の利益にもならないと述べてカメジローは受刑者たちを静かに説得した。
 当時、沖縄刑務所に収容されていたのは850人。女性や少年を加えると、950人で、これは定員(230人)の4倍以上。待遇改善を求めて暴動を起こして刑務所を占拠したのだ。このとき、50人が集団脱走した。結局、囚人側の要求の7割が受け入れられた。
 カメジローは、刑務所の独房で本ばかり読んでいた。法廷でカメジローは、次のように述べた。
 被告人瀬長の口を封ずることはできるかもしれないが、しいたげられた幾万大衆の口を封ずることはできない。瀬長の耳を聾することはできるだろう。しかし、抑圧された大衆の耳を封ずることは不可能である。瀬長の目をつぶすことは可能であろうが、不正と不義の社会の重圧をはねかえそうとして待機している大衆の眼をつき破ることはできない。瀬長を牢屋に叩きこむことは可能であろう。しかし、70万県民を牢屋に収容することは不可能である。
 いやあ、見事な弁論ですね。胸のすく思いです。
 刑務所における生活を単調にするか、内容ある生活をつくり上げていくかは、思想の力である。刑務所でのカメジローの仕事は闘病と独習だった。おかれた環境を十分に生かして人間革命の完成につとめた。獄中日記に出てくる本は80冊にのぼる。
 清潔にして、非衛生的環境を除く努力を集中する。房内において、身体と精神、生命力を維持し、きたえ上げ、みがき、将来のための準備工作をすすめる。カメジローは、自宅でも身のまわりをいつも清潔にし、きちんと整頓しておかなければ気がすまなかった。
 家族からの差し入れられる敷き布団の中に妻の手紙が隠されていた。ええーっ、信じられません。あまり検査しなかったのですね。もちろん、手紙はすべて検閲されていました。家族からの手紙もカメジロー本人には渡されず、沖縄県公文書館に保存されていて、発見された物がある。うむむ、なんということでしょうか。
 カメジローは、獄中で、体重が41キロにまで落ちてしまった。危ないところだったようです。1956年4月、カメジローは、刑務所から釈放された。満期出獄だった。1000人あまりの県民が出迎えたが、一緒に歩くとデモ行進禁止のアメリカ布令に反するので、人々は動かず、そのかわりにカメジローがひとり挨拶しながら閲兵するようにして歩いた。すごいですね。写真もあります。泣けてきます。
 出獄歓迎大会には、1万人をこえる沖縄県民が参加したといいます。
 200冊をこえる日記が残っているそうです。戦後日本の政治で忘れてはいけない出来事です。先日のアメリカ兵による少女強姦事件が、マスコミによる被害者バッシングにより告訴取り下げ、不起訴で終わったことに怒りを覚えます。もういいかげん、日本人も眼を覚ますときではないでしょうか。いつまでたってもアメリカの言いなりでは困ります。
 庭の桜の花が満開です。といってもソメイヨシノではありません。サクランボの桜です。花もピンクではなく、真っ白で、地味です。一気に全開となりました。5月の連休明けころに紅いルビーのようなサクランボをたくさんつけてくれることでしょう。チューリップも、もうすぐ咲きそうです。ヒヤシンス、クロッカスそしてアネモネが咲いています。
(2007年11月刊。1667円+税)

巨乳はうらやましいか?

