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カテゴリー: 韓国

韓国・国家情報院

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 佐藤 大介 、 出版 幻冬舎新書
 韓国にとって、国家情報機関の歴史は、「暗黒の歴史」でもある。国情院の前身は、KCIAと安企部だ。いずれも大統領直属の情報機関であり、秘密警察でもある。
この本のなかに韓国の国情院が裁判官志願者に対して面接し、国家に対する忠誠心、誠実性及び信頼性について思想調査していることが問題になったことが紹介されています。日本では、司法試験の合格者に対して公安調査庁が身辺調査をしていました。私が司法試験に合格したとき、下宿先のおばさんから調査に来た人がいて、「いい人だと言ってやったわよ」と言われたことを思い出しました。市役所に勤めていた人から、市役所で訊いてまわっていたと後で教えられた、と聞きました。
 今でもやっているのか、いつまでやったのか、私は知りませんが、その調査結果は秘密のルートで最高裁に届けられ、また司法研修所の教官の一部に届けられていました。これは私も体験した、間違いのない事実です。
 KCIAは「ミリムチーム」を活用していた。これは、高級ホテルのバーや料亭などを拠点として、そこに働く女性の経営者や従業員を監視員として活用して政治家などの「生」の情報を収集していた。
 今でいうと、国民民主の玉木とか、参政党ナンバー2の議員の不倫などを探知して、「ゆすりたがり」のネタとして活用していたということでしょうね。でも、今や「不倫」くらいでは国民の「支持」は減殺されなくなってしまいました。これって、本当に喜んでいい現象なのか、私としては悩ましいところです。
 ところが、高度の情報収集能力をもつはずの安全部も国情院も、全日成の死も金正日の死も、いずれも北朝鮮政府の公式発表まで気づいていなかった。いやいや、内部情報で気づいていたのだけれど、気がついていなかったふりをしただけ、なのかもしれませんね。
 KCIAを創設した朴正熙は結局、KCIAの部長から私的飲み会の場で至近距離で射殺されてしまいましたよね。
 KCIAの歴代部長のほとんどが軍出身者。つまり、軍が支配していた。
 KCIAの部長は、ほかの大臣よりも地位が高く、実質的な権限は首相よりも強かった。これって、まさに異常ですね。
朴正熙がKCIA部長から射殺されたのは1979(昭和54)年10月26日のこと。このKCIA部長は、翌1980年5月に絞首刑が執行された。
 KCIAが安企部に名称を変更したのは全斗煥大統領のとき。映画「ソウルの春」で、そのあたりの状況が再現されています。ちょうど、光州事件が起きたころのことで、全斗煥は民主化へ進むのを必死で巻き返そうとしたのです。そのおかげで、たくさんの罪なき市民が死傷してしまいました。軍人に政治をまかせたら大変なことになるという典型的な出来事です。
日本でも、自衛隊出身の国会議員や県知事が前から大きな顔をしてモノを言っていますが、私は本当に心配です。もちろん、自衛隊出身だからダメだというのではありません。俺たちだけが国を守っているかのような言い方が許せないのです。
盧武鉉(ノムヒョン)大統領は叩き上げの弁護士として、私も大いに期待していたのですが、残念なことに汚職事件の渦中に自死してしまいました。この盧武鉉大統領は、国情院の院長に民弁(民主社会のための弁護士会)の初代会長を起用したのでした。
 これまた、すごいことです。日本でいうと、自由法曹団の岩田研二郎団長を公安調査庁の長官に任命したということに匹敵します。
 国情院の予算は1000億円(1兆ウォン)。それに対して、日本は1500億円と推計されている。ところが、この1000億円の使途は、すべて秘匿されている。日本も同じです。
 韓国のKCIA、安企部そして国情院のことを少しばかり知って再確認しました。
(2025年5月刊。96円+税)

