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カテゴリー: 社会

プロパガンダ教本

カテゴリー:社会

著者:エドワード・バーネイズ、出版社:成甲書房
 80年前(1928年、昭和3年)に書かれた本です。ちっとも古臭くなっていないのは、ギリシャ哲学、そしてマルクスやレーニンの書いた本と同じです。
 ナポレオンは世論の動向を常に警戒していた。いつも人々の声、予想のつかない声に耳を傾けていた。ナポレオンは次のように語った。
 なによりも私を驚かすものが何だか分かるか?それは、大衆に耳を傾けることなく、力づくでは何一つまとめることができないということだよ。
 なーるほど、軍事の天才ナポレオンにして、そうなのですね。
 万人の読み書き能力が、精神的高みのかわりに人々に与えたものは、判で押したように、画一化された考えだった。
 うむむ、これは鋭い指摘です。知性と画一化とは両立しないはずなのですが・・・。
 そもそもプロパガンダとは、国外伝道の管理と監督のために、1627年にローマで制定された枢機卿の委員会と聖者に適用されたものだ。
 辞典によると、プロパガンダには四つの定義がある。その一は、国外伝道を監督する枢機卿の委員会。また、1627年にローマ教皇ウルバヌス8世によって、伝道師の司祭を教育するために創設されたローマのプロパガンダ大学。布教聖省の神学校のこと。
 その二、転じて、教義や制度などを普及することを目的とした団体や組織。
 その三、意見や方針に国民一般の指示を取りつけるための、系統立てて管理された運動。
 その四、プロパガンダによって唱えられる主義。
 このように、プロパガンダとは、本来の意味においては、人類の活動のまったく正当な形である。
 私たちが、自由意思で行っていると考えている日常生活における選択は、強大な力を振るう実力者によって、姿の見えない統治機構による支配を免れない。
 たとえば、人は自分の判断にもとづいて株式を購入していると何の疑問も持っていない。しかし、実際には、彼のくだす判断は、無意識のうちに彼の考えをコントロールする、外部から与えられた影響によって形づくられたイメージにもとづいている。
 大衆というものは、厳密に言葉の意味を考えるのではない。厳密な思考ではなく、衝動や習慣や感情が優先される。何らかの決定をくだすとき、集団を動かす最初の衝動となるのは、たいてい、その集団の中での信頼のおけるリーダーの行為である。これが大衆にとっての手本となるのだ。
 ある物をその人が欲しがっているということは、その物に備わっている本質的な価値や有効性のためではなく、無意識に別の何かの象徴、すなわち、自分自身では認めたくない欲求をその物の中に見いだしているからである。
 人間は、ほとんどの場合、自分でもわからない動機によって行動している。
 人間は、芸術や競争や集団や俗物根性、自己顕示欲という要素にしばられて生きている。
 このバーネイズの著者は、ナチス・ドイツのヨゼフ・ゲッペルス宣伝大臣に愛読された。プロパガンダというと、ナチス・ドイツに本場があると思いがちだが、実はアメリカで生まれたもの。ユダヤ人を迫害したナチスのプロパガンダが、実はユダヤ人のバーネイスによって編み出されたというのは歴史の皮肉だ。
 現在のテレビ番組がシリアスな内容を避け、お笑い番組だけを延々とゴールデンタイムに流し続けるのは、企業側に対する配慮である。
 今の日本ではニュース番組までもがバラエティ番組化している。テレビは、書籍やインターネットと違って、ながら見ができるので、自然にものを考えないように大衆の脳がつくりかえられていく。
 これって、ホント、恐ろしいことです。でも、多くの日本人がそれに気がつかないまま、無責任男の安倍首相から交替した福田首相の誕生を6割もの人が歓迎しているのです。こわい話です。
(2007年7月刊。1600円+税)

