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カテゴリー: 社会

小泉官邸秘録

カテゴリー:社会

著者:飯島 勲、出版社:日本経済新聞社
 小泉政治の自慢話が延々と書かれている本です。そこには弱者を冷酷に切り捨てていく政治についての反省がまったくなく、政治とはパワーバランスで動くゲームだというトーンで貫かれています。読んでいくうちに次第に腹が立つ本です。
 腹が立つくらいなら読まなきゃいいだろ。そう思う人もいるかもしれませんが、私は欺す側のテクニックと詐欺師集団の心理と構造に関心がありますので、読まないわけにはいきません。商品先物取引の欺しの手口については、その刑事・民事の証言調書をもとに本を書いたこともあります。
 小泉の劇場型政治に多くの日本人がまんまと欺されたことは明らかな事実です。小泉純一郎が首相になったときの支持率が92%、5年後に辞めたときでも63%という驚くべき高率をたもっていました。なんて日本人はお人好しで、欺されやすいのでしょうか。
 郵政民営化を争点とした総選挙のとき、小泉純一郎は、身近な郵便局がなくなることはありませんと断言していました。ところが民営化された郵政公社は特定郵便局の多くを廃止する方針をうち出しているのです。じいちゃん、ばあちゃんが歩いて通える身近な郵便局が廃止されたら、どんなに困ることでしょう。
 いったい政治は何のためにあるのか。政治家の役割は強い者をますます強くするためにあるのか。この本は、そんな根本的な疑問に真っ向からこたえようとしてはいません。
 小泉のメディア戦略は抜群の効果をあげました。著者は次のように語っています。
 総理の「ぶら下がり取材」というものがある。総理が官邸に戻ってきて、歩きながらマイクを向け総理のコメントを取るというもの。このぶら下がり取材のやり方を変えた。昼は主に新聞を念頭に置いたカメラなしのぶら下がり取材とし、夕方はテレビで映像が流れることを念頭に置いたカメラ入りのぶら下がり取材とした。一言でメディア対応といっても、メディアの特性、役割に応じてやる必要がある。
 小泉は、このテレビ向けのワンフレーズを決め手にしていました。この表面だけを見て、多くの日本人がコロッと欺されてしまったわけです。
 小泉内閣のメルマガには何億円もつぎこんだようです。百数十万人の読者がいたといいますから、怖いですね。いったい私のこのブログは何人に読まれているのでしょうか。
 小泉はマスコミの論説委員や編集委員を招いてじっくり懇談する機会をつくり、また、ラジオで毎月1日10分間、直接、国民に語りかけるという番組ももっていた。
 メディア操作によって小泉の虚像はどんどん大きくなっていったわけです。
 私も、小泉は二つだけはいいことをしたと高く評価しています。一つは、ハンセン病裁判で控訴を断念し、ハンセン病元患者に対して直接、首相とした公式に謝罪したことです。これはやはり英断です。もう一つは、とかくの評価はありますが、北朝鮮に乗りこみ金正日と会談して、拉致されていた人々を日本へ連れ帰ってきたことです。後者のほうはまだまだ拉致被害者が他にいるのは確実なので、解決ずみというわけではありませんが、ともかく大きな一歩(成果)をあげたと私は理解しています。
 小泉政治の5年間で、日本はガタガタにされてしまいました。歴史上の最悪首相ナンバーワンだと私は思います。勝ち組優先、負け組切り捨て、お年寄りや貧乏人に対して早く死ねとばかりに冷たく路上につき離し、トヨタやキャノンのような大企業が世界的に活躍できるようにしていきました。福井俊彦日銀総裁のように嘘つきで自分と身のまわりの大金持ちのことしか考えないような人々を優遇して、日本人の倫理感を地に墜ちさせてしまいました。
 著者には、そんな弱者いじめをしたという心の痛みはカケラもないようです。でも、そのうち足腰が立たなくたったとき、きっと後悔することでしょう。ただ、そのときにはもう手遅れなのですが・・・。
 安倍首相が7月の参院選は憲法改正の是非を争点とすると言っています。そのこと自体は大賛成です。ただ、憲法のどこを、なぜ変えようというのか、変えたらどうなるのか、本質的な点が国民によく分かるようになったうえで国民が選択できるようにすべきです。もっとも、これにはマスコミの責任も重大ですよね。私たち国民も、小泉とその亜流の政治家から何度も欺されないようにしたいものです。

