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カテゴリー: 社会

カラ売り屋

カテゴリー:社会

著者:黒木 亮、出版社:講談社
 日本経済の闇にうごめく怪しい奴ら、とオビに大書されていますが、この本を読むと、まさに、そういう人間が日本中にいる、いや、世界にまたがって動いていることを実感します。いやですね、おカネがすべてだと考える発想は・・・。しかも、動かしているお金が何億円なんていうものじゃないのですから、感覚がマヒするのも当然です。
 カラ売りとは、英語でショートセルと言うようですが、投資会社のやる一つの手法です。ウォール街にカラ売り屋が現れたのは1980年代初め。現在、アメリカにカラ売り屋が50社ほどいるとみられている。
 カラ売り屋は企業の弱点をつかみ、株価を下げたところで買い戻して利益を得る。したがって、企業の弱みをつかむ必要がある。どうやってつかむか?企業の裏情報が一番とれるのは、その会社を退職した人間だ。組織にしばられていないうえ、会社に対してうっぷん晴らしをしたいと思っていることが多い。そこでカラ売り屋は、日ごろから人材派遣会社やヘッドハンターにネットワークをはりめぐらし、その手の人物の発掘につとめている。
 なーるほど、ですね。でも、そのため、アフリカの奥地の危険なところまで状況を探りに行くというのですから、カラ売り屋稼業も大変です。
 「村おこし屋」には、公共工事をくいものにするヤクザと政治家の話が出てきます。公共工事は、その走行慈悲の3%から5%はヤクザと政治家に流れていくと言われています。この本でも、それを前提として話がすすんでいます。
 いま福岡県南部では暴力団の抗争事件が続いており、組長とか幹部とか、もう何人も暴力団員が殺されました。しかし、マスコミは、ことの本質を報道していないと思います。要は、利権争いなのです。公共工事からかすめとるお金をどっちが握るかということをめぐっての殺しあいが続いていると私はみています。ただ、これをマスコミが報道すると、その記者は生命の保証はなくなります。その意味では、日本社会は実は、昔も今も暴力団が強く支配する社会でもあるということです。
 最後の「再生屋」に若手弁護士が登場します。これは弁護士が企業再生の法的現場でどんな苦労をしているのかについて、かなり具体的イメージがつかめ、やったことのない私にも大変参考になりました。著者は相当深く勉強していると感心したことでした。
 著者はカイロ・アメリカン大学を出て、銀行や証券会社、総合商社につとめて作家になり、今はイギリスに住んでいるとのことです。なかなか面白く読ませる本でした。
(2007年2月刊。1600円+税)

ダイオキシンは怖くないという嘘

カテゴリー:社会

著者:長山淳哉、出版社:緑風出版
 久しく待たれていた本だと私は思いました。ダイオキシンが世間の話題にならなくなって久しいものがあります。ひところは何かというとダイオキシンが取り沙汰されていたのに、まるで時代の流れが変わってしまいました。
 私自身も2003年1月に日本評論社から『ダイオキシン、神話の終焉』という本が出て、それを読んでから、まったく自信喪失の状態でした。だって、東大教授がダイオキシンによる被害は神話に過ぎないと断定したのですから、科学者でない私が動揺してしまったのも無理ないところです。
 著者は、この本を読んで、さっそく抗議したそうです。出版社は、これに対して弁明書を出しました。
 著者は、母乳にふくまれる何らかの因子がアトピー性皮膚炎の発症に追いうちをかけていること、その因子の一つとしてダイオキシンも考えられるとしています。
 また、アメリカでも、ダイオキシンが毒性も発ガン性も、ともにきわめて高い化学物質だと考えられていることが示されています。
 先ほどの『神話の終焉』には、ダイオキシンは天然物であり、20世紀に入ってからのダイオキシン汚染は、恐竜時代の2倍になっただけだとされています。
 そもそも天然物とは何か、と著者は問題にします。天然物というのは広辞苑にものっていない言葉であり、きわめてあいまいな概念なのです。では、恐竜時代との比較のほうはどうか。これについても、ナンセンスな論法だと弾劾しています。
 つまり、ダイオキシンは、石炭を燃やしてもそれほど出ないが、一般ゴミを燃やすと予想以上に発生するもの。そして、焼却してできる四塩化、五塩化の低塩素化ダイオキシンは、大気中を移動する際に太陽の紫外線によって容易に分解されて八塩化ダイオキシンを主成分とする高塩化ダイオキシンに変化してしまう。
 最近、ウクライナの大統領候補だったユーシェンコ氏のダイオキシンによる殺人未遂事件が起きた。これによって、ダイオキシンとは耳かきの先に目でかすかに見える程度の微量で、人に重症の症状を引きおこし、運が悪ければ死ぬ可能性もある毒物であることが改めて証明された。
 『神話の終焉』の中に、あたかも絶対的に正しいかのように引用したデータでさえも、絶対的なものではない。たとえば、サリンとダイオキシンの毒性を比較すると、ラットに経口的に投与したときの半数致死量をみると、体重1キロあたり、サリンは550マイクログラム、ダイオキシンは20〜60マイクログラム。つまり、急性毒性はダイオキシンのほうがサリンよりも9〜28倍も高い。
 未使用のPCBの毒性は、それほど高くはない。使用したあとのPCBには、何が含まれているか分からないし、未使用のものより、かなり危険と考えられる。PCBについて、国際ガン研究機関は人の発ガン性物質と認定している。急性の致死毒性はそれほどでなくても、ガンの発症やその他の健康影響が危惧される。
 中西準子氏は、環境ホルモン問題は終わったと考えているが、これは大変な間違いだと著者は強調しています。環境ホルモン問題は、複雑ではあるが、人の健康や生態系にとって、決して看過できない重大な問題なのだ。
 私は、この本を読んで、ダイオキシンの有毒性について、何ら問題がないと決めつけるのはやはり間違いだと思いました。多くの人にぜひ読んでほしいと願います。
 今年、私が読んだ単行本は今の時点で500冊を超えています。この書評を書くため机の上に置いている本だけでも30冊ほどあります。書評を書くにはどうしても一冊に1時間近くかかりますので、たまってしまうのです。なんとか新年も書き続けていきたいと考えていますので、どうぞ引き続きご愛読ください。先日お願いしたメッセージが長崎の福田浩久弁護士お一人だったのは残念でした。福田先生、ありがとうございます。勝手にお願いしておいて、こんなことを言うのも失礼かとは思いますが、いったいどれだけの人に読まれているのか、たまには反応も知りたい気持ちがあるというのも正直なところなのです。
(2007年10月刊。1800円+税)

