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2006年10月 の投稿

丸腰のボランティア

カテゴリー:未分類

著者:ペシャワール会日本人ワーカー、出版社:石風社
 この本を読んで、日本人もまだまだ捨てたもんじゃないんだなと思いました。イラクのサマワに派遣された陸上自衛隊は、こっそり逃げ帰ってきました。立つ鳥あとを濁さず、ということもしなかったため、残った基地跡をめぐって現地で醜い争奪戦が起きていると報道されています。莫大な日本の税金をつかいながら、ほとんど現地の人に感謝されることもなく(大量のお金をバラまいたわけですから、それを喜んだ人はいたでしょう。でも、だからといって、感謝されたかというと違うようです)、かえって、日本がアメリカ軍と同じ占領軍であるとして、それまでの親近感をぶちこわしたのです。まるで、日本にとって大損ではありませんか。自衛隊のイラク派遣は大金を投じて日本の国益を損なったのです。
 ところが、アフガニスタンのペシャワールを拠点として活躍しているペシャワール会は見事なものです。内乱状態のなかにあって、まったく丸腰で黙々と活動し続け、襲撃されたこともないというのです。それだけでもすごいものです。ハンセン病患者の医療にあたり、また井戸水を掘る。それも、すべて現地の人々との共同作業です。現地に技術が残るようにしていくのです。ちょっとできないことです。代表の中村哲医師を一度、福岡のとある駅のホームで見かけたことがあります。思いもよらず小柄な身体は風雪に耐えて鍛えられた険しい顔つきの男性でした。私とまったく同世代ですが、たちまち畏敬の念を覚えました。
 この活動の大きな特徴は、単に外国人による一時的な援助ではなく、スタッフは、ドクター中村ともう一人の日本人以外はみんなアフガニスタン人であり、みなアフガニスタンから逃れてきた人たちであり、祖国復興を真剣に考え情熱をもって取り組んでいることにある。本当に、アフガニスタン自身による自立のための援助を目標にしている。
 1年間で5万4000人を診療。スタッフも70人をこえる。
 中村医師のモットーは、現地のスタッフを主として、外国人は脇役で、だ。
 国際化とは、異質な人々と接することによって自分が変わっていくきっかけをつかむことでもある。自分を変えようという意思がないところには真の国際化はない。
 アフガニスタンの人々がなぜ子沢山なのか、その事情が次のように紹介されています。ある医師は13人の子持ち、ある門番は14人の子持ちです。
 我々は夜になると何も楽しみがないのですよ。ナイトクラブもない、ディズニーランドもない。夜になると治安が悪くて外にも出られない。朝から晩まで働いて、唯一の楽しみがこれですよ。夜間の娯楽の欠如も人口爆発の重要な原因なんですよ。
 うむむ、なるほど、そうだったんですか・・・。日本の少子化は、夜の楽しみがいろいろあるからなんでしょうか・・・。
 バカだから続くんだ。小利口者ばかりじゃ、世の中、面白くない。バカも世の中の味つけなんだ。
 ペシャワールというのは、アフガニスタンにあると思っていましたが、正確にはパキスタンにあります。人口200万人の大都市です。しかし、中村医師たちの活動範囲はアフガニスタンの方にも及んでいます。国境はあっても、一連の地域のようです。そして、掘った井戸がなんと630ヶ所。すごいものです。井戸を掘ると、その井戸の保守・点検は現地の人々でできるように機械・工具を残していくのです。2年間に800本以上の井戸を掘ったとも書いてあります。井戸の深さは27メートルもあります。
 入院費用は、入院するときに150ルピー(300円)支払ったら、あとはタダです。
 そして、これまで柳を10万本、桑を2000本、オリーブを2000本、あんずを 400本ほど植えたといいます。
 医療・水源確保・農業援助に従事する現地専従スタッフは300人、それに現地作業員が300〜800人。日本人ワーカーは20人。これを日本で支えるのがペシャワール会で、事務局は福岡市にあります。会員数1万3000人。補助金なしの年間予算が3億円。事務局員30人。最後に次のようにまとめられています。
 この事業は、現地で1日1000人の失業対策になっている。この1000人には5〜10人の家族がいるので数千人の生活を支えている。灌漑用水路が完成すると、10万人の暮らしがなりたつ。この事業がなければ、人々は軍閥やアメリカ軍の傭兵になるか難民になるしかない。治安の不安定化につながる。このような事業が日本人への信頼につながり、結果として、軍事によらない日本人の安全保障になる。まことに、そのとおりだと思います。日本の自衛隊の「国際貢献」なんて、まったくかすんでしまう偉業です。こんなところにこそ、私たちの貴重な税金をまわしたいものだと、つくづく思いました。

