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カテゴリー: 社会

生きのびるための事務

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 坂口恭平(原作)、道草晴子(マンガ) 、 出版 マガジンハウス
 どうやら著者は有名な人のようですね。私はまったく知りませんでした。早稲田大学の建築科を卒業して、作家であり、画家であり、また音楽家、建築家というマルチタレントです。
 私は音痴で、楽器はまるでダメ。せめて絵が描けたらと思いますが、小学校のとき銅賞で入選したのが最高です。マンガが描けたらいいなと思いますが、写実的な絵は残念ながら描けません。写真は好きで、そこそこの写真集を出しましたが、趣味の域を出ません。やっぱり写真は被写体のよさと、シャッターチャンスに恵まれるかどうかです。なので、いい写真をとろうと思ったら、四六時中カメラを携帯していて、チャンスを逃したらいけません。
 著者はそううつ病であることを公言しているそうです。とても偉いと思ったのは、2012年から、死にたいと思った人ならだれでもかけられる電話サービス「いのちの電話」(090-8106-4666)を続けているというのです。24時間、365日、著者につながるそうです。1日15人、年に6000人から電話を受けているとのこと。まったく頭が下がります。
 この本は5月に刊行されて、7月初めにすでに5刷、5万部も売れているそうです。読んでみて、ナットクでした。
 著者が20年前、ほとんど無一文の状態にあったとき、この苦境をどうやって脱出したのか、マンガで紹介されていきますので、よく分かります。そのときでも、「きっと、うまくいく」という確信があったそうです。シンプルに一つずつ、起きた順に対処していく。そうすると、別に死ぬことはない。大丈夫だと思ってやってきた、というのです。
 もし、人が自らの夢の方向に自信をもって進み、頭に思い描いたとおりの人生を生きようと努めるならば、ふだんは予想もしなかった成功をおさめることが出来る。これは、『森の生活』という本を書いたアメリカの哲学者ソローの言葉。著者は、この言葉どおりに生きていったのでした。
 すべての行動をコトバや数字に書きかえる。「事務」とは、行動をコトバに置きかえること。楽しいことは続けたくなるし、継続すること自体が才能になって、そして最後は、どうせうまくいく。いやあ、すごいですね。この自己肯定感にみちあふれたコトバの威力って・・・。
生きてるあいだにすることって、自分が何が好きなのかを探して、それが見つかったら、死ぬまでそれをやり続けるだけのこと。それ以外の人生は、どれもつまらない、ただの退屈な時間だ。
私にとっては、調べものをして、少し考えて、書いていくこと、これが楽しいことです。
 すべての自由な人間は冒険を恐れずに楽しむ。そして、冒険があるところには「事務」がある。冒険を始めないかぎり、事務なんて存在しない。
「事務」とは、抽象的なイメージを数字や文字に書きかえて、具体的な値や計画として見える形にする技術。
この本を読んでいると、何かしら元気が湧いてきます。そうか、自分でもできるかもしれないと思わせるのです。
 ヘタウマなマンガによるシンプルなストーリー展開なので、心にすっと入ってくる良さもありました。
(2024年7月刊。1600円+税)

内閣官房長官の裏金

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター
 政権を握るということは、毎月1億円を好き勝手に使っていいということ。税務調査の心配もないし、領収書も不要。飲食代金に使おうが買収・供応資金に使おうが勝手次第。
 月1億円を自由に使える。これが官房長官の機密費です。
 ところが、実は、外務省にも同じような裏金があるのです。外交交渉で、外国の政府要人を買収・供応するための資金として「活用」されているようです。ときには、大使や外務省の担当官が、着服しているのが発覚して問題になったりもしますが、たいていは闇の中です。
この本で取り上げている裏金は、正式には「内閣官房報償費」と呼ばれます。月1億円、年12億円がきっちり支出され、使い残ったとしても国庫に返納するということはありません。
 会計検査院の実質的な審査はありませんし、領収書のチェックもありません。
 消費税を導入するとき、この官房機密費が十数億円も使われたことが明らかになっています。表向き反対していた公明・民社の議員を「買収」したのです。
 与野党対決の予想される重要法案を成立させるための国対費は1件あたり5千万円、ときに数億円になる。つまり、野党議員を裏金で「買収」していた(る)ということです。ひどいものですね…。
 沖縄県知事選挙にも、この官房機密費が使われました。1998年11月の知事選のときには1億7千万円が支出されたとのこと。
 国会議員が「海外視察」に行くときには餞別(軍資金)として、与党議員だと新人でも30万円、中堅以上なら100万円。いやあ、おいしいエサですね…、これって…。
 退任する日銀総裁、検事総長、会計検査院長にも百万円単位が渡される。最高裁長官には渡されないのでしょうかね…。
 著者は、この裏金の実態を明らかにしようと、裁判を起こしました。そして、ついに最高裁ですら、全面的ではないにしても、一部の開示を明示するよう判決したのです。
 著者の執念には、ほとほと頭が下がります。
(2018年7月刊。1200円+税)

政党助成金、まだ続けますか?