真犯人

カテゴリー:社会

著者:森下香枝、出版社:朝日新聞社
 「週刊朝日」に今年3月に連載されていた記事をもとに書きおろした本です。グリコ・森永事件の犯人と5億4000万円強奪事件の犯人は同じだというのが著者の考えです。その真偽のほどは分かりませんが、犯人不明のまま幕引きとなったグリコ・森永事件を改めて考え直すことができました。
 5億4000億円強奪事件というのは、日本では史上最大の銀行強盗事件です。   1994年(平成6年)8月5日午前9時20分、神戸市にある福徳銀行神戸支店から5億4000万円が強奪された。
 そして、この事件は、時効が成立した。ところが、その犯人は、本年2月に、同じように銀行強盗しようとして捕まった。犯人には、韓国人女性の愛人がいた。女性は時効が成立したあと、ホテルを現金で買収した。もう一人の犯人は、自殺している。
 グリコ事件が起きたのは、昭和59年(1984年)3月18日のこと。江崎勝久社長が子どもたち2人と風呂に入っていたところを犯人に連行された。江崎社長が監禁されたのは新大阪駅から遠くない水防倉庫。
 グリコ事件の犯人の一人、キツネ目の男は大阪府警捜査一課に属する7人の特殊犯罪捜査員に目撃されたが、結局、16年にも及んだ捜査もむなしく時効を迎えた。捜査員がキツネ目の男を目撃したのは、京都駅でのこと。
 このあとも警察は、大失態をくり返した。丸大事件のとき、キツネ目の男はハウス事件の現場に2度も出没したが、みすみす見逃した。
 滋賀県警は、現金投下場所のすぐ近くにとまっていた不審者を職務質問しておきながら取り逃がした。この失態の責任を感じた滋賀県警本部長は昭和60年8月7日、定年退職した日に本部長公舎で焼身自殺した。
 この本は、5億4000万円事件の犯人とグリコ・森永事件の犯人は同一人物であり、その犯人は10年前に警察が容疑不十分で釈放した翌朝、自殺した、としています。
 かい人21面相の挑戦状を久しぶりに読みましたが、警察の内情もそれなりにつかんだ文面なので、どうやってこんな情報を得ていたのか、改めて疑問に思いました。
 ともかく、この世は不思議なことだらけです。
 それにしても5億円も強奪した犯人たちは幸せな生活は過ごせなかったようです。やはり、人生はお金だけではないとつくづく思ったことでした。
(2007年9月刊。1300円+税)

