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カテゴリー: 社会

昭和史からの警鐘

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 吉田 敏浩 、 出版 毎日新聞出版
 昭和史の暗部をえぐり続けた松本清張。「昭和史発掘」は、読んでいて心底まで寒気がしてきました…。そして、戦争体験を教訓として語り続けた半藤一利。この2人は、かつて、作家と編集長として共闘し、軍事(軍部)の復活に警鐘を鳴らすコンビだった。
 岸田首相は能登の大震災にはケチケチとお金を出し惜しみするくせに、アメリカの要求には、すぐにホイホイと応じています。信じられないほどの節度のなさです。
 まずは「トマホーク」を400発もアメリカの言いなりに購入しました。先制攻撃ミサイルそのものです。そして、欠陥機であることが誰の目にも明らかなオスプレイを購入し、それを受け入れる基地を佐賀空港そばに突貫工事でつくっています。いやはや、なんという税金のムダづかいでしょう。
 軍拡を進めて、最悪の場合には中国との戦争も覚悟しているというのなら、まずは原発(原子力発電所)を全廃すべき。原発をミサイルで破壊されたら、放射能汚染を喰い止める手段はなく、日本は壊滅してしまう。
 原発が日本全国、しかも海に面して50基以上ある。こんな国を「武力で」守ることはできない。原発に1発でも攻撃されたら、日本はもうおしまい。武力による国防なんて、無理なことは明らか。
戦前の日本は、日銀引き受けの国債によって軍事費を増大させて軍拡し、戦争を遂行していった。臨時軍事費特別会計として、軍事予算を特別扱いした。今まさに、岸田政権は、同じことを5年間で43兆円という巨額の軍事予算を特別扱いして実行しようとしています。絶対に許せません。
 軍隊は市民を守らない。これは歴史が証明していること。軍隊にとって、市民は邪魔者でしかない。「市民を守るため」というのは、単なる口実であって、いざとなれば、市民は安全地帯から追い出し、自分たちの楯として「活用」するだけの存在。それを証明したのが、戦前の沖縄戦の実際。
 日本人の多くは、自衛隊とアメリカ軍が私たちの平和を守ってくれるという幻想に浸りきっています。願望にすがって生きているのです。しっかり目を覚ますべきだと私は思います。
 「サンデー毎日」の連載記事が本にまとまっていますが、読ませます。そして、怒りがこみ上げてきました。
(2023年10月刊。2200円)

安倍晋三VS日刊ゲンダイ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小塚 かおる 、 出版 朝日新書
 国会答弁のなかで安倍晋三首相(当時)は次のように言った。
 「きょう夕方、帰りに日刊ゲンダイでも読んでみてくださいよ。これ(言論機関)が委縮している姿ですか、委縮はしないんですよ」
 安倍晋三がこうやって国会で持ち上げた「日刊ゲンダイ」は、たしかに鋭い安倍批判を展開していました。でも、記者会見のときには「日刊ゲンダイ」の記者はいくら手を挙げても指名されないので、質問ができなかった。
 大手新聞は、ヨミウリ・サンケイだけでなく、NHKをふくめて明らかに「萎縮」しているのが現実です。
 「新聞とテレビは制圧した。あとは『文春』のような週刊誌と日刊ゲンダイ」
 これが自民筋の最奥部から洩れてくるホンネです。最近では、これに加えて「しんぶん赤旗」が入るのかもしれませんね(自民党の裏金スクープなど)。
 自民党の国会議員の世襲比率は3~4割。そして、世襲候補の勝率は8割。圧倒的に高い。世襲候補の7割は自民党。
安倍首相は、大手メディア幹部と月2回、「夜の会食」に励んでいた。1人予算は1万円以上。その源資は月1億円が使い放題という例の内閣官房機密費でしょう。何しろ領収書不要の「ヤミのお金」ですから(もちろん、すべて私たちが税金として負担させられているものです)。
 岸田首相は、「総理になったら一番やりたいこと」を問われて、「人事」と答えた。そして、子ども記者から「どうして総理になろうと思ったのか」と質問されたとき、「日本の社会の中で一番権限が大きい人だから…」と答えた。
 いやはや、正直にホンネを吐露したのでしょうが、これって日本の首相が子ども記者に言うべきコトバでしょうか。こんな人をトップにいただいていて、まともな「道徳教育」が出来るとは、とても思えません。せめて、「弱者救済」とか「社会正義を実現したい」と、建て前を言ってほしかったです。すると、子ども記者は次の質問が繰り出せますよね。
 「現実はそうなっていないようですが、それはなぜですか」と…。
 安倍元首相はひどかったが、岸田首相はもっとひどい。まったくそのとおりです。支持率が2割台でしかないのも当然です。物価対策ダメ、能登震災対策ダメ、それなのにアメリカの言いなりに高価な武器の購入だけは爆進する。どうやっても評価できるところがありません。
 アメリカの大統領が日本にやって来るとき、成田や羽田ではなく米軍横田基地に舞い降りる。ここは大統領に限らずアメリカ人は入関手続がいらない。まさに日本は独立国ではなく、アメリカの支配する国のままなのです。
 「年寄りが長生きするから、若い人の負担が重くなる」
 国民を年寄りと若者に分断し、世代間でケンカさせ、お互いにいがみあう状況をつくり出し、権力者は腕を組んで笑っている。これが、今の日本の姿です。
 でも、年金は削られていますよ。介護保険料は値上がりしています。オスプレイとかトマホークを買うのを止めたらどうですか。アメリカからF35なんて超高値の戦闘機を買うのを止めたら、年寄りも若者もいがみあう必要なんかないのです。
 いまの日本政治のおかしさを徹底的に追求している「日刊ゲンダイ」や「文春」、そして「しんぶん赤旗」にエールを送りたいです。
(2023年10月刊。890円+税)