憲法九条を世界遺産に

カテゴリー:未分類

著者:太田 光・中沢新一、出版社:集英社新書
 大変まじめな、いい本です。「爆笑問題」の太田光が語ると、悪ふざけのお笑いがという先入観をもつ人がいるかもしれませんが、内容はしごくもっともな真面目さにみちたものです。ところが、「太田、死ね」という反応があるといいます。本当に怖い世の中になりました。
 僕は、日本国憲法の誕生というのは、あの血塗られた時代に人類が行った一つの奇跡だと思っている。この憲法はアメリカによって押しつけられたもので、日本人自身のものではないというけれど、僕はそう思わない。この憲法は、敗戦後の日本人が自ら選んだ思想であり、生き方なんだと思う。エジプトのピラミッドも、人類の英知を超えた建築物であるがゆえに、世界遺産に指定されている。日本国憲法、とくに九条は、まさにそういう存在だと思う。
 いま、憲法九条が改正されるという流れになりつつある中で、10年先、20年先の日本人が、なんで、あの時点で憲法を変えちゃったのか、あのときの日本人は何をしていたのか、となったときに、僕たちはまさにその当事者になってしまうわけじゃないですか。それだけは避けたいなという気持ち、そうならないための自分とこの世界に対する使命感のようなものが、すごくある。
 イラクで日本人が人質にとられたとき、自己責任という言葉が吹き荒れた。人質の家族の、自分の子どもの命を救ってほしいという願いですら、口に出せなくなってしまった。国ではなく、国民が率先して、人質になった人や家族をバッシングした。そんな空気に違和感を抱いている人も、下手なことを言うと、自分もバッシングを受けるんじゃないかと思って黙ってしまった。あの空気は、ある一方向にワーッと流れていく戦前の雰囲気にすごく似ているんじゃないか。素直に自分の思っていることを表現すると、世の中から抹殺されることにもなりかねない。その意味で、かなり怖い状況になっている。
 日本国憲法は、たしかに奇跡的な成り立ちをしている。当時のアメリカ人のなかにまだ生きていた、人間の思想のとても良いことろと、敗戦後の日本人の後悔や反省のなかから生まれてきた良いところが、うまく合体している。
 僕は、日本人だけでつくったものではないからこそ、日本国憲法は価値があると思う。あのときやって来たアメリカのGHQと、あのときの日本の合作だから価値がある。
 価値があるのは、日本人が曲がりなりにも、いろんな拡大解釈をしながらも、この平和憲法を維持してきたこと。日本国憲法をみると、日本人もいいなと思えるし、アメリカもいいなと思える、こんな日本国憲法を安易に変えてしまったら、あとの時代の人間に対して、僕たちは、とても恥ずかしい存在になってしまう。
 いまこの時点では絵空事かもしれないけれど、世界中がこの平和憲法を持てば、一歩すすんだ人間になる可能性もある。それなら、この憲法をもって生きていくのは、なかなかいいもんだと思う。
 イラクに一人で行った福岡の青年が殺されたとき、あんな危険なところに自分探しの旅に行くなんて、あまりに軽率だというマスコミの論調があった。しかし、僕は腹が立って仕方がなかった。僕だって、若いときには無鉄砲だったし、バカだった。今だって、たいして変わらない。この国は、バカで無鉄砲な、考えの足りない若者は守らないのか、死んでもいいのか、そう思った。
 うーむ、なるほど、そうですよね。無鉄砲なバカな若者を日本で一番たくさん抱えているのが自衛隊でしょう。その隊員一人ひとりはまったく使い捨ての存在だというのを公然と認めたかのような論調ではありませんか。いろいろ深く考えさせられました。ズッシリ重たい、軽い新書です。