子どもが見ている背中

カテゴリー:社会

著者:野田正彰、出版社:岩波書店
 現代日本、とりわけ日本の教育行政に対する悲痛な叫びとも思える告発の書です。読みながら、思わず背中を伸ばし、居ずまいを正しました。著者の真摯な態度に対して心から敬意を表します。それにしても、日本の教育って、こんなにまで地に墜ちているのですね。
 教育基本法がついに改正(改悪というべきでしょうが・・・)されてしまいました。教育を国家が統制する。個人の伸びやかな個性を殺いでしまう日本の教育を助長する方向です。悲しいことです。
 それにしても、教師をこんなにも統制して、どうしようっていうんでしょうね。広島の民間校長の自殺を追跡した第2章を読んで、さすがの私も大いなるショックを受けてしまいました。
 その小学校では、教頭(51歳)が2002年5月10日、過労のため脳内出血で倒れました。次の後任の教頭(47歳)が2003年2月14日、心筋梗塞で倒れました。夜12時まで仕事をし、パーキングで仮眠をとって夜中の2時に帰宅し、朝5時には家を出るという生活をしていたそうです。
 そして校長です。2003年3月9日に勤務先の小学校で自殺しました。毎晩、夜10時、11時に家に帰る忙しさでした。精神科に通院するようになっていました。教育委員会に何をいっても、甘いと言われる。死ぬまで働けということだね、と家人にこぼしていました。
 民間出身の校長としてマスコミにも報道されていた人です。自らすすんで希望して校長になったとばかり思っていましたが、実はそうではなかったようです。31年間つとめた広島銀行から校長職に推薦されたのです。56歳の副支店長で、リストラの対象者だったのです。自宅から通勤できる、小規模の問題のない学校を希望していました。当然のことでしょう。経験がないわけですから。ところが車で90分かかる、大規模校を押しつけられてしまいました。学校文化がまったく分からないまま苛酷な教育現場に押しこまれたわけです。そして、早く成果を出せと駆り立てられ、必要な急速もとれず、治療も十分に受けられませんでした。これでは、自殺したというより、教育行政に殺されたとしか言いようがありません。
 京都の中学校の通知票が15頁もあり、評価項目が272項目にのぼることを知って、腰が抜けそうなほど驚いてしまいました。教師がそんなに1人1人の生徒を評価することができるのでしょうか。また、そんなに細かく評価する意味があるのでしょうか。
 教師たちが自律した人として考えることを侮蔑され、させられる教師になっているとき、生徒たちも同じ状況にある。まことにそのとおりだろうと私も思います。
 都立高校で「日の丸」への起立強制と「君が代」斉唱強制がなされていることについて、東京地裁は2006年9月21日、違憲判決を下しました。私もこの判決を支持します。愛国心の押しつけが逆効果であると同じです。「日の丸」も「君が代」も押しつけられて尊重する気になんか、とてもなれません。今、学校以外で「日の丸」を見ることはありません。「君が代」斉唱なんて、馬鹿馬鹿しくて、私は何十年もしたことがありません。なんで今どき、天皇の御代がずっと栄えてほしいなんて歌わせるのでしょう。冗談じゃありません。
 何ごとによらず押しつけが効果をあげることはないのです。もっと教師の自由にまかせたらよいのです。前にフィンランドの教育を紹介しましたが、生徒も教師も学校でのびのびと過ごし、落ちこぼれをなくす教育が、国全体のレベルアップにつながっているという現実を日本人も直視すべきです。

