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2007年10月 の投稿

官邸崩壊

カテゴリー:社会

著者:上杉 隆、出版社:新潮社
 自公政権のもろい内幕が赤裸々に暴かれています。こんな人たちに日本の国の前途をまかせているのかと思うと、鳥肌が立つほどの肌寒さを覚えます。
 参院選のとき、演説会場での応援が終わるたびに、首席秘書官の井上義行は、安倍のもとに駆け寄った。そして車に乗りこむと同時に、こうささやいた。
 総理、すごい人出です。私はこんな群衆を見たことがありません。総理の人気はホンモノです。移動中の電車内、飛行機の待ち時間、井上はあらゆる場所で安倍をほめたたえた。
 首相側近は、たしかに自らの役割を果たした。どんなときでも安倍を不安にさせないこと。井上はこの重要な任務を完遂した。だが、残念なことに、本来の意味での仕事はしなかった。いかなるときでも首相に正確な情報を伝達するという仕事を。この意味で、井上は健全な任務を果たしたとは言い難い。
 安倍の本『美しい国へ』は50万部をこえる売上げを誇った。これは、政治家本として、田中角栄の『日本列島改造論』、小沢一郎の『日本改造計画』に次ぐ売り上げだ。
 その本のなかでうたいあげた憲法改正、とりわけ9条の改正の実現は、安倍の悲願である。安倍は2006年4月15日早朝、靖国神社に極秘のうちに参拝した。8月3日、NHKがそれをスクープ報道した。タイミングを見計らった安倍が、秘書官の井上と綿密に計画を練ったうえで、NHKと産経新聞のみにリークしたのだった。
 ええーっ、安倍って、こんな姑息なことをしていたのですね。こんなこすっからいことをする人間なんて、首相の器じゃありませんよ。
 次の2人の女性議員の経歴が紹介されています。テレビを見ない私には広告塔と言われても、もうひとつピンと来ません。彼女らの節操のなさは特筆されるべきでしょう。
 山谷えり子(参議院議員)は、もとは産経新聞の記者で、民主党の比例議員だったが、のちに保守新党に参加し、カトリック信者でありながら靖国神社への参拝を強硬に主張する。夫婦別姓の推進論者だったのが、いつのまにか反対論者に変身した。
 小池百合子(衆議院議員)は、細川護煕の日本新党の広告塔として活躍していたが、いつのまにか小沢一郎の新進党の顔になった。そして小泉純一郎のときには環境大臣になり、安倍首相の側近として国家安全保障担当補佐官となり、防衛大臣になった。小池は1992年の初当選以来、その政治生活のほとんどで、権力の中枢に身を寄せてきた恐るべき議員である。一言でいうと、人気とりだけはできる、嫌味な人間ということでしょう。戦国時代の武将にも、そういう人物がいましたね・・・。
 やらせ問答で有名になったタウンミーティングに政府がかけた費用は、なんと9億  4000万円。電通が請け負っています。48回分ですから、1回あたり2000万円です。これを税金のムダづかいと言わなくて、どうしますか。でも、このような場合、住民訴訟のような制度は残念ながら、ありません。
 塩崎官房長官と広報担当の世耕は、お互いに情報を秘匿しあい、個別に安倍に報告する。そこに秘書官の井上までからんで、複雑は一段と増した。安倍政権の二人の広報担当者は、官邸でわずか数十メートルしか離れていないが、意思の疎通がなかった。官邸内の情報は一本化されず、政権のプロデューサーを自任する井上は、施政方針演説をめぐってまで、世耕と対立していた。
 広報担当の世耕は、自ら2度にわたって自分の仕事を自画自賛したことから、広報関係者の間での世耕の株価は一挙に暴落した。一夜にして切れ者から愚か者に墜ちた。
 はじめ、井上は誰かれ構わず、怒鳴りつけていた。議員である塩崎や世耕に対してさえ横柄な態度をとるのは日常茶飯事だった。
 キャリア官僚からすれば、ノンキャリア出身の井上に指示されること自体が耐え難いことだった。そうした空気を読まず、井上はこりずに官僚たちを怒鳴りつけた。同じことを自民党本部の職員にもした。井上の評判が悪くなるのは当然のことだった。
 教育再生会議は、国家行政組織法8条によって設置された、いわゆる8条委員会である。より強力な権限をもち、答申を出す3条委員会とは違って、その結論はなんら拘束力をもたない。その事務局長が自民党の参議院議員になるなんて、ひどいものです。
 安倍政権では誰もが友だち感覚で、小泉政権時にあった緊張関係は消えうせていた。
 支持率の低迷する安倍政権を何とか支えていたのは警察中の漆間(うるしま)長官である。拉致問題一本で首相になった安倍にとって、漆間は頼りになる数少ない側近の一人だ。漆間は、政権内での発言力を背景に政治力を強め、外務事務次官の谷内とともに安倍に欠かせない官僚ペアになった。天下りが規制されてもっとも困る役所の一つは警察庁なのである。
 フジテレビ、産経新聞、夕刊フジのフジサンケイグループは安倍政権の特務機関と言われていた。
 いやあ、うすら寒いどころではありません。その馬鹿さ加減には、背筋が凍りついてしまいます。実にグッド・タイミングな本でした。それにしても、安倍のあとの福田首相の支持率が6割だなんて、日本人はいったい何を考えているんでしょうね。まったく同じ自公政権に期待する人が6割もいるなんて、私にはとても信じられません。
(2007年8月刊。1400円+税)

