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2005年6月 の投稿

古代エジプト人の世界

カテゴリー:未分類

著者:村治笙子、出版社:岩波新書
 古代エジプトの神殿や墓の内部に描かれた絵やヒエログリフ(文字)をカラー写真で紹介しながら、その意味が解説されています。
 ヒエログリフは音と意味と両方をあらわす文字ですから、いってみれば漢字のようなものです。ロゼッタ・ストーンを解読したシャンポリオン以来の研究がすすみ、いまでは何が描かれているのか、だれの墓なのかすぐ分かります。それにしても、今から4000年とか5000年も前のことが手にとるように分かるなんて、すごいことですよね。
 手にとってながめるだけで4000年前の人々と「対話」できるのです。定価1000円の新書ですが、ずしりとした重みを感じてしまいました。

緑の島に吹く風

カテゴリー:未分類

著者:吉村和敏、出版社:知恵の森文庫
 カナダ東岸にある「赤毛のアン」の舞台、プリンス・エドワード島の写真と話が満載の楽しい文庫本です。残念ながら、私はまだ行ったことがありません。ぜひ一度は行ってみたいと思っています。
 ところが、写真家と巡るプリンス・エドワード島の旅というツアーを企画したところ、大当たりのつもりが、なんと9人の申し込みしかなかったというのです。驚きました。応募したのは全員女性でした。それはやっぱりねと思うのですが、それにしても、わずか9人だったとは・・・。よほど宣伝が足りなかったのでしょう。
 広い平原にポツンと建っている白い木造の教会はすがすがしさを感じさせます。川にそって、おとぎの国のような建物が並んでいます。紫色のルピナスが一面に咲き広がるお花畑があるなんて・・・。ルピナスはわが庭にも咲いてくれますが、何万本と咲いたら、それはそれは壮観な眺めです。
 冬になると一面の雪景色です。クリスマスツリーを玄関のところに飾り、建物全体を電飾で埋めている光景が紹介されています。今では、日本でもイルミネーションをする家をあちこちで見かけるようになりましたが、さすがに、この島では雪景色との取りあわせが絶妙です。ほんわか心が温まる気がしてくる写真です。
 しかし、なんといっても圧巻というか、心をホンワカさせてくれるのは、赤ちゃんアザラシの写真です。生後10日目という赤ちゃんアザラシの可愛い顔といったらありません。丸くて黒い大きな瞳が、こちらを「何してるの?」と見つめます。たれ目で笑っている赤ちゃん、ひっくり返って気持ちよさそうに氷原の上に寝ころんでいる赤ちゃんがいます。チョコンチョコンと手でつついて、現地の人がゴロンと半回転させても、その赤ちゃんはまだ眠っていたというのです。もちろん触っちゃいけないのでしょうが、ついつい触りたくなってしまう、そんな吸引力のある写真です。

