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カテゴリー: 社会

新・富裕層マネー

カテゴリー:社会

著者:日本経済新聞社、出版社:日本経済新聞社
 日本に金融資産1億円以上の富裕層は131万人。全世界の富裕層(770万人)の 17%を占める。
 5億円以上のスーパーリッチは6万世帯。1億〜5億の大衆富裕層は72万世帯。これは、遺産相続による人が大きな割合を占めている。
 居住目的の不動産を除いた純資産で100万ドル以上の日本の富裕層は134万人、これは世界第2位。1位はアメリカで250万人。3位はドイツの74万人。
 スイス銀行が相手にするのは、金融資産5億円以上の人。
 グロソブという言葉を初めて知りました。グローバル・ソブリン・オープンというものです。日本に比べて高利まわりの欧米の国債を中心に運用し、投資家に毎月、分配金を還元します。購入者は100万人をこえているヒット商品だということです。
 団塊世代が退職するのは間近かだ。1人あたり平均2000万円として、年間15兆円。3年で47兆円。その前後をふくめての80兆円が、いま狙われている。団塊世代は既に110兆円をもっており、あわせると団塊マネーは150〜190兆円になる。
 ひゃあー、そんな金額になるんですか・・・。
 銀行預金に利子がつかない現在、投資信託が注目されているという。銀行が投信販売に熱心になるのは、販売手数料だけでなく、預かり資産に比例して信託報酬が見込めるから。
 たとえば、いちよし証券では、信託報酬が前年同期比38%増の19億円となった。これは、グロソブの預かり資産が400億円になったことによる。
 しかし、投資信託の基本は、元本保証のないこと。これを見逃して投資すると、痛い目にあう。投信ビジネスは証券会社にとって三度おいしい。販売手数料、代行手数料、委託手数料が入るから。あのグリコ以上のおいしさを証券会社がひとり占めするなんて、そんなことが許せるでしょうか・・・。
 不動産をふくむ資産が1億円を超す富裕層の日本人は300万人をこえる。彼らは遺言書を作成する。信託協会に加盟する銀行は4万8000通の遺言書を保管している。
 信託銀行の扱うリバースモーゲージというのがあるそうです。私は知りませんでした。自宅を担保とし、そこに住み続けながら年金のように一定額を受け取り続けるというものです。利用者が死亡したときなどに自宅を売却して元利金を一括返済することになります。7000万円の評価のある自宅を担保とし、毎年180万円を受けとれたというケースが紹介されています。果たして利用者にとってのリスクはないのでしょうか。どなたか、教えてください。
 信託銀行は、たとえば3000万円を預けている顧客に対しては、名医の紹介や金持ち向けのパック旅行紹介のサービスをしているそうです。でも、パリのコンドミニアムを紹介するというサービスがあるというのには笑ってしまいました。私は別荘も持ちたくありません。旅行先では、すべてあげ膳、据え膳でいきたいのです。炊事・洗濯、すべて自己責任、だったら日常生活そのものではありませんか。
 5%の利まわりがあるという宣伝文句だったのに、実は、信託報酬など差しひかれると1%にしかならないという。あくまでも信託銀行がもうかる仕組みになっているということです。
 金融資産が1億円あるということは、1億円しかないということ。信託銀行をふくめて銀行や証券会社にとっていいカモになる危険性はきわめて大きいのです。
 いや、証券会社などに頼らずインターネットで直接取引をしてもうけるのだ、そういう人がいるでしょう。でも、そんな人はパソコンの画面と24時間にらめっこしていなくてはなりません。仮に1日で10万円もうけたとしても、それってむなしくありませんか。四季折々の移り変わり、人間の生きざまの変わり方を議論するよりなにより、パソコンの画面をじっと、何時間もみつめ続けるなんて・・・。貴重な人生時間のムダづかいの典型ではありませんか。人生にはお金に代えがたい、大きなものがある。それは、たとえば親友です。なんでも話せる友だちって、お金なんかでは買えないでしょ。
 それにしても、なんだか欺しのテクニックがどんどん広がっているようで、怖い世の中です。同じ団塊世代のみなさん、お互いに気をつけましょうね。

