著者:ホルヘ・センプルン、出版社:紀伊國屋書店
ナチスのブーヘンヴァルト強制収容所に入れられていたスペイン人の青年の回想記。ブーヘンヴァルト収容所での抵抗活動を描いた本としては『裸で狼の群のなかで』に深く心を打たれたことをすぐに思い出す。21歳だった著者も地下の武装行動
隊の一人だったようだ。この本は、いかにも哲学者の書いた韻文学的な表現が多くて、フランスで23万部も売れたベストセラーというのが信じられない。
強制収容所のあまりにも過酷な事実を、何も知らない一般市民に対してどうやって知らせるかの議論があった。ある人は、「事態をありのままに、技巧なしに語るべきだ」と言う。しかし、著者は、「うまく語るとは、聞いてもらえるようにという意味だろう。少しは技巧がなければうまくいかないだろう」と反論した。「信じられないような真実をどう語り、想像不能なものへの想像力をどうかきたてるのか。だから、少しは技巧がいるんだ」というのである。私も、これにまったく同感です。
事実が重たければ重いほど、そのまま伝えようとしても、誰も耳を貸してくれないでしょう。やはり、そこには聞き手の耳に入りやすい工夫もいるのではないでしょうか。
このところ、なぜかナチスの強制収容所の話を続けて読んでいます。
2004年1月1日