イノベーションの経営学

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著者:ジョー・ティッド、出版社:NTT出版
 本文450頁の部厚いビジネス書です、ずっしり重量感があります。
 イギリスのサセックス大学の学者集団によるマネジメントのテキストです。
 マルクス・エンゲルスの「共産党宣言」(1848年)が引用されています。久しぶりに読みましたが、現代ビジネス指南テキストで再会するというのは意外でした。
 「生産の絶えまない変革・あらゆる社会状態の止むことのない変化、永遠の不安定・・・。以前に確立された国内の古い産業のすべては、すでに破壊されたか、もしくは日々破壊されつつある、それらは新しい産業によって駆逐され・・・新しい産業の製品は、われわれの家庭ばかりか、世界の隅々において消費されている。国内の生産物によって満たされていた昔の欲望の代わりに、新しい欲望が現われ、・・・諸国民の知的な創造力が共有の財産となる」
 おやおや、これが今から160年ほど前に書かれた文章だとはとても思えませんよね。この本でも、不確実性と国際化とイノベーションが決して新しい現象ではないという例証として引用されています。
 ところで、イノベーションとは何でしょうか?
 この本は、いくつかの定義を紹介しています。
 イノベーションとは、機会を新しいアイデアへと転換し、さらにそれらが広く実用に供せられるように育てていく過程である。
 イノベーションとは、飛躍的な技術進歩を商業化すること(画期的イノベーション)のみを意味するのではなく、技術的ノウハウを少しずつ変化させ、実用化すること(改善もしくは漸進的イノベーション)をも包含する言葉である。
 企業機密がもれるのは、人から人へ話が伝わったりして防ぎようがない。しかし、蓄積された暗黙知は永く持続するし、とくにそれが特定の企業や地域と一体化しているときには、模倣することは困難である。
 日本の自動車産業のもつ優れた特質も、やがてアメリカの自動車製造企業に模倣され、両者の生産性の差は解消されていった。
 「コアの硬直性」が凝り固まってしまうと、それを取り除くためには、トップ経営者の入れ替えが必要になることがある。なるほど、だから、創業者オーナーだって追放するしかないことがあるんですね。
 世界最大の携帯電話機メーカーであるフィンランドのノキア社は、11の国で4万4000人を雇用しているが、その半分はフィンランド人。成長率が高かったので、ノキア社のスタッフの半分は勤め始めて3年以下、平均年齢32歳。売上げの9%が研究開発に費やされ、3分の1のスタッフがデザインと研究開発に従事している。
 稼働中のロボットの労働者1万人あたりの数は、イギリス21台、アメリカ33台、ドイツ69台に対して、日本は338台(1995年)。
 イノベーションの本質は学習と変革であり、それは時として破壊的でリスクが高く、コストがかかる。イノベーションを成し遂げるためには、このような慣性を克服するためのエネルギーと、物事の秩序を変えるのだという強い意志が必要である。
 イノベーションに内在する不確実性と複雑性によって、多くの有望な発明が外の世界に出る前に死んでしまう。だから、もともとのアイデアを擁護し、組織のシステム内を通り抜けるための支援に、エネルギーと熱意を注ぎこむ覚悟をもった、カギとなる個人またはグループが不可欠である。ゲートキーパーが必要だということです。十分に理解できたわけではありませんが、なかなか勉強になりました。