官邸崩壊

カテゴリー:社会

著者:上杉 隆、出版社:新潮社
 自公政権のもろい内幕が赤裸々に暴かれています。こんな人たちに日本の国の前途をまかせているのかと思うと、鳥肌が立つほどの肌寒さを覚えます。
 参院選のとき、演説会場での応援が終わるたびに、首席秘書官の井上義行は、安倍のもとに駆け寄った。そして車に乗りこむと同時に、こうささやいた。
 総理、すごい人出です。私はこんな群衆を見たことがありません。総理の人気はホンモノです。移動中の電車内、飛行機の待ち時間、井上はあらゆる場所で安倍をほめたたえた。
 首相側近は、たしかに自らの役割を果たした。どんなときでも安倍を不安にさせないこと。井上はこの重要な任務を完遂した。だが、残念なことに、本来の意味での仕事はしなかった。いかなるときでも首相に正確な情報を伝達するという仕事を。この意味で、井上は健全な任務を果たしたとは言い難い。
 安倍の本『美しい国へ』は50万部をこえる売上げを誇った。これは、政治家本として、田中角栄の『日本列島改造論』、小沢一郎の『日本改造計画』に次ぐ売り上げだ。
 その本のなかでうたいあげた憲法改正、とりわけ9条の改正の実現は、安倍の悲願である。安倍は2006年4月15日早朝、靖国神社に極秘のうちに参拝した。8月3日、NHKがそれをスクープ報道した。タイミングを見計らった安倍が、秘書官の井上と綿密に計画を練ったうえで、NHKと産経新聞のみにリークしたのだった。
 ええーっ、安倍って、こんな姑息なことをしていたのですね。こんなこすっからいことをする人間なんて、首相の器じゃありませんよ。
 次の2人の女性議員の経歴が紹介されています。テレビを見ない私には広告塔と言われても、もうひとつピンと来ません。彼女らの節操のなさは特筆されるべきでしょう。
 山谷えり子(参議院議員)は、もとは産経新聞の記者で、民主党の比例議員だったが、のちに保守新党に参加し、カトリック信者でありながら靖国神社への参拝を強硬に主張する。夫婦別姓の推進論者だったのが、いつのまにか反対論者に変身した。
 小池百合子(衆議院議員)は、細川護煕の日本新党の広告塔として活躍していたが、いつのまにか小沢一郎の新進党の顔になった。そして小泉純一郎のときには環境大臣になり、安倍首相の側近として国家安全保障担当補佐官となり、防衛大臣になった。小池は1992年の初当選以来、その政治生活のほとんどで、権力の中枢に身を寄せてきた恐るべき議員である。一言でいうと、人気とりだけはできる、嫌味な人間ということでしょう。戦国時代の武将にも、そういう人物がいましたね・・・。
 やらせ問答で有名になったタウンミーティングに政府がかけた費用は、なんと9億  4000万円。電通が請け負っています。48回分ですから、1回あたり2000万円です。これを税金のムダづかいと言わなくて、どうしますか。でも、このような場合、住民訴訟のような制度は残念ながら、ありません。
 塩崎官房長官と広報担当の世耕は、お互いに情報を秘匿しあい、個別に安倍に報告する。そこに秘書官の井上までからんで、複雑は一段と増した。安倍政権の二人の広報担当者は、官邸でわずか数十メートルしか離れていないが、意思の疎通がなかった。官邸内の情報は一本化されず、政権のプロデューサーを自任する井上は、施政方針演説をめぐってまで、世耕と対立していた。
 広報担当の世耕は、自ら2度にわたって自分の仕事を自画自賛したことから、広報関係者の間での世耕の株価は一挙に暴落した。一夜にして切れ者から愚か者に墜ちた。
 はじめ、井上は誰かれ構わず、怒鳴りつけていた。議員である塩崎や世耕に対してさえ横柄な態度をとるのは日常茶飯事だった。
 キャリア官僚からすれば、ノンキャリア出身の井上に指示されること自体が耐え難いことだった。そうした空気を読まず、井上はこりずに官僚たちを怒鳴りつけた。同じことを自民党本部の職員にもした。井上の評判が悪くなるのは当然のことだった。
 教育再生会議は、国家行政組織法8条によって設置された、いわゆる8条委員会である。より強力な権限をもち、答申を出す3条委員会とは違って、その結論はなんら拘束力をもたない。その事務局長が自民党の参議院議員になるなんて、ひどいものです。
 安倍政権では誰もが友だち感覚で、小泉政権時にあった緊張関係は消えうせていた。
 支持率の低迷する安倍政権を何とか支えていたのは警察中の漆間(うるしま)長官である。拉致問題一本で首相になった安倍にとって、漆間は頼りになる数少ない側近の一人だ。漆間は、政権内での発言力を背景に政治力を強め、外務事務次官の谷内とともに安倍に欠かせない官僚ペアになった。天下りが規制されてもっとも困る役所の一つは警察庁なのである。
 フジテレビ、産経新聞、夕刊フジのフジサンケイグループは安倍政権の特務機関と言われていた。
 いやあ、うすら寒いどころではありません。その馬鹿さ加減には、背筋が凍りついてしまいます。実にグッド・タイミングな本でした。それにしても、安倍のあとの福田首相の支持率が6割だなんて、日本人はいったい何を考えているんでしょうね。まったく同じ自公政権に期待する人が6割もいるなんて、私にはとても信じられません。
(2007年8月刊。1400円+税)