カテゴリー:未分類

著者:スーザン・セリガソン、出版社:早川書房
 Hカップ記者が見た現代おっぱい事情、というサブ・タイトルのついた本です。男の私にはHカップと言われても、まったくピンときませんが、巨乳用なのでしょうね。
 Hカップに魅了されるのは人間ばかりではない。友人の飼う体重90キロの山羊は、著者が頭をなでると、右のおっぱいを夢中になってかみ、歯型を残した。ヒトと話しのできるメスゴリラのココは、おっぱいに目がなかった。女性トレーナーが訓練していると、ココは、しつこく乳首を見せろと身振りで女性に迫り続けた。
 人間のメスだけが動物王国のなかで唯一、乳房をもっている。ほかの哺乳類のバストは、妊娠したときと授乳しているときしか、ふくらまない。Hカップの巨乳は、類人猿のなかで突出している。巨乳は細身のからだを前提としている。
 よきにつけ悪しきにつけ、バストは女性であることをひと目で伝える器官であり、女らしさの象徴である。男性は女性の脚、目、お尻をほめて見とれる。しかし、男性の想像力のレベルを上昇させるインスピレーションを与えるのは、おっぱいである。
 最近の研究では、バストの大きさとウエスト・ヒップのバランスは、これは女の子を測る物差しと言われるが、つかう相手を探している男性が最重要事項として知っておかねばならないことだということが明らかになった。どの文化においても、それは真実で、流行にも左右されない。脂肪をたっぷり乳房に貯蔵している女性は男性にとって魅力的にうつり、彼女はもっとも食糧を得ることができた。栄養の行き届いた女性は、より多くの子孫を残すことができる。
 乳房という器官は、乳腺の束を脂肪で包みこんだものにすぎない。乳房の成長は、最大4年間にわたって続く。どれほど小さな乳房にも、乳腺葉と呼ばれる束が15〜20ある。乳腺葉には、ごく小さい腺房と呼ばれる粒が何千個とついている。
 腺房でつくられた乳汁を授乳期間中に乳首から出す。授乳期間中には、2ミリ以下の細い乳管に乳汁洞と呼ばれる小さな貯蔵場所ができることで、乳房は膨張する。乳房は乳房組織を保護するための脂肪と、それら全体を包みこむ皮膚の関連組織からできあがっている。それを胸部にくっつけているのが靱帯である。ほとんどすべての女性の乳房は左右非対称である。乳房の形は、遺伝子と体脂肪によって決まっている。
 アメリカだけでなく、世界中の女性が美容整形に夢中だ。美容整形手術の4分の1は世界30か国で行われていて、とくに豊胸手術に励む女性の多いのが、アメリカ、ブラジル、メキシコ、オーストラリア、フランス、ドイツ、ギリシャ、スペイン、そしてスイス。オーストラリアでは1日に100件の美容整形手術が行われていて、その大半が人工乳房を入れるもの。男の私からしても、その気持ちは分かります。
 豊胸手術は生理食塩水かシリコンを入れる。その合併症として、皮膜の拘縮として知られる、筋肉や結合組織の硬化。免疫反応が起きて、人工乳房を入れた疵痕組織周辺が収縮し、ときには岩のように固くなってしまう症状が出る。
 大半の豊胸手術は、生理食塩水を満たしたシリコンフォームをつかっている。3000ドルから6000ドルの費用がかかる。そして、年間6万人の女性が人工乳房を取り出している。副作用が出たら、やはり困りますよね。
 ところが、減胸手術もある。乳房が大きすぎて嫌だという女性もいるわけなんですね。この減胸手術は、完全に回復するまでに1年はかかり、かなりの苦しさをともなう。
 乳房は文化なのだ。たかが乳房、されど、乳房である。
 女性の気持ちが少しだけ分かったような気分になる本でした。
(2007年10月刊。1400円+税)

君のためなら千回でも(上)

