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カテゴリー: 社会

貧困の現場

カテゴリー:社会

著者:東海林 智、 発行:毎日新聞社
 ホームレスは、3年を超える野宿生活が身体をむしばみ、内臓がボロボロの状態になる。
 いったん住居を失うと、再び住居を借りるのは至難の技だ。不安定な仕事では、驚くほど簡単に住居を失う。
 児童養護施設出身者のすべてが人生に失敗するわけではない。だが、貧困に陥っていく確率はかなり高い。
 店長になって、月収が8万円も下がった。残業時間は過労死の危険が指摘される80時間を超え、86時間にもなった。そして、店長として、1年間のうちに6回も店を変わった。配置転換が多すぎる。
 派遣労働者は名前を呼ばれない。「そこの派遣さん」とか「お兄さん」「お姉さん」。まるで機械の部品のよう。個を奪われてしまった。
 職場のいじめが増え始めたのは、成果主義が導入されたのと同じ。職場の雰囲気がギスギスしてしまった。成果主義の導入は、労働者同士の人間関係を押しつぶす方向での成果を上げている。職場の連帯感は希薄になった。成果を競い合い、その結果が正確にかは別として賃金に跳ね返るのだから、人にかまっている余裕はない。ギスギスした職場の人間関係は、小学校のようないじめさえ引き起こす。個性の尊重や労働者の意欲の発揮を狙うという旗のもとに導入された成果主義は、人件費削減の目的の方が最終的に強くなってしまった。
 今の日本社会は本当にギスギスしていますよね。政治の世界で嘘がまかり通り、なんでも自由競争を必要かつ善とするなかでは、強い者、お金持ちばかりが優遇される世の中だからです。やはり、弱者、貧乏人にもっと社会全体があたたかい目をもってきちんと人間らしく生きられるように処遇されるべきだと思います。
 庭のあちこちから水仙の仲間がぐんぐん伸びています。冬に咲く花たちです。急に寒くなって風邪をひいている人が目立ちます。新型インフルエンザが猛威をふるうと最大6万人の死者が出ると予想されているそうです。お互いに気をつけましょうね。といっても、結局のところ、その人の持つ自然免疫力ですよね。そのために私も、早寝早起きの健康的な生活を心がけています。
(2008年8月刊。1500円+税)