在日韓国人になる

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 林 晟一 、 出版 CCCメディアハウス
 民族マイノリティ(少数派)として生きるのも、楽ではない。
 ゴキブリのたとえは、日本の排外主義者の専売特許ではない。戦いのさなか、相手を「非人間化」として動物とみなし、殺しやすくするのは常とう手段である。
 ヒトラー・ナチスは、ユダヤ人について人間の顔をしているだけで、人間ではない、ゴキブリ同然と決めつけ、大量殺戮(さつりく)を続けていきました。殺人(大量か否かにかかわらず)には、それを「根拠」づけるもの(理屈)が必要なのです。
 排外主義者の派手なパフォーマンスに惑わされ、過去の実績と未来を見さだめるセンスを曇らせてはまずい。戦後ずっと、生活保護を除く社会保障全般から在日韓国人は排除されてきた。
 しかし、1970年代から社会の統合が進むなか、国民健康保険をふくむ社会保障の恩恵にあずかられるようになった。長い苦しい戦いのなかでの悲願達成だった。
 1945年8月の日本敗戦時、日本には200万人以上の朝鮮人がいた。翌1946年3月までに130万人以上が朝鮮半島へ帰国した。その後、日本にいる在日朝鮮・韓国人は、おおむね50~60万人台で推移した。日本の全人口の1%に届くことはなかった。2021年には30万人となった。
 1955年では朝鮮籍が43万人、韓国籍が14万人で、前者が在日の75%だった。1969年には韓国籍が31万人、朝鮮籍が30万人と、シェアが逆転した。
 1959年から1984年にかけて、在日の人々が北朝鮮へ移住していった。累計で9万3千人。ピークは1960‐61年で、7万人以上の人が日本を離れた。
 1970年ころ、神奈川県川崎市は市の人口の1%が在日の人々だった。
著者の名前は、金日成を合成したもの。
 在日の人々は自営業の比率が高い。それは日本の企業への就職困難の反映でもあった。三大産業は、パチンコ店、焼肉屋そしてスクラップ回収業。いずれも私の依頼者(在日)の職業でもあります(ました)。他には、医師、金融業そして弁護士です。いずれも高い知的職業です。
 力道山の本名は金信洛。日本国籍を取得していますが、百田(ももた)光浩として生きてきた。マスコミは、朝鮮半島出身であることを知りながら、あくまで「日本人の英雄」とみなした。これに対して、プロ野球選手の張本勲(張勲)は、韓国籍であることを隠さなかった。これは、きわめて珍しいことだった。
 1955年時点で、在日と日本人との国際結婚は3割を占めていた。1970年代半ばまでに在日同士の結婚は過半数を割った。
 松田優作は、在日韓国人1世の母と日本人保護司の父のあいだに1949年に下関で生まれた。
 1980年代に在日韓国・朝鮮人をふくむ外国人にも国民年金や児童手当が適用された。
 1986年には、国民健康保険が全面適用された。
 川崎信用金庫が在日のローン拒絶について、ジャックスがクレジット利用拒絶について謝罪した。第一生命は在日の生命保険加入拒絶の改善を約束した。
 1977年、金敬得が韓国籍のまま司法修習生となることが認められた。国公立大学の教授職も1982年より外国人に開かれた。外国人登録のとき、指紋採取制度も廃止された。
今日では、在日の9割が日本人と結婚し、その子どものほとんどは日本国籍を得ている。
 海外渡航の自由の面で、今でも朝鮮籍と韓国籍には大きな差があるようです。
 著者は東京都内の中高一貫校で歴史・国際政治学を教える教員(今、43歳)です。
 とても面白く読み通しました。
(2022年12月刊。1700円+税)

