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カテゴリー: 社会

筆の音

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中山 伸 、 出版 大田文化の会
 東京都大田区で活動している民主的な人々が創立46周年を記念して発行した本です。私が大学生のころ川崎セツルメントに所属して活動していたときの先輩(太田政男さん)から贈呈されました。
 今は亡くなられた人を含め、有名人がずらり並んでいて壮観です。
 まずは、マルセ太郎(2001年1月22日没、67歳)。私は直接、その劇を見聞きしたことはありませんが、映画「泥の河」をひとり舞台で演じたのは圧巻でした(と聞いています)。50歳すぎまで売れなかったそうです。でも、最後は華々しい活躍でした。
 そして、井上ひさし(2010年4月9日没、75歳)。私のもっとも敬愛する作家です。「知の巨人」、「稀有(けう)の文豪」という評価に、まったく偽(いつわ)りはありません。
 井上ひさしの人生は、「言葉」で時代や世の中と真剣勝負をしつづけた生涯だった。日本語の素晴らしさを身をもって示した人間だった。何事も笑いに変える能力にたけた人間だった。これは畑田重夫の井上ひさしの評言ですが、ずばりそのとおりです。
 そして永井智雄(1991年6月17日没、77歳)の名前に久しぶりに接しました。NHKテレビ「事件記者」の相沢キャップ役が大当たりでした。私が小学生のころに観ていた、なつかしい番組です。いかにも知的で、いつだって物事を深く考えようとする表情・姿勢がとても印象深く残っています。この本を読んで、戦前から劇団員として活躍していて、召集されて兵隊にもとられていたことを知りました。戦後は、劇団員、俳優として活動しながら、革新懇話会などでも活躍していたのですね…。
 そして、映画「ドレイ工場」です。大学生のころに観た映画です。「男はつらいよ」では倍賞千恵子の夫役の前田吟が主役を演じました。志村喬が社長を演じています。
 この映画の苦労話として、ギャラが日給制だったということが紹介されています。すべてのスタッフ・キャストが1日3500円から2000円までの日給制だったなんて、信じられません。
 そして、撮影はすべてオールロケ。12ヶ所でロケした。エキストラも、のべ2700人。1968年に始まった上映運動は150万人の観客動員を成功させた。いやあ、すごい映画でしたし、迫力がありました。いまの日本でも、労働組合は労働者の生活を守り、権利を伸ばすために不可欠なものだということを広めるため、ぜひ見てほしい映画です。
 いま、アメリカでもヨーロッパでも、労働組合運動が盛り上がっていて、どんどんストライキをやっていて、成果を勝ちとっています。今どきストライキをやっていないのは日本くらいです。委員長に人を得て(連合の芳野女史のような自民党べったりのダラ幹部ではなく、資本家と対等にわたりあえる人)、若者を広く結集して活動しているのです。
日本だって、出来ないわけがありません。投票率53%という低すぎる壁を打ち破る力が労働組合にはあると確信しています。
(2024年9月刊。2000円)

