著者 ヴィクトリア・ブレイスウェイト 、 出版 紀伊國屋書店
魚が痛みを感じているのか?
この問いかけに対する答えは、イエス。ではなぜ、一度エサにかかって釣りあげられた同じ魚が、再びエサで釣れるのか?
それは、ひもじいのに、ほかにエサが見つからなかったから。うーん、魚も痛みを感じているのでしたか・・・。モノ言わない魚も、実は痛みを感じていたなんて。
痛みとは、単一のプロセスではなく、一連のできごとが集まったもの。皮膚の特殊な受容体が刺激を受けると、それは何かが皮膚にダメージを与えているという情報を身体に伝える。たとえば、最初にやけどが検出され、その情報が伝達する信号が脊髄背角へと伝わり、そこで反射反応が引き起こされる。そして、ヒトはやかんのふたを落とす。ここまでは、すべて無意識のうちに生じる現象だ。信号は、脊髄に到達して反射反応を引き起こしたあと、脳に至る。そのときはじめて、ヒトは痛みを感じはじめる。
やけどによって引き起こされた不快な情動的感覚に意識的に気づき、脳はたった今自分がとった行動が痛みをもたらしたのだと告げる。何らかの痛みが感じられるまでに2秒ほどかかることがあるが、ほとんど痛みはそれより早く感じられる。
マスに深い痲酔をかけて活動を完全に停止させ、何が起きているかをまったく関知できない状態にする必要があった。しかし、神経系は依然として機能している。ヒトの場合には、痛みを経験すると、呼吸と心臓の鼓動が速くなる。魚の場合には心拍数が早くなることが、エラ蓋の開閉数を数えることで分かる。
マスをハチの毒や酢で処置したとき、エラの開閉数は、休息していたことに比べて、ほぼ倍になっていた。したがって、マスは痛みを検知する。そして、それが刺激されると、その情報が三叉神経に伝達される。それによって魚の行動が変化する。
では、魚は感情を経験しているのか、苦しむ能力をもっているのか?
魚はエサを迷路のなかでも素早く見つけるようになる。つまり、魚は学習できるのである。エサを早く見つけるため迷路のなかで、どこで曲がったらよいのか、そのときの目印は何かを魚(キンギョ)は学習し、記憶することができる。
フィルフィンゴビーという小さな魚は、満潮時に周辺の地形を覚え込んでいて、干潮のときには海水のたまるくぼみを記憶している。そして、捕食者が来ると、水たまりから水たまりへと飛び移って逃げる。周辺の環境を学習するには、満潮をたった一度だけ経験すればよい。
魚にも「知能」があって、学習できること。そして、魚も痛みを感じていることを実証した面白い本です。
(2012年5月刊。2000円+税)
2012年6月11日