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カテゴリー: 社会

筑豊の近代化遺産

カテゴリー:社会

著者:筑豊近代化遺産研究会、 発行:弦書房
 嘉穂劇場での年に一回の全国座長大会を見てきました。初めのショータイムは、あまりのボリュームに、演歌もカラオケも嫌いな私には少々きつい思いがありました。スピーカーの音質も良くないように思いましたが、これって私だけだったのでしょうか。それにしても、役者の首に万札のレイが次々にかかるのには驚きました。噂には聞いていましたが、追っかけおばちゃんたちの気前の良さには呆れるばかりです。この座長大会も30年間続いているそうですが、ほとんど満席でした。狭い座敷にぎっしり詰め込まれます。
筑豊で炭鉱全盛期のころには、筑豊だけで50もの芝居小屋があったそうです。熊本・山鹿の八千代座も残っていますが、残念ながら外からしか見たことはありません。来年は9月12日に座長大会が開かれるということでしたが、早速、申し込んだ人もきっと多いことでしょうね。
 ショーのあと、芝居「一本刀土俵入り」を久しぶりに見ました。私も、小学校に入る前に父に連れられて、近くにあった芝居小屋にお芝居を見に行ったことを覚えています。チャンバラ芝居で、観客席は満員でした。なにしろ、映画館なんて、町のいたるところにあった時代です。いま、私の住む町には映画館はひとつもありません。残念です。やっぱり映画は大きなスクリーンで見たいものです。
 芝居が終わって、伊藤伝右衛門邸を見学してきました。筑豊の炭鉱王の一人ですが、むしろ柳原白蓮の公開絶縁状によって世間的には有名でしょう。
 屋敷内を見て回りましたが、廊下は板張りではなく、すべて畳敷きになっていました。
 九州で初めてという水洗トイレもちらっと見かけました。これだけの豪邸を作れたというのは、それだけ多くの炭鉱労働者の犠牲の上に成り立っているのでしょうね。
 筑豊の炭鉱で災害死した人は、公式統計に現れただけで5万人いるとのこと。実際には10万人はいるだろうということです。私も一度だけ、炭鉱の坑内に下がったことがあります。労働現場として、これほど過酷なところはないと実感しました。地底深く、漆黒の闇の中へ入っていくときの恐怖感というのは、言葉で表しにくいものです。身体が無意識のうちに拒否反応を起こします。
 筑豊の炭鉱の実情も聞きましたが、頭領や納屋制度で炭鉱労働者はがんじがらめに縛られていたようです。それでも、それを少しずつはねのけていったのです。大変な苦労があったことだろうと思います。
 カラー写真もたくさんあって、筑豊のことを知るのに良い事典だと思います。 
 富山で美味しいワインと食事の店に入りました。こじゃれた小さな店です。カウンターがあって、テーブルはいくつかしかありません。ワインはテーブルワインが主です。まずはキールロワイヤル。シャンパンに甘いカシスを入れます。ロゼより少しだけ赤い、甘くさっぱりしたのどごしで、食欲をそそります。はじめは地元でとれた新鮮な魚のカルパッチョ。フグ皿のような見事な盛り付けで、こりこりした魚の刺身をいただきます。そして白エビの甘酢漬け。ジャガイモをサイコロのようにカットして、軽くローストしたもの、また、ジャガイモを潰してゴルゴンゾーラチーズと一緒にしたものが出てきました。ブルーチーズのような大人の味わいです。まいたけも入った野菜の天ぷら、そして、地元鶏の照り焼き。小さな皿に少しずつ、いかにも心のこもった料理が次々に出てきました。ワインは初め軽いブルゴーニュの赤、そして次は重みを感じさせるイタリア・ワインの赤です。飲むほどにだんだんワインが舌になじみ、料理にぴったりマッチして、美味しく、味わい深くなっていきます。
 最後のデザートは、レモンのシャーベットとアイスクリーム。シャーベットは口の中を改めてさっぱりさせ、アイスクリームはくるみの粒入りで、しっとりとした甘さです。これで、前の晩に食事した居酒屋と同じ料金でした。
 ANAホテルの並びにあり、夫婦で深夜までやっているお店です。
(2008年9月刊。2200円+税)