悔いなき生き方は可能だ

カテゴリー:社会

著者:村岡 到、出版社:ロゴス社
 著者は40年前の東大闘争のとき、全共闘の活動家でした。
 ときに周りをふり向くと、活動を持続している人が意外に少ないことに気づく。あのときの活動家が10分の1でも「生き残って」いてくれたら、そんな思いに駆られたことが再三ではない。なぜ、多くの青年が活動を継続できなかったのだろうか。それぞれに理由と事情があるに違いない。
 ふと外の世界との接点で、自分の行ないをかえりみる機会を与えられ、気づいてみると、そこにある種の断絶を感じる。感じとるだけの常識を備えていると、ある場合には命がけで闘っていた課題と自分の生きざまとに微妙な落差・陰を感じることになったのではないだろうか。そういう問題を軽視して、組織が重要だとだけ説教する運動から離脱していったのだろう。
 日本マルクス主義法学の創始者である平野義太郎の『マルクス主義の法理論』を一読すると、法律の問題はマルクス主義における空白をなしていたことがよく分かる。それはレーニンも同じことで、『国家と革命』には、法律は登場しない。
 私は、この二つの本を何回も読みました。目が開く思いでしたが、法律が位置づけられていないというのを初めて知りました。
 ロシア革命のなかでは、法律の無知をもって革命家の誇りとする風潮があったほどである。この風潮は、民主政府の伝統を欠如していたロシアの歴史に深く根ざしていた。ロシア革命を、法の精神なき革命だと大江泰一郎は特徴づけた。
 レーニンは、革命の利益は、憲法制定会議の形式的権利よりも尊いという立場を断固として貫徹した。左翼における憲法の軽視の根底にはマルクスが『共産党宣言』で断言した「法律はブルジョア的偏見である」というドグマがある。
 うーむ、なかなか鋭い指摘だと思いました。
 東大闘争(1968年6月〜1969年3月)から40年近くが過ぎた現在、今なおそれを客観的な歴史として語れない、語りたくない団塊世代が想像以上に多いように思います。そこにはノスタルジーの世界ではなく、今の生き方を厳しく問いかけるものがあるからではないでしょうか。タイトルにありますように、お互い悔いなき人生を送りたいものです。もっとおおらかに人生と社会変革のあり方を語りあいたい。本当にそう思います。
 著者とは、東京の河内兼策弁護士による、「昔、全共闘だった人も、民青だった人も、いま憲法9条を守るために」というテーマの集会で初めてお会いしました。団塊世代の参加者がとても少なくて、残念でした。このとき、関西地方からインターネットを見て参加したという人がおられました。安田講堂内にたてこもっていた人です。逮捕されて、執行猶予判決を受け、その後、企業に就職して何も社会活動はしてこなかった。妻にも自分の過去は言っていないとのことでした。まだまだ、団塊世代の人がこの種の集会に参加するためには心理的抵抗がとても大きいようです。
(2007年4月刊。2000円+税)