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター
 2019年7月の参議院議員選挙で自民党の河井克行・案里夫婦の公選法違反(買収)事件のとき、自民党本部から1億5千万円もの大金が河井夫婦に渡されたが、そのうち1億2千万円は政党交付金だった。つまり、私たちの納めた税金が自民党議員の当選のための買収資金として使われたということです。とんでもない税金の使途です。
 政党助成金の根拠となる政党助成法が制定されたのは1994年なので、もう30年にもなります。「政治改革」の名のもとに導入されたのですが、かえって政治が悪くなり、国民に無力感を植えつけてしまいました。
自民党本部のお金は幹事長マターだが、このときの1億5千万円は安倍首相の強い意向によるもの。河井克行は、安倍首相補佐官を長く勤めていて、対立候補は安倍にケチつけていた人物なので、その恨みを安倍は晴らしたかった。そして、1億5千万円のうちの1億円は自民党本部の使途不明金(つまりは裏金)だった。
政党交付金の原資は国民の支払った税金。なので、残金が生じたら、当然、国庫に返納すべき。しかし、自民党は返納していない。そして、政党基金とか支部基金として貯めこんでいる。その総額は、なんと277億5千万円をこえる。いやあ、とんでもない税金の使い方です。許せません。
「残金」を返納しないのは自民党だけではない。
政党交付金は税金を原資としているのに、政党交付金の使途は透明度が高くない。とくに、人件費は明細が不明。いつ、誰に、いくら支払ったという明細が記載されない。
自民党本部は、政策活動費に12億円ほど使ったことにしている。
そもそも、私的な存在である政党のために税金を投入してよいものなのか・・・。
政党交付金は317億円超。その半分以上の172億円が自民党本部に入っている。25年間でみると、政党交付金の72%、総額8221億円を自民党本部が吸い上げている。自民党本部の「人件費」の98%は政党交付金でまかなっている。自民党は大きな口を叩いていますが、政党交付金への依存度が高く、いわば国営政党というべき存在なのです。もっと謙虚に、大企業・金持ちのためではなく、庶民のための政治をしてほしいものです。
税金である政党交付金をもらっていると、国民から政治資金を集める努力をしなくなる。政治資金規正法を改正して、政党が公職の候補者に寄付することを禁止すべき。私も、この著者の提案にまったく賛成です。
自民・公明政権は領収書を10年後に公表するという、まことに奇妙奇天烈な法律を先日制定しました。信じられないほどの愚法そのものです。今いる国会議員のうち、10年後も国会議員だという人は、それだけいるでしょうか・・・。恐らく、ほとんどいないでしょう。
著者は、今のような小選挙区制ではなく、完全比例代表選挙にして、民意を正確に反映する国会の構成にすることを提唱しています。まったく異議なしです。
著者のweb講演を福岡の会場で視聴しました。その受付で販売されていた本を買って、読んでみたのです。大変勉強になりました。
(2021年2月刊。1200円+税)

