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カテゴリー: 社会

空飛ぶタイヤ

カテゴリー:社会

著者:池井戸 潤、出版社:実業之日本社
 欠陥車のリコール隠しの罪と罰をテーマとした面白い小説でした。なかなか読ませます。たいしたものです。私も、いつかはこんな小説を書いてみたいと思ったものでした。次はどうなるのだろうと、ぐいぐい魅きつけられてしまうのです。見習いたい筆力です。
 小さな運送会社を経営している。ある日、従業員がトラックを運転していてブレーキを踏んだ拍子にタイヤが飛ぶんです。歩道を歩いていた人にぶつかって即死させてしまった。なんということ・・・。
 トラックの整備不良が、まず疑われた。しかし、整備不良でないことに運送会社の社長は確信をもった。では、何が原因か?トラック自体の欠陥ではないのか。でも、どうやってそれを立証できるのか。
 2004年6月、公益通報者保護法が成立し、内部告発した社員は保護されることになった。しかし、現実は、そう甘いものではない。次のようなセリフが登場します。
 内部告発したから解雇できたのは既に過去の話だ。解雇するのなら別な理由がいる。だから、本人にしてみれば許容できそうもないところへ異動させるんだ。必ず戦意喪失して退職を決意するような仕事に移すんだ。ただし、駐車場の整理係や受付などというあからさまなものはダメ。降格も許されない。もっとさりげないところへ、だ。
 退職の理由は、あくまで自己都合でなければいけない。
 なーるほど、ですね。この本でも、会社の「欠陥」隠しは徹底していて、警察も容易に、その尻尾をつかむことができませんでした。でも、そのとき勇気ある内部告発社員が登場してきたのです。逆にいうと、そんな勇気ある社員が一人でもいなかったら、真相は闇の中に隠されたまま、被害者となった人々も、ユーザーもみんな泣き寝入りせざるをえなかったというわけです。背筋がゾクゾクしてきますよね。いやな世の中です。まだまだ会社第一と考える会社人間が圧倒的なんでしょうね。

我、自衛隊を愛す。故に、憲法9条を守る

カテゴリー:社会

著者:防衛省元幹部3人、出版社:かもがわ出版
 防衛庁は、いつのまにか防衛省に昇格してしまいました。教育訓練局長・小池清彦、官房長・竹岡勝美、政務次官・箕輪登の3氏が憲法9条の大切さを説いた貴重な本です。多くの日本の国民に読まれるべき本だと思います。150頁ほどの薄くて軽い本です(定価1400円)が、内容はぐっと厚味のある重たい本です。
 憲法9条改正のねらいには、自衛隊の海外派兵を恒常化することにではなく、海外派兵の体制づくりにある。このことをぜひ知ってほしい。本の前書きで強調されています。まったく同感です。
 もし平和憲法がなかったら、日本は朝鮮戦争(1950〜1953年)にも、ベトナム戦争(1965〜1975年)にも、湾岸戦争(1991年)にも、世界のほとんどの戦争に参加させられていて、今ごろは徴兵制がしかれ、日本人は海外で血を流し続けていたはずだ。平和憲法のおかげで、日本人は海外で血を流さずにすんでいると実感している。
 日本の自衛隊がいまイラクへ行っているが、これは国際貢献ではなく、対米貢献である。対米貢献を国際貢献と言っているだけ。そんな対米貢献で、日本人の命を落としてはならない。
 自衛隊がイラクでやっている兵站(へいたん)補給の支援というのは、戦闘行為のなかで一番大切な部分だ。
 硫黄島に送られた2万人の日本軍将兵のうち半ばの1万人が死傷したとき、なぜ大本営は名誉の降伏を許さなかったのか。もし許されていたら、残る1万人は、戦後の日本で愛する家族ともども平和な人生を享受できたはずだ。
 日本の有事とは、在日米軍を含むアメリカ軍と日本周辺国家との戦争に巻きこまれる波及有事のみ。万一にもアメリカ軍が一方的に北朝鮮を崩壊させようとしたとき、北朝鮮の200基のノドン・ミサイルが日本海沿岸に濫立する十数基の原子力発電所を爆破するかもしれない。たしかにその危険はあります。でも、そうならないようにするのが政治ですよね。
 イラクに派遣された自衛隊は、武力行使が禁じられていることを理解され、オランダ軍やイギリス軍が心温かく守ってくれた。ところが、憲法9条が改正されると、自衛隊全体が軍隊そのものに変質する。
 後藤田正晴氏は、「アリの一穴」を恐れ、猪木正道・元防衛大学校長も「私は護憲論者である。なぜかというと、これをいじりだしたら、とてつもなく右傾化してしまう。日本の軍国主義的性質は本当に恐い」と警告している。
 戦後60年、日本が一人の外国人兵も殺さず、一人の自衛隊も殺されなかったという、世界に誇る名誉の看板は取りはずすべきではない。
 いやあ、やっぱり憲法9条2項は絶対に守るべきです。
 福岡ではイラクへ自衛隊派遣の差し止め裁判が起きていませんが、これは残念なことです。自覚したそれぞれの人々が、各々のやりやすいところで、憲法9条(とりわけ2項)を残したいと連携しあっています。あなたもぜひ、その輪に加わってください。