近代日本の右翼思想

カテゴリー:社会

著者:片山 杜秀、 発行:講談社選書メチエ
 私は右翼とか左翼とかいう言葉が好きではありません。ですから、自分が右翼だということはありませんが、自分が左翼だという意識もあまりありません。では何か、と問われると、革新派だというのが私の自称です。それに対する言葉は、もちろん保守です。保守というのは守旧派です。それには頑迷固陋というイメージがまとわりつきます。革新は変革。オバマ次期大統領ではありませんが、change、変えようということです。今の世の中の悪いところは大胆に変えていきたい。私は本気でそう思っています。昔のままの自民党政治でいいなんて、私はまっぴら御免です。汚職、腐敗、土建政治、財界本位、弱者切り捨てではありませんか。
 この本は、少し私にとって難し過ぎました。でも、安岡正篤(まさひろ)についてだけは、私の関心をひきつけました。
 歴代首相の指南番と呼ばれ、財界の大物にとっても指導者だということで高名だった人物です。晩年に、あの細木数子と浮き名を流していたなんて、まったく知りませんでした。それほど私にとってはどうでもいい人物なのでした。ところが、財界人に大モテだった安岡は、右翼から嫌われ、馬鹿にされていたというのです。いやあ、そうだったの……と、私は驚いてしまいました。
 竹内好は安岡正篤を口舌の徒と評している。口先のみ発達し、言葉をもてあそび、さももっともらしいことを言いながら、実際には革命家らしいことは何もしない者の典型だ。
 松本健一も、安岡のことを大川周明と同レベルにまで価値が下がっているとして、安岡をバカにしている。
 その大川周明は安岡のことを日記で次のように書いている。
 ひさしぶりで安岡君の話を聞いたが、言うことが万事そらぞらしく響いて、まことに不快だ。安岡君と藤田君と相並んでいると、嘘と真の標本を並べ見る気がする。
 安岡は過激な変革を叫ばない。体制側に安心と思わせる思想傾向は、政官界に安岡の名声を一段と高からしめた。
 安岡にとって、天皇が革命の唯一の主体であった。だから、日本の具体的な変革を目ざす右翼からは、安岡は微温的と非難された。下からの革命を企む者にとって、安岡は最悪の思想家だった。安岡は革命を説いた。しかし、その革命論は下々は絶対に革命を起こしてはならないという革命論だった。
 安岡が教え導き、言いなりにしたいと熱望していた要人とは、首相ではなく、天皇だった。安岡は国家の「最高我」(天皇)の師となることで、倫理国家実現のための、あらゆる具体的施策をたちまち断行できるような種類の革命を起こしたかったのだろう。
 世の中に不満がある。変革を考える。けれど、うまくいかないから、保留する。決定的なことは天皇に預けて考えないようにする。もう、ありのままに任せて、考えるのをやめる。考えなくなれば、頭がいらなくなる。正しく考える力は天皇にある。それなら、変えようなどと余計なことは考えない方がいい。
 今、日本の右翼はいまの天皇を苦々しく思っているようです。そうでなければ、雅子妃バッシングが相変わらず続いているのを黙って見過ごすはずはありません。昭和天皇の過ちを一身に受け止めて、世界に向かって謝罪しつづけている今の天皇に不快に思っているのです。ということは、右翼にとっても天皇は絶対至高の存在ではないということでしょう。自分の都合のいいように支配できるときだけ天皇には利用価値があるわけです。私はむしろ、父である昭和天皇の犯した過ちを繰り返し謝罪し続ける今の天皇には人間味を感じています。
(2008年2月刊。1500円+税)

自衛隊員が死んでいく

カテゴリー:社会

著者:三宅 勝久、 発行:花伝社
 自衛隊員の自殺者は年間100人を超える。その自殺率39.3人(人口10万人あたりに換算した数字)は、アメリカ軍の2倍を超える。
 自衛隊員のかかえるストレスは高い。ギャンブルや酒、女遊びに興じた末の借金苦、いじめ、うつ病。自殺した自衛隊員の多くが孤独やストレス、精神的な飢餓感を抱いていた。
 イラクなどに派遣された自衛隊員はのべ2万人。日本に帰国したあと在職中に死亡した隊員は35人で、このうち自殺した人が16人もいる。この35人のなかには退職したあとの死亡者は含まれていない。
 2006年度の1年間に懲戒処分を受けた自衛隊員は自衛官1234人、事務官106人の合計1340人。うち、免職130人、停職582人。懲戒免職130人のうち、もっとも多いのが窃盗・詐欺・恐喝・横領の74人。そして、無断欠勤33人。
 先日、例の田母神元航空幕僚長が自衛隊員の不祥事の公表は士気に関わるからするなと指示していたことが明るみに出ました。これでは旧日本軍の綱紀は良好だったと高言する資格なんてないですよね。臭いものにフタをしておいて規律良し、なんて笑っちゃいます。
 自衛隊内のいじめ自殺やセクハラ事件が次々に明るみになって、裁判が起こされています。健全な常識の通じない自衛隊では、市民に向かっても非常識なことしかしない(できない)存在だと恐れます。
 田母神氏のような、まったく現実を無視した人間をトップにすえた政府の責任は極めて大きいと思います。自衛隊内部の教育システムと内容に国会がきちんとメスを入れることによって、シビリアンコントロールは機能していると言えると思います。政府見解を真っ向から反した田母神氏を懲戒免職としなかった間違いは直ちに是正されるべきです。
(2008年5月刊。1500円+税)

