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2003年8月 の投稿

人間回復の経済学

カテゴリー:未分類

出版社:岩波新書
 著者の神野直彦・東大教授は、大学を出て自動車工場の組立工として、また自動車のセールスマンとして働いたことがあるそうです。私の知っている著名なジャーナリストにもそういう人がいます。私も大学時代にセツルメントという学生サークルで、擬似体験を少ししました。
 企業が情容赦なく従業員を解雇しているときに、政府が公務員を解雇もせずに、安穏としているべきではない。政府は率先垂範して、行政改革を実施することによって人員整理すべきだと主張している。公務員を減員して「小さな政府」にする。企業もリストラによって大削減をする。つまり、人間のいない政府、人間のいない企業こそ理想だと考えられてしまう。「そして誰もいなくなった」という社会は、人間の社会ではない。いいかえれば、人間のために社会があり、経済がある。明らかにハンドルを切りまちがえている。
 日本では、民主主義が機能していないと慨嘆するだけで、民主主義を機能させるために、人間の知恵をはたらかせようとはしない。それどころが、民主主義を逆に鼻であざわらうようになり、民が支配すべき公に「官」というレッテルを貼り、よこしまな私を「民」といいくるめ、「官から民へ」という合言葉で、公を私化しようとしている。
 民主主義は人間の知恵の産物である。知恵をはたらかせなければ、民主主義の活性化はありえない。日本のあり方、将来を考えるうえで大いに参考になります。

在日米軍

カテゴリー:未分類

出版社:岩波新書
 湾岸戦争のとき、戦闘による死者は、イラク軍については兵士と民間人あわせて10万〜13万人とされているのに対して、アメリカ軍ではわずか144人でした。超近代兵器を駆使して、安全な場所から敵をたたくアメリカ軍の作戦を近代ハイパー・ウォーと呼ぶそうです。これは、戦争というより大量虐殺だとジャーナリストは言っています。
 横須賀から出動した空母ミッドウェーは、1人の兵員も1機の航空機も失うことなく、他のどの空母よりも多くの出撃をこなしたそうです。この事実は、在日米軍基地で行なわれている訓練レベルの高さと秀逸なメンテナンスを証明しています。ペンタゴンの日米安保関係報告書によります。
 この本を読んで、テポドン・ショックが、実は、つくられたものだったことを知りました。海上自衛隊のイージス艦「みょうこう」は、2週間も前から日本海に出て発射の瞬間をとらえるために待機しており、レーダーは見落とすことなく、追跡しました。また、アメリカ軍も、三沢基地を中心としてRC135S(電子情報収集機)2機によって監視していました。発射が近いという情報は偵察衛星から得ていたそうです。
 次のように書かれています。無関心のひろがりは、日本の政治に理念や理想が失われ、市民が根源的なものを問うエネルギーを失っていく過程と重なって進行してきたのではないか。著者の問いかけを私は重く受けとめました。

新世紀の労働運動ーアメリカの実験

カテゴリー:未分類

出版社:緑風出版
 アメリカの労働運動がどうなっているのか知りたくて読んでみました。
 アメリカでも労働組合の組織率は長期低落傾向にあります。1954年の35%が最高で、1980年に23%だったのが、今や11.2%にすぎません。ストライキも1977年の3111件が、1995年には385件となっています。その結果、実質賃金は1973年から1995年の間に15%低下し、若年層世帯の実収入は3分の1ほど減少しました。
 そのなかで、1995年10月の大会でAFL・CIOは改革派のジョン・スウィニーが勝利し、執行評議会には、女性が6人、アフリカ系9人、ラテン系1人、アジア系1人を含むことになりました。組織率を向上させるための方法として注目されるのが、学生を組合オルグに採用することです。1000人以上の大学生を全国に配置したのです。
 弁護士の関わりで言えば、使用者側は組合潰しの弁護士を雇っています。しかし、反対に労働者を組織する役目を果たしている弁護士もいます。
 AFL・CIOは伝統的に民主党の支持基盤でした。スウィニー執行部は、少しずつ主体性をもって政治に関わろうとしているようです。

イラク、湾岸戦争の子どもたち

カテゴリー:未分類

著者:森住卓、出版社:高文研
 昨年4月に発刊された本ですから、今年のイラク戦争の場面は出てきません。でも、劣化ウラン弾が、イラク全土に放射能をまき散らし、大勢のイラク国民が苦しんでいることが写真で見てよく分かります。白血病、無脳症・・・。無言の写真は実に雄弁です。子ども専用墓地まであるとは・・・。すでに核戦争が始まっていることを実感させる寒々とする写真が続き、つい目をそむけたくなります。
 でも、私たちは勇気をもって現実を直視し、感じたことを声にする必要があると思います。あのときイラクへ自衛隊を送るのを阻止しておけばよかった・・・と後になって悔やまないように、何らかのアクションを今おこしましょう。

豊かさの条件

カテゴリー:未分類

著者:暉峻淑子、出版社:岩波新書
 『豊かさとは何か』(岩波新書)の著者による続編みたいなものです。前の本がドイツ語では『貧しい日本』という題で出版されたことを知って、ええーっと驚き、ついうなずいてしまいました。エンゲル係数で有名なエンゲルの言葉が紹介されています。各国の経済力は物的生産量などで比較するのは無意味で、経済力を表す真の指標は、それぞれの国民の生活水準、つまり福祉の測定としての生計費である。これを、著者は、民主主義や人権の基礎が生活の福祉水準にあること、経済の活力もまた、自由と安全を基盤にした人間の活力なしにはありえないことを示したと解説しています。
 さらに、エンゲルは、ごく少しずつなだらかな暮らしの向上が、人々の生活と行動を堅実で着実な発展に導く、急激に成金になったり、逆に落ちこんだりする中では生活の荒れと退廃を免れない、安心の支えなしに人間社会は成り立たないということも言っているそうです。私も、まったく同感です。
 70代の著者が内戦で荒廃したユーゴスラビアに何度も出かけ、日本の子どもとホームステイの交流を実現するなど、そのたくましさには感嘆させられます。つい朝寝坊してしまう日本の若者も、いざとなれば立派にやるべきことをきちんとやれることも紹介され、安心します。でも、日本の家庭に詩集がほとんどなく、最後まで本を読み終えるのは困難という子どもが日本は世界で一番多いという点は、日本の将来に不安も覚えます。モノにあふれた日本ですが、心は貧しい日本人が多いように思われてなりません。

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