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2005年1月 の投稿

山田洋次の世界

カテゴリー:未分類

著者:切通理作、出版社:ちくま新書
 山田洋次監督は私の好きな映画監督です。その山田洋次監督が、ベテランの役者に対して、演じようとか思いを伝えようとかいっさいしないようにと指示するというのです。
 「君の芝居は嘘なのだ。君は嘘をついている。自分に対して正直でないと叱りつけて、彼、あるいは彼女の悪い自信を一度奪いとる必要があるのです。もっと正直になって、裸になってキャメラの前に立ってほしいわけです」
 山田監督は俳優が役柄について質問してくることを嫌う。現場では「無」でいてほしいと願う。役者に対しては、「もっと自然に」「あなたはあなたのままでいい」と繰り返す。だけど、役柄を解釈して型にはめて演じることが身についているプロの役者にとって、それは一番難しいこと。
 『男はつらいよ』の大半を私は見ました。飯塚の古びた旅館で弁護団合宿をしたとき、テレビだったか映画館でだったか、寅さんが同じような古びた旅館に泊まるシーンが出てきてみんなで大笑いした記憶があります。年に2回の新作を14年間つくり続けたというのですから驚異的です。そのうえ毎回200万人もの観客を動員したというのですから、すごいものです。ところが、その割には山田洋次監督の世間的評価は高くありません。朝日新聞をはじめとする大マスコミがワンパターンの話であり、庶民向けの低級の娯楽映画だとして無視してきたからです。
 この本は、山田洋次監督が映画をつくるときの脚本が第一稿から決定稿までそろっている松竹大谷図書館の一次資料を参照しているだけに、新書の軽さに反比例してずっしりと重い内容になっています。著者は、この本の最後に次のように書いています。
 山田洋次は、常に「いま、どうして作る必要があるのか」を自他に問いかけて映画をつくってきた。問いかけの中で、放浪への憧れと現実への桎梏を行きつ戻りつしながら、常に数ミリでも希望に向かって歩んできたのではないだろうか。
 常に「いまどうしてこの映画を作らなければいけないのか」を自他に問い続けてきたからこそ、メジャーシーンで2年以上のブランクを空けることが一度もなく、80本近い作品を作り続け、いまでも現役にいることができているのではないか。世界的にも稀有な存在といえる。
 一見多様な価値観が認められた社会に見えながら、実は生きづらいという意識を人々がもっている。観客は寅さん映画を見て笑いながら、それを感じているのではないか・・・。
 うーん、深くいろいろ考えさせられました。

人の値段

カテゴリー:未分類

著者:西村 肇、出版社:講談社
 日亜化学の青色発光ダイオード裁判で発明した中村修二氏に対して会社は200億円支払えという東京地裁の判決が出て、世間に大きなショックを与えました。ところが、東京高裁は桁(ケタ)が2つもちがう8億円で無理矢理和解させてしまいました。
 日本の司法は腐っている。
 私は中村修二氏のこの叫びに同感です。東京高裁は、200億円も出させられたらつぶれてしまうという会社側の主張にやすやすと乗ってしまいました。でも、そんなの嘘でしょ。プロ野球の選手たちの給料を考えてみたら、200億円というのはそれほどのことではありません。また、世間を騒がすほどの巨額の横領事件が起きても、不思議なことに会社がつぶれたということはほとんどありません。
 この本で西村教授は中村修二氏は70億円は受けとれるという試算をしていますが、説得力があります。また、同業の研究者に「ねたみ」の心から来る反撥があることを著者は指摘していますが、私も同感です。
 話は変わりますが、オーケストラの指揮者について紹介されています。
 指揮者はオーケストラの総譜を完全に暗記している。それは、音符の数で10万個。これは、40字、16行の200ページの新書の字数とほぼ同じ。つまり、総譜を暗譜するということは、新書1冊を完全に覚えてしまうことを意味する。
 小澤征爾は、このように暗譜した曲が200曲以上もあるというのです。すごいものです。中村修二氏の話に戻ります。高裁の裁判官たちはかなり考え違いをしていると思います。会社万能だという古い考えにとらわれすぎです。もちろん、それは経済界の強い圧力に屈したということでもあります。ひどいものです。腐っていると言われても仕方がありません。

黙って行かせて

カテゴリー:未分類

著者:ヘルガ・シュナイダー、出版社:新潮社
 自分の親がナチスに心酔していて、アウシュヴィッツの看守をつとめていた。しかも、今もそのことを反省も後悔もしていないとしたら、子どもである自分は親に対して何と言うべきか。やはり、ママと呼びかけ、抱きしめるべきなのか。4歳と2歳の2人の子どもと夫を捨ててナチスへ走った母親に、その捨てられた娘が50年たって再会する。そのとき、母親にどう接したらよいのか・・・。実に重い問いかけです。
 最初のうちは、本当にちょっと気の毒だと思ったんだよ。でも、あたしは、すぐにそれを乗りこえた。自分のうけもつ囚人に対して同情やあわれみをもつことはあたしのやってはいけないことだったから・・・。
 不眠症にかかったことなんてない。自分を甘やかすわけにはいかなかったし・・・。焼却されたのは、ただの役立たずだけさ。ドイツをあのつまらぬ人種からとことん解放したやらねばねと思ってね・・・。
 イギリスのチャールズ皇太子の息子がナチスの服装をしたことが問題になっています。ナチスが実際に何をしたのか、真実をきちんと子どもそして孫へ伝えていくことの大切さを今さらながら感じます。

