著者 佐々木 譲 、 出版 新潮社
警察小説シリーズです。今回は読んでいると、『新宿鮫』を髣髴とさせました。ハード・ボイルド調なのです。私の好みは前作「警官の血」です。警官三代の生き様を描いていて、世相もよく反映した迫真のストーリーには息を呑みました。
潜入捜査員が登場します。まさに生命かけの仕事ですよね。耳が柔道によるタコが出来ているのを見られて警察官と見破られたという話を読んだことがあります。警察官が柔道場でいつも練習していることで出来る耳のタコなのです。たしかに暴力団員には少ないのでしょうね。
刑務所は、暴力団にとって重要な会社説明会の場だ。懲役刑を受けた暴力団員は刑務所内で、どれほど稼ぎがよいか、どれほど派手で華やかな生活をしてきたかを、おおげさに吹聴する。一日にどれだけ遊びに使ったか、どれほど女にもてたか、どれほど快楽ざんまいの日々を過ごしてきたかを自慢する。
そして、これぞと思う囚人に、出所後は面倒を見るぞと声をかける。収監者の中には、ならば自分も暴力団員として生きようと決める者が必ず出てくる。暴力団員としての「資格保証」は国家がやってくれている。暴力団の側も安心して使うことができる。
ましてや組が解散して行きどころのないような暴力団員は大歓迎だ。いきなり戦力になる。この業界でも、身元のしっかりした経験者は優遇されるのだ。
そうなんですよね。刑務所の中では悪の道へますます深まっていく危険があります。決して単純に更生の機会が保障されているというものではありません。
多くの暴力団は、覚せい剤の売買を構成員に禁じている。しかし、巨大な利益を生むビジネスであり、シマの中で素人や外国人の好き放題にさせるほど、どの組も甘くはない。準構成員にやらせて、その後ろ楯になる。上がりを組として吸い上げる。こんなシステムをつくっている。
覚せい剤事件を国選弁護でよく担当しますが、いつも末端の売人か使用した人間のみが被告人となります。上層部のほうを担当したことは、自慢じゃありませんが、一度もありません。
この本には不祥事を起こした幹部警察官がやがて現職当時の地位のまま復職するという場面が出てきます。たしかに、現実にもそんなことがあったように思います。それでも、それってなんだか割り切れない疑問を感じます。
それにしても、現場の警察官は毎日大変なんだなあと概嘆してしまいました。
(2011年9月刊。1900円+税)
2011年11月27日