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2006年9月 の投稿

見えない貌

カテゴリー:未分類

著者:夏樹静子、出版社:光文社
 著者の5年ぶりの推理小説です。ハードカバーの600頁近い大作を読み終えて、ふーっと一息をついたとき、最後の頁の謝辞に目が留まりました。当会の船木誠一郎弁護士の名前が一番にあげられていました。私も弁護士会の役員になる前に、刑事弁護の課題について教えてもらったことがあります。船木弁護士は一時間ほどかけて懇切丁寧にさまざまな問題点を分かりやすく解説してくれました。今も感謝しています。この場を借りて、改めてお礼を申し上げます。
 推理小説ですから、あら筋などを紹介することはできません。ぜひ、あなたも手に取ってお読みくださいというしかありません。
 ただ、携帯電話とメールの利用についてだけ少し紹介します。出会い系サイトという言葉は、最近あまり聞きませんが、実際には大流行しているようです。名前はもちろんのこと、性別・年齢・職業なども隠し、また偽って誰かになりすましてメル友を求め、交流します。しかし、そのうち、どうしても会いたくなってしまいます。
 メール上では、人は自分と別個のネット人格を持つ。いや、別人格になりたくて、人はメル友をつくるのかもしれない。別人格から紡ぎ出されるメールは、とかくオーバーな表現になり、現実から浮遊して、声も表情も伴わない言葉だけが独り歩きしていく。
 最近の統計によると、女性のほうも、平均して10回のメールのやりとりをしたら、そろそろ会ってもいいだろうという気になる。この世界では、女性は待ちのスタンス、男が仕掛けていく。
 携帯メールの履歴(ログ)は取り出しに2ヶ月ほどかかるという。私も刑事事件で警察が関係する携帯電話とメールをすべて割り出して一本に時系列でまとめた解析表を見たことがあります。犯罪捜査のためですから当然のことでしょうが、携帯電話にはプライバシー保護なんて、ないのも同然なんだと、つくづく思ったことでした。

人体、失敗の進化史

カテゴリー:未分類

著者:遠藤秀紀、出版社:光文社新書
 人間の身体は失敗の連続だ、なんて言われると、かなりの違和感があります。むしろ、ありあわせの材料で、よくもこれだけ進化したものだと私なんぞは感心してしまいます。
 耳の歴史というと、設計変更の最たるもの、勘違いの中の勘違い、まったくその場しのぎで進化しているとさえいえる。耳小骨は爬虫類の頭のパーツ、それも顎の一部なのだ。
 初期の哺乳類は、上顎側にあった方形骨からキヌタ骨を、下顎の後端についていた関節骨からツチ骨をつくり上げてしまった。進化とは、かくも予測外のことを平気でやってのける。しかも、その結果は大成功で、できあがった耳は聴覚装置として2億年以上も支えている。
 オーストラリアにすむハリモグラは哺乳類にもかかわらず、卵をうむ。そして孵化した赤ん坊は、原始的な乳腺にかぶりついて育つ。この乳腺は、汗を分泌していた汗腺を改造したもの。
 ヒトの背骨は、まっすぐにはほど遠い。横から見ると、大きくS字を描くのが特徴である。このS字は、ヒトの重心の位置を決めるうえで、大切な役割を果たしている。
 ヒトは、まっすぐ立ったので、咽頭が重力の方向へ落ちこみ、咽頭の周辺領域に空洞がつくられた。この空洞をつかうと、筋肉の微妙な動きをもとに空気を震わせ、微細な声をつくりあげることができる。つまり、重力が90度傾いてくれたおかげで、言語を操るときに必須のヒト特有の発声装置をつくり出すことができた。声を出すために必要な音響機器が、直立二足歩行の副産物として生み出された。
 言語の中枢は左の脳に局在する。ヒトの脳は左側の方が右より大きい。右手をコントロールする左側の大脳の方が早く発達し、結果的に左が大きくなった。
 ヒトの身体がいかに精巧にできているか、その部品のつくりかたがよく分かる面白い本です。

巨大投資銀行(上)