すべての経済はバブルに通じる

カテゴリー:社会

著者:小幡 績、 発行:光文社新書
 サブプライムローン破たんの本質が理解できる本です。
 投資家にとっての最大のリスクとは何か。それは、投資した資産を売りたいときに売れないということ。つまり、住宅ローン債権を他の投資家に転売できないことである。流動性のない資産に投資してしまうと、その資産を永遠に持ち続けるしかなく、その資産が生み出すキャッシュフローを長期にわたって少しずつ受け取る以外の選択肢がなくなってしまう。こうなると、財政事情が変わったり、他の投資機会が生じたりしたときにすぐに現金化しようとしてもできない、という問題が生じる。
 アメリカは、雇用の流動性の高い経済社会なので、誰も30年後の借り手の収入など予測できない。つまり、借り手の継続的な収入を頼りに融資するなんて無理だった。貸し手のサブプライムローン会社は、はじめから借り手が給料などの収入にもとづいて30年かけて返済することはまったく期待していなかった。住宅を売却させるか、住宅ローンを借り替えさせて繰り上げ返済によって完済させるつもりだった。
 サブプライムローンは、当初の2,3年のあいだは、毎月の返済額は少額だけど、その後、返済額が急増する構造になっていた。30年かけて地道に完済するという選択肢はなかった。
 これは、住宅価格が上昇し続けていくということを前提としている。住宅ローン会社はバブルに群がったのではなく、自らバブルを作り出したのである。
サブプライムのバブルが弾けて大きな損失を出したのは、素人ではなく、投資家の中でもプロ中のプロだった。投資のプロにとって、目先、ライバルよりも高いリターンを上げられるかどうかというのが最優先だった。ライバルに勝つために、リスクの高いサブプライムローンに投資した理由なのだ。
 プロの投資家は、バブルだからこそ投資している。なぜなら、バブルはもうかるからだ。プロはバブルが大好きなのである。まともな投資家は、バブルをバブルと認識せずに投資することなどありえない。バブルだと分かっているからこそ投資する。だから、投資したことに後悔することもない。
 全員がバブルだとわかってバブルに乗っており、そして、その全員が、バブルが崩壊する瞬間、その一瞬前に降りようとしているのだ。つまり、ライバルである他の投資家を出し抜いて抜け駆けしたいと全員が思っている。ところが全員の抜け駆けは、抜け駆けにはならない。同時に降りようとしたのは中途半端なプロではなく、世界に名だたるプロ中のプロの投資家だった。
 真実は、投資のプロであればあるほどバブルを探し歩き、あるいは自分でバブルを作り、膨らませ、そのバブルに最大限に乗ろうとする。つまり、バブルというのは、最初から最後まで儲かるものなのである。
 こんなギャンブル資本主義に頼るようでは、世界と日本に未来はありませんよね。 
(2008年9月刊。760円+税)