カテゴリー:未分類

著者:カーレド・ホッセイニ、出版社:早川書房
 残念なことに映画はまだ見ていません。テレビは見ない私ですが、映画のほうは、できたら月に1本は見たいと思っています。でも、なかなかそうもいきません。見たい映画を見逃してしまい、残念な思いをすることもしばしばです。先日は、朴大統領暗殺を描いた『有故』を見にいこうとしたら、タッチの差で終了していました。そんなときにはDVDででも見たいのですが、1回しか見ないのに5千円もするのはもったいない気がして、ついに見ないままということも少なくありません。かといって、500円で見れるDVD映画というのは著作権切れの古いものですから、困ってしまいます。
 アフガニスタンを舞台とした切ない小説です。パシュトン人とハザラ人との民族差別がからんでいて、泣かせます。
 私も本を書いて出版したことがあるのですが、私の本を読んだ東京の女性弁護士から、文章を書けることはよく判ったけれど、もっと読者を魅きつけてやまない小説を書いてほしいという課題を突きつけられてしまいました。私も、なるほどと思いました。と言うのも、私の読者に対して訴えたいことは山ほどあるのですが、それをうまく読者の心の奥底深くに届ける努力に乏しいというか、配慮に欠けていることを自覚せざるをえません。その点、この本は、恐らく著者の体験をベースにしつつ、読み物として昇華しているからこそ、多くの人々を魅きつけたのだろうと思います。
 前置きが長くなりました。少し、この本についても紹介します。ことは、アフガニスタンがまだ平和な独裁国家だったころから始まります。著者は1963年生まれ。「友だち」のハッサンは1964年冬に生まれた。
 ハッサンはハザラ人の召使いの子どもで、学校に通わず、字も読めない。著者はハッサンと一緒に仲良く遊びながらも、ハッサンを馬鹿にしている金持ちのボンボン。しかし、父親はそんな著者をたしなめる。
 凧合戦はアフガニスタンにおける子どもの遊びのなかでも最大のお祭りだ。1975年冬の凧合戦で著者は優勝できた。しかし、凧を回収するときに、著者は人間として許されない過ちを犯した・・・。
 このあとは書きません。
 本のオビに書かれている言葉を紹介します。「君のためなら千回でも!」召使いの息子ハッサンは私にこう叫び、落ちてゆく凧を追った。同じ乳母の乳を飲み、一緒に育ったハッサン。知恵と勇気にあふれ、頼りになる最良の友。しかし、12歳の冬の凧合戦の日、臆病者の私はハッサンを裏切り、友の人生を破壊した。取り返しのつかない仕打ちだった・・・。
 なぜ、こんなひどい仕打ちを主人公がしたのか、私には理解できません。
 ハッサンをいじめた少年がこう言っています。アミールというのは主人公のことです。
 アミールのために自分を犠牲にする前に、よく考えろ。アミールのところに客が来たとき、おまえがゲームの仲間に入れてもらえないのか不思議に思ったことはないか。アミールは、なぜ、ほかに遊び仲間がいないときしかおまえと遊ばないのか。なぜなら、アミールにとっておまえはただの醜いペットにすぎないからだ。退屈なときにからかう相手、腹が立ったときに八つあたりする対象なんだ。自分をごまかして、それ以上の存在だなんて、うぬぼれるんじゃない。
 これを聞いて著者は思わず声をあげそうになった。このとき言葉を発していたら、残りの人生はまったく違ったものになっていただろう。だが、結局、なにも言えなかった。麻痺したように身体が動かず、目だけがじっと釘づけになっていた。
 いやあ、すごく重たい小説です。子ども心というのも、なるほど、馬鹿にしてはいけません。私は弁護士として離婚騒動のとき、子どもの親権者をどちらがとるか争われているときには、せめて子どもの真意を大切にするようアドバイスするようにしています。
(2007年12月刊。660円+税)

