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カテゴリー: 生物

特殊害虫から日本を救え

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 宮竹 貴久 、 出版 集英社新書
 いまわが家の庭には、サツマイモとカボチャを植えて、収穫を楽しみにしています。
 実は、サツマイモはジャガイモより難しいのです。なかなか大きく育ってくれません。今年は場所を変えたので、今年こそは、と期待しているのですが、どうなりますやら…。
 地上部分は元気一杯にツルを伸ばし、葉を繁らせてくれているのですが、肝心な地下で太ってくれなければどうしようもありません。
この本には、このサツマイモに寄生する害虫の話が出ていて驚きました。
 アリモドキゾウリムシという害虫がいます。熱帯起源でアメリカ南東部とハワイにかけて分布する虫です。1903年に沖縄で発見されました。台湾から入ってきたようです。
 卵から孵化(ふか)した幼虫はサツマイモを食べて育つ。幼虫にかじられると、サツマイモは、大変苦い物質を発するので、とても食べられなくなる。人どころか、家畜のエサにもならずブタさえ見向きもしない。これは、イモが自らを防御するために発するイボメアユロンと呼ばれる苦み物資。虫だけでなく、人間が傷つけてもこの物質を出すので、広く敵に対するサツマイモの防御物質と考えられる。
こんな害虫をどうやって駆除するのかという苦労話が紹介されています。時間もかけて、物量作戦でいくのです。
 殺虫剤の散布は簡単だけど、他の昆虫も殺してしまう。そこで、オスのみを誘引する物質を探しあて、殺虫剤と混ぜてオスに食べさせ、オスを殺す。すると、メスは卵を産むことができなくなる。
 不妊虫放飼法というのは、蛹(さなぎ)のときに放射線を浴びせて不妊にしたウリシバエの大量の成虫をヘリコプターからばら撒(ま)くやり方。これはウリミバエを増産する必要がある。なんと、毎週2億匹のウリミバエを生産したそうです。沖縄の島々に21年もかけて撒いていって、ついに根絶した。いやあ、たいした取り組みですね。
 ところが、あまり強い放射線を浴びせると、オスの競争力が低下してしまい、弱すぎると不妊オスにならないので、その加減が難しかったようです。
 毎週3000万匹の不妊虫がヘリコプターで宮古諸島の林や畑に空からばら撒かれたというのですから、壮大な作戦です。
 それでも殺虫剤などの農薬を空中散布するより、よほどいいですよね。
 ところが、害虫根絶というのは、一度根絶したら終わりかと思うと、そうではなく、終わりなき再侵入との戦いに突入しているというのです。つまり、周辺の諸外国から害虫が侵入してくる危険が絶えずあるということなのです。
 害虫のミカンコバエは、50キロも離れた島まで海上を飛んでいくとのこと。すごいです。
 なので、著者は最後に、ネット販売で南西諸島の果物やサツマイモを島外に郵送しないように訴えて(警告して)います。
 農作物の移動を制限するのは根拠があること、初めてしっかり認識しました。
(2024年5月刊。1100円)