不便なコンビニ②

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 キム・ホヨン 、 出版 小学館
 私の事務所のすぐ前にコンビニがあります。事務所の場所を電話で教えるときにも、「分からないときはコンビニの広い駐車場に車をいったん停めてから電話して下さい」と説明することがあります(事務所専用の駐車場もありますが、コンビニのほうが目立っているし、分かりやすいのです)。
 私も昔はコンビニなんか利用しないと高言していたのですが、今は愛用しています。だって、他に選択肢はないのです。小売商店はすっかり消え去ってしまいました。商店街のほとんどはシャッター通りになっています。
 この本の舞台は大手コンビニのチェーン店ではなく、中小系列のようです。日本では大手コンビニのチェーン店ばかりになってしまいましたが、韓国では、まだ中小系列のコンビニが生き残っているようです。そして、日本の都会のコンビニの定員の多くは東南アジア系です。「日本人ファースト」を唱えて「躍進」した参政党は外国人排斥の差別主義を広めていますが、現実を無視していますし、怖いです。900万人以上の日本人が参政党に投票したという現実に身の震える思いです。
 この本のコンビニには外国人労働者は登場しません。しかし、韓国内で、差別され、落ちこぼれた人たちの救いの場にコンビニという職場がなっていますし、客層も、家庭と職場に安住できる居所のない人たちが寄り集まってきます。ここらの社会の現実と登場人物の心理描写が見事で、いかにもありそうな展開です。
 韓国式の表現に驚かされます。お尻の穴が裂ける。貧しいとき、代用植物として木の皮を食べていると便秘に苦しまされることから来たもの。カラスの肉でも食べたの?忘れっぽい人を皮肉る慣用句。韓国式の語感が似ているコトバによるもの。
コンビニという場所は、店長のような人だけでなく、何か訳ありな人が出入りするところ。
 彼らは皆、不愉快な顔で、むっつりと何かに耐えているようだったが、クンベ(店員)が一言かけると、風船が割れたように口から言葉が飛び出してきた。
 本書は『不便なコンビニ』の続編です。前書は120万部も売れる超ベストセラーになりましたが、続編も初版だけで10万部で、たちまち重版となり、正続あわせて170万部といいます。いずれ劣らぬ個性的なキャラクターが章ごとに登場するのですが、彼らがうまい調子に結びついていく趣向は前作と同じで、ともかく読ませます。
 人生につまづいた人たちへの温かい眼差(まなざ)しと激励は、著者自身の苦労を反映したものだという訳者の解説があります。だからこそ人々に広く読まれるのだと思います。
(2025年3月刊。1980円)

縮む韓国、苦悩のゆくえ

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 朝日新聞取材班 、 出版 朝日新書
 日本社会もさまざまな問題をかかえていて大変ですが、隣の韓国は少子化という点ではもっと深刻のようです。
 韓国の人口は今5168万人(2025年)ですが2050年には4711万人(456万人減)になるそうです。日本はそのとき1億468万人(2026万人減)。
 出生率は日本が1.20に対して、韓国は0.72。日本でも少子化が問題になっていますが、韓国はそれ以上に深刻です。
 少子化で困ることの一つが必要な職業での人員確保が出来ないことです。たとえば、介護職です。もともと学生が少ないうえに、介護職の大変さと、その待遇の悪さ(低賃金など)によって介護施設が維持できなくなっています。そのため、インドネシア人などを導入しています。外国人排斥なんてとんでもないことなのです。
韓国の飲食店では、「ノーキッズゾーン」の飲食店があるとのこと。日本でも以前に話題になりましたよね。ファミレスで子どもが騒いで、うるさいという苦情が出ていたのです。でも、子どもが騒ぐのは万国共通なのですから、仕方がないこと。お互い我慢するしかありません。
韓国の子育ては、ともかくお金がかかる。習い事をハシゴする子どもたちが大半。毎日、夜7時まで、4ヶ所ほど習い事をまわる子が珍しくない。すると、もちろんお金もかかる。そこで、結婚していない男女、結婚しても子どもをつくらないカップルが増えているというのです。
韓国の少子化が進んでいるのは、子どもたちを育てるのに大変お金がかかることが原因しているというわけです。
 韓国では、大学進学率が7割、男女間の差は大きくない。ところが、結婚すると、女性は家事を押しつけられる。
子どもを持つことで、自分の人生を犠牲にしたくないと考える女性がいても不思議ではないのです。
韓国では、最近、「ひとりご飯」を受け入れる店が流行しはじめている。
 韓国は日本以上の競争社会だけど、高校までは受験で進学先を振り分けられることはない。大学受験の一発勝負。異様なほどソウル首都圏に集中する。
 ソウルの地下鉄は、65歳以上は無料で乗車できる。
 高齢者の生活難、貧困の問題は深刻だ。高齢者の貧困率は39.3%(2021年)。日本(20.0%)の2倍。OECD平均の3倍の高さ。自殺率も高い。
 若者はソウルに集中する。その穴を外国人労働者が埋めている。
釜山には何度か行ったことがありますが、この30年間に人口が50万人も減ったそうです。驚きました。390万人だったのが今や330万人です。若者人口が減っています。79万人いたのが、69万人になりました。
 日韓、似ているようで、異なるところもあります。お互い、もっと知る必要があると痛感しました。
(2025年5月刊。990円)
 6月に受けたフランス語検定試験(1級)の結果が届きました。もちろん不合格です。自己採点で50点でしたが、得点は55点。150点満点ですから、4割に届いていません。合格点は82点なので、27点も差があります。道はるか遠い先です。もう30年以上も受けていますが、今では合格するのが目標というより、語学力の低下を防ぐ、というよりはっきり言って、ボケ防止です。
 参政党がブームで、大きく議席を伸ばしそうです。でも「与党入りを目ざす」とのこと。つまりは落ち目の自民党を支えるということです。大臣の席をもらいたいのでしょう。自民党政治を根本から変える気はまったくないのに、なんだか「日本人ファースト」を唱えているから、政治を良い方向に変えてくれるんじゃないかということです。大きな「敵」(自民党)を守って、小さな「敵」(外国人)をヤリ玉にあげて、目をそらしています。
 騙されないようにしたいものです。