企業コンプライアンス

カテゴリー:社会

著者:後藤啓二、出版社:文春新書
 このところ大企業の不祥事が相次いで明るみに出ました。これまで隠されてきたものが、一挙に表面化した感があります。勇気ある内部告発も働いたようです。
 ライブドア、三菱自動車、雪印乳業(中毒)、雪印食品(牛肉産地偽装)、西武鉄道(総会屋)、松下電器(石油温風機)、パロマ(瞬間湯沸かし器)、耐震強度偽装事件などなどです。
 公認会計士と監査法人がまったくのお飾りでしかないという実態がいくつも明るみに出ました。耐震強度偽装事件では、民間の確認検査機関に確認検査を行わせる今の制度は改めるべきだと著者は指摘しています。まったく同感です。「官から民へ」移行したら、とんでもないことになるという見本のようなものです。公認会計士と監査法人についても、それが純然たる営利法人である限り、エンロン事件のような大がかりの不正事件に加担することは避けられません。大企業から相対的に自立できる仕組みが根本的に必要だと思います。今のままでは、大企業の隠蔽工作の片棒をかつがされるだけの存在のような気がします。
 企業の不祥事は、昔の方がより悪質でより多かった。昔の不祥事は、トップの指示、あるいは企業風土により、全社一丸となって行われていた。
 バブル期には、銀行や証券業界は挙げて、正々堂々とコンプライアンス不在の不正をしていた。銀行では、「向こう傷を恐れるな」「すべての預金者を債務者にせよ」という指示がトップや本店から出されていた。証券会社は、個人客を「ごみ」と呼んでいた。預けているお金が億単位以下の客を「ごみ」と呼ぶのは今でも、そうだと思いますが・・・。
 社長はコンプライアンスと言っているが、他方で、利益を出せ、売上げを伸ばせとも相変わらず言っている。業績に連動した報酬体系をとり、結局は、とかくの噂があっても稼いでいる人、不適切な受注活動を行ってきた人が出世している現実があれば、コンプライアンスは建前だけに終わる。
 不祥事が発覚したときのトップの記者会見における失敗例が紹介されています。
 「わたしは寝ていないんだ」雪印乳業社長
 「なぜ上場したのか分からない」コクド会長
 「利益はたいした金額ではなく、巨額にもうかっている感じはしない」福井日銀総裁
(実は1000万円の投資で、運用益は1473万円あった。まんまと逃げ切りましたね)
 「知らなかった。愕然とした」三菱自動車社長
 「当時は関係する法律がなかったので、抵触しない」三菱地所常務
 そして、シンドラー社は、エレベーター圧死事件のあと責任者による記者会見を一貫して拒否し続けた。
 記者の質問に対しては、把握している事実については、社員・関係者のプライバシー、企業の営業秘密、本件と関係ない事項など、コメントしないことに合理性が認められるものを除いては、答えることが妥当だ。本来、答えることができる質問に対して、「ノーコメント」と答えるのは説明責任を放棄しているようにとられ、不誠実な印象を与えてしまう。その時点で本当に分からないことは、「分からない」と答えればよい。
 報道発表は一回で終えるのがベスト。そのためには、不祥事の事実関係と原因、関与した者の責任と処分、再発防止対策の3点について、一度に公表し、十分な説明を行い、マスコミからの質問に誠実に答え、それ以上の記者会見を行う必要が内容にするのが大切。
 公表すべき事項を小出しにしたり、マスコミの関心が高く、答えなければならないことを答えないままでは、いつまでも追求が続く。
 私も弁護士会の責任ある役職についたとき、会員の不祥事で2回、記者会見にのぞんだことがあります。テレビカメラがまわるなか、スポットライトを浴びつつ何人もの記者から厳しく容赦ない質問を受けて、冷や汗いっぱいかきながら答弁しました。誠実な答弁をこころがけたとまで言うことはできません。処分程度(量刑)を決める立場にいたわけではありませんでしたので、無責任と思われない程度に「分かりません」を連発しました。45分間もテレビカメラの前に坐らされました。大変な苦痛でしたが、私の方から一方的に立ち上がるのだけはしませんでした。逃げるところを、その背中が映されるという無様な映像が流れないよう、記者クラブの幹事が「終わりました」と声をかけ、テレビカメラが終了したのを確認して席を立ちました。これが3ヶ月ほどの間に続けて2度もあり、本当に良い社会勉強になりました。