世界がキューバ医療を手本にするわけ

カテゴリー:アメリカ

著者:吉田太郎、出版社:築地書館
 キューバ憲法の第9条には「治療を受けない患者はあってはならない」と明記されているそうです。国民に医療を保証することを国に義務づけているわけです。すごーい。
 キューバでは人々は医療費はタダ。医科大学もタダ。6年間の研修期間中の授業料、下宿代、食費、書籍代、衣服代のすべてを国が負担し、一切の経費がかからないうえ、毎月100ペソの奨学金が支給される。ただし、成績は求められる。全部の学科試験で平均 90点以上とらないと入学できない。それと、条件として、卒業したら、貧しい農山村や先住民のいるところで働くことを誓わなければならない。今、キューバの医科大学には世界の27ヶ国から、1万人以上の留学生が勉強している。そのなかには、アメリカのハーレム地区など、黒人もいる。学生の51%は女性である。はて、日本人の留学生はいないのでしょうか?
 キューバの人口は1126万人。100歳以上の長寿者が2800人以上いる。日本には2万8395人いるが、人口比ではキューバは日本と同じくらいの長寿国だ。
 キューバは長寿国である。1960〜65年には平均寿命は65.4歳だった。1980〜 85年には73.9歳に、1995〜2000年には76.0歳、2006年には77.5歳にまで伸びた。
 キューバでは、2000年9月に全小学校で20人学級が達成され、多くは15人学級になった。中学校でも15人学級だ。
 医科大学の教授陣は、英語などを除いて、80%は第一線で働く医師である。医師になるには、知識とともに人格形成が必要だという考えによる。
 うむむ、これはすごいことです。
 キューバでは医師は特権階級ではない。キューバの平均月給は334ペソだが、医師のそれは575ペソ。
 キューバの医療で重視されているのはファミリー・ドクター。ファミリー・ドクターが120世帯、700〜800人と、顔が見える範囲で各家族の健康状態をチェックし、増進することにある。2005年にはキューバの医師7万6000人のうち、3万4000人がファミリー・ドクターで、ほぼ同数の看護士とともに全国民をカバーしている。
 これって、本当にいいですよね。安心して生活できますからね。
 キューバがユニークな医薬品を開発し、外貨を大いに稼いでいることを初めて知りました。たとえば、PPGという抗コレステロール剤がある。その副作用とは、なんと性欲を高めてしまうというのです。ええーっ、すごーい。私もぜひ・・・。
 1日1錠、5ミリグラムを飲むだけで、動脈硬化や心筋梗塞が治るうえ、性欲減退にも威力を発揮するというのです。ところが、アメリカが認定しないため、日本でも売られていません。損な話です。
 キューバの医療を受けたいために、世界各国からヘルス・ツアーがやって来るといいます。マイケル・ムーア監督の最新作の映画『シッコ』にも、アメリカから、9.11の被害者がキューバに渡って高度な治療をタダで請け、安い薬を大量に買って帰るというシーンが出てきます。キューバで治療を受けようというヘルス・ツアーだけで、年間6000万ドルの外貨をキューバは獲得しているというのですから、すごいものです。
 キューバの医師たちは、全世界に出かけて行って活躍しています。これまだ偉いものです。日本は、この面でもすごく遅れています。青年海外協力隊はありますが、医師を世界派遣するシステムはありません。
 2005年現在、2万5000人のキューバ人医師が世界68ヶ国で働いている。人口1100万人しかいない国でこんなことが出来ています。日本ならその10倍の25万人の医師が海外で貧困者のために活躍しているということに相当します。
 これから始まろうとしている日本の後期高齢者医療制度なんて、あれは本当にひどいものです。75歳以上の高齢者に医療費を負担させようという考え方そのものが間違っています。国は、お金がないから仕方がないと言いますが、ウソッぱちですよ。軍事予算はどうですか。アメリカ軍に巨額の思いやり予算を提供してますよ。大型公共工事なんて、ひどいものです。つくりはじめたとたんに沈みはじめた橋があります。あれって、医療費を削ってまで必要なものだと言うんですか?できたら赤字必至の九州新幹線の工事がすすんでいます。それでも、お金がないから、医療費負担を上げるのは仕方がないと言うんです。エエッ、ウソでしょ。もっと私たちは政府に対して怒るべきではないでしょうか。
(2007年9月刊。2000円+税)