反米大陸

カテゴリー:アメリカ

著者:伊藤千尋、出版社:集英社新書
 9.11と言えばアメリカ人も日本人も、2001年のテロ事件を思います。ところが、南米チリの人は、1973年の9月11日を思い出すというのです。そういわれると私も思い出します。チリのアジェンデ大統領が軍部クーデターのために殺された日です。そうです。あのピノチェトです。ピノチェトは後に大統領になりましたが、最近、殺害責任を追及されました。今の大統領は、軍部から迫害を受けた体験者です。
 中南米でアメリカの介入を受けなかった国はない。アメリカは中南米を「アメリカの裏庭」として、自国の勢力圏とみなしてきた。これらの国は、「天国からはあまりに遠く、アメリカにはあまりに近い」といわれる悲劇に泣かされてきた。うむむ、そういう表現があるのですね。日本も同じようなものですよね。
 「南米のABC」と呼ばれる主要3か国のアルゼンチン、ブラジル、チリをふくむ、南米12ヶ国のうち9ヶ国が左派政権となった。今や南米で明確な親米右派政権はコロンビアだけ。コロンビアは旧ソ連派ゲリラとの内戦が続き、アメリカから膨大な軍事援助を受けている。
 ベネズエラ、エクアドル、ボリビアと、キューバ革命が南に輸出されている。
 南米に反米政権が次々に生まれたのは、アメリカの圧力によって、中南米の各国で1990年代にすすめられた新自由主義の経済政策によるものだ。
 ボリビアでは、高地に住む先住民にとって、コカは高山病の症状をいやす薬である。高山病を防ぐためコカ茶を飲む。コカは化学精製して初めて麻薬になる。化学精製しなければ、まっとうな作物である。
 キューバにはアメリカのグアンタナモ基地が今もある。今から100年以上も前、キューバが独立するとき、アメリカが力づくで奪ったもの。アメリカの借り賃は年間4000ドルにすぎない。キューバ政府は、グアンタナモ基地の即時返還を要求し、小切手の現金化を拒否している。キューバ人は、はじめアメリカを解放者と思ったが、実は、支配者がスペインからアメリカに変わっただけだった。
 アメリカはパナマ運河の利権を維持するため、パナマの完全支配を目ざした。国家の経済政策に介入し、中央銀行の設立を許さなかった。そのため、パナマには、今でも通貨を管理する中央銀行がない。独立国として当然の独自の通貨をもたない。紙幣は米ドルがそのまま流通している。
 アメリカは、1946年に米軍アメリカ学校を設立した。年に1000万ドルにのぼる学校経費は、アメリカの国防費から出ている。米軍アメリカ学校は、年間1000人の中南米エリート軍人を集めて教育している。主眼は、国内の反政府派の鎮圧と弾圧である。心理作戦や尋問方法という科目があり、拷問法を教える。拷問の実際のビデオを上映しながら、アメリカ人医師が人間の神経系統の図を示し、身体のどこを、どう責めたら効き目があるのか教える。
 うひゃあ、ひどーい。むごい教育です。いえ、こんなのは教育とは言わないでしょう。
 アメリカがあとで捕まえたパナマのノリエガ将軍も、この学校の卒業生です。ペルーのフジモリ大統領とともに秘密警察の親玉として弾圧した張本人のモンテシノスも卒業生でした。この学校の卒業生は6万人にのぼります。「民主主義」を標榜するアメリカっていう国は、反民主主義を実践する国家だっていうことを、日本人の私たちも忘れてはいけませんよね。
 日曜日はポカポカ陽気でした。庭仕事の楽しい春となりました。庭のあちこちに土筆(つくし)が顔を出しています。アネモネがあでやかな紅、紫、白、ピンクの花を咲かせています。チューリップもぐんぐん伸びて、あと10日もしたら咲き出すことでしょう。アジサイを植えかえてやりました。増えすぎた水仙を泣く思いで掘り上げてコンポストに放りこみました。増えすぎても困るのです。これからジャーマンアイリスの移しかえ、梅の木の剪定などが待っています。
 庭仕事をして、しっかり汗をかいたところで早々と風呂に入って汗を流しました。湯船につかりながら、庭仕事をしているとき、一度もくしゃみをせず、目も痒くならなかったことに思いあたりました。あれっ、花粉症じゃなかったのかな・・・、と。でも、夜にはやはり鼻で息ができずに口を開けて苦しい思いをしました。
(2007年12月刊。700円+税)

