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2004年1月 の投稿

自殺した子どもの親たち

カテゴリー:未分類

著者:若林一美、出版社:青弓社
 自殺は人間のする人間的行為である。それは固有の人間の問題なのだ。それなのに、人は人間を見ずに自殺を論じている。これは、とかく統計的なマクロな視点のみから問題を捉えようとしていた私にもグサリとくる指摘(苦言)でした。
 「ちいさな風の会」という、自殺した子どもの親の集まりがあることを知りました。死別から3年くらいに一つの節目を迎える人が多いということです。悲しみの質が、肉体的な苦痛から沈静化し、さらに奥深く入っていくというのです。
 残された親の手記を読んで、別離の悲しみが惻々と伝わってきました。
 私たちは、単に生きている人間を見ておれば、それが「いのち」を見ていることだと思ってはいけない。たしかに生物としての人間を見ていたとしても、それは、ただ「いのち」の影しか見てはいないことも多い。もう二度と再びこの愛するものの顔を見ることができないかもしれないという、そういう思いをこめてじっとみつめたときに、はじめて目の前に立ち現れてくるのが、本当の「いのち」というもの。
 なかなか考えさせてくれるいい本でした。

獄窓記

カテゴリー:未分類

著者:山本譲司、出版社:ポプラ社
 秘書給与の不正受領で実刑判決を受けた民主党の元代議士の刑務所生活が生々しく語られています。政策秘書給与に名義借りをしていたことを告発されたわけですが、告発したのは、その給与の大半を受けていた2人の元私設秘書だったというのですから、人事管理面で甘さがあったのでしょう。
 この本のすごいところは、刑務所生活の実情が体験談として、本人の弱点をふくめて刻明に描かれているところです。看守との人間関係の難しさや、寮内工場という障害者の「働く場」での身のまわりの世話の大変さが具体的に語られています。元代議士がウンコまみれの障害者の世話をしている様子には頭が下がりました。
 刑務所の運動会のフィナーレを飾る工場対抗リレーは、まるで国際大会だ、というくだりにも驚かされます。各工場のリレー選手はほとんど黒光りした肌の外国人なのです。
 それにしても、日頃モノカキを標榜する私の知らない難しい漢語が頻出するのにも驚きました。流汗淋漓、情緒纏綿。読めますか?刑務所でカントやニーチェの哲学書を読んでいたというだけのことはあります。
 また、刑務所のなかのご飯が意外においしいこと、できたてのパンの美味しさなども紹介されています。弁護士にとっても一読の価値があると思います。

愛を教えてくれた犬たち

カテゴリー:未分類

著者:篠原淳美、出版社:幻冬舎文庫
 幼いころから犬と一緒に生活してきたため、犬にはとても愛着があります。中学・高校のころはスピッツでした。雄犬なのにルミと、雌犬のような名前で、座敷犬でした。ですから、わが家の畳の上はいつもザラザラしていました。スピッツはキャンキャン吠えて、とてもうるさいのですが、よくなついて親しい関係でした。子どもたちが幼いころは、柴犬を飼っていました。柴犬には「シバワンコ」という可愛いマンガがあります。雌犬なのにマックスという雄犬のような名前でしたが、とても愛らしく、一家中の人気者でした。フィラリアのために若死させてしまって申し訳なく思っています。それ以来、犬は飼っていません。
 この本の著者は、17頭の犬と一緒に生活しているそうです。八ヶ岳の麓では300頭の犬とともに生活している人がいます。犬たちをの生活は大変だろうなと思う反面、うらやましさで一杯になります。犬はこちらが愛情をかけると、必ずこたえてくれるからです。その意味で、この本に飼い主から見捨てられた可哀想な犬が何頭も紹介されていて、胸が痛みます。自分を大切にしない人は犬も大切にしません。そんな人は犬を飼う資格はないのです。犬は、この世に生きる喜び、愛すること、愛されることの大切さを教えてくれる大切な存在だとつくづく思います。