犬と私の10の約束

カテゴリー:生物

著者:川口 晴、出版社:文藝春秋
 犬好きの人にはこたえられない感動本です。可愛らしいゴールデンレトリバー犬の仔犬の写真が入っていて、まるで実話の世界です。
 犬の名前はソックス。友だちがつけた名前はタビ。たしかに、写真を見ると、右足の先っぽだけ白色になっていて、まるで靴下をはいているかのようです。
 犬を飼うときには、犬と10の約束をしないといけない。それが守れないのなら飼ってはダメだし、飼っているあいだは、この約束をいつも思い出すこと。
1、犬語は分かりにくいかもしれないけれど、私と気長につきあってくださいね。
2、私を信じて。それだけで私は幸せです。
3、私にも心があることを忘れないで。
4、言うことをきかないときは、理由があります。
5、私にたくさん話しかけて。人のことばは話せないけれど、わかっています。
6、ケンカはやめようね。本気になったら私が勝っちゃうよ。
7、私が年齢(とし)をとっても仲良くしてください。
8、私は10年くらいしか生きられません。だから、一緒にいる時間を大切にしようね。9、あなたには学校もあるし、友だちもいるよね。でも、私にはしかいません。
10、あなたと過ごした時間を忘れません。お願いです。私が死ぬとき、そばにいてね。 どうか覚えていてください。私があなたを愛していたことを。
 なーるほど、いい約束ですね。でも、人間って、すぐ自分の都合で動いて、こんな約束をしたことを忘れてしまうんですよね。
 私が小学生のころ飼っていたのはスピッツ犬で、座敷犬でした。上も下もかまわず歩いていましたから、畳の上はいつもザラザラしていました。今なら、とてもそんなことは耐えられませんが、一家5人(そうです。子どもが5人もいて、私は末っ子なのでした。姉たちにおしめをかえてもらっていたそうですが、もちろん、そんな記憶は私にはありません)、だれも気にせず、平気で犬と同居していました。ルミ(オスのスピッツ犬なのですが、勝手にそう呼んでいました)は、私が大学に入って1年もしないうちに、家の前の道路で車にはねられて死んでしまいました。だから、私は死に目には会えませんでした。遠く、東京で泣きました。恐らく老衰して、足がよく動かなくなっていたので、モタモタしているうちに車にはねられてしまったのでしょう。
 ゴールデンレトリバーも、大きくなるのはすごく速いんですね。大きくなったソックスの写真もあります。映画になるそうです。見てみたいですね。
 朝7時すぎ、雨戸を開けると清々しい純白の芙蓉の花がこぼれんばかりに咲いています。夕方には赫い花になってしまう酔芙蓉がいま盛りです。下の田んぼの稲刈りが終わって、スッキリしました。ヒマワリを刈りとり、見通しのよい庭になりました。チューリップやアネモネなど、春の花を少しずつ植えています。土いじりは楽しい作業です。
(2007年7月刊。1143円+税)