競争社会に向き合う自己肯定感

カテゴリー:社会

著者:高垣 忠一郎、 発行:新日本出版社
いろんな内的資産に恵まれ、その土台の上に順調に努力して競争にも勝って成功して「勝ち組」になれる人と、さまざまな負の内的資産を負わされ、それが重すぎて持てる力を発揮できず、その結果、「負け組」になってしまう人との間には、目に見える形で努力をしたか、しなかったかというだけでは捉えきれない目に見えない条件の格差がある。
 たとえば、鬱病にかかった人はがんばりたくてもがんばれない。がんばろうとすればするほど、がんばれない自分を責めて余計にしんどくなる。
 このように、格差については、目に見えない内的資産をも思いやらなければ、本当につらい人たちを支えることはできない。
 がんばればなんとかなる、という「勝ち組」の人にはそれなりに通用するメッセージを、がんばってもどうしようもない人々や、がんばろうと思ってもがんばれない人々に与えることは、ひとりよがりのメッセージでしかない。それは、自分の経験からしかものを見ていない。痛めつけられ、自己否定の心を背負わされた人々を支えるために、提供できるメッセージは、ダメなあんたでもエエねんで、でしかない。それは、ダメなところを肯定するのではない。ダメなところを抱えながら、一生懸命に生きている自分を受け入れ、肯定することである。
 いま、子供たちは、心の奥深くに、かつて人類が経験したことのないような深い不安を抱きながら生きているのではないか…。
 信じて、任せて、待つ。
 何を、か。子供が立ち上がっていく力、自己回復していく力、成長していく力を信じるということ。
 今の日本の社会は、ノウハウを習って効率的に事を処理するという生き方がのさばっている。自分を差し出して「相手」と向き合い、その中で「相手」に耳を傾け、分かろうとするコミュニケーション能力が衰えている。「相手」とじっくり向き合う力が衰退している。そこに、「愛」がない。
 カウンセリングは、「わたしはダメだ、ダメだ」という自己否定の「悪夢」から目を覚ましてもらうこと、これが最大の眼目である。その「悪夢」から目を覚まさない限り、生命の働きは活性化されず、生命は輝かない。
 ふむふむ、なるほど、なるほど、大事な指摘です。大切なことを思い知らされました。 
(2008年5月刊。740円+税)