栄光の松竹歌劇団史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小針 侑起 、 出版 日本評論社
 浅草を舞台に激動の昭和を駆け抜けたスターたちの50年史です。
私が知っているのは、SKD(松竹歌劇団)のなかでは、水の江瀧子、淡路恵子、草笛光子そして倍賞千恵子です。
 倍賞千恵子はトップの成績で卒業したのですね。でも、映画「男はつらいよ」は、まさに当たり役(はまり役)だったと思います。
私がこの本を読んだのは、戦前のターキーの活躍ぶりを調べたかったからです。ターキーが舞台で活躍しはじめたころ、私の父も20歳前で、ちょうどそのころ東京にいたのでした。
1931(昭和6)年11月、新宿の新歌舞伎座での公演のとき、水の江はカウボーイの親分役を演じ、「俺は、ミズノーエ・ターキーだ」と大見得(みえ)を切ったのが大受けして、それから「ターキー」の愛称で親しまれるようになった。このとき、ターキーは、まだ16歳でした。怖いもの知らずの年齢ですよね。
 ターキーは、それまでのオカッパ頭をショートカットにして、シルクハットの燕尾(えんび)服という颯爽(さっそう)とした舞台姿で舞台に登場した。
 派手な衣裳に身を包んだ17歳のターキーの男装ぶりは瑞々(みずみず)しく美しく、観客を完全に魅了した。
ターキーには熱烈なファンが大勢いて、強力なファンクラブもつくられていました。月刊誌「タアキイ」まで発行されていたのです。会員はなんと2万人もいました。
そして、18歳のターキーは争議団の委員長にかつぎあげられるのです。
 ときは、1933(昭和8)年6月のこと。ともかく出演料が安かったのです。ターキーらスター級でも80~100円、群舞のメンバーだと10~20円といいますから、あまりに安すぎます。そこから通勤費も化粧代も自己負担。
少女歌劇の生徒227人のうち258人が争議に参加したのでした。そして賃上げなどを要求しました。たとえば、研究生は15円、本科生になったら40円とせよ、組合加入の自由を認めよとか、40項目近くを要求しました。ところが、松竹側はほとんど拒否。そこで、争議団は本部を構えて本格的なストライキに突入。このとき、若い女性たちの保護者会として、父兄も同調して応援しています。
 会社が争議団の切り崩しを図り、争議を脱落した女性もいましたが、舞台に立つと「お詫びガール」として観客から冷たい視線を浴びたとのこと。
 そして、ついに7月15日、それなりに要求を満たして、円満解決。争議費用として、会社は争議団に6000円もの大金を見舞金名目で支払いました。
 このとき、争議団は会社側の切り崩しを避けるため、湯河原温泉に120人も籠城したのでした。これらの動きをメディアは大きく取り上げ報道しました。これが世間を騒然とさせた「桃色争議」です。ターキーたちは、特高警察に検挙され留置場にも入れられています。
 そして、ターキーの復帰第一作が松竹歌劇史上最高傑作といわれる「タンゴ・ローザ」。1933年10月29日から東京劇場、11月6日から浅草松竹座で公演。ターキーは闘牛大服に身を包んで登場したのでした。この「タンゴ・ローザ」の公演は浅草草松竹座だけでも74回、大阪・京都をふくめると160回も公演が開かれた。
 いやはや、ターキーへの熱狂ぶりはすさまじいものだったようです。美空ひばりの母親もターキーの熱烈なファンの一人だったそうです。
戦前、労働争議がいかに盛んだったか、それを父兄も観客の女性も応援していたことも分かります。今ではちょっと考えられませんよね…、いささか残念というほかありません。いや、日本だって、アメリカと同じようにストライキが頻発する日がきっと来るはずです。
(2024年10月刊。2500円+税)

商店街の復権

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 広井 良典 、 出版 ちくま新書
 近ごろ都に流行(はや)るもの。コンビニ、ドラッグストアー、コインランドリー、そしてシャッター街の商店街。全国どこに行っても、まともな商店街に出会うことが残念ながらほとんどありません。
先日、大阪で長い長い商店街を歩いてきました。そこは、車の入らない路地のような通りで、両側に小売店が延々と並んでいて、通行人と買物客で一杯でした。
 自動車と商店街が共存するのは至難の業(わざ)です。車があれば、ショッピングモールに少し遠くてもみんな出かけていきます。
 では、商店街の再生(復権)は不可能なのか・・・。本書(新書)は、その可能性を探っています。豊田高田市の「昭和の町」は商店街を観光資源としている。東大阪市では商店街に泊まるホテルを設けた。ここでは、まち全体をホテルと見立て、空き家も活用している。
 京都府長岡京市にあるセブン商店会は、かつては30店舗を下まわっていた会員数が2倍をこえているとのこと。ここには、保育園や法律事務所もあるというので驚かされます。
 東京は荒川区の西尾久では、商店街に5つの店を新しく同時にオープンさせた。ここは最寄り駅がなく、駅前商店街でもない。ここでは銭湯で落語やヨガなどのイベントも実施した。
東京の下北沢、新潟の沼垂のように、ほぼゼロから商店街が生まれ変わり、にぎわっている。
 日本全国に空き家が850万戸も存在している。全国の住宅の実に14%近い。日本の空き家率は、諸外国と比較しても、かなり高い。
 ドイツなどのヨーロッパの商店街には、日本の商店街にあるようなアーケードはほとんど見られない。日本でも、シャッター街になっていた商店街を再活性化しようとしているところがあるのを知って、すこしうれしくなりました。いい新書です。
(2024年2月刊。1200円+税)

