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2003年10月 の投稿

知恵伊豆に聞け

カテゴリー:未分類

著者:中村彰彦、出版社:実業之日本社
 三代将軍・徳川家光の懐刀として小姓から老中まで昇りつめた松平伊豆守信綱の一生を描いた感動小説。
 この本は歴史書ではなく小説なので、私もそのつもりで読んだ。つまり、歴史書なら長所と短所、そして当時の社会状況とのかかわりあいのなかでのプラス・マイナスの双方をあげつらうことになる。しかし、この本は小説なのだから、主人公に感情移入するためにもマイナス要素はできるだけカットしてある。「知恵伊豆」とは、どういう経緯でそう呼ばれるようになったのか、幼年時代のエピソードが丹念に紹介されている。島原の乱(これには宮本武蔵も参戦し、負傷している)について、攻める側がいかに苦労したか、どんな工夫をして落城させたのか、その点がとくに興味を魅いた。
 知恵と工夫を一言でいうと、それは臨機応変ということなのだが、日頃からよく物事のウラとオモテとを考えておかないと、とてもすぐには出てこないような非凡な発想な持ち主だったということ。

暇つぶしの時代

カテゴリー:未分類

著者:橘川幸夫、出版社:平凡社
 40歳をすぎてから、無性に自分の時間が欲しくなった。世のため、人のために生きることが苦になったわけではない。でも、自分のためにつかう時間だってあっていいはずだ。なにしろ一回限りの人生なんだから・・・。日曜日の朝、家の外に広がる青空を仰ぎみて、さあ、今日一日は自分の時間だ、自由につかえるぞと心のうちで叫ぶ。家中を雑巾がけして汗をかき、シャワーで身体を冷やす。フランス語の勉強にたっぷり一時間はかける。仏和大辞典を隅から隅まで少しずつ読んでいく。赤エンピツでアンダーラインをひき、頁がどんどん赤くなっていくのを見ると心が躍る。まだ何かしら、これまでと違った人生が切り拓ける気がしてくるのだ。
 この本は、日本がもうモノづくり大国であるのは止めよう。それよりコトづくりでいこうと呼びかけている。なんだか分かったような分からない考えであり、ノドにつかえるものがあって共感しにくい。しかし、いくつか大いに共感する指摘もある。子どもと大人の違いは何か。それは時間に対するとらえ方の違いだ。自分の時間を生きる者が子ども。社会の時間を生きる者が大人だ。子どもは、自由に時間を使うことによって、現実の枠組みに支配されない可能性を発想することができた。私は、これからも自分の時間を生きる者、つまり「子ども」であり続けたいと願っている。

21世紀の刑事施設

カテゴリー:未分類

著:刑事立法研究会、出版社:日本評論社
 名古屋刑務所における収容者への虐待はひどいものでした。もっとも、冤罪事件ではないかという指摘もあり、被告人となった刑務官が無罪を主張している以上、軽々しく虐待があったと決めつけることはできません。
 この本は、日本の刑事施設の現状を十分認識したうえで改革・改善のための問題提起をしています。およそ現実をふまえない理想論だと批判されたこともあると書かれていますが、私はどれも重要かつ現実的な改革提言だと思います。
 犯罪者が激増していると言われています。たしかに、公判請求は5年間で9万人から12万人に増えています(2000年)。不起訴人員も31%増えています。刑事施設の収容定員は6万5千人ほどで、収容率は100%を越えています。とくに代用監獄(警察の留置場)の被収容者は65%も増加しています。これには判決の重罰化も影響しています。覚せい剤(28%)、窃盗(24%)の判決が重くなっているのです。
 ところで、警察官を増やして捜査能力を増強すれば犯罪が減って安全な社会になるというのは幻想であると指摘されていますが、私もまったく同感です。社会のなかに犯罪を生む温床をつくり、それを放置しておきながら警察官を増やしても抜本的な対策になるはずがありません。私は日々の刑事弁護のなかで、このことを強く実感します。
 日本の刑務所では、高齢者、外国人、女性が増加しています。それぞれ深刻な問題を引き起こしています。それでも、人口10万人あたりの被収容者数は、日本は40人で、イギリス125人の3分の1、アメリカ650人の6%でしかありません。
もっとも、これは英米の方に被収容者が多すぎるのです。
 現行監獄法は今から100年も前の1907年に制定されたまま、ほとんど改正されていません。まったく現代社会にあわないといって過言ではありません。1ヶ月1回しか面会や手紙の発信が許されないなんて、今どき、とても信じられません。電話をかけることがなぜ許されないのか、Eメールはどうなのか、検討すべきでしょう。また、家族面会ももっと自由にしないと、受刑者が本当に社会復帰するのは難しいと思います。
 私たちは、受刑者もいずれは社会に復帰するんだという点をしっかり認識すべきです。その意味で、本書で提案されているコミュニティ・プリズンの構想を日本でもしっかり検討すべきです。それは、刑務所の民営化という安易な方法で置きかえられるべきではありません。

