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カテゴリー: 警察

廃墟に乞う

カテゴリー:警察

著者 佐々木 譲、 出版 文藝春秋
 うまいものです。いつ読んでもたいしたものだと感心します。ただ、今回は連作小説なので、謎解きがちょっとばかり早すぎて、少々物足りない感もありました。
 北海道警本部捜査一課の仙道孝司警部補は心の痛手を癒すために上司から休職を命じられています。休職中は新聞も読まず、温泉にでも入って何も考えたらいけないと医師から指示されているのでした。
 そんな仙道に、知人から次々に依頼があるのです。捜査権限もないのに、どうやって事件に関われるか。昔の同僚に教えを乞い、現場の捜査員たちから「邪魔してくれるな」と言われながらも、仙道は関係者を訪ねて歩き回るのでした。
 犯罪は捜査員の心までも傷つける。帯に書かれた言葉です。なるほどそうだろうなと思わせます。
 私もいま被疑者国選弁護事件を引き受け、毎日とまでは行きませんが、警察にしょっちゅう出入りしています。応対する警察官もいろいろです。臨機応変に対応してくれる人もいれば、四角四面の人もいます。
 一日中、灰色の部屋に缶詰になっている警察官について、哀れだなと感じることがあります。交際範囲が限定され、狭くて窮屈な階級社会のなかで、毎日とてもストレスがたまるばかりではないでしょうか。
 先日、私の面会した被疑者が厚手の長袖を着ていたので驚きました。冷房の効き過ぎで寒いからだと言います。恐らく留置所係員のために冷房をきかせているのでしょう。まさか、それって逃亡防止ではないでしょうね…。
(2009年7月刊。1600円+税)

「特捜」崩壊

カテゴリー:警察

著者 石塚 健司、 出版 講談社
 東京地検特捜部に対する、ここ数年聞かれる危惧の声は、これまでのものと次元が違ってきている。機能不全の兆候があるという。元特捜検事たちから、古巣の特捜部に対する不審や危惧の言葉を聞くことが増えている。
 特捜部の任籍期間が徐々に短くなっている。かつては10年以上がザラだったが、現在は特捜部長で6年、副部長で5年となっている。人材育成のシステムが失われてしまった。そして、特捜部長の前任地は法務省の行政職だというケースが最近は多い。
 現在の特捜検察の問題点として、上意下達型、悪者中心型、劇場型の3つのキーワードがある。
検事の隠語のなかに、自動販売機というのがある。取調官に迎合し、何でも言われるままに認める状態になった相手の人間を言う。相手が自動販売機になったとき、調子に乗って作文した調書に次々と署名させていった結果、明白な事実と反する内容の調書まで法廷に出す失敗を犯し、弁護側に矛盾を突かれて、調書全体の任意性を否定されたという例もある。だから、自動販売機の取り扱いには細心の注意が必要で、しつこく事実を問い正し、供述の裏付けを取らなければならない。ふむふむ、なんだか思い当たります。
 自民党の新井将敬代議士は、1998年2月、特捜部の捜査を受けていた最中に自殺した。新井代議士は、まったく面識はありませんが、私と同じ団塊世代であり、東大闘争のときには過激派というべき全共闘の闘士だったそうです。
 真実の究明よりも、有罪の判決を得ることのみに全力を注いだように見える取調べ。これが現在の「日本最強の捜査機関」の実態であることはさびしい限りだ。
 そもそも特捜部は、警察には適さない、専門的な法律知識が必要な捜査をすることを建前としている。現在、国税庁、証券取引等監査委員会、公正取引委員会という強制調査権限を持つ3機関からの告発事件の捜査を一手に扱うほか、情報提供や告訴・告発を受けて独自の捜査をすることができる。
 全国に50ある地検のうち、東京・大阪・名古屋の3地検のみに特捜部が置かれている。福岡にはないのですね……。
 東京の特捜部は、検事32人と副検事2人、事務官91人の計125人いる。警視庁捜査2課(知能犯を扱う)や国税局査察部とは、比較にならないほどの小さな組織でしかない。
 検察庁の捜査能力が低下したため、そのかげで高笑いしている政治家や財界人、そして暴力団などの闇の勢力がたくさんいるのでしょうね。残念です。
 お濠のハスの白い花の上を、赤とんぼがたくさん飛んでいます。ツクツクボウシが鳴き始めて、昼間から秋の気配を感じられるようになってきました。
 我が家の庭の秋明菊も、ツボミをふくらませつつあります。夜になると、虫の音も勢いを増してきました。今年は、セイケンコータイ、セイケンコータイと盛大に鳴くのでしょうね。でも、中身が良くなる政権交代でないといけません。看板だけ付け変わることのないようにしたいものです。
(2009年4月刊。1500円+税)

スパイと公安警察

カテゴリー:警察

著者 泉 修三、 出版 バジリコ
 内外のスパイを尾行したり、摘発したり、公安警部としての自慢話が中心の本ですが、その反面、家庭は崩壊し、自律神経失調症になったり、アル中になったりと心身もボロボロになって、いやはや実に非人間的で大変な仕事だということも伝わってきます。
 過激派の手配写真も、実はニセモノがあったりするそうです。逃亡犯を安心させるためのテクニックなんだそうです。そっかー……、と思いました。
 外国のスパイを摘発するため、罪名がないときの別件逮捕を「引きネタ」と呼ぶことも知りました。その引きネタ探しに2年もかけることがあるといいます。ことの善し悪しはともかくとして、何事も地道な基礎作業の積み重ねだということなんですね。
 内閣調査室、外事一課(ソ連KGB対策)、公安三課(右翼対策)、公安特別捜査隊(中核派対策)、外事一課(国際テロ班々長)、など、警部補10年で要職を渡り歩いているとのことですから、それなりに有能だったのでしょう。
この本を読むと、著者は一匹狼的な性格があまりに強く、チームで動くことは苦手だったように思われます。すると、出世も当然のことながら遅れますよね。
 公安畑の警察官の仕事ぶりの一端を垣間見る思いのした本でした。
 