昆虫ー脅威の微小脳

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著者:水波 誠、出版社:中公新書
 まさに、おどろき、驚異の世界、生命の不思議のオンパレードです。こんな本を読むと、生きていて良かった。ああ、そうなんだ、人間ばかりが万物の霊長なんて言って威張っているのはチャンチャラおかしい、そんな気がしてきます。
 著者は、前書きで本書を通して、日ごろ感じている昆虫の微小脳の面白さ、凄さの一端を伝えたいと書いていますが、たしかに、その凄さはしっかり伝わってきました。こんな大変な研究をして、それを分かりやすく伝えてくれる学者を大いに尊敬してしまいます。
 地球上の昆虫は登録されているものだけで100万種にのぼり、すべての動物種の3分の2を占める。熱帯雨林には1000万種をこえる未登録の昆虫が生息していると推定されている。昆虫は海にはほどんどいない。昔、浅い海を生活の場としていた甲殻類の一部が陸上への進出を試み、そのなかの成功したグループの一つが昆虫の祖先となった。
 昆虫が繁栄できたのは、一つに軽くて薄いクチクラからなる翅を獲得し、高い移動能力を実現したこと。二つは変態によって、成長と繁殖の完全分離を実現し、効率的な資源利用を可能にしたこと。三つには、花をつける植物(被子植物)と共生関係を結んだこと、にある。
 ハエには、哺乳類のような血管系はなく、すべての組織や気管は直接血管に浸されている。これを開放血管系と呼ぶ。血液は、背脈管という心臓の役割をする気管の働きによって、体中を循環する。ハエには肺もない。酸素は体の両側にある気門から気管系によって体の組織へ運ばれ、また代謝によって生じた二酸化炭素は気管系によって体外に排出される。小型のエンジンでは空冷式の方が水冷式よりも効率がよいのと同じで、ハエのような小さな動物では空気を直接組織に運ぶほうがはるかに効率がよい。
 ハエは翅を1秒間に300回も上下に羽ばたく。これによって、1秒間にその体長の 250倍も飛ぶ。これを誘導するのが複眼。複眼の視力(空間分解能)はヒトの眼より何十分の一と劣るが、動いているものを捉える時間分解能は数倍も高い。蛍光灯が1秒間に100回点滅するのをヒトは気がつかないが、ハエには一コマ一コマが止まって見える。だから、ヒトがハエを追っかけて叩こうとするとき、ハエにはスローモーションのように見えるので逃れることができる。
 昆虫の複眼も微妙に異なっている。トンボの複眼は、空を見る背側(上方)の部分にはサングラスがかかっていて、過度の光が光受容細胞に入るのを防いでいる。
 ハナアブでは、オスとメスの複眼の大きさも形も異なっている。オスは左右の複眼が正面で接していて、正面の物体を同時に捉えることができる。メスは、左右の複眼が離れているので、両眼視はできない。ハナアブは飛びながら空中で交尾する。オスは眼の正面にメスを捉えて距離を測りながら追尾し、タイミングを計って交尾する。メスは追跡行動しない。なーるほど、うまくできているんですね。
 トンボの複眼は、左右2つあわせても個眼は5万個。デジカメの画素数500万というのに比べると粗い。単眼は、空と大地とのコントラストを検知している。単眼は、空間解像力を犠牲にして、明暗の変化を感度良く受容できるようになっている。
 単眼は、ごく単純な情報しか検知できない。しかし、素早い行動の制御のためには、複雑な情報処理を行う複眼よりも圧倒的に有利だ。
 鳥の翼は前肢が変化したもので、昆虫の翅は胸部の背板が側方に伸びて生じたもの。起源がまったく異なる。
 ゴキブリの実験を紹介しています。
 ワモンゴキブリに、砂糖水を与える前に、特定の匂いをかがす訓練を2〜3回すると、匂いを嗅がしただけで唾液の分泌を起こすようになる。ええーっ、これってパブロフの犬の実験と同じではありませんか。哺乳類以外にも唾液分泌の条件付けが可能なんですね。
 ミツバチの有名な8の字ダンスが、実は真っ暗な巣箱のなかで行われるものであること、したがって、周囲のハチは視覚的に捉えることはできず、触覚にある音受容器によって音として読みとる。
 ひゃあーっ、そうだったのですか。ちっとも知りませんでした。てっきり、見て分かっているのだとばかり思っていました。長さも幅も高さも、わずか1ミリ以内という昆虫の脳って、かくも精密なものだったんですね。大自然の奥深さに驚きます。