半島を出よ

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著者:村上 龍、出版社:幻冬舎
 今から6年後の福岡。北朝鮮の特殊戦部隊兵士9人が開幕戦が進行中の福岡ドームを武力占拠します。そして、2時間後に484人の後続の特殊部隊が来て、ドーム周辺を制圧し、シーホークに本部を構えるのです。
 福岡市内でほとんど物語は進行しますので、地名が次々に登場しても土地勘が働き、具体的なイメージが湧きやすい小説です。近未来の日本でいかにも起こりそうな状況設定ですし、いろんなオタク族の描写が微に入り細をうがつものですので、ついつい引きずられてしまいます。話のテンポも速く、上下2巻本で920頁もありますが、一気に読みとばせます。
 6年後の日本と福岡の状況が、殺伐としたものとして描かれています。
 ホームレスが4倍に増え、自殺者は9万人(今は3万人)、失業率は9%(今の2倍)、若い世代の犯罪率が異様に増加し、治安悪化は著しい。公園にはホームレスがいて、NPO法人が管理している建前だが、実はギャング団が支配している状況にある。
 朝鮮労働党の3号庁舎の内部の様子もことこまかく描写されていますが、巻末の参考文献リストで、相当の裏付け取材がなされていることが分かります。私も、その大半は読みました(残念なことに映像の方は全然見ていません。なんとか私も見たいものです)が、脱北者から直接体験談を聞いているところに迫力の違いを感じます。
 特殊戦部隊兵士は身体のなかに正確な時計を持つことを要求される。訓練を続けるうちに、睡眠が5時間と言われたら、就寝してきっちり5時間後に目を覚ますようになる。
 家柄が良く頭が抜群に良くてスポーツも万能という少年少女は、北朝鮮ではまず特殊部隊の兵士になる。訓練は過酷をきわめ、3年から6年の訓練期間を終えると、鋼のような身体と全身が凶器であるような格闘能力をもつ最強の兵士ができあがる。
 特殊部隊への入隊を認められるのは、核心成分と呼ばれる特権層の子どもたちだけであり、衣食住に加えて医療や教育でも最優遇されているので、金正日への忠誠心は揺らぐことがない。
 特殊部隊に福岡が制圧されても、東京の政府は無為無策で、九州を切り離してテロ部隊の状況を阻止しようとするだけ、危機管理の甘さを露呈させます。ところで、アメリカ軍の動きがまったく出てこないところが不思議で、奇妙な感じです。自衛隊の動きもなく、ただ大阪から警察の特殊部隊(SAT)がやって来て逆に全滅させられてしまうのです。アメリカ軍はやっぱり日本国民を見捨てる存在でしかない、ということを言いたいのかしらん・・・。
 自民党右派がもともと反米であるにもかかわらず、ブッシュ政権に忠誠を示すために自衛隊をイラクに送ったなんていう記述は、読み手をがっかりさせてしまいます。自民党右派が反米だなんて、少なくとも私は聞いたこともありません。アメリカ追従の程度を競っているのが自民党右派だと思うのですが・・・。
 やがて、北朝鮮から12万人の反乱軍が船でやって来るという緊張した状況になり、その受け入れに福岡市当局は協力します。軍資金の確保のために、福岡市内の金持ちが次々に重犯罪人として逮捕連行され、酷い拷問の末に財産放棄書にサインさせられます。
 また、特殊部隊のなかからテレビに出ているうちにスターのようにもてはやされる将兵が出てきます。うーん、ありそうですよね。
 やがて、得体の知れないオタク族の若者たちが実にさまざまな武器、弾薬をシーホークに持ちこんで爆発させていくところは、まるでハリウッド製のアクション映画だし、現実離れしています。まあ、そうでもしないと、結末を迎えることができなかったということなんでしょう・・・。