過労自殺と企業の責任

カテゴリー:社会

著者:川人 博、出版社:旬報社
 オリックスの宮内義彦はなんでも規制緩和して、民間の自由競争にまかせろと強引に政治をひっぱってきた。そのオリックスで過労自殺が相次いでいる現実がある。法令違反と違法なサービス残業が横行している。宮内義彦がすすめている「ホワイトカラーエグゼンプション」は、残業代不払いを合法化しようとするものだ。サービス残業のおかげで、過労自殺をふみ台にして業績を上げている大企業の経営者が「改革」を唱えている。そこには、自社のもうけがすべて。企業の社会的責任など、カケラもない。あー、いやだ、いやですよね。こんな会長の下で働くなんて・・・。それにしても宮内義彦って、いつもエラそうなことを言うんですよね。まったく厚かましいにもほどがあります。自分の会社の従業員も大切にしないで、社会に向かってエラそうな口きくなと叫びたいです。
 ノイローゼなんていうのは、精神的に甘えている。
 これは、疲労困憊の極みにあった労働者が、しばらく休みたいと恐る恐る申し出たときの上司の言葉だそうです。たまりませんね。その労働者はまもなく自死しました。
 最近、自殺という言葉はやめようと提唱されています。
 長時間労働による睡眠不足が精神疾患発症に関連があることは疑いない。とくに長時間残業が100時間をこえると、それ以外の長時間残業よりも、精神疾患発症が早まる。つまり、長時間残業による睡眠不足は、うつ病発症の原因になるのです。
 おまえは会社をクイモノにしている。給料泥棒!
 存在が目障りだ。いるだけで、みんなが迷惑している。お前のカミさんの気がしれん。
 お願いだから消えてくれ。
 職場で上司からこんなことを言われたら、いったいどうしたらいいでしょう。これはまさしく精神的な暴力と言ってよいでしょう。
 仕事が不快なものであれば、それだけ多く支払われるべきだというのは、ほとんどの人の正義感になかった原則。しかし、現実は明らかにその逆。本質的に、もっとも面白い仕事をしている人たちこそが、高い給料を得ている。もっとも楽しい仕事をしている幸運な人々は、高い給料をもらっているだけでなく、その給料はさらに高くなっていく傾向にあり、そして、それは当然のことだと彼ら自身がますます自信をもって主張するようになっている。
 なるほど、そうなんですよね。実際に・・・。
 この本では、家族(夫や子ども)が悲劇的な死を迎えたとき、その家族も強いストレスを受けて、健康を害して早死にすることがあることも指摘されています。
 ポストベンション、つまり発生したあとの対策が大切だということです。
 著者は私と同世代の弁護士です。経団連で講演したこともあるそうです。前のトヨタ出身の経団連会長は企業利潤一辺倒だったようですが、今度のキャノン出身の会長も同じかどうか注目していると書かれています。いまの大企業にどれだけ期待できるのか、かなり疑問はありますが、前途有為な青壮年が次々に過労で倒れていくのは日本特有の現象だけに、一刻も早くなくしたいものです。