脳研究の最前線

カテゴリー:人間

著者:理化学研究所、出版社:講談社ブルーバックス
 脳科学総合研究センター編で上下巻あります。個人論文の寄せ集めですが、興味深い内容です。人間って、いったい何者なんだろう、と考えたとき、脳の作用を抜きに語ることはできません。ですから、私は、高校生のころに大脳生理学の研究をしたいなどと大胆不敵なことを妄想したこともあって、脳科学にはいつも関心をもってきました。このブログでも、何回も脳に関する本を紹介しています。ところで、高校3年に進級する直前、私は自分をふり返りました。能力と適性を考えたとき、数学的思考力がまったく乏しいことを自覚せざるをえません。幸いにして文章のほうだけは少々の自信がありましたので、それなら文系を目ざすしかない。そう決断したのでした。その決断は間違っていなかったと、40年以上たった今でも確信をもって断言できます。それでも、高校3年までは、一応、理系進学クラスにいて、数?まで履修しましたし、今でも、物理や化学そして生物系統の本は大好きです。ところが、数学については、からっきし苦手です。こればかりはどうしようもありません。久留米に、毎年の大学受験問題を解くのが趣味だという弁護士がいますが、すごいですね。私なんか問題文を新聞紙上で見るだけで尻ごみしてしまいます。
 アルツハイマー病は、全世界に2000万人の患者がいる。一番多いのはアメリカで 500万人。患者の増加速度が大きいのは、中国とインド。
 アルツハイマー病を発症すると、記銘力をふくむ認知能力が進行的に低下し、さらに、せん妄(意識混濁、幻覚、錯覚)などの精神症状を呈することがある。認知能力の低下は、通常、エピソード記憶(最近、自ら行ったことや見聞きしたことに対する記憶)の異常から始まり、言語能力や判断力が失われ、自分の居場所や家族の顔がわからなくなるほどに進行する。一般に、運動失調は少ないので、徘徊などの問題行動の原因になる。精神症状としては、性格の変化、うつ症状、異常な攻撃性、根拠なき嫉妬、妄想などが典型である。
 ほとんどの人間が、長生きしたらアルツハイマー病を発症する宿命にあることが判明した。65歳以上で1割、85歳以上で5割、100歳以上で9割が認知症を患っている。
 アルツハイマー病は、早期発症型と晩期発症型に分類される。早期発症型は、20代後半から60歳ころまでに発症する。60歳以降の発症は、晩期発症型。
 これを読んで、私の叔母もアルツハイマー病だったんだと思い至りました。同居していた甥が物を盗ったとか、あらぬことを口走るようになっていたのですが、単なる被害妄想とばかり思っていました。
 家族性アルツハイマー病患者は、正常に成長し、成人に達したあと、30歳ころから 60代にかけて発症する。生まれる前から原因遺伝子変異を有するのだから、潜伏期間が30年以上あるということになる。
 明確な遺伝性のないものを、孤発性アルツハイマー病と呼び、晩期発症型の大半が、これに相当する。
 アルツハイマー病が特徴的なのは、高齢者の罹患率の高さ。人類は、文明の進歩によって、予想もしなかった難問に直面した。孤発性アルツハイマー病の原因は、加齢にともなう脳内ネプリライシンの活性低下である可能性が強い。
 現在、アルツハイマー病治療のために世界でもっともつかわれている医薬品はドネベジル(製品名はアリセプト)。これはエーザイの杉本八郎博士が開発した、世界に誇る日本の成果。年商1000億円。
 脳を効率よく動かすには、「活性化」するだけではダメ。脳は、それぞれ異なる機能をもつ、たくさんの脳領域が協調して形づくっているシステム。だから、もし一部の脳機能だけを突出させることができたとしても、システムとしての全体のバランスを壊してしまい、脳機能は低下するだけになってしまう。脳というシステムをうまくつかうのに一番大事なのは、まずバランスを取ること。
 今の日本で、働けなくなってしまう病気というのは、トップ5のうち4つまでが精神疾患。うつ病、アルコール依存症、統合失調症、躁うつ病。精神科病院の入院患者の平均年齢は60歳。ということは、新たに入院する人は多くないことを意味している。
 統合失調症は、いわゆる遺伝病ではない。しかし、その発症に遺伝子が関係していることは間違いない。統合失調症は、その発症前から、ひきこもり、友人と遊べない、新しい環境に慣れにくい、動作がぎこちないといった行動特徴が認められる。
 統合失調症は、思春期以後に発症する疾患である。
 私のクライアントにも、これらの病名をもつ人が何人もいます。それから、最近はパニック障害だという人も少なくありません。どうして、こんなに増えたのでしょうか。
 揺れる電車の中で本が読めるのはなぜか。電車が揺れると頭が動き、それにつれて目もずれるから、見つめている活字がずれてしまう。しかし、頭が動くと、耳の奥にある三半規管が動きを感じて信号を脳に送る。この信号が小脳に伝わり、ここのニューロンの指令で、目の筋肉を反対方向に動かす。頭が動くと、ちょうどその分だけ目を反対側に動かして補正する。これが素速くできるので、揺れる電車の中でも、目は活字からずれない。これは、フィードフォワード制御で、正常の機械でなされるフィードバック制御とは違う。先回り制御というフィードフォワード制御である。  
 私は大学生のとき以来、電車のなかで本を読んでいますが、不思議なことに、目は悪くなりません。今でも近視のままですし、メガネをはずさないと本は読めません。
 人間の記憶は、コンピューターの記憶とは、まったく違う。コンピューターでは、記憶すべき事項は、そのまま記号の形で書かれ、記憶装置に蓄えられる。脳の記憶も、ある程度は局在していて、場所場所にちりばめられている。
 海馬は、大脳皮質と連携を保ちながら記憶を整理し、時間をかけて大脳皮質に長期記憶をつくり出す。大脳皮質では、情報を処理する場所に、それに関連する記憶が蓄えられ、記憶を用いた情報の処理が行われる。処理と記憶は一体となっている。
 人の記憶の特徴は、連想性にある。組みあわさった事項は、その一部から全体を思いさせる。一つの記憶事項から、芋づる式に、関連した事項を次から次へと思い出す。連想は、いろいろな飛躍をともなうことがある。創造性は、この飛躍から生まれる。
 脳の不思議さ、人体の神秘を考えると、この精妙なる存在である人間をもっと大切にしたいなと思います。
(2007年10月刊。1140円+税)

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