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白土三平論

著者:四方田犬彦、出版社:作品社
 今から30年前の学生で白土三平の『カムイ伝』をまったく読んでいない人は、どれだけいただろうか・・・。少しあとに出てきた『ゴルゴ・サーティーン』も人気が高かったが、白土三平のマンガには、なにより香り高い思想性があった。しかし、人物描写は決してスマートではない。いかにも劇画調で、いささかの泥臭さがあった。でも、自然の風物がふんだんに登場してきて、一揆というのはこういう状況だったのか、と勉強になったものだ。
 私の生活していた学生寮では、白土三平が連載していた『ガロ』は、『ジャンプ』や『マガジン』などとは違った愛読者がいて、奪いあうようにしてまわして読んでいた。
 340頁もあるこの本で、私たちは白土三平について、その生いたちからたどることができる。父親が左翼美術家の岡本唐貴だということを知り、白土三平が信州の真田村に疎開していたことも分かる。白土三平の自然の風物は、この子ども時代の原体験をもとに発展させられたものだ。
 ところが、1960年代にあれほどもてはやされていた白土三平が、東大・安田講堂の落城、そして連合赤軍内部で「総括」と称する大量殺人がなされていたことが明らかになったあと、急転直下、見向きもされなくなってしまった。私も、そう言えば『ガロ』を読まなくなった。なんだか、いつまでも暗くて泥臭い雰囲気を敬遠してしまった。
 この本は、白土三平のマンガをところどころで紹介しながら、その思想的な変遷をふくめて、刻明にたどっている。白土三平を語るこの本を、単なるノスタルジーの本と切って捨てていいのか。私にも、いろいろ考えさせられるところがあった。

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