日本の裏金(下)

カテゴリー:社会

著者:古川利明、出版社:第三書館
 下巻は検察・警察編です。
 検察庁には調査活動費、「調活」という裏金がある。これは戦前の司法省(思想検察)の機密費をダイレクトに受け継いでいる。検察庁ではナンバー2の次席検事が毎月、裏帳簿の決裁をする。しかし、「調活」はあくまでトップのポケットマネーである。
 調活がなくなったら、検事正になりたいなんて言うヤツなどいなくなる。
 これは佐々木成夫・大阪高検検事長が大阪地検の検事正だったとき、三井環元大阪高検公安部長に言った言葉だそうです。
 加納駿亮元大阪地検検事正は、740万円の調活を受けとった直後の2000年3月、芦屋で5000万円ほどの自宅マンションを購入した。福岡高検の検事長にもなりましたが、今は大阪で弁護士です。大阪府の裏金問題についての調査委員会のメンバーにもなりました。自ら裏金を手にしていた人物が、どんな調査をするのか、マスコミが話題にしました。そうですよね、身につまされるところがないから引き受けたということでしょうが、本当に大丈夫ですか?
 五十嵐横浜地検検事正が1年間に70回もゴルフコースに出れたのも、この調活費のおかげ。原田明夫元検事総長が法務事務次官のとき、銀座の高級クラブに頻繁に出入りしていたのも調活費によるもの。
 警備公安警察の裏金はすごい。他の捜査部門より捜査費がふんだんに予算計上されている。警備公安部門では、幹部以上になると、途中でピンハネできる。それこそ「濡れ手に粟」のような裏金の恩恵に与ることができる。そのうえ、大企業からもみかじめ料みたいな形でお金をとっている。だから、警備公安では、課長クラスでも愛人がもてる。共産党を捜査対象としているからだ。いわば共産党のおかげで、警察庁長官以下、警察幹部は裏金の恩恵にあずかっている。
 警視庁の本庁警備部の筆頭課ともなると、毎月、管理する裏金の総額が億円に達する。
 警察組織での裏金使途の大半は幹部の私的流用である。
 警察幹部には、毎月、茶封筒でヤミ手当が裏金から出る。大体の相場は、署長は本部課長で5〜7万円、本部の部長クラスで10〜13万円。県警本部長に対しては、月100万円という見方もある。
 国松孝次警察庁長官が狙撃された自宅マンションの購入費は1億円のはず。これを担保設定もせず国松長官は購入している。借金せずに1億円の物件を買えたということは、それなりの資産(貯え)があったわけである。それが裏金だった。この狙撃事件は今もって解明されていませんが、国松元長官が即金で1億円のマンションを購入した点も追及したら、たしかに隠された面白い事実が出てくるのでしょうね。でも、今の日本のマスコミ(大新聞やテレビ局)に、そんな勇気のあるところはありますかね。残念ながらないでしょうね。

労働弁護士の事件ノート

カテゴリー:社会

著者:東京法律事務所、出版社:青木書店
 会社の経営が苦しくなってきたことを理由として人員整理がはじまり、労働者が解雇されることがあります。そのとき、その解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえるためには、次の整理解雇の4要件をみたす必要があります。これは、一応、確立した判例になっています。
 ? 人員削減の必要性があること
 ? 解雇を回避する努力を尽くしたこと
 ? 解雇される対象者の選定に合理性があること
 ? 解雇手続きが相当であること
 これらの要件をみたしていないときには、その解雇は権利濫用として無効となります。
 ある事件では、会社が解雇通告した同じ月に、次年度に20人の新規雇用を計画していることを、その解雇対象者がインターネットで見つけて、それが決定打となって解雇は無効となった。企業は、投資家への情報開示のために労働者には見せない財務情報をホームページに堂々と公開していることがある。なーるほど、こういう手もあったのですね。
 「辞めろ、会社を。お前、いらん。迷惑かけてまで。どういう親や、顔も見たくない。辞表もってこい、辞表を」
 「会社の都合を考えていないだろう。そんな考えだったらいらんちゅうの。辞めてくれや、言うの。お前に払っている給料で2人雇えるんだからな。明日から会社に来んでもええで」
 これは損保会社で40代半ばの支店長が、50代前半の労働者を辞めさせようとして罵倒したときの言葉です。罵倒された労働者は録音テープを隠し持っていました。これが解雇無効につながりました。時と場合によって、相手の承諾なしでとった録音テープでも、裁判の証拠となりうるのです。
 この事件では勝利的和解が成立し、解雇された労働者は職場に復帰することができました。逆に、さんざん罵倒していた支店長のほうが退職してしまいました。
 労働者派遣が大流行しています。職場にいろんな種類の労働者がいて、団結することもできない労働条件のもとで、本当に生産効率は上がっているのでしょうか。私には疑問です。
 労働者派遣とは、派遣元である事業主と、労働契約を締結している者が、派遣元事業主との間で労働者派遣契約を締結した派遣先事業主の指揮命令にしたがって派遣先の事業場で就労する働き方のこと。派遣社員は、雇用する事業主と、指揮命令する事業主とが違うところに特徴がある。
 業務委託とは、一定の業務処理の委託を受けて、その業務を遂行し、それに対する報酬が支払われる働き方をいう。
 業務請負は、一定の仕事の完成を約束して、その仕事の完成に対して報酬が支払われる働き方をいう。委託も請負も、仕事の方法について指揮命令を受けないで業務を処理するのが建前。たとえば、請負では、仕事をする人は、注文主の指揮命令は受けず、求められるのは仕事の完成という結果のみ。
 首都圏青年ユニオン(労組)では、派遣労働者を組織して団体交渉を行った場合、派遣元企業から解雇を撤回させて復職させ、新しい派遣先を紹介させる、新しい派遣先が決まるまでの給料は派遣元企業が支払う、という内容で解決している例がある。
 さすがに労働事件専門の弁護士をたくさんかかえた東京の法律事務所がつくった本です。いろいろ大変勉強になりました。福岡では労働裁判は激減したままの状況です。