移民の子どもの隣に座る

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 玉置 太郎 、 出版 朝日新聞出版
 大阪市のど真ん中に位置する「島之内」は住民6千人の3割以上が外国籍、日本でも指折りの移民集住地域。住民の大半はミナミの飲食店街で働いている。とくにフィリピンと中国出身者が多い。そこに「minamiこども教室」がある。火曜日の夜の午後6時から8時まで、小学生から高校生まで30~40人が集まってくる。フィリピン、中国、韓国、ブラジル、ペルー、ルーマニア、ネパール…と続く。
 教室では、ボランティアが一対一で子どもの隣に座る。
 ほとんどの子どもは島之内の中層マンションに住んでいる。島之内には暴力団の事務所もある。こども教室がオープンしたのは2013年9月のこと。なので、もう10年以上になる。
 著者は朝日新聞の記者として取材を兼ねて、教室でボランティアを始めた。
 大学生のころはバックパッカーとして、海外への一人旅に出た。
子供たちにとって、この教室は「居場所、心の居場所」だと言う。
 ボランティアには元教員もいる。その長年の教員経験から子どもの内面が姿勢に表れるという。それまで解けなかった問題が解ける喜びを知ると、もっと集中しようという気持ちが姿勢に出てくる。
 日本に住むフィリピン国籍の人は2010年代は20万人台で増え続け、2022年末には30万人になった。中国、ベトナム、韓国に次いで4番目。フィリピン国籍の人は男性10万人に対して女性が20万人。これは興行ビザでフィリピン人女性が来日してきたことによる。
 フィリピン人女性と日本人男性とのあいだの子は、「ジャパニーズ、フィリピノ、チルドレン」(JFC)と呼ばれている。法改正があり、日本国籍をとるJFCが急増した。7年間で4千人をこえる。実子が日本国籍をもっていたら、外国籍の母親も「子どもの養育」を理由に「定住者」在留資格を得られる。
 ブラジル国籍をもつ人は5番目に多いが、その大半は北関東や東海地方で、自動車関連の工場で働いている。
 日本に住むブラジル人は1989年に1万5千人だったのが急増し、ピークの2007年には30万人をこえていた。今や20万人前後。
 自己紹介が嫌いだ。日本人っぽくない名前を言うのが恥ずかしいし、怖かった。いじめの原因になるんじゃないかって、いつも不安だった。
 著者って、すごいなと感心したのは、34歳のとき、朝日新聞を2年間休職して、ロンドンの大学院に留学し、移民について学んだことです。しかも、このときもロンドンで移民の子どもたちのなかでボランティア活動をしたのです。すごいです。うらやましいです。
 子どもたちのなかに入ってボランティアしているときは、子どもたちの名前をしっかり覚えられるように、小さな紙片にカタカナで名前を書いてポケットに入れていたそうです。名前を間違えると、子どもはとても寂しい顔をするから…。
 ロンドンの、ここ(ソールズベリーワールド)は、いろんな背景をもった人の入りまじった場所なので、自分も、その一部だという感覚になれる。そうやっていろんな背景や文化をもった大人たちが、子どもと身近に接するからこそ、子どもたちは「違い」に対する寛容さを身につけることができる。
 なるほど、なるほどこんなこども教室が日本全国、あちこちに出来たら、本当にいい社会に日本も変わると思いました。
(2023年10月刊。1870円)

憲法を変えて「戦争のボタン」を押しますか?

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 清水 雅彦 、 出版 高文研
 戦前、「日の丸」を国旗に、「君が代」を国家にするという法律はなかった。事実上、国旗、国歌としていただけ。
 元号制度は、中国のまねをして導入したもので、日本独自の制度ではない。また、一世一元制(1人の天皇に1つの元号)は明治になってからのもの。それまでは同じ天皇のもとで、何度も元号の変更があった。
 自民党の憲法改正草案には、「国防軍」を保持する目的として「国民の安全を確保するため」が入っている。「国」だけではなく、「国民の安全」を新たに入れているのは、在外邦人の保護のために国防軍が国外展開することを可能とするため。
 なーるほど、そうなんですね。日本人は海外にいくらでもいますから、その海外在住の日本人を保護するためなら、どんな外国であっても自衛隊を派遣することができるというわけです。これって、いかにも悪知恵が働いているってことですよね…。
 また、同じ改正草案には「国防軍に審判所を置く」としています。しかし、現行の日本国憲法は、「特別裁判所はこれを設置することができない」と明文で定めています(76条2項)。にもかかわらず、自民党は戦前の軍法会議に相当する軍事審判所を設置しようというのです。とんでもないことです。
 改正草案には「新しい権利」を盛り込んだと自民党は説明しています。しかし、それらの規定はすべて主体の規定ではなく、客体の責務を規定したにすぎません。したがって、行政の場でも裁判の場でも使える権利にはなっていない。そうなんですよね、これもゴマカシなんです。
 安倍首相が殺害されて1年半たちましたが、岸田首相は評判悪いなかでも、アメリカ軍の高価な兵器等(たとえばトマホーク)を次々に買いあさっています。まるで、日本はアメリカの属国のようです。そして、その総仕上げが、まさしく憲法改正です。
自民党の考えている憲法改正案がいかにひどいものか、この本を読んで、改めて再認識させられました。
(2018年4月刊。1200円+税)

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