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カテゴリー: 社会

格差社会とたたかう

カテゴリー:社会

著者:後藤道夫、出版社:青木書店
 現在日本の勤労者世帯中の貧困率は2割前後。小泉首相は、格差の増大の原因を高齢者世帯の絶対数の増加のせいにするが、貧困世帯の増加268万世帯のうち、勤労世帯における増加分が142万世帯なので、小泉首相の主張は間違っている。
 国民の4割が加入している国民健康保険の保険料の滞納世帯は、2000年6月に  370万世帯だったのに、4年後の2004年6月には461万世帯と2割近く増えた。
 就学援助を受ける小中学生も急増し、日本全国で1997年度に78万人だったのが、2004年度には134万人となった。
 収入が増えている人々もいる。1997年に年収1000万円以上の人が5万6000人(5.8%)いたのが、2002年には6万8000人(6.5%)に増えた。IT産業関連など高処遇の職種群が形成されている。
 年収2000万円以上の人が2001年に18.1万人だったのが、2004年には 19.6万人に増えた。2005年9月の総選挙において自民党は首都圏で圧勝した。それは、これら上層の人々と、その周辺の人々、そして自分も上層への仲間入りが可能だと思っている人が支えている。
 なーるほど、東京で石原慎太郎が仕事もろくにしないのに300万票もの支持を集めるのは、それだけの現実的基盤が、それなりに存在するということなんですね。
 このような上層国民を社会統合の中心とするためには、上層への利益供与システムをつくり、彼らに社会秩序維持の担い手たる自覚をもたせることが必要となる。そのため、所得税の累進度を大きく緩和した。1980年代初めは75%が最高税率だった。1990年代初めに50%に大幅ダウンした。1998年の税制改革により37%になった。
 公私二階建て方式がとられるようになった。すべての国民に開かれる「公」は薄く、脆弱なものとし、「公」を支えるための高所得層の費用負担は小さくする。その分を、「私」の部分を購入する費用としてつかうことを可能にする。
一部の上層は、たしかに「報われる」。反対に、ワーキング・プアだけで600万世帯をはるかに超えるが、これらの多くの人々が「報われる」ことなく、それどころか、以前なら考えられないような生活不安、労働不安、そして将来の不安に直面している。
 「努力すれば報われる社会を」というスローガンは、自助努力に欠けるとみなす人々を、排除し、切り捨て、財政負担を軽くしたうえで、そんな人を治安管理の対象として、いわば隔離するとともに、一種の見せしめとして、「中層」以下を叱咤鼓舞する。
 ここまで落ちるんだぞ。それがいやなら、何であれ、死に物狂いで努力せよ。
 というものです。いやあ、本当にあたたかみのない、殺伐とした日本になってしまいましたね。弱者切り捨てがどんどん進むなかで、上昇志向の若者が自分の足元を見ることなく、手を叩いて、格差拡大を喜んでいます。ここに切りこみ、対話して現実をしっかり見つめることを多くの人に求めたいものです。

私が選んだ後継者

カテゴリー:社会

著者:松崎隆司、出版社:すばる舎
 2005年における社長の平均年齢は58歳9ヶ月。現実には、社長交代は思うほどスムースには進んでいない。社長族の構成年齢は高いにもかかわらず、なぜ社長交代が進んでいないのか。
 日本の企業倒産の5割以上は、会社を清算する破産。その原因の多くは後継者の問題。倒産企業の4社に1社が、地方で30年以上経営を続けている企業。
 事業承継の形態は4つある。第一は親族内承継、第二は外部からの雇い入れ、第三が M&Aによる企業売却、第四が事業承継をあきらめ清算すること。
 一族以外から後継者を選ぶケースが近年は増加傾向にあり、2002年には38%にも達している。
 後継者に必要な資質は三つある。従業員を管理する能力、縁を大切にする能力、危機管理能力。
 事業承継でうまくいっているところというのは、実は、先代が早世したところが多い。親と子が一緒だと、どうしてもケンカになってしまう。
 中継ぎ役員、セットアッパーも、その一手法である。後継者の育成と経営を見るという役割を担う。後継者育成とともに、右腕になる人をつくることも、事業承継の重要な要素。
 いま、弁護士会も、この中小企業の事業承継に取り組もうとしています。
 5月中旬、久しぶりに阿蘇の大観峰に行ってきました。いつ行っても、その雄大さに圧倒されてしまいます。今回はじめて気がつきましたが、仏様の涅槃像でもあるのですね。大自然の巧みさに感嘆します。透きとおる五月の青空でした。雲雀が天高く飛び上がって甲高い鳴き声で鳴き、大草原で肥後牛たちが草をはんでいました。