「弱さ」から読み解く韓国現代文学

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 小山内 園子 、 出版 NHK出版
 「カンニチホンヤクをしています」と著者が自己紹介しても、すぐには分かってもらえなかったのが、今では、ああ「韓日翻訳」とすぐ分かってもらえ、韓流ドラマのように韓国文学も大勢のファンをつかまえている状況になっています。先日、ノーベル文学賞をもらったハンガンの作品は私もいくつか読みましたが、どれも読ませました。この本には登場しませんが、「コンビニ」を舞台とした本もとてもよく出来ていました。
 韓国では8月15日は「光復節」として国民の休日になっている。1945年8月15日は、日本は終戦(敗戦)記念日だけど、韓国では奪われていた国の主権を取り戻した日。
 ところが、8月15日はただちに「光」が示す、自由や公正さや平和が朝鮮半島に住む人々の手に戻ったのではなかった。その後、朝鮮戦争もあり、理不尽としか言いようのない死も数多く生まれたのが歴史の現実。
韓国社会には、「作家は社会に声を上げるべき」という考えが非常に強い。作品を通じて社会にコミットする文学を「参与文学」と呼ぶ。
日本で2018年以降、爆発的に韓国の本が読まれるようになったきっかけの本がチョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ション』。日本で29万部も売れた。韓国社会に一大センセーションを巻き起こした。
 私は読んでいませんが、『椅子取りゲーム』(孔枝泳)という本があるそうです。小説ですが、実在の事件を素材にしています。2009年4月、韓国の大手自動車のメーカーであるサンヨン(双龍)自動車が従業員の整理解雇を発表し、労働組合はそれに反対して全面ストライキに突入した。労働争議は2ヶ月も続き、結局、警察が鎮圧した。この争議が終結したあと、22人もの労働者とその家族が自殺したというのです。これには腰を抜かすほど驚きました。
 著者は、全斗煥軍部政権のころに大学生であり、大統領選挙の不正に抗議する学生デモに参加して逮捕もされています。
 「椅子取りゲーム」というのは子どものころのゲームの一つです。日本にもありますよね。会社による整理解雇の対象になっているかどうなのか、従業員は疑心暗鬼の状況に陥っているのです。韓国の労働争議には、会社から雇われて労働者を襲う「用役」という武装集団がいる。雇用関係で雇われた「傭兵」に近い存在。権力と市民労働者が衝突するとき、権力側の武力装置としてよく登場する。
韓国の労働運動では長い歴史をもつ戦術として「高空籠城」というものがある。たとえば、高さ70メートルの煙突の上にのぼって抗議するというもの。ずいぶん以前、三池大争議が終結したあと、三池労組が縮小していく過程で、労組の書記が労働組合をつくって、労働争議の一形態として、同じく旗の掲場台(塔)にのぼったということがあったのを思い出しました。
 韓国の小説には、臭いに関する描写が多用されるという特徴がある。
 セウォル号事件は2014年4月16日に起きました。これは、本当にひどい事件でした。船内放送に素直に従った高校生たちが300人ほど亡くなったのです。本当に心が痛みます。生きていたら、もう30歳、元気に働いて、子どももいる年頃ですよね。
サムスンの法務担当だったキム・ヨンチョル弁護士が巨額の裏金の存在を告発した事件があった(2007年)そうです。知りませんでした。創価学会の顧問弁護士だった人の事件を思い出しました。こちらも巨額の裏金の告発もあったように覚えています(確か…)。
 日本では「親ガチャ」と言いますが、韓国では「銀のスプーン」「泥のスプーン」と呼ぶそうです。親の財力や家庭環境をスプーンの素材で表現するというわけです。それにしても泥で出来たスプーンなんて、すぐに溶けてなくなるでしょうに…。
 ソウルの地下鉄に車イスの障害者数十人が朝のラッシュアワー時に乗り込む「デモ」を敢行したそうです(2022年春)。たちまち地下鉄の電車は遅延し、市民の足に影響が出たそうです。そうやって移動する権利の実現を目指して行動したというわけです。すごいですね。韓国の状況を多角的に捉えることが出来る本でした。
(2024年11月刊。1700円+税)