人間らしく働くための九州セミナー

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 現地実行委員会 、 出版 左同
 11月16日、17日に大牟田市で開かれた第34回セミナーの報告集。筑波大学人文社会系の田中洋子名誉教授の講演はドイツとの対比させて、日本がいかに遅れているかを明らかにするもので、驚くと同時に胸をうたれました。
 ドイツにもパートで働く労働者はいる。しかし、日本と違って非正規ではなく、働く時間が短いという正社員(短時間正社員)。ドイツの労働者は働く時間を自由に選べるし、そのことで処遇に差別されることはない。そもそも、正規と非正規という処遇格差がない。なので、裁判官や検察官、そして官僚から企業の管理職に至るまで、パート勤務の人々は多い。家族と自分の都合・希望により、働く時間を短くしたり、長くしたりできる。ドイツでもかつては主婦のパートが多く、パートの社会的評価は低かった。しかし、2001年のパート法によってそれが変わった。いやあ、これは日本と全然違いますね。うらやましい限りです。日本では、パートは正社員と雇用身分が別で、別体系の低い処遇ですよね…。
スーパーや外食チェーン店だけでなく、公共サービスでも非正規が急増している。
看護師の給与がドイツでは平均で月60万円といいますから、日本の倍くらいです。それでも、病院経営は黒字だというのですから、日本人としては信じられない、の一言です。日本では残念なことに労働条件が悪いうえに低賃金なので、看護師になりたいという若者が減少しています。ドイツに学ぶところ、大ですね。
 韓国から非正規労働センターとして活動しているナム・ウグン氏、キ・ホウン氏を招いて、韓国における非正規労働者の現状だと対策について報告してもらいました。
 すると、2020年9月、ソウル市のソンドン(城東)区で「必須労働者の保護及び支援条例」が制定され、翌2021年5月、必須業務従事者法が制定された。エッセンシャルワーカーを保護する条例であり、法律です。これによって、必須労働者は、コロナ対策ワクチンを優先してうてるようになりましたし、防疫マスクも1人あたり30枚が交付されました。
 支援内容は決して十分とはいえないようですが、条例そして法律によってエッセンシャルワーカー保護のため、市や国が取り組んでいることには敬意を表したいと思いました。
(2024年11月刊。非売品)

従属の代償

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 布施 祐仁 、 出版 講談社現代新書
 先の衆議院選挙では大軍拡の是非が争点となりませんでした。残念です。5年間で43兆円もの大軍拡予算が着々と現在進行形です。石破首相は日本の防衛力を強化する必要があるといって、これまでの安倍-岸田路線をそのまま踏襲しています。公明党はもちろん与党として、それを推進し、維新も国民民主党(玉木)も同じく、軍事予算は聖域扱いで、縮小なんて一言もいいません。本当にそれでいいのでしょうか?
 安保三文書を批判的に検討する討議資料を日弁連は作成中ですが、安保三文書には実は国民を守るための施策は何ひとつありません。たとえば、私たちの毎日の生活は水と電気が不可欠ですし、ガソリンと食料品がなければ行動できませんし、生きていけません。ところが、このようなインフラ・システムを守る手だては何も講じられていません。上下水道施設、火力発電所そして港湾がミサイルで攻撃されたら、多くの日本人は、その時点から生活できなくなります。船舶が動かなくなったら、食料自給率が4割もない日本ではたちまち食べ物がなくなります。車だってガス欠になります。
 そして、主として日本海沿いに50基以上も原子力発電所(原発)があります。地上から「デモ隊」が押し寄せてきたら対抗・排除できる体制はあるようですが、問題はミサイル攻撃です。これには対策の打ちようがありません。放射能がダダ洩れはじめたら、「決死隊」を送り込んでも、止めようがないのです。日本列島のどこにも逃げ場はなく、住むところがありません。
いま、自衛隊はミサイルの放射距離を200キロから1000キロにのばしました。中国内陸部へミサイルを撃ち込もうというわけです。そんなミサイル収納庫(大型弾薬庫)が大分に新増設されようとしています。防衛省は、2032年までに全国で130棟もの弾薬庫を増設するというのです。日本列島はミサイル列島になりつつあります。
 こんなミサイル基地が身近にあったら、あなたは安心ですか…。いえいえ、ミサイル基地は、「敵」から真っ先に狙われるのですよ。周辺の民家は爆発の巻き添えを喰うことでしょう。   
南西諸島にミサイル部隊を配置して「南西の壁」がつくられようとしています。台湾有事に備えてのことです。では、「敵」の反撃を受けたら、この南西諸島の住民はどうしますか…。船や飛行機で戦火の島から脱出できると思いますか…。出来るはずがありません。戦前の「対馬丸」の悲劇を繰り返すことになるでしょう。
中距離ミサイルを中国本土に届かせるためには、日本かフィリピンのミサイル基地を九州に置くしかない。これがアメリカの考えです。日本を捨て石にしようというのです。
 いざというときに、アメリカから見捨てられたら、どうしようと悩む若者が少なくないとのこと。そんな奴隷のような心情は一刻も早く、きっぱり脱ぎ捨てましょう。
 巡航ミサイルや極超音速滑空兵器はステルス性があり、発見されにくい。
本当に「台湾有事」が現実化したとき、先島(さきしま)諸島や南西地域だけの「局地戦」にとどまる保証はどこにもない。そうなんです。
 ミサイルが、核弾頭でないというだけで安心してはいけません。核弾頭が使われたら終りという前に、日本は破滅してしまうのです。
 安保三文書にもとづく大軍拡は、実のところ日本国民を死に追いやってしまう、危険きわまりないシロモノなのです。国を本当に守るのなら、軍備増強ではなく、話し合いしかありません。
(2024年10月刊。980円+税)

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