カテゴリー:未分類

著者:黒木 亮、出版社:ダイヤモンド社
 案件としては、1件あたり最低100万ドル(2億5000万円)は儲かるものを追ってほしい。細かいビジネスはモルガン・スペンサーのビジネスではない。
 小説のはじめのころに出てくる上司の言葉です。なんという世界でしょうか・・・。一人あたり年間純利益で100万ドル上げていれば、何とかクビがつながる。200万ドルだと安泰。ええーっ・・・。
 自分、そして秘書。2人のアナリストの給与、直接経費、間接経費など一切合切を含めると、年間コストは100万ドルかかる・・・。うーん、なんという金額でしょう、まったく想像を絶します。
 朝起きると、顔を洗い朝食をとりながら、今日一日、どんなことをして、どんな展開になるか、すべて、予想する。すると、全身にアドレナリンが流れ、だんだん興奮してくる。その興奮状態で会社に行って、仕事に取りかかる。これがインベストメント・バンクで生き残る道だ。うひゃー、という叫び声を、ついあげてしまいました。私も、朝のうちに今日一日のスケジュールを予想し、頭のうちに自分のとるべき言動を予習します。それでも、ここまでは・・・。
 これは、年収5000万円の世界です。とてつもない金額が一瞬のうちに世界中を駆けめぐり、そこで、丁々発止の取引をしている人々の話です。私は、とてもこんな生活をしたいとは思いません。神経がすり減ってしまうだけ。お金の本当のありがたみも、まったく分からなくなってしまうとしか思えません。そして、ちょっとでも勘の鈍った人間は、たちまちお払い箱になるのでしょう。それでも、やめたときに大金が手元に残っていればいいのでしょうが・・・。あぶく銭になって消えているのではありませんか。
 いえ、それより心配なのは、精神状態がまともであるかどうか、です。余計な心配だと言われるかもしれませんが、私にはそれが一番の心配です。
 スイスの金融機関が日本の富裕層をターゲットとした活動を展開しているそうです。ターゲットにする富裕層とは、資産2億円以上。しかし、実際に狙うのは10億円以上で、なかでも核になるのは50億円以上の層だといいます。信じられない金額です。日本でも超リッチ層がアメリカ並みに生まれているのですね。
 いったい、どれくらいリッチ層がいるのでしょうか。最近の新聞によると、純資産額が1兆円から5億円までの富裕層は81万世帯。これは、前年比33%増。5億円以上のスーパーリッチ層は5万2千世帯で、前年比21%増。5000万円から1億円までの準リッチ層は280万世帯いるといいます。やはり、日本もアメリカ並みの格差社会になってしまったようです。「美しい国」どころか、アメリカのように怖くて醜い国になりつつあります。小泉内閣の5年間で、日本はすっかり変わってしまいました。でも、私はめげずに人々の心が通いあう社会をめざしたいと思います。

チャベス

カテゴリー:未分類

著者:ウーゴ・チャベス、出版社:作品社
 ベネズエラのチャベス大統領がキューバの革命家チェ・ゲバラの娘であるアレイダ・ゲバラのインタビューにこたえて語った内容が本になっています。
 今、アメリカのブッシュ大統領がもっとも倒したい男、憎々しく思っているのが、このチャベス大統領です。チェ・ゲバラの解放の夢を継ぎ、アメリカのラテン・アメリカ支配に対して果敢に挑戦中です。
 ウーゴ・チャベスは1954年生まれ。元軍人。1998年にベネズエラの貧困層の支持を受けて大統領に当選。アメリカが裏で操った2002年の軍事クーデターで危うく殺されかかったものの、国民の圧倒的な支持を得て生き延び、クーデターをつぶしてしまいました。以後、何度もの選挙を圧倒的支持で乗り切っています。
 アレイダ・ゲバラは1960年生まれ。チェ・ゲバラの娘で、父親と同じ医師(小児科)です。
 チャベスに反対する右翼、財界勢力は職業俳優を雇ってチャベスの声を真似させた。反対政党の指導者は(殺して)油で揚げてしまおうと呼びかけた。これはすごい効果をおさめた。それでも、チャベスは、なんとか乗りこえることができた。
 それまでの議会はチャベス反対派ばかり。だからチャベスは、国民投票を実施し、制憲議会を選出することにした。議事堂には、1998年の選挙で選ばれた、チャベスが少数派の国会と、チャベスが多数の制憲議会が同居することになった。議事堂の右翼棟と左翼棟で同時に憲法が審議された。
 チャベスは、「軍が街へ」というスローガンを打ち出し、軍人が市民ボランティアとともに街頭に出て働くようにした。
 チャベスは軍隊を変える努力を怠らなかった。チャベスの運動にとって重要なのは、士官学校や主要な基地を討論の場としてつかうことだった。市民の心をもつ兵士と軍人意識をもつ市民をつくることをチャベスたちは狙った。
 チャベスは大統領として教育制度の改革に取り組んだ。公立学校の入学時の寄付金集めを廃止したところ、子どもたちが大津波のように学校に押し寄せてきた。兵営などを校舎に改造していった。実に、予想した倍の60万人の子どもが入学した。
 チャベスは人民銀行をつくり、小口融資を始めた。
 チャベスは私企業を国有化するのではなく、国営企業を設立した。
 チャベスと民間企業との関係はあまり良くない。私企業の多くは堕落してしまっている。というのも、政治的商売と腐敗によって、反民族主義的で無国籍化したエリートだから。資本家にとって重要なのは経済的利益であって、主権や、死者が何人出るかなどには全く無関心だ。関心があるのは、財布の中身や銀行のドル口座の残高だけ。
 チャベスは識字運動に大々的に取り組んだ。これにはキューバの支援を受けている。
 2003年の6ヶ月間で、識字運動によって100万人が読み書きを覚えた。ベネズエラでは現在、人口の60%が勉強している。石油公社の資金をもとに奨学金制度を設けた。目標は、40万人を対象に1人月額100ドルを支給すること。しかし、まだ目標には達していない。
 数学の教科書はキューバのハバナで印刷されている。スペイン語などを教えるビデオやテレビもハバナから来ている。ベネズエラは、以前はキューバに石油を売っていなかったが、今は売っている。
 この本を読むと、新興国の若く有能な指導者が熱っぽく理想を語っていることがよくよく伝わってきて胸を打たれます。しかし、訳者が解説しているように、ベネズエラの現実は決してバラ色ではありません。
 貧困層の多くにとっては生活が著しく向上したとの実感は依然として乏しく、富裕層をはじめとする旧支配階層との先鋭化している対峙関係や犯罪激発などで、社会的緊張はゆるむ気配を見せていない。石油収益を私物化する腐敗や、チャベスら指導部がいくら笛を吹いても踊らない不能率な官僚主義も深刻な問題のままだ。
 ベネズエラの再生を目ざすチャベスの意気込みをよく伝えてくれる、元気の出る本です。

