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カテゴリー: 警察

後悔と真実の色

カテゴリー:警察

著者 貫井 徳郎、 出版 幻冬舎
 タイトルからはさっぱり見当つきませんが、警察小説です。
 挑発する犯人と刑事の執念がぶつかりあうリアルな警察小説にして、衝撃の本格ミステリ。このように帯に書かれていますが、確かにそうです。
 推理小説でもありますから、犯人のなぞ解きはしません。意外な結末だったというにとどめておきます。
 警視庁のもつデータベースを閻魔帳という。警視庁がこれまで入手したあらゆるデータがすべて収められている。一度でも逮捕されたことのある者の個人データは当然のこととして、単なる職務質問で得た情報までデータベースには登録されている。
 都内で事件が発生したときには、このデータベースに地名を打ち込む。すると、逮捕歴のある人について、本籍地や現住所、過去の住所、家族や親せきの住所、愛人の住所のいずれかが引っ掛かったものがすぐさまリストアップされる。洗われるデータは住所だけではない。過去に犯罪を起こした場所も検索されるし、職務質問を受けた場所も事件現場に近いかどうか見逃されない。
 この検索で浮かびあがった人物は、土地勘のある素行不良者として捜査対象になる。
 インターネットが一般に広く流布しはじめてから、犯人検挙率は大きく下がった。警察にとって、インターネットは諸悪の根源でしかない。
 警視庁捜査一課には、殺人犯捜査1係から14係、そして特殊犯捜査1係から3係まで、計17の殺人班がある。そのうち、事件をかかえていない係がローテーションを組み、新しい事件が発生した時にそれを担当するシステムになっている。ローテーションのトップにある係は、表在庁と呼ばれ、朝9時から夕方5時まで庁舎に待機する。2番目の係が裏在庁で、刑事たちは各自自宅待機する。3番目以降も自宅待機には違いないが、実質は非番である。ただし、最近では、事件を担当していない係が3つ以上もあることはまずない。今も警視庁は15の捜査本部を立ち上げている状態だ。
 警察内部の動き、そして、捜査官同士の反目がことこまかく具体的に描かれていますので、妙にリアリティがあります。一度、現職の人に感想を聞いてみたいものです。
 やや心理描写に冗長さを感じなかったわけではありませんが、最後まで犯人は誰なのか、目を離せない展開でしたから、息つく暇がありませんでした。
 
(2009年10月刊。1800円+税)

巡査の休日

カテゴリー:警察

著者 佐々木 譲、 出版 角川春樹事務所
 北海道警シリーズです。
 かつては捜査本部長は所轄署長がつとめた。しかし今は、捜査本部長は必ず道警本部の刑事部長があたることになっている。しかし、キャリア組の刑事部長が捜査本部長におさまったところで、捜査の現場もノウハウも知らず、土地勘もない刑事部長に、具体的な捜査指揮など出来っこない。ただ、精神論を言うだけの存在である。つまり、名前だけ。道警本部全組織一丸で捜査にあたっているという格好をつけるための制度だった。刑事部長本人もそれを知っているから、通常の捜査会議には顔を出さない。顔を出したところで、そこで語られることが理解できるはずもなく、余計な口をはさめば、むしろ捜査の妨害になる。謙虚なキャリアはそれを知っている。ときおり、むやみに指揮したり、指示・命令を連発する捜査本部長も出てくるが、そんなとき、現場はひどく混乱する。部下たちは、事件解決よりも捜査本部長の指示に従ったという形をとることに腐心する。結果として、事件解決は遠のく。
 なーるほど、そういうものなんでしょうかね……。それでもキャリア組は警察組織には必要なんですね……。
犯人は自衛隊の出身者。それを道警は追って、横浜にまで捜査員を派遣する。
 そして、女性が狙われる。かつてのストーカー被害者がまたもやメールで犯罪予告される。道警の威信をかけて守りぬく必要がある。
いくつかの事件が発生し、それぞれの捜査がすすんでいきます。ところが、次第に、これらの事件は相互に関連を持っていることが明らかにされていきます。ここらあたりの筋立てがとても巧妙で、感心してしまいました。
 いつもながらの巧みな警察小説です。いやはや、すごいと感嘆しながら読みふけってしまいました。
 
(2009年11月刊。1600円+税)

捜査官

カテゴリー:警察

著者 本浦 広海、 出版 講談社
 退職した警察官が再就職する先として、警備保障業界はその代表である。警備保障業の所轄官庁が警察庁なのだから、これは腐れ縁としか言いようがない。どこの省庁でも裏事情は変わらず、自分たちが所管する企業に天下っていく。
警備保障業界と警察組織の間では、現場の警察官が再就職しやすい仕組みも作られている。その例が「指導教育責任者資格」だ。警備業法により、警備保障会社の各事業所内には、その資格を持つ者を置くことが義務付けられている。
 この資格を獲得するには、現場での経験年数が決められており、警察官経験者ならそれを簡単にクリアできる。
 なーるほど、よくできた仕組みですね。さすがに知恵者がいるものです。
 原子力発電所をめぐる紛争を舞台にした警察小説です。ええっ、こんなことあり、かな・・・・・・と思うところもあります。推理小説の類なので、これ以上の筋の紹介は控えておきます。
 原発を推進する側の企業(福岡で言うと九電のような立場にある企業です)が、反対運動のなかにスパイを潜りこませているというのは、まさしく現実のものだろうと思いました。大企業は手段を選ばないのですから……。
 そして、暴力団は地元住民の反対運動を暴力的に圧殺しようとします。もちろん、簡単にうまくいくわけではありません。
 それにしても、かつての過激派活動家が、今や原発推進の側にいて立派な接待を受けているとは……。団塊世代の悪しき変身ぶりを反映したストーリーになっています。同じ世代としては残念でなりません。
(2009年9月刊。1500円+税)