大人が絵本に涙する時

カテゴリー:社会

著者:柳田邦男、出版社:平凡社
 生きる意味というものは、何かいいだろうと受け身で待っていたのでは見つからない。たとえ絶望的な状況下にあっても、自分は最後までこう生きたと人生の物語の最終章を自分で書いてはじめて、それが人生から期待されたことへの答となるものであり、人生の意味になるのだ。
 うーん、なかなかいい言葉です。かみしめたいものです。
 最近は家族が病気で入院していても、子どもを見舞いに連れていかない家が多い。だが、子どもには、もっともっと生老病死に日常的に接するようにすべきだと思う。
 この世に生まれた乳児は、羊水の中の安心感からすぐに抜け出せるわけではない。母親に抱きしめられることを、いわば羊水に替わるものとして求める。心の発達のためには、そういう愛着関係が少なくとも三歳児までは必要だ。心の分娩には3年かかる。
 絵本は絵と言葉が共鳴しあうことによって、奥行きのある立体的な世界を創り出すメディアである。絵は言葉の単なる説明役でもなければ、添え物でもない。言葉もまた、絵が語り切れないところを補うものでもない。
 絵本とは、簡潔に洗練された言葉と象徴的な絵と音読する肉声とが一体となって物語りの時空を生み出す独特の表現ジャンルである。
 子どもは幼いように見えても、喜びや楽しさや悲しさや辛さや無念といったさまざまな感情が芽生えている。そうした感情がきめ細かく育つのを「感情の分化」という。「感情の分化」は、母親をはじめとする家族との接触のなかで芽生え、発達していく。母親や父親がたくさんの絵本や読み物を感情をこめて読みきかせすると、物語の展開にそっていろいろな感情が動き、「感情の分化」がきめ細やかさを増していく。
 これに対し、親が子どもを放置し、テレビに子育てをまかせるような日常になると、子どもの「感情の分化」はほとんど起こらないで、怒りの感情や抑圧感ばかりが強くなり、他者の気持ちを汲みとったり思いやったりする心がほとんど育たなくなる。
 実は、絵本や読み物による豊かな感情の形成という営みは、子どもだけでなく、大人にも必要なのだ。大人こそ絵本を読もう。絵本は子どもだけのものではない。生涯を通じて心の友となるだけの豊かな内容が語られている。心が渇ききっているとき、絵本は心の潤いを取り戻してくれるオアシスとなり、生きるうえで本当に大事なものは何かをあらためて気づかせてくれる。
 大人も、座右に好きな絵本を置いて、ときどき絵を味わう。そんな心のゆとりを持ちたいものだ。少年時代、少女時代に持っていた豊かな想像力、雲を見ていろいろな動物を想像するファンタジーの能力、そういうものをなくした大人って何と干からびた日常であることか。
 私が司法試験の受験生だったころ、同じ受験生仲間で、セツラー仲間でもあった友人が「息抜きに絵本を読んでみたら」と言ってすすめてくれたことがありました。今でもその本のタイトルを覚えています。『天使で大地は一杯だ』という本です。読むと、なるほど頭の中に爽やかな風が吹き渡っていく気がしました。一杯のコーヒーよりはるかに確かな清涼剤となりました。この友人とは、今、東京で活躍している牛久保秀樹弁護士です。
 子どもが生まれてから、たくさんの絵本を買って次々に読み聞かせをしてやりました。読んでるほうも楽しいのです。斉藤隆介の「八郎」とか「花咲き山」などは、絵も文章もいいですね。かこ・さとしの絵本は「カラスのパン屋さん」などいいものがたくさんあります。絵本は3人の子どもたちに次々に読んでやりましたのでボロボロになったのもありますが、みんな捨てがたいので残してあります。そのうち孫ができたらよんでやろうと思うのですが、いつのことやら、というのが我が家の状況です。残念ですが、こればかりは、どうしようもありません。
 私も一度だけ絵本に挑戦しました。弁護士会の職員で絵の描ける人がいたので、私が文章をかいて、彼女に絵を描いてもらいました。出版社に持ちこみましたが、残念ながら入賞はできませんでした。でも、せっかくなので出版してみたのです。ちっとも売れませんでしたが、いい記念になりました。