ブッシュ家とケネディ家

カテゴリー:未分類

著者:越智道雄、出版社:朝日新聞社
 ブッシュ大統領はろくに英語もしゃべれない、演説のときスピーチ原稿どおりならまともだけど、即興の話では初歩的な英文法も間違う。こんな話がもっぱらです。でも、この本を読むと少し印象が変わります。それも彼なりの演出だというのです。
 ケネディ家はアイルランド系カソリックでありながら、「疑似東部エスタブリッシュメント」の地位を獲得した。ブッシュ家は正真正銘の東部エスタブリッシュメントの出ながら、いち早く地方資本の雄、南西部資本に片足をかけ時代を先取りした。先日、カリフォルニア州知事に当選したアーノルド・シュワルツェネッガーの夫人はケネディ(JFK)の三女の娘です。そしてハリウッドで数少ない共和党支持のスターとしてブッシュ大統領お気に入りなのです。
 大統領就任式のとき、JFKは両親を端に追いやって隠し、ブッシュ父は母親の額にキスしたそうです。それだけ、JFKはアイルランド系カソリックならではの気のつかい方、ブッシュはWASPならではなお悠長さがあったというのです。日本人の私たちは、とても信じられない話です。それでも、それぞれ2世代、3世代となると「乱交」にふけったり、スキャンダル続きで困っているそうです。日本では、政治家の2世、3世が幅をきかせています。
 あの、とんでもない放言居士(都庁に出勤するのは週に2日から3日だそうです。あとは遊んで過ごしているのです)の2世が今度、大臣となりました。こんなことで日本は本当に大丈夫なのでしょうか。私は心配です。

人は悲しみで死ぬ動物である

カテゴリー:未分類

著者:ゲーリー・ブルーノ・シュミット、出版社:アスペクト
 世にも残酷な実験をした皇帝がいる。ホーエンシュタウフェン朝のフリードリヒ2世(1194〜1250年)だ。皇帝は孤児となった新生児を選んで、乳母係に命令した。母乳を与え、入浴させて世話をすること。ただし、決して子どもをあやしたり、話をしてはいけない。皇帝は、子どもたちが話しはじめるとき、ヘブライ語かギリシャ語、あるいはラテン語、それとも親の言語で話すのか、それを知りたかった。
 しかし、それは子どもたちの死によって達成できなかった。子どもは、乳母が手をふって楽しげに顔をほころばし、自分をあやす言葉なしには生きることができないのだ。母乳があれば生きるというものではない。愛情は生きる養分となっている。関係の喪失は致命的なのだ。
 この本は、妻に先だたれた夫がなぜ早死にするのかというメカニズムを解明している。そのうえで、生きる力は、自分自身から創造的にあらわれるとして、次のように助言している。
 ・出口なしの状態を回避するためには、過去に同じような状況を解決したことを思い出す。
 ・助けのない状態を回避するためには、現在における解決を探す。
 ・希望のない状態を回避するためには、未来における解決を信じて先を見る。
 ・情緒的孤立状態を打破するためには、自分自身を鏡に映してみる。
 つまり、想像力や人間関係が「治療手段」になりうるということなのだ。私も、それを信じて、明るく前向きに生きていくつもりだ。

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