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2005年1月 の投稿

ベルリン陥落1945

カテゴリー:未分類

著者:アントニー・ビーヴァー、出版社:白水社 
 1945年4月30日、ヒトラーは妻とともにベルリンの総統官邸でピストル自殺した。遺体はガソリンで焼却され、砲弾でくぼんだ地面に埋められた。やがて、ソ連軍が発見し、ヒトラーの遺体のあごを確保して歯科助手に確認させた。しかし、スターリンは最前線にいた赤軍の総司令官ジューコフ元帥にはそれを隠し続けた。
 600頁からなる大作です。ヒトラーのユダヤ人大虐殺をはじめとするファシズムの暴虐は絶対に許すことができませんが、この本は、スターリン指揮下のソ連赤軍の信じられないほど大がかりな蛮行をも明るみに出しています。ベルリンでソ連軍によってレイプされた犠牲者は13万人(うち1万人が自殺した)、全ドイツで少なくとも200万人のドイツ女性がレイプされたという。ただ、これも、ナチス・ドイツの捕虜となった赤軍兵士が英米軍人の捕虜とは差別され、まったくケダモノ同然で虐殺されていたことへの反動だった側面も否定できないと指摘されている。もちろん、だからといって報復レイプが許されるわけでは決してない。
 生きのびたドイツ共産党員がソ連軍を歓迎したところ、その妻や娘までもソ連軍にレイプされてしまった。その結果、多くのドイツ女性が性病にかかって治療を受けなければならなかった。これでは東ドイツでソ連の評判が悪かったのも当然だ。多くのソ連将校がドイツに占領地妻をかかえ、帰国のときソ連国内にいた妻の憤激を買った。もちろん、ドイツ人の男性も無事だったわけではない。捕虜としてソ連へ連行されて強制的に働かされた。生きて帰ったのは3分の2のみ。スターリンと赤軍の元帥たちは、ヒトラーと同じで兵士の生命にほとんど関心をはらわなかった。ベルリン作戦だけでソ連軍の戦死者7万人、負傷者27万人。これは、アメリカ軍がベルリンに到着する前に占領しようと無理したことが原因だ。また、ドイツに捕虜になった赤軍兵士150万人は解放されても、スターリンはスパイの恐れありとして、強制収容所やシベリアへ送った。この間、アメリカ司令部は、アメリカ兵士たちを殺したくないといって進撃をためらっていた。
 スターリンはベルリンを陥落させた赤軍とジューコフ元帥の評判が高まると自らの地位を脅かすと考え、そうならないように周到な手をうっていった。ヒトラーの遺体発見をジューコフ元帥に隠したのも、そのひとつだった。
 ベルリン陥落に至るまでの無惨な戦争の実相が暴かれています。頁をめくる手が重たく感じられましたが、なんとか、最後までたどり着きました。レイプ被害にあった女性は本当に哀れです。しかし、ドイツ女性の目からみて、生き残って帰ってきた男性はもっと深刻な精神的打撃を受けており、容易に立ち直れなかったとも書かれています。弱い性は女性とばかりは言えないというところに、人間の本質もあるようで、いろいろ考えさせられました。名実ともにズシリと重たい本です。               (霧山昴)

鳥の起源と進化

カテゴリー:未分類

著者:アラン・フェドゥーシア、出版社:平凡社
 鳥の祖先は恐竜である。恐竜は温血動物である。今や定説となっていると思っていましたが、実は間違いのようです。600頁をこす大部な本ですが、大変説得力があります。さすが、著者は鳥のことなら何でも知っている、それがよく分かります。なにしろ、たとえば鳥の耳の中骨の構造とその種による違いまで図解されているのですから・・・。
 ヨーロッパでダーウィンの生きていたころに発見された始祖鳥(シソチョウ)は1億5000万年前に生きていた。鳥によく似ている恐竜は8000万年後の今から7000万年前に登場した。つまり、恐竜を鳥類の祖先とするのには無理がある。
 鳥の祖先は、恐竜になる以前にいた樹上で生活する小型の四足動物だった。鳥類の飛行は樹上から始まった。恐竜が地上で走って空を飛べるようになったのではない。
 ハタオリドリは、らせん巻き、平織り、交互逆からげ、スリップ結びなど、さまざまの複雑な結び方をする能力がある。私なんかとてもできない能力をもっているわけだ・・・。
 ペルム紀の後期から三畳紀は、多様な爬虫類が樹上生活で様々な実験を行った時代だった。原鳥類が羽に支えられながら跳躍したり、落下傘降下したりするうちに、滑降する仲間が現われ、羽ばたき飛行を進化させた。鳥類は樹上性の小型祖竜から生まれた。
 鳥と恐竜の関係を真面目に議論するなら、必読の書物です。