空飛ぶ悪魔に魅せられて

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ジョナサン・マイバーグ 、 出版 青土社
 フォークランドカラカラは、300羽ほどが海岸でひきしめあっている。
 フォークランドカラカラは、新鮮な肉しか口にしないハヤブサと違って何でも消化できる。
カンムリカラカラは、現地ではカランチョと呼ばれる。賢く魅力的な島で、「羽ある種族の王」と呼んで称賛されている。
 フォークランドカラカラの知性はレベルが違う。フォークランドカラカラは遊びと仲間を愛し、学習意欲にあふれ、ヒトを射貫くような意識のオーラをまとう。
 ハヤブサは、地球上で最速の鳥であるだけでなく、長距離を渡る鳥でもある。ハヤブサの多くは季節に応じて大陸間を移動し、総距離は1年で3000キロメートルほどにもなる。そして、ハヤブサの視力は想像を絶している。1.6キロメートル先から新聞の見出しを読めるほど鋭敏。
 カラカラは、南米のハヤブサのなかで、もっとも冒険好き。
 脳が大きく、長命なカラスやインコは、脳が小さく、短命なハトやウズラなどの鳥に比べて、平常時のストレスホルモンのレベルが低い。
 ハヤブサは孤独を愛し、型通りの行動を好み、失敗を避ける。これに対してカラカラは、新しいものに目がなく、仲間を求め、退屈を嫌い、いつもリスキーな行動をとり、興味をそそるものは何であれ、いじくり回さずにはおれない。
 南アメリカにはカラスがいない。なぜなのか…。
 アカノドカラカラの大好物は、なんといってもスズメバチ。大声で存在をアピールすることにかけては、アカノドカラカラも負けてはいない。すさまじい絶叫で耳鳴りがした。
鳥は哺乳類よりもヒトから逃げるのがうまいはずではと思うかもしれないが、歴史記録は逆の事実を示している。
 アンデスカラカラは、一族のなかで、もっとも美しい鳥だろう。インカ帝国でもっとも高い価値を認められていたものの一つは、カラカラの羽。インカ帝国では頭飾りが階級や所属を表す。
 カラカラの黒と白の装いは、インカの人々が考える万物の秩序にふさわしかった。
 カラカラには、ヒトと関わりをもちたがる興味深い傾向があった。
 チャールズ・ダーウィンはビーグル号に乗って航海していたとき、南米大陸の南端の島々で、タカとカラスの雑種のような奇妙な鳥に出会い、その賢さに舌を巻くとともに、いたずらに手を焼いた。好奇心旺盛で人を恐れず、大胆で騒々しい「空飛ぶ悪魔」ことフォークランドカラカラは、猛會類として異例の気質を獲得した。
 カラカラのことが、なんとか少しだけ理解できました。
(2024年5月刊。3800円+税)

タコの心身問題

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ピーター・ゴドフリー・スミス 、 出版 みすず書房
 この本を読むと、タコは意外なほど賢く、好奇心の旺盛な生き物だということがよく分かります。タコは、食べられないことが明らかなものにさえ関心を示す。
大腸菌は単細胞生物だが、自分にとって好ましい物質とそうでない物質とを区別することができる。好ましい物質であれば、その濃度の高いほうに移動するし、逆に好ましくない物質であれば、濃度の低いほうに移動する。大腸菌の外面には、そうした「感覚器」が並んでいる。この「感覚器」は、正確には、大腸菌の外膜を構成する分子である。
 実験室内でテストを受けさせると、タコはおしなべて良い成績をとり、かなり頭が良いことが分かる。
 タコは見慣れないものを弄(もてあそ)ぶだけでなく、有効に活かすこともある。
 タコは好奇心が強く、順応性もある。冒険心がある一方、日和見主義なところもある。いやあ、これって、人間の若者そっくりですよね。
 タコには5億個のニューロンがある。いったい、どうやって、こんなことを数えられたのでしょうか…。
 タコは捕食者であり、自らが動いて獲物を襲う。
 タコは非常に社会性が高い動物とは言えない。
 タコの心臓は一つではなく、三つ。その心臓が送り出す血液は赤ではなく、青緑色をしている。酸素を運ぶのに鉄ではなく、銅を使うから。
 タコは知覚の能力も、運動能力も非常に優れている。大規模な神経系と、活発に動くことのできる複雑な構造の身体をもった動物である。行動も非常に柔軟で、変幻自在だ。
 タコは方向感覚にも優れている。
 タコは身体の色を変える能力に長(た)けている。
 その皮膚は、重層構造のスクリーンのようになっていて、脳によって直接、制御される。脳内のニューロンは直接、皮膚につながり、筋肉を制御する。皮膚には、ピクセルのように色を発する小胞が何百万とあり、筋肉は脳の指令を受けて、その小胞を制御する。何かを感じると、それに従って、即座に色が変化する。一つの色素胞が発するのは一色のみ。
 イカには、人間に対して有効的なものがいれば、強い敵意を示すイカもいる。それでも、友好的なイカのほうが、ずっと多い。
 頭足類の身体の色変化には、擬態と信号伝達の二つの大きな役割がある。
タコの寿命は1~2年が普通。最大のタコであるミズダコも野生ではせいぜい4年しか生きられない。衰えが始まると、あっという間に健康が損なわれてしまう。好奇心旺盛な知性をもつタコだが、2歳になる前に死んでしまう。
 タコのメスは多数のオスと交尾をするが、産卵の時期には、巣穴に入ったまま動かない。卵を産むと孵化するまで抱いている。一度に産む卵は何千。幼生たちが水の中に出ていくとメスのタコは死ぬ。
 大阪はタコ焼き。そのタコがこんなに知能の高い生物とは…。うかうか食べられませんよ。
(2023年11月刊。3300円)