中原中也、悲しみからはじまる

カテゴリー:社会

著者:佐々木幹郎、出版社:みすず書房
 この10月に山口の湯田温泉に行ってきました。小さな温泉街です。町なかにしゃれた美術館がありました。中原中也美術館です。この本はそこで買いました。私は美術館に行ったときには、DVDを見るようにしています。よくまとまっていますので、便利です。詩人の中原中也は湯田温泉に生まれました。父親は中原医院を開業している、有名な医者でした。期待した息子(長男)が医者にならず詩人になるのを認めなかったそうです。でも、こればかりは仕方のないことですよね。私も長男が弁護士をめざすと言ったときにはうれしく思い、別の道を歩みはじめたときには少し寂しさを感じました。だけど、自分にあった道を歩むのが一番です。父親だからといって私の意見を押しつける気はさらさらありません。
 この本を読んで、中原中也の早熟さに驚き、かつ呆れてしまいました。
 十代の中学生のとき、中原中也は早々と詩を書く以外にない、眼が覚めたとき詩人である自分がいた、というのです。
 中原中也が、かの有名な評論家である小林秀雄と同世代であり、三角関係にあったということも初めて知りました。小林秀雄は、中原中也に魅力と嫌悪を同時に感じたといいます。いわば早熟男が別の早熟男に魅力と嫌悪を感じたということだろうと著者は解説しています。
 中原中也は、小林秀雄の批判に対して、「それが早熟の不潔さなのだよ」と言い返しました。なんという言い方でしょうか。さすがは詩人です。私にはとても発想できない言葉のつかい方です。
 中原中也は、中学4年生17歳のときに、6歳年上で23歳の女優である長谷川泰子と京都の下宿で同棲生活をはじめます。
 うむむ、なんと早熟な・・・。
 そして、小林秀雄が親友の恋人(泰子)に惚れてしまい、泰子は小林秀雄と一緒になる道を選ぶのです。中原中也は親友に恋人を奪われ、失恋してしまったわけです。
 日本の文芸批評を創始した小林秀雄は、一人の女性と一人の詩人を通して評論家になった。著者はこのように解説しています。ところが、中原中也は小林秀雄との絶交状態をいつのまにか解消して、つきあいを復活させるのです。なんということでしょう。ここらあたりになると、凡人の私の理解をこえます。
 この本には中原中也の詩が推敲される過程が原文の写真つきで紹介されています。
 中原中也は語勢を大切にした。語勢とは、詩のリズムをあらわす、中原中也らしい表現である。詩の世界では、言葉というものの面白さをどのように引き出すかが、いつも問われる。
 汚れちまつた悲しみに
 今日も小雪の降りかかる
 汚れちまつた悲しみに
 今日も風さへ吹きすぎる
 たまには声を出して詩を読んでみるのもいいものです。
(2005年9月刊。1300円+税)

借金取りの王子

カテゴリー:社会

著者:垣根涼介、出版社:新潮社
 団塊世代は、とっくに定年期を迎えています。第二の人生を意気高く迎えて過ごしている人もいるでしょうし、なんとなく鬱々とした思いでその日が過ぎているだけの人も多いことだと思います。会社内でリストラをする側にまわったらどう思うか、リストラされる側になったとき、どんな気持ちなのか、自分にひき寄せながら、身につまされつつ読みすすめていきました。
 主人公はリストラする側の会社員です。
 嫉妬。出世競争の中に生きる男がもつ、もっとも醜い感情の一つだ。同期の陰口を叩く。ないしは悪意のあるうわさ話を流す。あるいは実際の業務で足を引っ張る。そして相手が出世コースを外れていくまで、それらの行為をあくことなく続ける。ある意味、女の嫉妬より陰湿で始末が悪い。
 たいていの会社では派閥抗争があるようです。そして、頼っていた上司がコケたら、部下まで一蓮托生でコケていく。そんなリスクを背負いたくないから、上司に仲人を頼まなくなった。そんな話を聞いたことがあります。ドライな人間関係が好まれるワケです。
 出世なんて、しょせんはオセロと同じだ。ある一時の局面では優位になったとしても、ほんのちょっとした油断やミスから、またたく間に盤の目はひっくり返る。勝っていたと思っている状況からひっくり返されるから、より悲惨だ。カッコもつかない。
 自分の努力だけでなく、ときの運が必要なのは、多かれ少なかれどんな職業にもあるとは思いますが、気持ちのいいものではありませんよね。
 あるサラ金会社の話。支店の雰囲気が悪い理由はいろいろあるが、その最たるものが社内不倫だ。上司が部下に手を出す。既婚者の同僚同士で道ならぬ恋に落ちる。男もそうだが、会社で同等の仕事を任されている女も数字に追われ、絶えず激しいストレスにさらされている。気持ちが徹底的に乾いている。なにかにすがりたくなる。そこに、自分の苦しい状況を何度も救ってくれる相手がいると、それが白馬に乗った、自分のように情けなくない、王子に見える。つい抜き差しならない仲になってしまう。分からないでもない。
 社内不倫は、これまた、あらゆる職場で横行しています。私の身近なところでも、いくつか見聞しました。
 「おけえらカスだ。人間のクズだ。いいからもう全員死ねよ」
 これは、サラ金会社の支店長同士でお互いを罵倒しあう時間にあびせる言葉です。一人の店長について、10分間、他の店長から集中砲火を浴びせられます。相手の欠点を何がなんでも責め立てるのです。
 「努力が足りない」
 「意識が低い」
 「数字の読みが低い」
 「部下の指導力が弱い」
 「ったくよお。それが年収1000万円以上もらっている人間の働きか。おいっ」
 いくら高給とりとはいえ、人間じゃないように責め立てられて生き残る人って、何者なんでしょうね。
 小説としても、なかなかに読ませるものとなっていました。
 日曜日に、チューリップの球根を庭に植えました。久しく雨が降っていないので、その前後にたっぷり水をかけてやりました。いまエンゼルストランペットの黄色の花と、と白とピンクの花が満艦飾です。もう少し寒くなると霜で全滅してしまいます。師走に入って寒くなったとはいえ、まだ霜がおりるほどではありません。夜になって久しぶりに恵みの雨が降りました。
(2007年9月刊。1500円+税)

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