インカ国家の形成と崩壊

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著者:マリア・ロストウォロフスキ、出版社:東洋書林
 16世紀、わずか数百人のスペイン人から攻められ、たちまち崩壊してしまったインカ帝国の脆さがどこに原因していたのか、この本を読んではじめて納得できました。
 インカ帝国でクスコの王たちが支配するようになって間もなく、それがしっかり根をおろして帝国全土を支配し尽くす前にスペイン人が来てしまった。
 インカ帝国内の大民族集団の多くは最近併合されたばかりで、住民たちは過去の自由の味をまだ忘れず、大首長たちはインカ帝国の支配から脱する機会を狙っているというのが大勢だった。スペイン人が来たとき、これら諸民族の首長たちが、かつての独立を回復することを援助してくれると期待して同盟を結んだのは不思議ではなかった。ワスカルとアタワルパという兄弟間の強い憎悪と内戦がインカ帝国の劇的な最期の直接の原因になったのは事実としても、根本的な原因は他ならぬアンデスの首長たちがインカ帝国の桎梏から脱しようとした願望にあった。
 山からきた征服者、つまりクスコの王たちに最良の高地を奪われ、海岸地方の首長に不満がみなぎった。また、インカ帝国のクスコの王たちと大首長とは互恵関係にあり、国家の基礎や構造は強さに欠けていた。この細い絆がスペイン人が来て消滅してしまった。
 インカでは、「もっとも有能な者を王に」というきまりがあった。それが故人の息子であろうと、叔父であろうと、兄弟であろうと、従弟であろうと、問題にすることなく、首長としてもっとも適切な者を王にすることになっていた。この権力継承の習慣が中央権力の弱体化を招いていた。貴族たちの対立が必然的だからである。現実にもインカ帝国では絶え間なく反乱が起こり、国家内部に統一性がなかった。
 王の死は、後継者が決まらないうちは秘密にされ、それを守るために厳重な注意がはらわれ、もっとも忠実で信頼できる者だけに知らされた。
 インカ帝国の諸民族集団は、大部分が帝国の支配を脱したいという望みをもっていたから、スペイン人に味方した。スペイン人を助け、食料・荷担ぎ人、補助部隊を供給した。これらなしには、スペインは事業に成功できなかった。ピサロは、民族集団の首長にある独立への願いを利用することが、彼らの協力を得るために役に立つと見抜いていた。スペイン人は敵対的な国の中に孤立をするどころか、最初から原住民たち頼みにすることができた。彼らは、ときがたつにつれて自分たちを束縛することになる屈服や従属の状態に、まだ気がついていなかった。
 なるほど、なるほど、という指摘です。ひたすら感心しながら読みました。

ブーヘンヴァルトの日曜日

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著者:ホルヘ・センプルン、出版社:紀伊國屋書店
 ナチスのブーヘンヴァルト強制収容所に入れられていたスペイン人の青年の回想記。ブーヘンヴァルト収容所での抵抗活動を描いた本としては『裸で狼の群のなかで』に深く心を打たれたことをすぐに思い出す。21歳だった著者も地下の武装行動
隊の一人だったようだ。この本は、いかにも哲学者の書いた韻文学的な表現が多くて、フランスで23万部も売れたベストセラーというのが信じられない。
 強制収容所のあまりにも過酷な事実を、何も知らない一般市民に対してどうやって知らせるかの議論があった。ある人は、「事態をありのままに、技巧なしに語るべきだ」と言う。しかし、著者は、「うまく語るとは、聞いてもらえるようにという意味だろう。少しは技巧がなければうまくいかないだろう」と反論した。「信じられないような真実をどう語り、想像不能なものへの想像力をどうかきたてるのか。だから、少しは技巧がいるんだ」というのである。私も、これにまったく同感です。
 事実が重たければ重いほど、そのまま伝えようとしても、誰も耳を貸してくれないでしょう。やはり、そこには聞き手の耳に入りやすい工夫もいるのではないでしょうか。
 このところ、なぜかナチスの強制収容所の話を続けて読んでいます。

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