アリの巣をめぐる冒険

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 丸山 宗利 、 出版 幻冬舎新書
 アリの大群そしてアリの行列をよくよく観察すると、いろんなことが分かるという、面白い新書です。
生き物の発見は、視点がすべて。知識にもとづく独自の視点をもたなければ、新しい発見はできない。確固たる才がなければ、多くの生き物の存在を簡単に見落としてしまうのが野外調査の怖さ。
アリと多少とも共生あるいは依存することを好蟻(こうぎ)性という。
 アリの好む物質を出してアリから口移しに給餌を受けるもの、アリの巣にまぎれこんで餌の残りを食べるもの、アリの巣の周辺に住んで弱ったアリを食べるもの、アリの背中に乗って生活するもの、実にさまざまいる。
 分類学の研究では、写真技術の発達した今でも、絵描きのほうが有用な手段である。重要な部分だけを絵で示したり、強調できるから。
 アリの死骸がまとまって巣から出されるのは、年1回の早春に限られる。そこで、クサアリハネカクシは、この早春に産みつけられた卵は、わずか数日で孵化する。
アリはきわめて排他的で、他種に対しては強い敵対行動をとる。
 ヒメサスライアリは、アリを専門に食べるアリ。ほかのアリの巣を襲って、成虫や幼虫を狩って食べる。2~5ミリの小さなアリだけど、毒針を使って、自分よりはるかに大きなアリを仕留める。しかし、ヒメサスライアリは放浪性のアリなので、見つけるには偶然の出会いを求めるしかない。そして、基本的に毎晩、引っ越す。その引っ越しには、8時間も10時間もかかることがある。
ジャングルでは、ハチもヘビも怖いが、一番怖いのは蚊。マラリアにかかると大変。
 ヒメサスライアリの観察中、怒ったアリに刺されると、毒針なので強烈な痛さ。
 面白い、面白いと著者は書いていますが、なにしろジャングル(密林)の中なので、ともかく大変な現地探求の日々です。いやあ、学者って大変な苦労をするものですよね。とても真似できません。
(2024年4月刊。1040円+税)

神秘なるオクトパスの世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 サイ・モンゴメリー 、 出版 日経ナショナル・ジオグラフィック
 タコは賢い生物で、人間を見分け、人間になつくというのです。
 タコは、頭に1つ、足1本につき1つずつ、合計9個の脳がある。そして、心臓も3つある。ただし、その割には短命。8本の足で触り、味わう。そして、化ける。
 タコは洗練された擬態能力を備えている。瞬時に姿を変えることができる。ほかの動物の形や動きを擬態して、カムフラージュの名手もいる。
タコの皮膚の色の変化は、人間が顔をしかめたり、笑ったり、赤面したりする感情表現に似ている。
 タコにも、人間と同じく、個体ごとに違う性格と特質がある。
タコは、短命で、ミズダコの寿命はわずか3年~5年。
 タコには人間の顔を見分ける能力があり、好悪の感情がある。
 一部のタコは、2本の足で歩行する。
タコは、近づく人間が害がないと判断すると、近づくのを許し、手を伸ばして触れようとする。
 タコは信じられないほど、人なつっこい。
タコは人間が瞬(まばた)きするよりも速く、体の色や形を自由自在に変える。ワモンダコは、1時間に最大177回も体色を変え、50種類のボディパターンを身にまとうことができる。5分の1秒で体色を変えられるし、1時間以上も同じ色や模様を安定して維持することもできる。
 タコは、イカよりも6.5平方センチメートルあたりの色素胞の数が多い。500万個以上の色素胞がある。
タコは硬い骨格なしで二足歩行できる唯一の動物。タコの目は色を識別できない。タコは皮膚で光を感じたり、見たりできる。
実験によって、タコには記憶力、学習能力、自制心をもつことが証明された。
 タコにも人間のように2つの異なる睡眠段階があり、目覚めるまでにそれが何度か繰り返される。
タコは好奇心が旺盛で、何か面白いことをするのを楽しむ。つまり、タコは遊ぶ。
 タコは人間の顔を認識し、記憶する。
タコのメスは1度に10万個の卵を産むと、それを平均6ヶ月間守り、清潔に保つ。卵が孵化(ふか)するのを見届けると死んでしまう。
 タコのメスはオスを殺して食べる。
 タコって、こんなにも人間によく似た賢い動物なんですね…。すっかり見直しました。
(2024年4月刊。2300円+税)

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