悔いなき生き方は可能だ

カテゴリー:社会

著者:村岡 到、出版社:ロゴス社
 著者は40年前の東大闘争のとき、全共闘の活動家でした。
 ときに周りをふり向くと、活動を持続している人が意外に少ないことに気づく。あのときの活動家が10分の1でも「生き残って」いてくれたら、そんな思いに駆られたことが再三ではない。なぜ、多くの青年が活動を継続できなかったのだろうか。それぞれに理由と事情があるに違いない。
 ふと外の世界との接点で、自分の行ないをかえりみる機会を与えられ、気づいてみると、そこにある種の断絶を感じる。感じとるだけの常識を備えていると、ある場合には命がけで闘っていた課題と自分の生きざまとに微妙な落差・陰を感じることになったのではないだろうか。そういう問題を軽視して、組織が重要だとだけ説教する運動から離脱していったのだろう。
 日本マルクス主義法学の創始者である平野義太郎の『マルクス主義の法理論』を一読すると、法律の問題はマルクス主義における空白をなしていたことがよく分かる。それはレーニンも同じことで、『国家と革命』には、法律は登場しない。
 私は、この二つの本を何回も読みました。目が開く思いでしたが、法律が位置づけられていないというのを初めて知りました。
 ロシア革命のなかでは、法律の無知をもって革命家の誇りとする風潮があったほどである。この風潮は、民主政府の伝統を欠如していたロシアの歴史に深く根ざしていた。ロシア革命を、法の精神なき革命だと大江泰一郎は特徴づけた。
 レーニンは、革命の利益は、憲法制定会議の形式的権利よりも尊いという立場を断固として貫徹した。左翼における憲法の軽視の根底にはマルクスが『共産党宣言』で断言した「法律はブルジョア的偏見である」というドグマがある。
 うーむ、なかなか鋭い指摘だと思いました。
 東大闘争(1968年6月〜1969年3月)から40年近くが過ぎた現在、今なおそれを客観的な歴史として語れない、語りたくない団塊世代が想像以上に多いように思います。そこにはノスタルジーの世界ではなく、今の生き方を厳しく問いかけるものがあるからではないでしょうか。タイトルにありますように、お互い悔いなき人生を送りたいものです。もっとおおらかに人生と社会変革のあり方を語りあいたい。本当にそう思います。
 著者とは、東京の河内兼策弁護士による、「昔、全共闘だった人も、民青だった人も、いま憲法9条を守るために」というテーマの集会で初めてお会いしました。団塊世代の参加者がとても少なくて、残念でした。このとき、関西地方からインターネットを見て参加したという人がおられました。安田講堂内にたてこもっていた人です。逮捕されて、執行猶予判決を受け、その後、企業に就職して何も社会活動はしてこなかった。妻にも自分の過去は言っていないとのことでした。まだまだ、団塊世代の人がこの種の集会に参加するためには心理的抵抗がとても大きいようです。
(2007年4月刊。2000円+税)

食糧争奪

カテゴリー:社会

著者:柴田明夫、出版社:日本経済新聞出版社
 この本を読むと、日本は、もっと食糧自給率を高めるべきだと痛感します。
 日本では余剰感のあるコメだが、世界的にみると需給が引き締まり傾向にあり、将来、楽観視はできない。
 現在、穀物メジャーは、伝統的な穀物商社のカーギルとバンゲ、搾油業や小麦製粉業などの食品加工業を由来するADM、コナグラの大手四社。
 古いデータだが、1997年時点で、これら四社にコンチネンタル・ケレインを加えた大手五社の米国の穀物流通のシェアは、産地集荷段階で3割、内陸部の中間流通段階で5割、輸出段階で7割、一次加工段階では5割を占めていた。
 世界に栄養不足人口は8億5000万人いると推計されている。
 世界の穀物市場では、2000年を境に供給過剰から供給不足へと需給構造の転換がすすんでいる。旺盛な需要に供給が追いつかず、結果として、世界の穀物在庫が取り崩されているためだ。この背景には、中国やインドなどの人口大国が本格的な工業化の過程に突入し、猛スピードで日・欧・米の先進諸国へ追いつこうとしていることがある。
 もはや世界経済を牽引しているのは、1990年代までの日・欧・米の先進国(人口8億人)ではなく、人口30億人のブラジル・ロシア・インド・中国である。
 2003年時点で、遺伝子組み換え作物の栽培比率は、大豆で81%、トウモロコシで40%に達している。
 日本の農家戸数は1980年の466万戸から2005年に293万戸へ4割も減少した。農地面積は546万ヘクタールが471万ヘクタール(2004年)へ14%減少した。農業就業人口は506万人から259万人(2003年)へと49%も減少した。
 日本の食糧自給率は40%というが、実は、日本の畜産物はその飼料のほとんどを海外に依存している。だから、注目すべき自給率は穀物自給率の28%。これは他の先進諸国と比べて異常に低い。アメリカは128%、フランス142%、ドイツ122%である。イタリア62%、イギリスでも70%である。
 これでは日本人は餓死寸前みたいなものではありませんか。この面でもアメリカ頼みでは日本人は将来を生きていけないのです。
 イギリスはかつて日本並みに低かった。一時は400万ヘクタールだったイギリスの耕地面積は、1800万ヘクタールにまで拡大された。これによって食糧自給率が向上した。飽食・日本の将来を不安にさせる警告の書です。石油を食って生きていくことは出来ないのです。自動車をつくって外国に売り、食糧は外国からお金を出して買えばいいという発想は明らかに誤りだと思います。
 先日、札幌に行ってきました。心の優しい岩本勝彦弁護士の紹介で行った小料理屋(「しんせん」)で、シャケの心臓(ハツ)の串焼きを初めて食べました。北海道は美味しいものがたくさんあります。やっぱり産地が分かっているものを安心して食べたいですよね。
(2007年7月刊。1800円+税)

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