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2005年2月 の投稿

金貸しの日本史

カテゴリー:未分類

著者:水上宏明、出版社:新潮新書
 金貸しと売春は人類最古の職業だとよく言われます。弁護士生活を30年もしている私も、そうだろうなと思います。日頃の法律相談でもっとも多いのが金銭貸借と男女間のトラブルだからです。
 大化の改新(645年。もっとも史実ではないという学者の意見もあります)ころの出挙(すいこ)が歴史に登場する金貸しのはじめのようです。平安京をはじめた桓武天皇は、平城京にある寺院が金貸しで利子をむさぼりとっていると怒ったそうです。はじめて知りました。世界史としては、紀元前3000年のメソポタミヤ文明で、ハンムラビ法典の麦貸し付けが初めてだそうです。年利33%。銀貨の貸し付けだったら上限が20%でした。
 借金の問題は、貸し手をなくせばいいという簡単な問題ではありません。
 クレサラ被害をなくすことに取り組んでいる運動団体は何年も前から「高利貸しのない社会をめざす」というスローガンを掲げていますが、私には違和感があります。明らかに不可能なことを運動の目標としてよいとはとても思えないからです。銀行や政府系金融機関は高利貸しではないとでも言うのでしょうか。また、クレジット・カードを、今の日本からなくせるというのでしょうか。
 もちろん、暴利を取り締まることは私も必要と考えています。しかし、貸し手の対策とあわせて、借り主側のカウンセリングの充実をはからないと問題の根本的な解決はありえないと私は確信しています。
 ところで、明治10年にできた利息制限法(今の利息制限法は昭和29年に制定。民法制定は明治23年)でも、最高利率が年2割だったのを知りました。

死亡推定時刻

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著者:朔 立木、出版社:光文社
 この著者の『お眠り、私の魂』を読んだときには驚きました。東京地裁の裁判官の行状が迫真的に、まさに赤裸々に描かれていたからです。裁判所の内部に通暁していないと、とてもここまで細部にわたっての描写は無理だと思いました。
 小説家を志したものの、刑事訴訟法に興味を覚えて法曹になったと自らを紹介しています。覆面作家なのですが、いわゆるヤメ判の弁護士ではないかと想像しました。というのも、この本では弁護士界の内情がことこまかに描かれているからです。それも山梨県弁護士会の私選弁護人の無能ぶりが強調されています。被告人の老母から着手金60万円をもらっているのに、殺人事件で、まともな弁護をしませんでした。つくられた自白であり、自分は無罪だと被告人が訴えているにもかかわらず、です。それを、東京の若手弁護士が控訴審での国選弁護人に選任されて見破りますが、悪戦苦闘します。その努力が報われ、ついに逆転無罪を勝ちとる、と言いたいところですが、現実は厳しい。上しか見ていない強権的な判事たちは、重大な矛盾点に目をつぶり無罪とすることなく、死刑を無期懲役にしただけでした。
 刑事裁判の現実をフツーの市民に知らせるテキストにもなる面白い推理小説だ。そう思いながら一気に読みとおしました。

グローバリゼーションと戦争

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著者:藤岡惇、出版社:大月書店
 地球が無数の宇宙衛星にとり囲まれている絵が紹介されています。砂糖(黄ザラ)をまぶしたドロダンゴみたいに、びっしりと宇宙衛星が地球に取りつき、さらに少し離れた(3.6万キロメートル)の静止軌道を回る衛星も数え切れないほどたくさんあります。そして、これらのうち3分の2は軍事・スパイ衛星だというのです。恐ろしさに背筋が凍ります。
 アメリカが核軍備のためにつかったお金は、1948年から1996年までで、少なくとも5兆5千億ドル。アメリカの軍事費総額の3分の1強が核軍拡のために使われました。核弾頭づくりの平均単価は6億円、今では小型の核爆弾は1億円です。
 ところが、核爆弾の付帯品の方が今では高くついています。運搬手段の生産と運用に3兆ドル。発射基地の建設に4千億ドル、誘導・通信管制システムに2兆ドル。つまり、核爆弾の10倍かかるのです。
 いま、アメリカではミサイル防衛を推進しないことには、核兵器産業が干上がってしまう状況にあります。ともかく軍需産業はもうかるのです。
 アメリカの軍部のなかで、「情報の傘」派と「核の傘」派で、暗闘があった。将軍の一部が反核運動に動いたことがあったが、それは核兵器がない方が「情報の傘」が安定し、アメリカの軍事力より強大になるという考えにもとづいていた。なぜなら、もし敵が核ミサイルをもち、宇宙空間で核爆発させたら、「情報の傘」がマヒしてしまう。宇宙空間で核爆発が起きると、イオン化された電磁波が大量に発生し、宇宙空間に減衰しないまま広がる。それはコンピューター通信に大きな被害をもたらしてしまう。
 アメリカは海底ケーブルに盗聴機をしかけており、GPS衛星の傘に入るようにさせてアメリカに敵対したら使わせない戦略をとっている。また、アメリカ以外の国同士で国際通信するとき、アメリカ経由にした方が料金が安くなるようにもしている。これは、それで「合法的」に盗聴できるという魂胆からのこと。
 うーん、アメリカって、どこまでも自分の国の利益のことしか考えないのですね。
 アメリカの情報機関には外国を対象とする人間だけで15万人もいて、エシュロンは毎時200万通の通信情報を傍受している。これは年間175億通。これを2度のスクリーニングをへて、毎時2000通にしぼり、精査している。
 読んでいると、ソラ恐ろしくなって、冷や汗がタラリタラリと流れ落ちてきます。