ギャンブル依存とたたかう

カテゴリー:未分類

著者:帚木蓬生、出版社:新潮社
 朝夕の通勤時にパチンコ店の前を通ります。夕方は、いつも駐車場は満杯です。日曜日は朝のうちから満杯になっているように見えます。日本人って、どうしてこんなにパチンコが好きなのでしょう。昼間は飛行船のように大きいアドバルーンがあがっていますし、夜になるとサーチライトが探照灯のように夜空を怪しく動いています。
 いま日本にはアルコール依存症が400万人、自己破産者が年間24万人。これから考えると、ギャンブル依存症は少なくとも200万人はいる。そして、その周囲には、ギャンブル依存者によって苦しめられ、悩まされる家族・親類・友人・知人が何倍もいる。
 パチンコ人口は2000万人、パチンコ店は1万6000軒。パチンコ業界の年商は30兆円。
 プロのギャンブラーとギャンブル依存者は決定的に異なる。ギャンブル依存者は耐性がないので、丸裸になりがち。思考が硬直し、反省がなくなる。そして引き際を知らない。
 ギャンブル依存者の男女比率は7対3。ただし、依存症にまで至る期間は、女性の方が短い。男性は、刺激ほしさに、冒険心、スリルなど感覚的なものにつき動かされる傾向にある。女性は、寂しさ、退屈、現実からの逃避など、気分に左右されてギャンブルに走る。
 ギャンブル依存症の正式病名は「病的賭博」。ギャンブル依存症は、アルコール依存症と同じで、慢性で進行性の疾患であり、放置すれば後戻りすることなく、重篤になっていく。
 依存症の主治医は患者本人。誘惑にうちかつには、抽象的な意思に頼らず、誘惑にブレーキをかける行動を習慣化するしかない。入院治療は、あくまできっかけつくりであって、本当の治療は退院後から始まる。しかも、その先は長々と短く、気の抜けない道程である。今日一日ギャンブルをやめる。それだけを肝に銘じて生きていくしかない。どんなに長くやめ続けていても、崖っぷちに立っていることには変わりはない。
 一生治らない、しかし、一生回復への道をすすみ続けることはできる。
 解決できない病気ではない。そのことがよく分かる本でした。

ニート

カテゴリー:未分類

著者:玄田有史、出版社:幻冬舎
 ニートとは、働くことも学ぶことにも踏み出せない人のこと。2000年に17万人、2003年には40万人いると推定されている。私のまわりにも、いる、いる・・・。
NOT.in.Education、Emloyment、or Training
ニートはフリーターではないし、単なる失業者とも違う。仕事によって自分の未来を切り開いていくことに希望を持てない若者たちのことだ。25歳未満に限っても今の日本には40万人もいる。ということは、実は、もっともっと何十万人もいるということ・・・。どうして、日本人はそうなってしまったのか?
 16歳のときニートであった人々の4割以上は、18歳でもニートであり、21歳以上になったときも、教育や訓練を受ける機会は絶望的に少ない。ニートにあるのは、将来見通しについての限りない希望のなさと、状況を転換することの困難さだ。中卒後に進学しなかった10万人、高校を中途で退学した10万人、あわせて20万人の若者は、その後どうしているのか・・・。
 彼らに立ちはだかる壁は、人間関係にある。現場でうまくやっていけそうもないという、働く自分に対する自信の欠如だ。ニートには困ったことを相談する相手がいない。
 ひきこもりを抱える世帯が日本全国に41万世帯はいると推定されている。
 この本は、ニートについて実情を知らせてくれると同時に、中学生に対して実社会での労働経験に取り組んでいる兵庫県と富山県の中学校の様子を知らせているのが貴重なレポートになっている。わずか5日間だけど、現場で中学生が働くことによって大きなものをつかむ中学生が多いという。私の法律事務所にも2度ほど中学生が訪問してきた。もちろん、私は大歓迎した。でも半日では少なすぎると思った。5日間なら、まだましだ。福岡でも、ぜひ試みてほしいものだ。私は協力するつもりだ。
 次のような、いい言葉に出会った。ぜひ紹介したい。
 働くことのささやかな喜びとは、回転寿司のようなものだ。目の前に流れるネタは、必ずしも自分が一番食べたいものではないかもしれない。それでも、ときどき、「おっ!」という皿はまわってくる。ありつくには、まず席に坐っていなければならない。自分の前にまわってきたら、自分で手を伸ばさないといけないのだ・・・。

ウーマンアローン

カテゴリー:未分類

著者:廣川まさき、出版社:集英社
 31歳の独身女性。カナダのユーコン川を小さなカヌーに乗って、たった1人で漕いで下る旅に出た。出発前に、荷物を盗まれ、ひどい風邪をひき、車は故障する。すでに波瀾万丈。でも、彼女はガン(鉄砲)も持たず、グリズリー(熊)が出没するユーコン川をひとり漕ぎはじめる。生理が始まった。辛そう・・・。でも、彼女はめげず、くじけず、ユーコン川をギターを抱えて漕いでいく。めざすは新田次郎の『アラスカ物語』に出てくるフランク安田がエスキモーの人々とともに住んでいた村だ。途中、元気なおばさん5人組と合流したりもする。この本では、男はまったく影が薄い。地球を半分支えているのは女性だなんて、まったくの嘘っぱちだ。女性で全地球を支えているというのが、よく分かる。夜、まっ暗ななか、1人でカヌーやテントのなかで眠るなんて、軟弱な私にはとてもできない。彼女はこう書いている。
 私は、ピンと張った昆虫のように、常にアンテナを張った。眠っている時でさえ、テントの外の音に耳を傾けつつ眠っていた。荒野で本当に必要なのはテクノロジーではなく、第六感(シックスセンス)であるように思った。私は、天候や川の表情、野生動物、すべてのことに意識を配り、緊張感を忘れなかった。その緊張感が、なんともいえない快感だった。緊張の糸がピンと張りすぎて、気疲れすることもあったが、そのうち、緊張とリラックスのバランスというものも理解できるようになった。
 凄い。凄すぎて、とても私には真似する勇気はない。写真でみると、いかにもフツーの日本女性だ。芯の強さが表情からにじみ出ている。第2回、開高健ノンフィクション賞を受賞した本。

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