ルポ・正社員の若者たち

カテゴリー:社会

著者:小林 美希、 発行:岩波書店
 いま、私の事務所で働いている最若手の事務員は、関東の有名大学の出身者です。彼女の話を聞いて驚きました。
 大学を卒業して3年たった今、関東圏で就職した10人の友達のうち7人がストレス性うつ病などで休職・退職に追い込まれ、就職できなかった10人はまだ派遣やアルバイトなどで劣悪な生活状況に置かれているというのです。
 ひえーっ、すごいですね。若者をこんな悲惨な状況に追いやった者の責任を厳しく追及する必要があると思いますし、一刻も早く改善する必要があると思います。
 私自身は、一度も就職したことなく弁護士になりましたが、私の同世代は、モーレツ社員とか会社人間になったとかはいわれましたが、こんなに高比率でうつ病になるなんて、(少なくとも私には)考えられないところです。この本は、今の若者が置かれている状況を生々しくルポしています。一読の価値があります。
 非正社員や無業者の増加など、就職氷河期世代の働き方の変化によって生じる潜在的な生活保護受給者は77万4000人と試算されている。それに要する費用は18兆円近くから19兆円超とみられる。
 この世代の雇用が不安定で低賃金であることは、結婚や出産など、個人の行き方に影響を及ぼしている。長時間労働によるうつ病や過労死は若年層にも出てきている。これでは、なんのために生まれ、働き、生きているのか分からない。
 2005年度の派遣労働者は255万人(12.4%増)、派遣先は66万件(32.7%増)、年間売上高は4兆351億円(前年度比41%増)。2006年度は、派遣労働者は321万人(26.1%増)、売上高は5兆4189億円(34.4%増)。
 入社して早期にやめる人の大部分は、企業社会の中でへとへとになり、閉塞感を抱えた人たちである。たとえば、SE(システムエンジニア)の世界では、成果主義が行きすぎ、先輩社員は自分の成果を守るために、後輩に仕事を教える余裕がなくなり、目先の仕事、目先の成績にとらわれ、長期的な技術の向上や伝承という意識が希薄化している。
 メガバンクの大量採用は、人事戦略なしの横ならび。雇った一般職の全員が定年まで残ったら人件費がかかりすぎるため、ある程度の年数でやめることを銀行は想定している。
 国は、なにより若者が安定した雇用につける制度を作るべきではないか。
 私も、まったく同感です。そもそも派遣労働者を認めること自体が間違っています。せいぜい、正社員とパートにすべきです。
 この本を読んで、歯科医までがあまっているため、低賃金・不安定雇用で苦労しているというのを知って驚きました。まさか、という思いです。
 日本を捨てて中国へ飛び出していく日本人の若者もいるようです。それはそれでいいのですが、中国の人々からしたら複雑な気持ちになることでしょうね。なにしろ、同じ仕事をしていても給料に大きな差があるというわけですから。
 正社員になったら長時間労働で死ぬまで働かされる。派遣社員は差別され、面白くもない雑務をずっとやらされて仕事に意義を見出せない。なんと両極端なことでしょう。
 実は、私の娘も、今、そこで悩んでいます。最近まで派遣をしていましたが、責任のない仕事は面白くないといって、いったん辞めた元の職場に戻ったのです。そこは、過労のために病気になりそうなほど働かされるところです。いやあ、その中間がないものかと、親としては考えさせられます。人を軽々しく将棋の駒のように使い捨てにできる存在に変えたのは、財界の要求に政府が応じたからです。なんでも効率本位のアメリカ型労務管理の悪い面があまりにも出すぎています。
 もっと楽しく、意義のある仕事をみんなができるようにしたいものですよね。すごく時宜にかなった本です。 
(2008年6月刊。1700円+税)

サザエさんの東京物語

カテゴリー:社会

著者:長谷川洋子、 発行:朝日出版社
 サザエさんの作者、長谷川町子の実妹による町子の実像を紹介する楽しい本です。
 ワンマン母さんと串だんご三姉妹の昭和物語。
オビのこの文句がぴったりくる内容になっています。サザエさん、マスオさん、カツオにワカメ。戦後日本の世相をよくよく描いていたと思います。ほんわかとした絵が読む人の心を大いに惹きつけました。
 長谷川町子は、家の中では「お山の大将」で傍若無人。声も主張も人一番大きかった。我が家の中だけが彼女にとって本当に居心地のいい世界だったから、喜怒哀楽はすべて家庭の中で発散していた。三つ子の魂百まで、というか、かつての悪童は閉鎖的な家庭の中で、そのまま大人になってしまった。
家庭漫画って、清く正しくつつましく、を要求されるでしょう。だけど、それって私の本性じゃないのよね。だから「いじわるばあさん」のほうが気楽に描けるのよ。私の地のままでいいんだもの。
このように、町子は「いじわるばあさん」を自認していた。その割には、反省の色が少しもなかった。町子は一生独身だった。婚約したのに、それを土壇場で断ったのだ。
たくさんの愛読者に答えるためには、昨日より今日のほうが、今日より明日の方が作品はより面白くなくてはならないと、半ば強迫観念に似た思いが町子を苦しめていた。始終、胃が痛いと言って枕で胃の辺りを押さえていたし、病院の薬もあまり効き目がなかった。
 家族は町子の健康を心配して、「こんなしんどい仕事はいいかげんにやめたら」と頼んでいた。それに対して、町子は「でもね、いい作品ができたときの嬉しさや満足感は、あなたたちの誰にも分からないわ」と言って取り合わなかった。
 町子は、人に会うのが苦手で、パーティーや会合にほとんど出席したことがなかったので、友人や知人が極端に少なかった。ユーモアたっぷりの磯野家の雰囲気とは少し違うようですね。ひょっとして対人恐怖症だったのでしょうか…。
 長谷川町子のワンマンぶりがユーモアたっぷりに紹介されています。そして、串だんご三姉妹で末っ子として可愛がられた著者が、町子や姉と分離・独立していくときの心境には、なるほど、人間にとって独立と自由ほど尊いものはないんだなと、つくづく思わされました。なにしろ、「30億円」もの遺産を相続放棄したため、まさかと思った税務署が隠し遺産があるのでは、と疑って調査に来たほどだというのですから…。 
 パリにはタクシーがたくさん走っています。流しのタクシーもいると思います。エクサンプロヴァンスでは駅前にタクシー(車)はあるのに、運転手がいませんでした。タクシーは電話で予約するものなのです。でも、こちらはテレカルト(テレホンカード)を持っていません。仕方なく、ホテルまで20分以上も重たいスーツケースを引っ張って歩きました。しかも、果たしてこの道でいいのか不安のままに…。
 ニースではタクシーがなかなか見つからず、やっと見つけたタクシーには日本人のカモと思われたらしく、65ユーロもぼったくられてしまいました。というのも、バスセンターの周囲にはタクシーが一台もいなかったので、帰りの足をむやみに心配してしまったためでした。
(2008年4月刊。1200円+税)