(2009年2月刊。1600円+税)

現職警官「裏金」内部告発

カテゴリー:警察

著者 仙波 敏郎、 出版 講談社
 すごいですね。この3月に定年退職した私と同じ団塊世代の警察官が書いた本です。24歳で巡査部長となり、そのまま昇進もせずに42年間の警察官人生をまっとうしました。
 どうしてそうなったか?それは著者が警察内部で今も堂々と横行している「裏金」づくりへの加担を断ったことから、組織不適合者をさすマルトク(○の中に特)の烙印を押されたことによります。そして、2005年1月に現職警察官として初めて「裏金」を告発したことによります。いやあ、すごく勇気のいる行為でした。著者をしっかり支えた奥さん、そして、家族も偉いものです。著者は、次のように書いています。
 日本の片隅に、高卒で警察官になり、出世や私利私欲よりも当たり前の「正義」を当たり前に貫いた男が一人いたことを知ってほしい。特別な人間ではなく、権力もない人間でも、心に正義の火が灯っているかぎり出来ないことではない。そうすれば、この36年間の孤独な闘いにも一片の意味があったと信じることができる。
 なるほど、偉大な意味がありました。16年間で、署内移動もふくめて9回も異動させるほどの嫌がらせに耐えたのです。すごいです。
 警察の昇任試験は、受験者の7、8割には問題が漏れている。本当に実力だけでパスするのは、2、3割しかいない。
 捜査協力というのは、建て前は捜査協力者に支払われるお金であるが、実際にはほとんど外部へ支払われていはいない。警察官や警察職員が協力者になりすましてニセ領収書をつくり、その99%を裏金にしてきた。
 捜査本部を設置する費用として県警本部から600万円が署に送金されてきたとしたら、その半分の300万円は県警本部に裏金として戻される。
 裏金づくりの指揮官は、署では副署長であり、本部では各課の次長である。集金役には会計課長があたる。お金は、すべて現金で動き、銀行は使わない。決済を求める文書を差し出す「決済挟み(ばさみ)」にはさんで渡す。
 領収書の偽造は、会計監査のときにバレないように毎月一人3枚まで、と決まっていた。
 転勤していく署長には餞別として800万円もの大金を渡す。宇和島署では、年間1200万円ほどの裏金が作られていた。年度末に金庫をカラにしておかないとまずい。そして、署長は県警本部に戻って本部長へのお土産をとどける。その原資になった。
 すごい本です。読むと勇気が湧いてきます。
 本屋で買って読んだあと、著者からサイン入りの本を贈っていただきました。ありがとうございます。ぜひ、今後とも元気にがんばってください。
 
(2009年4月刊。1500円+税)

疑心…隠蔽捜査3

カテゴリー:警察

著者 今野 敏、 出版 新潮社
 キャリア組で降格処分を受けて警察署長になった主人公が、アメリカ大統領が来るときの方面警備本部長に任命されます。本来、一署長がそんな地位につくはずがないのです。なにかの間違いだと問い合わせても、その通りだという答えしか返ってきません。何か重大な失策をやらかせて、追い落としを図る陰謀ではないのか……。
 うまいですねえ。実に気を惹く出だしです。
 警備本部には、いくつかの等級がある。最高位は、最高警備本部。国家に甚大な影響を及ぼす恐れがある事柄を警戒し、防止するためのもの。警察庁内に置かれ、本部長は警察庁長官ないし次長がつとめる。
 次に、総合警備本部。警備事案を担当する警察本部に置かれる。本部長は警視総監か道府県本部長が任命される。
 その下が、特設警備本部と特別警備本部。「特設」は国宝の保護とか群集に対する警備を扱う。本部長は警察庁警備局の警備課長が理事官。「特別」は、日米合同演習などの特別な場合に設置する。本部長は警視長が担当する。
 方面警備本部は場所を一定の区域に限定して設置する。本部長は警視正。
一番下が、管内警備本部。これは警察署長単位の警備態勢。範囲は署の管内のみ。本部長は、署長か課長。
 この本では、キャリア組の警察官僚がお互いに拮抗しながら動き回る様子が描かれ、また、下積みの刑事の苦労がそれを支えていることも明らかにしています。と同時に、キャリア組の署長がついつい「不倫」願望のような、人間らしい悩みにはまって泥沼をはいずりまわる心理状態を追い続けていますので、読み手に人生の深い淵をのぞかせる気にさせてくれます。そこらあたりの人情の機微は、見事なものです。
 アメリカの大統領を守るためのシークレットサービスが先発隊としてやってきて、日本の警察を思うように動かそうとして、あつれきが発生します。おそらく、こういうことも起きるんだろうな、と思わせる描写です。
 心理描写にも優れた警察小説として、一気に読み上げました。
(2009年4月刊。1500円+税)

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