著者:樋口和博、自費出版
94歳というので何年生まれかと思うと、私の亡父と同じ明治42年生まれだった。著者は38年間の裁判官生活のあと、東京で弁護士になった。この本は主として裁判官時代の思い出を描いている。弁護士になって、今(といっても昭和61年)の裁判官のあまりのひどさに唖然としつつ、淋しさを感じた体験が紹介されている。和解の席上、当事者の言い分をまったく聞かないまま、裁判官が突如として和解打ち切りを宣言したという。いるいる。今でも、こんな裁判官は珍しくない。私は、そう思った。
裁判官として、どこまで人(ひと)を信じていいのか迷ったり、法廷での最後の一言で淡々と否認し、それが本当に無罪になったりと、人間心理の奥深いところまで考えさせる思い出が次々に語られていく。人が人を裁くとは、これほど難しいものなのか・・・。読みながらそういう思いにかられた。
本林徹前日弁連会長や石川元也弁護士など、私の敬愛する先輩たちが再刊して自費出版した本だが、最近の司法修習生にぜひ広く読んでほしいと思った。
峠の落し文
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