沸騰するフランス

カテゴリー:社会

著者:及川健二、出版社:花伝社
 フランス語を勉強しているということは、フランスという国に関心を持っているということでもあります。日本と違ってアメリカの言いなりになんか決してならないフランスは左右いずれを支持する国民もきわめて政治参加意欲の高いのが特徴です。この点は、日本人はもっと見習うべきだと私は確信しています。
 それはともかく、この本は迫りくるフランス大統領選挙の内情を現地取材で分かりやすく解説してくれるものです。アメリカの大統領選挙のように、共和党と民主党といっても、しょせん同じ穴のムジナみたいに大差がないのと違って、フランスは、政策的にはっきりした違いをもつ候補者が激突するので、面白いところです。
 今度のフランス大統領選挙は、治安優先の保守政治家ニコラ・サルコジと、左派のセゴレーヌ・ロワイヤルとの対決だと一般にはみられています。この本は、それぞれを掘り下げると同時に、その他の候補者についても密着取材しています。なかでも、極右の国民戦線のルペンについて、その主張を詳しく紹介しています。私は認識を改めさせられました。ルペンは極右なので排外主義をとっています。もちろん、私には、とても支持できません。ところが、ルペンはアメリカを次のように厳しく批判しているのです。これには驚きました。日本の右翼にぜひ読んでもらいたい文章です。
 災難のなかとはいえ、アメリカ国民は政府に対して自己批判を求め、責任の一端があることを認めるよう迫らなければならない。アメリカが悲劇的な状況下にあるとはいえ、彼らの涙によって我々は目をくらまされてはならない。
 アメリカは、その力が絶対的なものだと考えている。とりわけ、ソ連が崩壊し冷戦の脅威がやわらいで以来、責任の範囲と能力の限界を見誤っている。
 10年にもわたるイラクに対するアメリカの経済封鎖によって、貧困や治療の欠如が原因で100万人の子どもたちが死ぬという災害がもたらされた。その数は世界貿易センタービルの犠牲者の200倍にあたる。惨劇と呼ぶにふさわしいニューヨークの哀れみは、しかし、絶対視されてはならない。非人間的な不正の政治を再考することに心を傾けることも同様にしなければならない。
 この指摘は、まったくそのとおりではないでしょうか。
 極右はフランスの失政を栄養にして育つ生き物だ。フランスがどん詰まりになればなるほど、増長していく。治安悪化と移民問題。これはフランスが抱える暗部だ。その暗部を除去する救国の士として、国民戦線は長く支持されてきた。
 このように解説されています。なるほど、と思いました。
 この国民戦線(フロン・ナショナル)のナンバー2のブルノー・ゴルニッシュ全国代理は京都大学に留学したこともあり、妻は日本人で、日本語がペラペラです。
 実は、私も20年ほど前にフランスに初めて訪問したとき、一緒に会食したことがあります。昼食を同じテーブルでとったのですが、彼が新鮮な生の牛肉を香辛料と混ぜあわせたタルタルステーキを実に美味しそうに食べるのを、ついついうらやましく眺めたことを今もしっかり覚えています。まだ旅行の初めのころでしたので、慣れない生肉を食べてあたったら大変だと遠慮したわけです。

ブルー・ローズ

カテゴリー:社会

著者:馳 星周、出版社:中央公論新社
 すさまじいバイオレンス・ノヴェルです。年の暮れはともかく、正月に、のんびりした気分で読む本としては、とてもおすすめできません。なにしろ、次から次へと人が殺されていくのですから・・・。実に凄惨です。背徳の官能と、帯にうたわれています。たしかに怪しげなエロスがしきりに漂うのですが、少なくとも私の好みではないエロスなのです。
 話は、公安警察と刑事警察の対立を軸として展開していきます。
 国松警察庁長官の狙撃事件で公安警察が何度も重大なミスを犯して、結局のところ、犯人逮捕にこぎつけることができませんでした。これによる公安警察の威信低下はひどいものです。最近、街頭ビラ配布での強引な逮捕が相次いでいるのは、そんな公安警察による失地回復だという指摘がなされています。公安って、本当にひどいことをするものですね。罪なき人を罪に陥れるのが公安の得意技です。やっぱり、どうしても刑事警察に肩入れしたくなります。あなたも、この本を読むと、そんな気についなってしまいますよ。
 ブルー・ローズというのは、青色のバラの花のことです。赤いバラはあっても、青いバラはできないことになっています。黒いチューリップと同じです。もっとも、チューリップにも黒に近いものがありますし、バラにも青に近いのが最近出来たと思いますが・・・。
 わたしが入庁したころの公安警察官という連中は、いけ好かないが腕は立つ者ばかりだった。しかし、昨今の公安警察官は間抜けばかりだ。もっとも、それは刑事警察も変わりはない。警察官のサラリーマン化が進んでいる。かつては堅牢だった警察官のモラルに亀裂が生じている。バブル経済がなにかを変えたのだ。いずれ、世界に誇る検挙率も落ちるだろう。
 日本警察の検挙率は、もうとっくに地に落ちてしまっていると私は思いますけどね。
 この本を読みながら、警察って、そしてキャリア警察官って、いったいどれだけ事件を内々もみ消しているのか、もみ消す力があるのか、ついつい考えこんでしましました。どなたか正直な内情を教えてください。
 あけましておめでとうございます。本年も書評を書き続けます。昨年よんだ本は502冊でした。その7割を紹介していることになります。読めば読むほど、大自然と人間社会の奥の深さに触れるという気がします。日本を外国へ戦争に出かける普通の国にするため、美しいアベ首相ががんばっていますが、負けてなんかおれません。今年も平和憲法を守り続けるために、愉しみながら弁護士活動と執筆を続けていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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