検証  政治とカネ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 岩波新書
 自民党とは、まさしく裏金まみれの違法行為を平然とし続ける政党だということがよくよく分かる本です。問題は、それを知ってもなお自民党に平然と投票する人にある。というより、そんなこと自分には何の関係もない、こううそぶいて投票所に足を運ばない人がなんと多いことか・・・、そこにあります。今や投票率の低さこそが裏金まみれの自民党を辛うじて支えていると言えると思います。
 裏金は簡単につくれる。企業が政治資金パーティー券を購入しても、誰が、いくら購入したのかは明らかにできない。自民党本部は、合法的に使途不明金(裏金)をつくることができる。
 政党に支払われる政党交付金は全額が税金。毎年300億円以上の税金が自民党などに支払われている(共産党は受け取り拒否)。自民党は250億円の収入のうち7割の170億円が政党交付金なので、国営政党のようなもの。
政治資金パーティーは政治家の資金集めを最大の目的としていて、その利益率は8~9割。参加者は寄付するつもりでパーティーに参加しているので、その実質は限りなく寄付に近い。1人20万円をこえたときのみ、収支報告書に明細を記載すればよいとされている。ホテルの会場の収容人員が最大1000人であっても、パーティー券はその何倍もの数千人分が売られていることは少なくない。
政党から政治家個人への寄付が許されていて、裏金となっている。
 自民党の政治家は複数の政治団体をもっているので、一人が年間150万円という制限を簡単に突破できる。
裏金は何に使われているのか・・・。一つには買収資金。自民党の総裁選挙は、もちろん公職選挙法の適用はありませんので、裏金が大活躍していることでしょうが、違法にはなりません。
私たちの税金を充てる政党助成金は、企業献金を廃止するので、その代わりのものとしてスタートした。しかし、企業献金は禁止されなかったので、政党助成金は、「泥棒に追い銭」となった。
著者は政党助成金は憲法違反だとしています。国会議員5人以上という要件は、少数者を不当に排除している。ドイツでは、政党助成制度は1960年代に憲法違反だとした判決が出ている。1月1日現在で交付対象とされているので、年末になると、5人以上の国会議員が新党をつくっている。
自民党の党員は547万人いた(1990年代初め)のが、今では109万人(2023年)しかいない。5分の1になっている。
小選挙区制は、与党の過剰代表を生み出すおかしな制度。大量の「死票」が出ている。自民党は4割しか得票していないのに議席は8割もとっている。そして、この「上げ底」に応じて政党交付金まで過剰にもらっている。小選挙区制になって、自民党の国会議員も「イエスマン」ばかり。内閣や党役員のポストを狙って、打算と利権だけの集団と化してしまった。
これだけ自民党の裏金づくりに対する国民の批判、いや怒りが湧き立っているのに、総裁選の9人の候補者は誰も裏金づくりを止めるとは言いません。そして、NHKなど、マスコミも、それを弾劾しないのです。摩訶不思議な日本そのものです。そんな世相に対する頂門の一針というべき新書です。ぜひ、お読みください。
(2024年7月刊。990円+税)

なぜ「政治とカネ」を告発し続けるのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター
 9月初め、福岡県弁護士会は著者による講演会を開催し、私も福岡の会場で視聴しました。著者はWeb出演です。詳細なレジュメと表にもとづいた、熱のこもった講演のあと、参加者との質疑応答も30分近くあり、著者のド迫力に改めて圧倒されました。
 憲法学者である著者は、議会制民主主義の本質を踏まえて、現在の国会の議席構成には問題があると強調しています。
 国民主権主義である以上、直接民主主義の採用も肯定し、かつ直接民主主義に限りなく近い議会制でなければ、議会制民主主義とは言えない。議院内閣制を採用している以上、国会の多数派である内閣の暴走に歯止めをかけるため、与党の過剰多数を許してはならない。そのためには投票価値の平等が必要だし、自由な選挙運動が保障されなければならない。
 私は投票価値の平等を守るため、敬愛する伊藤真弁護士(憲法の伝導師と自称)の求めに応じて裁判の原告の一人になっています。
 また、自由な選挙運動の実現のためには、著者は書いていませんが、戸別訪問解禁が絶対に欠かせません。日本がいつも真似するアメリカもイギリスも、戸別訪問こそ選挙運動の大きな柱です。選挙ポスター公営掲示板の制度も廃止して、もっと選挙運動は自由にして、みんなが楽しくやれるようにしたらいいのです。著者は小選挙区制をやめて、完全比例代表制を提案しています。大賛成です。そして、企業や労働組合の政治献金やパーティー券の購入は法律で全面禁止すべきだと提案します。これまた、まったくそのとおりです。
 かの典型的な反共・労働貴族である芳野・連合会長は労組からの政治献金によっていくつかの政党の懐(ふところ)を握っている自信から、あのようなデタラメ放題を高言し続けています。労働者個人が政治献金できるのは当然ですが、労働組合が政治献金して政治を動かそうなんて、まったく間違っています。
内閣官房機密費は月に1億円、年12億円、まったく使い放題。会計検査院も手が出せない、「治外法権」のお金です。
 このなかから首相には毎月1000万円、自民党の国対委員長には月500万円が現金で手渡され、領収書は不要というのです。裏金どころではありません。要するに、私たちの税金を政府の高官たち、自民党と公明党の幹部連中が飲み食いを含めて私たちの税金を好き勝手に、毎月1億円も使っているのです。許せません。
 いやあ、それにしても、著者が地道な探究作業を長く続けておられることに、心より敬意を表します。
(2023年8月刊。1400円+税)

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