東京ゴールドラッシュ

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著者:ベン・メズリック、出版社:アスペクト
 読むと不愉快になること間違いありません。私もいいかげんにしろと憤慨しながらも、なんとか読みとおしました。なにしろ事実が描かれているというのです。だから、目をそむけるわけにはいきません。アメリカのプリンストン大学を卒業した優秀な青年が日本にやってきて、国際的な証券取引のなかで、たちまちのうちに荒稼ぎをします。3分間で600億円もの利益をあげるというのです。どんな世界なのでしょうか。想像もつきません。27歳の青年が60億円ものボーナスを手にして引退していくというのです・・・。
 毎週140時間の勤務。昼休みなし、夕食時間は10分。人間扱いはされない。上司を恨み、同僚を恨み、最後には自分さえ恨むようになる。最初の1年は地獄以外の何ものでもない。しかし、そこをかじりついて耐え抜けば、2年目には基本給は15万ドル。その後、さらに年俸200万ドルも夢じゃない。
 そんなに稼いだお金を彼らは何に使うのか。この本には、新宿歌舞伎町や六本木の性風俗店に出入りするアメリカ人の生態が生々しく紹介されています。そして、この性風俗店と金融界とのあいだに陰に陽に橋渡しをしているのが日本のヤクザなのです。
 いま私が扱っている刑事事件では、筑後地方のしがないヤクザが、なんと東京に事務所を構えて何十億円もの資産をもって旺盛にヤクザ稼業を展開しているという話が出てきます。いったい何をしているのか興味津々なのですが、その舞台のひとつが、このようなボロもうけする金融取引なのでしょうね。
 ヤミ金で巨利を得た連中が、スイス銀行に50億円を預けていたという話は有名ですが、やくざな世界のグローバル化は私たちの想像以上にすすんでいるようです。
 それにしても、せっかく有名大学を出て、こんなカネ、カネ、カネとあくせくして、そのあげくが性風俗店だというのでは、アメリカの将来はありませんよね。27歳で60億円もってバミューダに引退したあとの人生って、いったい何が楽しいんでしょうか・・・。お気の毒さま、と私は声をかけてやりたい気分です。もっとも、彼らからすると、余計なお世話だということなんでしょうね。

秩父事件

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著者:秩父事件研究顕彰協議会、出版社:新日本出版社
 映画『草の乱』をみました。今から120年前、1884年11月に3000人をこす農民が集まり、自由党の流れをくむ困民党軍として武装蜂起しました。郡役所を占拠して「革命本部」としたのですから、本格的な蜂起です。残念ながら、明治政府が鎮台兵と憲兵隊によって鎮圧し、わずか10日間の「天下」でした。
 困民党の総理田代栄助(51歳)は代言人でした。首謀者12人が死刑判決を受け、8人が執行され、1人がその前に獄死しましたが、残る3人は逃げのびました。
 会計長の井上伝蔵(30歳)は北海道に逃げて、65歳で病死しました。参謀長の菊地貫平(37歳)も逃げていましたが、別の強盗罪で捕まって十勝監獄で10数年間服役したのち自由の身となりました。乙大隊長の飯塚森蔵(30歳)は、九州そして四国へ落ちのびたらしいということが分かっています。
 明治政府は蜂起した農民を国事犯として扱わず、単なる暴徒として刑法で処罰しました。そのため、遺族は強盗や殺人犯の子どもという汚名を着せられ、長いあいだ泣き寝入りさせられたのです。
 秩父事件の原因については、当時の農民の生活がいきづまり、破産者(身代限り)が続出していたことが主たるものとしてあげられています。それなら、年間20万人以上の破産者のある今の方がもっと深刻のはず。武装蜂起はともかくとして、政府に「反乱」を起こすべきときではないでしょうか・・・。
 映画を見て、白タスキに白ハチマキに違和感を感じたのですが、この本によると、実際そのような服装をした人が多かったというので納得しました。死を覚悟しての行動だったので、死に装束としてきちんと正装していたというのです。なるほど、なるほどと改めて得心しました。

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