新世代富裕層の研究

カテゴリー:社会

著者:野村総合研究所、出版社:東洋経済新報社
 お金持ちとは、年収1億円以上を2年以上にわたって手にしている人。
 世帯年収2000万円以上を稼いでいる人たちを富裕層という。
 年収1500万円以上をパワーリッチ、年収750万円〜1500万円をプチリッチという。
 シティグループでは、純資産が3億円以上で、運用できる金融資産が1億円以上の人についてプライベートバンクの顧客として厚遇する。
 みずほフィナンシャルグループは、預かり資産5億円以上の顧客について、プライベートバンキングでサービスを提供する。
 野村證券は、最低契約金額3億円で、サービス優遇する。
 このように、自由に動かせる金融資産が億の単位の人が顧客として優遇され、それ以下の人は「ゴミ」扱いされるのです。これは昔からそうでしたが、今はあからさまに差別されるのが昔と違うところです。だから今では両替手数料まで取るのです。
 メリルリンチの調査によると、日本には金融資産100万ドル(1億円)以上という富裕層の基準をみたす層が全国に40〜60万世帯あり、そのうち70%が首都圏、大阪、名古屋、福岡に集中している。
 金融資産が1億〜5億円の富裕層マーケットの規模は2005年時点で167兆円、81万世帯である。2003年から拡大基調になっている。今後、団塊世代のリタイア、少子高齢化にともなう遺産相続の増加によって、金融資産5億円以上の超富裕層よりも、1億〜5億円の富裕層が増えていくと思われる。
 富裕層には銀行や証券・投資会社への不信感が根強い。手数料にも敏感であり、ほとんどの人が毎日インターネットを見て学んでいる。
 野村総研がこのような本を出したということは、この富裕層を狙った商売のノウハウを広めようということなのでしょう。
 日本が勝ち組と負け組に二分化していっている今、勝ち組にたかって、そこから吸い上げて自分の生活をまともなものにしようと叫びかけている本のような気がします。
 同じ団塊世代のみなさん、銀行や証券会社の甘い言葉にのせられないよう、お互いに気をつけましょうね。

オール1の落ちこぼれ、教師になる

カテゴリー:社会

著者:宮本延春、出版社:角川書店
 読んでいるうちに胸が熱くなり、勇気を与えてくれる感動の本です。乙武さんの本以来のことです。久しぶりに同じ思いを味わいました。人間の能力って、遅くなっても開花するというのは、本当のことなんですね。
 中学1年生のときにオール1。そして、中学校卒業時の成績表のコピーがついています。音楽と技術が2で、あとは見事にオール1です。そんな人が名古屋大学理学部に定時制高校から一回で合格したというのです。なんともすごい快挙です。心から拍手をしたくなりました。いえ、心の中で、何度も大きく手を叩いて拍手しました。
 著者の両親はラーメン屋でした。典型的ないじめられっ子だった著者は不登校をくり返し、昼間も暗い部屋に引きこもっていた。短気な父親が怒って、「どうせ勉強しないなら、教科書も何もいらんな」と言いながら、教科書からランドセルまですべてを目の前で火を付けて燃やしてしまった。著者は、それを見ても平然としていた。
 オール1の成績表を見て、父親は「学校に何しに行ってたんだ。この馬鹿者」と怒鳴った。あなたは正真正銘の馬鹿。ここに馬鹿証明書を発行する。そう言われている気持ちで、やっぱりそうだったんだと再認識した。こうなっては今さら何をしてもムダだと自分を見捨て、落ちこぼれの気持ちをますます強固にした。
 小学校でも中学校でも、数少ない友人以外のクラスメイトは、ほとんど心と体を傷つけるような存在だった。もち物を隠されたり、壊されたり、とつぜん殴られたり、蹴られて顔面がアザだらけになったり、足に画鋲を刺されてなかなか抜けなかったり、修学旅行の班をつくるときも仲間外れにされて、どこにも入れなかった。
 教室、廊下、トイレ、下駄箱、裏庭など、学校のありとあらゆるところでいじめられる日が続いた。
 中学2年のとき、あまりのひどさに親に相談した。親が学校にかけあうと、さらにチクったとして、いじめがエスカレートした。
 著者は実は、少林寺拳法に入り、初段になって、それなりに自信はあったのですが、つかうことはありませんでした。いじめを回避できるという見通しをもてなかったからです。
 16歳のとき母が病死し、18歳のとき父も病死してしまいました。
 そのあと、訓練校を経て、大工見習いとなります。そこで、素人バンドの一員として活動するようになりますが、まったく収入がなく、1ヶ月13円で暮らしたこともあるというのです。信じられません。パン屋もらったパンの耳だけで生活していたといいます。
 ところが、その後に出会いがありました。立派な社長や専務のいる小さな建設会社に入りました。少林寺拳法も続けて、2段となり、その道場で彼女と出会います。
 著者の人生の転機は、NHKスペシャルのアインシュタイン・ロマンという6本の番組をビデオで見たことにあります。なぜ、そうなるのか、物理を勉強したくなったのです。このとき、著者は23歳。九九も言えませんでした。英語も知っているのはbookのみ。それで、小学校3年生のドリルを買ってきて勉強を始めるのです。いやー、すごいですね。大変な勇気と決意です。そして、定時制高校に入りました。
 勤め先の会社は著者が定時制高校に通う便宜を図ってくれました。高校の先生たちは著者が本気で勉強する気があるのを知ると、補習授業までしてくれました。あとで、校長先生は、著者に大学にはいるために必要なら100万円出してやるとまで言ってくれました。人の出会いの素晴らしさを感じます。こんななかで頑張り、27歳で名古屋大学理学部に一発で合格したのです。
 今、著者は母校の豊川高校の数学の教師です。こんな先生に学ぶことのできる生徒は幸せだと思います。大勢の人に読んでほしい本です。