こんな僕でも社長になれた

カテゴリー:社会

著者:家入一真、出版社:ワニブックス
 レンタルサーバーという商売があるそうです。50万人が利用して、年商13億円。
 若い女性が自分のホームページをつくるとき、可愛いサブドメインを何種類も用意して選べるようにした。レンタル料はなんと月250円。3000円の初期設定料も女性に限って半額の1500円。うーん、これはなんだか安そうです。
 でも、同業者からねたまれて、2ちゃんねるに中傷が書きこまれたり、そんな苦労もありました。
 それでも、個人のホームページに広告をのせてもらい、そこから新規客がふえたら一回2円のほか50%の報酬を支払うシステムによって、飛躍的に利用者は増えていった。
 なーるほど、ちょっとした工夫で販路が広がったのですね。
 この29歳の社長は実は福岡出身。中学校のときに登校拒否。そして高校は中退。3年間、自宅にひきこもっていました。だけど、ついに大検に受かって、あの東京芸大をめざして新聞配達を続ける。そして、ネットで知りあった女子高生と結婚。
 一気に読ませた本でした。ちなみに、270頁のこの本を私が読むのに要した時間は1時間ほどです。通勤電車の1時間で読み上げました。途中の駅のアナウンスはまったく耳に入らないほど集中して読みます。いわば至福のひとときです。
 子どものころの貧乏生活を生き生きと再現した描写には心あたたまるものがあります。両親から惜しみない愛情をそそいでもらったことが、著者の生きていく強いバネになったような気がします。とても素直な文章で、ストンと胸に落ちます。私はなかなかの筆力だと感心しました。
 前に紹介しました宮本延春先生の「オール1の落ちこぼれ、教師になる」とか、上條さなえ「10歳の放浪記」を読んだときの感動を思い出しました。元気の出る本としておすすめします。