市民の司法は実現したか

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著者:土屋美明、出版社:花伝社
 共同通信の現役の記者が司法改革の全体像をあますところなく描いた画期的な労作です。460頁もある大部の本ですが、自分の書いた新聞の特集(連載)記事をもとにしていますから、重複はあるものの、大変読みやすい内容となっています。はっきり言って、日弁連で出した本よりも視点がスッキリしていて全体像をとらえやすい本です。
 著者は司法制度改革審議会の63回の審議をほとんど毎回モニターテレビを通して傍聴し、すべての検討会に顔を出し、推進本部の顧問会議は毎回傍聴したといいます。すごいことです。ですから、書かれた内容には臨場感があります。
 今回の司法改革について、著者は、当初の予想をはるかに超え、法科大学院の創設など司法の基盤そのものに変革を迫る大規模な具体的成果として結実したとみています。現段階では評価に値する実りをもたらしたのではないかというのが著者の考えです。これは私も同感です。本当に市民のためのものに結実させるか、これからの取り組みにもかかっていますが・・・。
 著者は、裁判員制度・刑事検討会と公的弁護制度検討会の委員をつとめられました。共同通信の現役記者(論説委員)として、ただ1人の委員でした。穏やかで誠実な人柄と高い能力・識見を評価されてのことだと思います。政府の都合のいいように取り込まれるだけだという批判を受けるのを承知で委員になるのを承諾したということです。私は、著者の果たした役割を高く評価しています。
 著者は弁護士(会)についても辛口の提言をくり返しています。
 これまでは少人数の貴族制社会で生きてきたかもしれないが、これからは多人数の大衆社会になる。だから、従来型の発想をしていたのでは社会の動きから取り残される。
 日弁連にしても、会長(任期2年)、副会長(同1年)ら執行部と事務局という態勢、そしてボランティア的な組織のままで、やっていけるのか。
 これまでと同じことを漫然とくり返していたら機能不全に陥ることは目に見えている。日弁連事務局を強化し、組織体制を整備するべきではないか。うーん、そうなんですよね。でも、あまりに事務局体制が強大なものになってしまったら、地方会の意見が十分に反映されるのだろうかという心配もあったりして、難しいところです。
 いまの司法試験は2004年に受験生4万3,367人で、合格したのは1,483人ですから、合格率は3.42%でした。私のときは受験生が2万人ちょっとで、合格者は500人でした(合格率は2%そこそこ)。
 法科大学院で教える弁護士は専任で360人。非常勤講師をふくめると600人にのぼります。
 いまは司法修習生は1人あたり年300万円ほどの給与が支給されています。これが、2010年11月から貸与制に切り替わります。著者はこの点について賛成のようですが、私は弁護士養成に国が税金を投入してもいいと考えます。医師だって自己負担で養成しているじゃないかという反論がありますが、むしろ私は医師養成も国費でやってよいと思うのです。要は、公益に奉仕する人材の育成と確保です。無駄な空港や港湾建設などの大型公共事業に莫大な税金を投入している現状を考えると、よほど意味のある税金のつかい方だと私は確信しています。
 法科大学院を終了しなくても新司法試験を受けられる予備試験が2011年から始まる。これによって、特急コースができてしまうのではないかと著者は心配しています。なるほど、予備試験は法科大学院終了と「同等」レベルのものとすることになっています。しかし、超優秀の人は、それも難なくパスしてしまうことでしょう。何百人もの法科大学院を経ないで新司法試験に合格して弁護士となる人がうまれるのは必至です。彼らには人生経験が不足しているといっても、そんなものはあとからついてくるといって迎え入れるところは大きいと思います。
 この予備試験を太いパイプとして残せという声は案外、弁護士のなかにも多いのです。とくに苦労した人に多いように思います。私は、それでいいのか疑問です。
 丙案というおかしな司法試験の制度がありました。成績順位が524番だった受験歴4年の人が落ち、1066番だった3年の人が合格したのです。2004年度から廃止になって良かったと思います。
 裁判官の高給とりは有名です。具体的には、官僚トップの各省庁の事務次官と同じ給料(月134万円)をもらっている裁判官が230人、検察官は60人いるのです。
 上ばかり見ているヒラメ裁判官が多いというのは誤解だ。組織のなかで、もっとも自由なのは裁判所だ。最高裁や高裁がどう思うかなんて、おおかたの裁判官は考えていない。
 このような藤田耕三元判事の意見が紹介されています。しかし、残念ながら、事実に反すると私は考えています。事実を見つめて自分の頭でしっかり考えるというより、先例を踏襲し、現状追認の無難な判決を書いて自己保身を図る裁判官があまりに多いように思うのです。
 2000年に全国の地裁で有罪判決を受けた外国人は、7,454人いて、そのうち法廷通訳人がついたケースも6,451人となっています。これは、10年前の4.4倍です。裁判所に登録されている法廷通訳人は50言語、3,656人となています。中国語1,574人、英語510人、韓国語369人、スペイン語261人、ポルトガル語134人、タイ語107人、フィリピン語94人、ペルシャ語63人、ベトナム語52人、フランス語51人の順です。
 ちなみに、著者は、ごく最近知ったのですが、私と同じ年に大学に入ったのでした。父親の病気のため生活保護を受けていた家庭から高校、大学へ通い、アルバイトをしながら授業料免除と奨学金で卒業したというのです。まさに頭が下がります。
 私の場合は、決して裕福とは言えませんでしたが、基本的に親の仕送りに頼っていました。もちろん家庭教師その他のアルバイトはしていたのですが、セツルメント活動に打ちこむだけの余裕はありました。
 それはともかく、司法改革とは何か、どのような議論がなされたのかを知る貴重な資料的価値のあるものとして、みなさんにぜひ一読されるよう、おすすめします。

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