クマムシ

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著者:鈴木 忠、出版社:岩波科学ライブラリー
 小さな怪物、クマムシについて日本語で書かれた一般向けの本としては最初の本だと言われると、ヘーン、そうなのー・・・、という感じです。でも、読んでいくと、なるほど怪物としか言いようのない小さな生き物ではあります。
 クマムシは大きいものでも1ミリぐらい。ほんの小さなケシ粒ほどの大きさしかない。昆虫ではないし、節足動物でもない。電子顕微鏡でとった写真があります。8本足のクマとしか言いようのない姿をしています。
 クマムシは私たちの身近に、どこにでもいる。1000種ぐらいいて、そのうち1割は日本でも見つかっている。
 オニクマムシの歩くスピードはクマムシのなかでは、ずば抜けて速い。その速度は、秒速0.1ミリだ。もちろん、これはゾウリムシの泳ぐスピードのほうが、よほど速い。
 クマムシは海にもすんでいる。フジツボの殻のすき間にすむクマムシ(イソトゲクマムシ)は乾燥に耐性がある。しかし、フジツボの内部にすむ別種のクマムシは、乾くと死んでしまう。ただ、海こそクマムシの生まれた故郷であり、今もそこに大勢の種がすんでいる。
 クマムシの化石も見つかっている。白亜紀のコハクに閉じこめられているクマムシは、現代のオニクマムシにそっくりだ。
 クマムシは、絶対零度近くまで冷やされても生きのびることができる。また、X線をあてても、ヒトの致死量の1000倍の57万レントゲン(5キログレイ)にも耐えると報告されている。
 ところが、クマムシは何をしても死なないというのは完全な誤り。クマムシには、実は簡単に死んでしまう。
 クマムシをゆっくり乾燥させていくと樽のようになる。乾燥状態のクマムシはトレハロースという糖が蓄積される。組織に含まれる自由な水分はほとんどなくなる。水分がなくなると、それを媒体とする化学反応は起こらない。そして水の代わりにトレハロースが入りこんで、タンパク質や細胞膜分子の形をがっちり保持している。つまり、水を放出し、そのかわりにトレハロースを蓄積してクマムシは生きのびる。だから、クマムシを電子レンジに入れてチンしても、水分がないので、クマムシは平気なのだ。
 カラーグラビアの写真を眺めるだけでも楽しくなる本です。生物の多様性を保全しようという呼びかけに、共感を覚えます。

ヒバクシャになったイラク帰還兵

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著者:佐藤真紀、出版社:大月書店
 ジェラルドは1974年に、カリブ海の島で生まれ、アメリカに移住した。貧しい家族に負担をかけずに教育を受けるために軍隊に入り、軍からの給付金で大学にすすんだ。ジェラルドはイラクに派遣され、5ヶ月後から、1日に5〜8回、針で刺すような激しい偏頭痛に襲われた。
 アメリカ兵で体内に劣化ウランが確認されたのは、サマワに駐留していた兵士たちだった。サマワでは、開戦直後の一週間に激しい戦闘が行われた。劣化ウラン弾は、戦車が爆発するときにウラン酸化物の微粉末を発生するので、弾頭が命中した戦車は、戦場での放射線の大きな発生源になる。戦車が人に近いところにあればあるほど、微粉末を吸いこむ危険は大きくなる。
 オランダ軍の分遣隊がアメリカ兵と交代するために、サマワに到着した。オランダ兵はガイガー・カウンターで宿営地の周辺を調べ、放射線のレベルが高いことが分かったので、宿営地にとどまることを拒絶し、かわりに砂漠に野営を張った。ジェラルドの娘が生まれたとき、赤ちゃんの右手には、通常の子どもよりずっと短くて小さい指が2本だけあった。劣化ウランの影響だとしか考えられない。
 そこでジェラルドは、2005年9月29日、アメリカ合衆国陸軍省を相手に損害賠償を求める裁判を起こした。1人あたり500万ドルを要求している。
 イラク戦争でのアメリカ兵の犠牲者は2500人(2006年6月)をこえた。傷病兵は数万人にのぼるとみられている。
 そもそもアメリカ軍は、劣化ウランの危険性を熟知していたうえで、使用している。放射線によるガンの発生は、細胞分裂が盛んに生じている個体ほど生じやすい。つまり、細胞分裂が盛んな成長過程の胎児・乳幼児は成長のストップしている成人よりも、放射線によるガン発生率が上昇する。
 イラクからの帰還アメリカ兵には、湾岸戦争シンドロームといわれる病気がはびこっている。1990年8月から2002年5月までに、22万1000人の帰還兵が障害者と認定され、1万人以上がすでに死亡している。ちなみに、戦闘での死亡は145人、うち35人は自軍の誤射による。
 ミシシッピー州での調査によると、251人の湾岸戦争からの帰還家族で、戦争後に妊娠して生まれた子どものうち67%が重度の疾患にかかり、先天性の傷害をもっている。それは劣化ウランによる影響の可能性が強い。
 イギリスは、イラク駐留兵に対して、あなたは劣化ウランが使用された戦場に派遣されています、という警告カードを配っている。では、日本ではどうしているのでしょうか。
 サマワにいた日本の自衛隊員の今後の健康が本当に心配です。

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