吉本興業の正体

カテゴリー:社会

著者:増田晶文、出版社:草思社
 吉本は、これから世に出ようという芸人に対して差別しないし、贔屓(ひいき)もしない。放任の姿勢を貫き、努めて平等に扱う。だが、そこに輝くものを見つけたときから、事情が異なってくる。
 芸人は際立った個性を持つうえ、感情の塊のような商品だ。毒を吐き、社会的規範から逸脱してしまうことさえある。こんな扱いにくい商品は他にあるまい。
 吉本は芸人に対して、ときに強面ぶりを発揮し、あるいはネコ撫で声で懐柔しながら、結局は己が掌の中で彼らをマネージメントしてきた。しかも、吉本は一人の才能、一組の人気を最大限に発揮させながらも、決してそれだけに依存しない。
 主力商品の寿命が尽きた日に会社も終焉を迎えるという愚を吉本は絶対に踏まなかった。芸人は商品であり、商品はあくまでも取り替え可能でなければいけない。それを裏で支えているのが、広大で柵の低い放牧地なのだ。
 吉本の強みは層の厚みにある。どの芸人も人気者がコケるのを待っている。そいつがコケたら、すぐに自分の出番があることを自覚している。実際、そのとおりになる。
 吉本興業は2006年3月期に、過去最高の462億円を達成した。
 吉本には過去数回のピークがある。戦前、すでに吉本は東京を制圧し、日本一の吉本を一度実現していた。お笑いの世界への本格復帰は昭和30年代半ばからのこと。うめだ、なんば、京都に三つの花月劇場を構え、勃興したばかりのテレビと蜜月関係を結び、ラジオの深夜放送を聴く若者たちにアピールすることで躍進の糸口をつかんだ。
 吉本は若手を大胆に起用した。仁鶴、やすきよ、三枝、月亭可朝らは吉本の四天王といわれた。戦後30年以上かけて、吉本は上方お笑い界のトップ・プロダクションの座に返り咲いた。1980年に巻きおこったマンザイブームによって、吉本はまた頂点を経験した。このマンザイブームにより、吉本はまた頂点を経験した。このマンザイブームは短命に終わったが、さんま、紳介、ダウンタウンらを先兵として東京制圧を狙った。1990年代にその地盤づくりが完了し、2000年に念願の全国区化を果たした。
 大阪のオモロイ子と、東京のおかしな子では、レベルが違う。大阪の子は親元から通ったり、大学を落ちたから芸人にでもなろか、という手合いがけっこういる。その点、こと危機感という側面だけでいうと、東京の生徒たちは必死だ。故郷を出て一人住まいをして、なんとしてもお笑いの世界でビッグになってやろうという野心をもった生徒が多い。
 大阪は芸人、とくに漫才師の宝庫だ。しかし、戦後からずっと、大阪で生まれた笑いは大阪でしか消費されていない。ところが、吉本は、大阪弁を笑いの標準語に仕立てた。日本の言語史上、これほどまで大阪弁が市民権を得た時代はない。
 1982年、吉本は芸人の養成学校をNSC(吉本総合芸能学院)を開設した。ピーク時には2000人が応募。今でも500〜800人が願書を出す。入学金は10万円で、月謝2万5000円。1年分の学費は合計40万円。面接で、よほど不適当とみなされない限り、ほぼ全員が合格する。
 現実は厳しい。卒業生のなかからプロとしてやっていけるのは、一期あたり4〜5組程度。お笑いの世界でトップクラスになるのは、東大に入ってエリート官僚になるよりも、よほど難しい。ただ、吉本にとって、NSCができたことで、大量の芸人予備軍を手にすることができた。全員がスターになれるわけもないが、いずれにせよ分母が大きい方が、売れっ子を含む確率は高くなる。
 しかし、吉本のすごいところは、タレントの層の厚さより、むしろマネージャーのパワー。彼らは、局におまかせ、仕事下さい、なんて絶対に言わない。どうやって売り出すか、どんな企画がいいか、この番組をステップに次はどう展開するか。本来ならテレビ局側の領域にどんどん足を踏みこんでくる。
 マネージメントという名目の人身売買、社会的良識など通じないアウトローの芸人どもにムチを入れる猛獣づかい。要するに、テキヤ稼業の巨大化したものが吉本興業である。 そんな吉本が一部上場企業になり、経団連にまで入っている。まあ、日本の経済界の本質は、良くも悪くもそこにあるというべきなんでしょうね。
 20年以上も前、大阪に出張したとき、ひまつぶしにナンバ花月劇場に一度だけ入ったことがあります。若い男女で満員、私にはとてもついていけない乱暴なギャグで爆笑の連続でした。早々に退散してしまいました。私はテレビと無縁の生活をずっとしていますので、歌の世界と同じく、お笑いの世界にもトントふれることがないのですが、活字を通して知る芸能界のすさまじさには声も出ません。
 福岡のお濠端で若者二人が芸の練習をしている場面をたまに見かけることがあります。どの世界でも、トップにのしあがるのは大変なんだと、この本を読みながら、お濠端の若者の真剣な稽古姿を思い出しました。

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