コンビニのレジから見た日本人

カテゴリー:社会

著者:竹内 稔、 発行:商業界
 コンビニでは、日本人は一切の緊張から解放される。緊張しながらコンビニに入ってくる客などいない。コンビニは、お客の「もっと便利に」というわがままに応える形で成長してきた業態だから、お客はリラックスして、自由気ままにふるまい、本音が出る。
 今、日本全国にあるコンビニは4万店舗を越す。客は、コンビニの従業員を人間として見ていない。客は、売り場に並んでいるもの以外は、すべてタダでもらえる物と認識している。コンビニで働いてみると、お客から受けるストレスですぐにこの商売に嫌気がさすだろう。
 コンビニの従業員は仕事に誇りをもてない。こんなひどい客にしたのは、実はコンビニ側だ。今、コンビニを訪れる客に常識はない。多くの経営者がコンビニのレジに立ち、客の相手をすることに嫌気がさし、コンビニをやめていく。
コンビニがトイレを無料で開放したころから、何かがおかしくなった。コンビニのトイレを利用した客の7割は、商品を購入せず、レジを素通りし、お礼の一言も発せず、しかも汚すだけ汚して出ていく。そこで、きれいなトイレを維持するためには、コンビニは最低でも1時間に1回はトイレを清掃する必要がある。
 いやあ、こう言われると、私も切羽詰まってコンビニのトイレを利用したことがありますので、申し訳ないとしか言いようがありません。それでも、私は、そのあと、別にほしくはなかったのですが、お菓子を買って一応、客にはなりました。
 現在、客の行動や言葉は限度を超えている。コンビニには、どんなことでも要求してかまわないと思いこんでいるし、その要求が叶えられて当然だとも思いこんでいる。つまり、コンビニは下僕(しもべ)だと認識している。当然、発する言葉も命令口調だ。命令が実行されないと、口汚く罵倒する。そして、下僕なのだから、無償で労働すべきであって、何かしてくれたから余計に買い物をしてあげようなどといった気遣いをする必要もない。
 挨拶のないコンビニ店舗では、お客がコンビニに対する緊張感を失い、それこそ「何でもアリ」の状況となっていく。万引きが蔓延し、備品は手荒く扱われる。これに対して、コンビニ店員が大きな声で挨拶すると、それだけで自信があると思わせる効果がある。
コンビニで雑誌を立ち読みしている客は、ほとんど商品を購入しない。そこで、雑誌をビニールひもでしばってみた。すると、完売するようになった。というのも、漫画雑誌を立ち読みする人は、その雑誌を購入しない。購入する人はできるだけ状態の良い雑誌をほしがる。
 横柄な態度をとる客、想像力が欠如しているとしか思えない客は決して若者ではない。その多くが、人生の酸いも甘いもかみ分けたはずの熟年世代なのである。コンビニで支払うとき客がお金を投げつける。そんな人が増えている。そして、そんな人の持っているお金(お札)はクチャクチャになっている。そのうえ、お金を大事に扱わない人は、コンビニで募金する確率が非常に高い。いやあ、そうなんですか……。
 コンビニの店内で、ケータイで話しつつ徘徊する客が増えた。そのため、コンビニ店員は身動きが取れなくなった。1時間や2時間程度は、平気で店内を徘徊する。
 コンビニが襲われることがある。しかし、警察は全くあてにならない。自らの仕事に命をかけているのは、警察官よりコンビニ経営者なのではないか。
私の知人も、午前3時から5時までの魔のゴールデンタイムは他人に任せられないし、かといって自分もおっかなビックリなので、ストレスがたまるという話をしてくれました。日本人とコンビニという切っても切れない関係にあるところに存在する大きな問題の一端が鋭く提起されています。私のような、月1回コンビニを利用するかどうかというのと、日本人の状況はまるで違うようです。私は出張したとき、ミネラルウォーターと朝食用の野菜ジュースをコンビニで買い求めますが、コンビニに入るのはそれだけです。コンビニは日本社会を破壊する存在だと考えているので、なるべく利用したくないのですが、このときばかりは仕方がありません。ホテルの近くに昔ながらのパパ・ママ・ストアーなんて絶対にありませんからね。
ピアノとフルートの生演奏を聴く機会がありました。久しぶりのことです。ビゼー作曲の「アルルの女」のメヌエットも演奏されました。この曲は私が小学生のとき、昼休みに流す校内放送を担当していて、1年間、毎日のように流していましたので、私の身体にすっかりなじんだ曲なのです。一度、昼休みの前、中休みのときにかけて先生に叱られるという失敗もしました。すばらしい演奏を聴いていると、身体が自然に揺れ、陶然とし、陶酔感から脱力して深い睡眠モードの心地になっていました。
 知人の女性にもフルートを習っている人がいますので、一度、彼女の演奏も聞いてみたいと思ったことでした。
(2008年9月刊。933円+税)

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