私のサウンド・オブ・ミュージック

カテゴリー:未分類

著者:アガーテ・フォン・トラップ、出版社:東洋書林
 映画「サウンド・オブ・ミュージック」の完全リメイク版を東京・銀座の映画館で見ることができました。大画面一杯にオーストリアの山並みと草原が広がり、ジュリー・アンドリュースがギターをもって歌い踊ります。昔みたなつかしい心象風景を思い出し、胸が熱くなりました。DVDを買って自宅でも見たのですが、やっぱり映画は映画館の大スクリーンで見るのが一番です。感動のスケールが断然違います。
 ところで、この本は映画のモデルとなったトラップ・ファミリー合唱団の長女が語る実際の話です。やっぱり、実際の話は映画とはかなり異なることが分かります。子どもたちがみな歌をうまくうたえたのは、死別した母親のもとで音楽にみちた暮らしをしていたからなのです。家庭教師(マリア)が来てはじめて歌をうたいだしたのではありません。
 マリアが修道院で品行方正とは言えず、階段の手すりをすべりおりたり、廊下でうたったり、口笛を吹いたり、お祈りに遅刻したのは事実のようです。そして、マリアは社会主義思想の持ち主だったそうです。父親が子どもたちを笛で呼ぶシーンがありますが、あれは事実でした。ただそれは、住んでいた邸宅が広いからでした。映画とちがって、父親はとても優しいパパだったと、長女である著者はしきりに強調しています。
 ナチスから脱出するときには、山登りなどせず、歩いて駅に向かい、列車に乗って北イタリアに行きました。脱出のラスト・チャンスのころでした。それからイギリス、そしてアメリカに渡り、生活費を稼ぐためにファミリー合唱団をはじめたということです。
 また、「サウンド・オブ・ミュージック」を見てみたくなりました。

テレビの嘘を見破る

カテゴリー:未分類

著者:今野勉、出版社:新潮新書
 私はテレビを見ません。高校生のとき、紅白歌合戦なんて日本人を一億総白痴化する番組でしかないという文章を読んで、なるほどと思って以来のことです。ただ、自然界に生きる動物をとらえた映像だけはビデオで見ます。私がテレビを見たくないのは、テレビの時間割に縛られたくないという心理も働いています。私は、あくまで自由でありたいのです。テレビなんかに縛りつけられるのはまっぴらご免です。
 ところで、この本は、ドキュメンタリーと称する番組が「やらせ」でできていて何が悪いのかとテレビ側の人間がいわば開き直って書かれたものです。読んで、なかなか説得力があると思いました。マイケル・ムーア監督の『華氏911』はドキュメンタリーとして良くできていると私は拍手を送りました。しかし、あれは、単なる反ブッシュのプロパガンダにすぎないのではないかと批判する人がいます。でも、本当にそうでしょうか?
 事実を真向からブッシュ大統領にぶつけて、イラク戦争の是非を視聴者に考えさせる材料を提供するものとして、『華氏911』はすぐれた作品だと私は思います。
 ベトナム戦争のとき、アメリカ軍のナパーム弾を浴びた村から少女が素裸で苦痛の悲鳴をあげながら走ってくる有名な写真があります。幸い、この少女は今も生きています。この写真がどのようにしてとられたのか、初めて事情を知りました。アメリカ軍はカメラマンたちにナパーム弾をゲリラの村に投下するところを撮影させようと待機させていました。村人たちは寺に避難させられました。なんと、その寺にアメリカ軍はナパーム弾を誤爆してしまったのです。だから、つくられた偶然によって撮影された写真だったのです。
 テレビの「やらせ」が一般の視聴者に見破られない理由は、放送までに何重ものチェックを受けているからだといいます。それでも「やらせ」はあります。それは「再現」ビデオと明記されていても同じような問題があるのです。
 昔の風俗を伝えるために過去の事実を再現することは許されるし、必要なことだと著者は協調しています。なるほどと私は思いました。
 見知らぬ地へはるばる出かけるときの行きの行程シーンが、実は帰りに、ところどころUターンして撮られたものだという「しかけ」には目を開かされました。同じ道を帰ってくる必要がありますが、行きはノンストップで行き、途中、絵になりそうなところをメモしておくのです。そして帰路にところどころでUターンして映像をとるというのです。なるほど、なるほど、いろいろ勉強になりました。

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