金を追う者、追われる者

カテゴリー:社会

著者:室井 忠道、 発行:オン・ブック
 サラ金は回収に絶対の自信(?)を持っている。嫌がらせと、しつこさという武器をなりふりかまわず使う。これには、大手も中小もない。取立てに関しては、ヤミ金業者と五十歩百歩だろう。
 多重債務者からの回収合戦は、ババ抜きのようだ。といっても、ゲームのトランプのように、ババが一枚入っているのではない。スペードのエースが一枚だけで、あとはすべてババという、ババ抜きゲームだ。だから、きつい取立てに一斉に入るのは当たり前のこと。
多重債務者をATMに群がる「振込み蜂」と呼ぶ。それは、人生そのものを削り取られていくことだ。それでも、その毎日を続ける。それが破産予備軍だ。
 月に2度、特別集中回収を行った。男性スタッフ6人が2人ずつのチーム3つに分かれ、回収に走り回る。一回の集中回収は2泊に及ぶため、ビジネスホテルに部屋をとる。
 深夜、管理(回収)が終了すると、回収してきた現金を持って3チームが社長の部屋に集合する。ベッドの上で、社長が現金を数え終わると、自動販売機で買ったビールを飲みながら1時間ほど反省会とも自慢会とも言えるときを過ごす。これが全員の楽しみだった。
 サラ金の取立てから逃れてきて社員になって取り立て側にまわっていた男性の話も出てきます。取り立てをしながら、わが身に思いを至していたようです。
サラ金悲劇というのは、特別な人に起きるのではない。
本書は、油断をしたり、つまらない見栄を張ったりすることで、自分を含めて誰にでも起きる出来事として13話がつづられています。サラ金の回収する側からみた人間社会の実相です。
ふだん回収される側の人々から相談を受けている私にとっても、大変勉強になる本でした。前に、この著者の『借金中毒列島』(岩波書店)を紹介したことがあり、著者より贈呈されましたので、ここに紹介いたしました。ありがとうございました。 
 秋分の日には彼岸花がたくさん咲いていました。黄金の稲穂には朱色の花が良く似合います。我が家の庭には、淡いクリーム色のリコリスがあちこちに咲いています。とても気品のある花です。見てるだけでさわやかな気分になってきます。縁取りがピンクの白いエンゼルストランペットの花、そして芙蓉の花も咲いています。秋の抜けるような青空の下で、花たちが美を競っているようです。
(2008年8月刊。1800円+税)

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