フラガール

カテゴリー:未分類

著者:白石まみ、出版社:メディアファクトリー
 ぜひ見ることをおすすめしたい映画です。炭鉱で首切りがすすむなか、炭鉱夫とその娘たちの働く場としてハワイアンセンターが計画され、見事に成功させた実話をもとにしています。
 炭鉱長屋の生活が再現されています。かつては見慣れた光景ですが、福岡県内でも今はどこにも残っていないのではないでしょうか。CGでボタ山と炭鉱長屋が再現されていますが、実に壮観です。そこには人々の泣き笑いがありました。わたしの両親も炭鉱で働く人々相手の小売酒屋を20年以上営んでいましたから、本当になつかしい光景です。
 この本は、映画の台本をもとにしたものですが、映画とは少し異なる部分もあります。
 東京から炭鉱娘たちにフラダンスを教える先生が招かれます。SDSのトップダンサーだった彼女は、まったく経験のない、ド素人の炭鉱娘を見て絶望してしまいます。
 やっぱりさ、あんたたちには一生無理だと思うよ。
 これに気の強い紀美子が反発します。一生無理だなんて決めつけねえでくんちぇ。たしかにド素人かもしんねえけど、やるしかねえ。炭鉱だって、いつダメになるか分かんねえし・・・。
 それで、先生は条件をつけます。私の言うことをすべて聞くこと。言われたとおりになんでもやる。いちいち質問しない。口答えも一切なし。あと、どんなに辛くても絶対に泣かない。これが守れるんだったら教えてもいいけど・・・。
 フラダンスを踊るフラガールの話です。実は、わたしも舞台の上でフラダンスを踊ったことがあるのです。ちゃんとした衣装をつけて踊りました。というのも、わたしの事務所にしばらく本職がフラダンス教師という女性(今も九州一円で活躍されている田上やよい先生です。その折は大変お世話になりました)がいたからです。そのときの写真をお見せできないのが残念です。
 フラダンスは奥が深い。フラの動きは実は手話である。フラは、もともと文字を持たないハワイの人々が、子孫に文化や伝統を伝えるために踊った神聖なもの。
 私は、で両手を上にあげ、円をつくり、あなたを、で波乗りの形をつくる。そして、愛しています、で両手をくるくると回し、右手をすべらせる。
 それまで私は、フラダンスのことをいわばエロチックな腰ふりダンスだとばかり思って馬鹿にしていました。実は文化だったんですね。
 先生は真剣になって生徒である炭鉱娘たちを教えはじめます。娘たちも必死になりはじめました。
 お客様は、あなたたちの笑顔とダンスを、お金を払って見にくるの。だから、常に最高の笑顔を心がける。それがプロよ。バカみたいに笑うの。どんなに辛いときだって、舞台の上では笑ってなきゃいけないの。それがプロなんだから・・・。
 炭鉱娘たちは開場前に宣伝のための巡業に出ます。でも、お客はフラダンスなんてストリップショーとしか思っていません。とうとう、紀美子たちフラガールは切れてお客とケンカしてしまいます。帰りのバスの中ではフラガールのなかで非難しあい、ケンカまで始まってしまいました。先生がブチ切れます。
 なにが一山一家なのよ。できないならできないなりに、助けあうとか励ましあうとか、そういう気持ちにならないの。炭鉱娘なんてこんなもんだ、と思われて悔しくないの。もう辞めちまいなさい。見てるこっちの方が恥ずかしいわ・・・。
 そこまで言われて、フラガールはしゅんとして気をとりなおします。
 昭和41年1月15日、いよいよハワイアンセンターのオープンです。入場料は大人 400円、子ども200円。キャッチフレーズは、1000円もってハワイへ行こうです。なんと、初日に1万人が押し寄せたといいます。
 初日のフラダンスはまさに圧巻です。蒼井優は実に見事に踊ります。フラガールたちの踊りも最高でした。汗が全身にほとばしり、見ているわたしまで手に汗をかいてしまったほどです。主演の松雪泰子がひとりで演じたタヒチアンダンスも息を呑む見事さでした。
 最近ちょっと疲れてるな。そんな思いをしている人には絶対おすすめの映画です。空気が入りますよ。

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