地取り

カテゴリー:警察

著者 飯田 裕久、 出版 朝日新聞出版
 もと捜査一課で刑事をしていたという著者による小説デビュー作だそうです。
 巡査、巡査部長、警部補、警部、そして警視が登場します。現場を取り仕切る管理官は警視です。
 警察では、部長というのはたいした地位ではありません。巡査部長を意味するからです。その上に警部補がいて、さらに警部などがたくさんいるのです。
 警察では、何かの犯罪で犯人を検挙したりして、捜査本部を解散するときなどに、ご苦労さん会と称する飲み会が開かれます。その費用が、これまでは裏金によって充てられていたようです。この点についての体験者(元警察官)の苦労話が活字になっています。
 地取りというのは、事件の発生箇所を中心として、ブロックごとにエリア分けをし、各エリアごとに1区とか2区と担当エリアを定め、2人1組で目撃情報や有力情報の聞き込み捜査をすること。捜査一課の古くからある捜査手法であり、きわめて地味だが、もっとも基本的かつ重要な捜査である。
 しかし、基本的な捜査手法であるために、近年では地取り捜査班は、係のなかでも比較的、日の浅い刑事が担当している。
 お前ら、これだけは覚えておけ。ホシを取るのはオレたち刑事だ。逆にホシの境遇だって考えてやるのが刑事なんだ。オレたち刑事は、犯人を死刑台に送り込む権利までは持っていないんだ。
 推理小説のような話の運びですので、ここではアラスジも話の概要も説明しません。お許しください。一気に読ませる本でした。これでプロでないというんだったら、私なんか、どんな存在なのでしょうか。がっくり気落ちしてしまいます。といいつつ、こうやってくじけずに書きすすめるのです。
 日曜日に仏検(準一級)を受験しました。年2回できない学生の悲哀をみっちり3時間にわたって味わいます。さすがに1級よりはわかるのですが今回は筆記試験も合格できるか自信がありませんでした。試験が終わって夕暮れの道をとぼとぼ歩いて駅に向かいました。ただ終わったことだけが救いです。車の中ではいつもNHKのフランス語CDをかけて反復練習をしています。フランス語が身近に感じられます。
(2009年5月刊。1700円+税)

同期

カテゴリー:警察

著者 今野 敏、 出版 講談社
 同期というのは、有り難いものです。一緒に弁護士になり、2年間の司法研修所生活で苦楽をともにした仲間は、10年経ち、20年経って、30年経っても、会えば、やあやあやあと、顔中の笑顔が湧き出てきます。そんな弁護士もロースクール(法科大学院)になると、かなり様変わりしてしまいました。なにしろ人数が違います。私たちの頃は50人のクラスが10組あって、全部で500人足らず。今や2000人というのですから、同期といっても顔見知りである方が少ないでしょうね。せいぜい実務研修地が同じでないと相互交流も一体感もないと思います。
 この本は、警察官にも強烈な同期意識があることを前提としています。
 私立大学を卒業して警察官になり、初任地研修で同期だった2人のその後をめぐって話は展開していきます。一人は犯罪捜査の第一線にある刑事部に所属した。もう一人は本庁公安部に引っ張られていった。そして、刑事になった主人公がある日、内偵中に公安部に配属された同期生から内定対象者に襲われて危ないところを危機一髪、助けられるのです。
 日本の情報機関の中で一番の力を持っているのは国の組織ではなく、警視庁の公安部だと言われている。つまり、日本のCIAは、公安調査庁でも内閣情報調査室でもなく、警視庁公安部なのだ。警察の中にゼロという組織がある。ゼロは、かつてサクラやチヨダと呼ばれたことがある。警察庁警備局警備企画課にある情報分析室のことだ。日本中の公安情報がここに集約される。
 プロは口を割らないと一般的には考えられているが、それは逆だ。取り調べで黙秘や否認を続けるのは政治的な信念や宗教的な信念を持つ犯罪者だけだ。ヤクザなどは、一番口を割りやすい。
 警察がさまざまな思惑のもとで動いていることを実感させる小説でした。
 この先、どういう展開になるのか期待しながら頁をめくる手がもどかしいほどでした。良くできています。
 これ以上詳しいことは紹介できませんので、最後にオビの言葉です。
 刑事、公安、組対…。それぞれの思惑が交錯する。大きな事案を追いつつ、願いは、ただ同期を救うことだけ。
(2009年7月刊。1600円+税)

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