ザ・取材

カテゴリー:社会

著者:関口孝夫、出版社:華雪舎
 日本共産党の機関誌である赤旗編集局長をつとめたベテラン記者が新米記者を前に語った講話が本になりました。さすが数々のスクープをものにした敏腕記者の話だけに、ついつい耳を傾けさせるものがあります。
 戦後の日本の利権史に名を残す政治家の双璧は、河野一郎(河野洋平の父)と田中角栄だ。河野一郎は農林大臣として国有林処分に、田中角栄は大蔵大臣として国有地処分にそれぞれ辣腕を振るった。60年代、田中角栄が国有地処分で得た利権はざっと100億円と見積もられ、これを小佐野賢治と2人で折半したという「通説」があった。田中角栄が大蔵大臣のときの国有地払い下げは群を抜いていた。
 田中角栄は鳥屋野潟の湖底地を買い占めた。その総面積は98ヘクタール。そのうちの干田化した13ヘクタールを、政治力で新潟県・市に買い値の2倍で売りつけた。これは買収総面積に相当する額だった。だから、残った湖底地85ヘクタールはただで手に入れたも同然。ところが、上越新幹線の開通で、その湖底地は新幹線駅前に位置するため、地価は一気に150億円へと高騰した。これを取材してまわったのです。
 著者に会うのを渋ったキーマンを取材したとき、著者はキーマンに次のように言った。
 「きょうは話を聞きに来たのではなく、私の話を聞いてもらいたいと思って来た。この問題については私なりに調べ、輪郭をとらえているつもりだ。ただ、この問題の真相をはじめて世に問うことになるだけに、活字にするにあたっては正確を期したいし、大げさな言い方をすれば歴史への責任もある。立場があるというのなら、私がしゃべる調査結果を聞いて、不正確なところを指摘してくれるだけでもいい」
 さすがにこのように前置きされると、そのキーマンは、「そこは違う」「そう、そのとおり」と合いの手をいれはじめ、ついには、「ワタシが直接しゃべったということでなければ、書いてもいい。真相はこうなんだ」と語り出した。
 田中角栄にしてやられた。あいつの方が一枚も二枚も上手だった。これがキーマンの弁だったというのです。さすが、すごい取材力ですね。
 警察の手がける汚職事件は、地方政界の市長、せいぜい地方議員、地方公務員規模の贈収賄事件どまりが相場。高級公務員がらみの事件は皆無ではないが、あくまで例外。
 警察の汚職捜査は、どちらかというと上に伸びず、下に伸びる傾向にある。
 警察庁長官などをつとめた警察官僚が次々と自民党の国会議員に転身する光景に象徴されるように、自民党の一党支配が長期にわたった下で、日本の警察組織が長年にわたり政権与党へ形づくってきた組織と人脈構造癒着の産物である。いいかえれば、支配する政治勢力にもっとも左右されやすい番犬のような組織ともいえる。なーるほど、ですね。
 新聞記者の心得。
○ 拾ってきたものを何もかも原稿用紙の上にぶちまけようとするな。何を拾うかではなく、何を捨てるか、だ。
○ 前文に力を注げ。ここに全体の3分の2の精力を注ぎこめ。そこで苦しめば、後は楽だ。前文の中に、整理記者が見出しに拾いたくなるような珠玉のことばを入れろ。
○ 120行以内で意を尽くせる記事しろ。それがスピード時代の読者の一読判断の基準だ。それを1時間で書きあげろ。
○ 筆がすすまないのは事実が少ないからだ。事実の薄さを修飾語や形容詞でごまかそうとするな。
○ 一つの記事に同じ表現を2度つかうな。文語調のもったいぶった表現はつかうな。接続詞はいらない。記事が短文の積み重ねだ。
 体験にもとづく、なかなか含蓄ふかい講話でした。弁護士にとっても、現場に足を運んだうえで準備書面を書くのは大切なことです。読む人への説得力が格段に違います。

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