韓国、男子

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 チェ・テソプ 、 出版 みすず書房
 日本の若者の多くが非正規雇用ばかりの労働環境のなか、低賃金・長時間労働で結婚難に直面し、先の将来展望が見えないという大変な状況に置かれています。この本によると、韓国でも似た状況があるとのこと。
21世紀の若者には希望を抱けるだけの客観的な拠りどころがひとつもない。まともな職業に就くことが難しく、だから稼ぎを手に入れるのも難しい。学んだこととは違って、現実はもどかしくてうっとうしい。生き残るために競争せざるをえないのは当たり前のことではあるが、戦う前から既に敗北している。
 いやあ、これはまったく同じですよね…。実は、私には韓国に住む孫(男の子)がいるのです。祖父として心配なのは兵役です。この本を読んで、ますます心配になりました。
 軍での経験は、韓国男子がもっとも大きく、広く共有する一種の集団的トラウマだ。なぜなら、韓国の徴兵制度は、人格を剥奪(はくだつ)することを前提に設計されているから。入隊後の新兵訓練プログラムには、新兵を着実に一般社会から切り離そうという意図が強い。
 単に独立させるのではなく、ある種の人間工学にもとづいた「人間改造」に近い。
 訓練兵たちは、それまでの話し方、歩き方、食べ方といった人間のもっとも基本的な動作をガラリと変えることを求められる。それに早く適応できないと、処罰と不利益を受けることになるが、それは、所属集団全体にまで影響を及ぼす。
 聞き覚えが悪い人、ミスを犯す人を軍隊では「顧問官」と呼ばれ、怒りを向けることを学習させられる。
 韓国の軍隊では、2000年以降、毎年最大182人から最低でも75人が死亡していて、その死因の第一位は自殺。
 1948年に軍が創設されてから、軍で死亡したけれど国家から何の礼遇もされていない死亡者は累計で3万9千人もいる。
 軍隊では、軍の主張どおりの安保・反共イデオロギーを徹底して叩きこまれる。
軍隊では、上司によって、すべてがひっくりかえってしまうことが少なくない。非体系的、恣意的に物事が運用されている。
 いやあ、いかに効率良く人殺しするかという訓練をさせられるうえに、上司の理不尽な仕打ちについてもひたすら耐え忍ばなければいけないというわけです。耐えられません。
 今なお英雄視する人もいる朴正熙は、任期芸能人や若い女性を呼びつけて手当たり次第に弄(もてあそ)び、国家機関を遊興のために動員し、国庫を自分の小遣いのように使う、典型的な独裁者だった。
 韓国の男は、家庭で、尊敬され、愛される家族の一員ではなかった。韓国の男たちは、長い間、そうなる必要がなく、そうなってはいけないと教え込まれてきた。
 韓国の若い男たちの一部(多くか…)が、女性にも兵役の義務を課すことを求めたりしているようです。とても私には理解できません。むしろ、男性にも徴兵義務をはずし、アメリカのように志願兵制度にしたらどうかと考えています。大いに考えさせられる本でした。
(2025年1月刊。3300円)

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