総理の品格

カテゴリー:社会

著者:木村 貢、出版社:徳間書店
 官邸秘書官が見た歴代宰相の素顔というのがサブタイトルになっています。オビには、池田首相以来四代の総理に仕え、官邸の主と言われた宏池会本事務局長の歴史的証言、とあります。
 宮澤喜一元首相が推薦の言葉を寄せています。それによると、著者は、池田勇人に始まり、歴代の宏池会会長であった前尾繁三郎、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一を黙々として全力で支えました。80歳となり、事務局長を辞めてから回想したものです。
 宮澤は人の言うことをまったく聞こうとしない。自分の方が頭がいいと思っていたから、当然のことだろうが・・・。
 同じように加藤紘一も人のアドバイスを聞くタイプではなかった。おれは一番頭がいい。いちばん出来るんだという自負が強かったから。だから、加藤にはいいアドバイザーがいなかった。同じ自信家といっても、宮澤と加藤とでは少しニュアンスが違う。加藤には、自分のほうからあえて近寄って行って人の話に耳を傾けるといった謙虚さが欠けている。
 大平正芳は、留守中に自分の家が火事で全焼したときにこう言った。
 これは祝融(しゅくゆう)だ。物事をきれいさっぱり一掃して新しいスタートをせよということだ。だから、これはおめでたい出来事なのだ。
 自分に言いきかせた言葉なのでしょうが、それにしてもすごい言葉ですよね。
 大平正芳は、かねてから心臓の具合が悪く、つねにニトログリセリンを持ち歩いていた。どうやら大平家の家系のようだ。兄も弟も心臓病で亡くなっている。
 鈴木善幸は初当選したときは社会党に所属していた。日米同盟には軍事同盟はふくまれていないとアメリカ帰りに記者へ明言したのは、そのリベラルなところから来ているもの。しかし、アメリカがそんな食言を放っておくはずはありません。大問題となりました。今では考えられないことです。世の中がこの点では悪い方向にすっかり変わっています。
 鈴木は総理の椅子に恋々としがみつくことはなかった。明治の男という感じだった。鈴木善幸は一番の聞き上手だった。加藤紘一は聞くのが下手だった。
 実は、この本を紹介しようと思ったのは、まことに政界はジェラシーの海だ、という著者の言葉を読んだからです。
 大平正芳が宏池会会長になると、小坂善太郎は抜けた。宏池会に河野洋平が入ってきたとき、加藤紘一は不安にかられた。加藤が宏池会会長になると河野洋平が出ていく。
 こんな具合で、政界の内情は政治家同士のジェラシーが渦巻いているというのです。なるほど、その視点で見たら、また違った政治分析ができて、面白いのでしょうね。
 それにしても福岡の古賀誠が今や宏池会の会長だなんて、どうなっているんでしょうね。銀座ホステス愛人とか暴力団との癒着とか、週刊誌でいろいろ書かれても、そんなことくらいでは足もとは揺らがないということなんでしょうね。政界の浄化は道遠しという感があります。

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