食糧争奪

カテゴリー:社会

著者:柴田明夫、出版社:日本経済新聞出版社
 この本を読むと、日本は、もっと食糧自給率を高めるべきだと痛感します。
 日本では余剰感のあるコメだが、世界的にみると需給が引き締まり傾向にあり、将来、楽観視はできない。
 現在、穀物メジャーは、伝統的な穀物商社のカーギルとバンゲ、搾油業や小麦製粉業などの食品加工業を由来するADM、コナグラの大手四社。
 古いデータだが、1997年時点で、これら四社にコンチネンタル・ケレインを加えた大手五社の米国の穀物流通のシェアは、産地集荷段階で3割、内陸部の中間流通段階で5割、輸出段階で7割、一次加工段階では5割を占めていた。
 世界に栄養不足人口は8億5000万人いると推計されている。
 世界の穀物市場では、2000年を境に供給過剰から供給不足へと需給構造の転換がすすんでいる。旺盛な需要に供給が追いつかず、結果として、世界の穀物在庫が取り崩されているためだ。この背景には、中国やインドなどの人口大国が本格的な工業化の過程に突入し、猛スピードで日・欧・米の先進諸国へ追いつこうとしていることがある。
 もはや世界経済を牽引しているのは、1990年代までの日・欧・米の先進国(人口8億人)ではなく、人口30億人のブラジル・ロシア・インド・中国である。
 2003年時点で、遺伝子組み換え作物の栽培比率は、大豆で81%、トウモロコシで40%に達している。
 日本の農家戸数は1980年の466万戸から2005年に293万戸へ4割も減少した。農地面積は546万ヘクタールが471万ヘクタール(2004年)へ14%減少した。農業就業人口は506万人から259万人(2003年)へと49%も減少した。
 日本の食糧自給率は40%というが、実は、日本の畜産物はその飼料のほとんどを海外に依存している。だから、注目すべき自給率は穀物自給率の28%。これは他の先進諸国と比べて異常に低い。アメリカは128%、フランス142%、ドイツ122%である。イタリア62%、イギリスでも70%である。
 これでは日本人は餓死寸前みたいなものではありませんか。この面でもアメリカ頼みでは日本人は将来を生きていけないのです。
 イギリスはかつて日本並みに低かった。一時は400万ヘクタールだったイギリスの耕地面積は、1800万ヘクタールにまで拡大された。これによって食糧自給率が向上した。飽食・日本の将来を不安にさせる警告の書です。石油を食って生きていくことは出来ないのです。自動車をつくって外国に売り、食糧は外国からお金を出して買えばいいという発想は明らかに誤りだと思います。
 先日、札幌に行ってきました。心の優しい岩本勝彦弁護士の紹介で行った小料理屋(「しんせん」)で、シャケの心臓(ハツ)の串焼きを初めて食べました。北海道は美味しいものがたくさんあります。やっぱり産地が分かっているものを安心して食べたいですよね。
(2007年7月刊。1800円+税)

全記録・炭鉱

カテゴリー:社会

著者:鎌田 慧、出版社:創森社
 かつて日本には至るところに炭鉱があった。炭鉱で働く労働者は1948年に46万人、1957年にも30万人いた。2007年の今では釧路炭田(釧路コールマイン社)に  500人ほどしかいない。
 私は一度だけ、閉山前の三井三池炭鉱の坑内に入ったことがあります。有明海の海底よりさらに何百メートルも下、地底深くの切羽(きりは。石炭掘り出しの最前線です)にたどり着くまで、坑口から1時間以上もかかりました。周囲はすべて真っ暗闇のなかです。厚いゴム製のマンベルトに乗って、石炭のひと塊になった感じで昇ったり降りたりしてすすんでいくのです。暗黒の地底に吸いこまれそうな恐怖心を覚えました。
 炭鉱夫が生き抜くのは、ひとえに運と勘である。そうなんです。運が悪ければ死、なのです。いつ落盤にあってボタ(石炭ではない岩石)に圧しつぶされるか、いつガス爆発で殺されるか分からない、まさに死と隣りあわせの危険な職場です。
 北海道にあった北炭夕張炭鉱では、7年ごとに死者数百人という大事故が発生しており、死者20人未満の事故など、数えきれないほど。もちろん、天災というのではなく、安全無視、生産優先による人災です。
 そして北炭夕張炭鉱が閉山になって、人口10万人いた夕張市は、今では人口3万の都市になってしまいました。
 北海道の炭鉱の労務管理は三つの型に分類できる。三菱系は警察型労務管理。三井系は物欲的労務管理。北炭系は精神的労務管理。
 うーん、そうなんですか・・・。三井系も、けっこう警察に頼った労務管理をしていたように私などは思うんですが・・・。
 夕張には3人の市長がいると言われてきた。鉱山の所長、炭労出身の地区労議長、そしてホンモノの市長は、いわば三番目の市長。初代市長は北炭の労務課長出身だった。
 大牟田にあった三池炭鉱が閉山して、既に10年がたちました。いま、大牟田に炭鉱があったことを思い出させるのは、海辺にある石炭科学技術館くらいのものです。映画『フラガール』で見事に再現されていた2階建ての炭鉱長屋もまったく保存されていません。そういうものは、きちんと歴史的遺産として残すべきだと私は思うのですが・・・。
(2007年7月刊。1800円+税)

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