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カテゴリー: 生物

すごいコアラ!

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 平川動物公園 、 出版 新潮社
 鹿児島市にある動物園には現在18頭のコアラがいて、みんな名前がついています。同じような顔と形をしていて、いったいどうやって見分けるのかなと不思議な気になりますが、一頭一頭、食べる好みも違うそうです。
 そういえば、東北の金華山の野生の鹿もずっと観察している人は見ただけで区別できるし、母と子まで見分けられるそうです。コアラだって、じっとじっと見比べていたら、きっと違いが分かるようになるのでしょうね。
 ちなみに、名前は、たとえばツムギ、ユメ、インディコ、スターです。タイヨウ、アラタ、ノゾム。アーチャーもいます。あまり規則性がないように思えますが、本当は何か命名ルールがあるのでしょうか…。
 コアラはオーストラリアの東側に棲み、固有種。毛が灰色の北方系と茶色の南方系がいて、日本にいるコアラのほとんどは北方系コアラ。
コアラは、とても繊細な生き物で、ストレスをためやすいので、飼育員や獣医師のほかは触れないようにしている。
コアラはユーカリを主食としていて、平川動物公園では13種類のユーカリを栽培している。
コアラがどのユーカリを好んで食べるのかは、日によって変わり、飼育員も予測が難しい。コアラは、その大きな鼻で、ユーカリの葉のおいしい。まずい、新しい・古いをかぎわけている。時間をかけて慎重にかぎわける。
ユーカリには毒素がある。コアラが食べても平気なのは、腸内細菌を活用しているため。コアラの盲腸は、体長70センチに対して、2メートルもある。
毒素があり、硬くて繊維も多いユーカリの葉を消化分解するには、たくさんの時間とエネルギーを必要とするので、1日20時間も眠ったり、休んだりしている。
野生のコアラは縄張り意識が強い。そのため、2歳ころから、テリトリーコールという野太い声で鳴く。
コアラを飼育員が抱っこするときは、右腕か左腕か、コアラによって必ず分かれる。どちらの腕でもいいというコアラはまずいない。
なんだか不思議ですね。どうしてなんでしょう。人間の右利き、左利きみたいなものなんですかね…。
ユーカリは大変傷みやすい。コアラには、1日に5~6品種のユーカリを与える。
ユーカリはカビが生えやすい。
コアラは、ユーカリを多いと1日に1キロほど食べる。18頭全部だと、年に34トンを食べる。そのため、ユーカリを動物園の内外40ヶ所のユーカリ圃場で、合計2万本ほど栽培している。
コアラはオスが3歳、メスが2歳で性成熟する。メスの1回の発情期間は10日。オスがメスに対してアプローチするのが大前提。
コアラの赤ちゃんは、体長1~2センチ、体重0.5~1グラムほど。コアラの赤ちゃんが母コアラの袋から出た「出袋日」がある。
赤ちゃんのエサは母コアラのうんち(パップ)。このうんちには、ユーカリの葉っぱを消化するのに欠かせない腸内細菌が含まれている。コアラのうんちは、ほのかにユーカリの香りがして、臭くはない。
コアラの子育て期間は、1年間。1年たつと、子離れ、親離れ。
平川動物園では、この40年間に105頭のコアラを飼育してきました。たいしたものですね。
オーストラリアでは大火災で一度に5万頭のコアラが死んでしまったり、野生のコアラの生息地は減る一方。
たくさんのカラー写真とともに詳しい解説のついた楽しいコアラ観察本です。
(2024年10月刊。1540円)

私はヤギになりたい

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 内澤 旬子 、 出版 山と渓谷社
 著者には3匹の豚を飼って育て、そして仲間と一緒に食べたという過程を迫った本があります。豚はとても賢い動物だということが、その本を読んでよく分かりました。そして今回はヤギです。瀬戸内海の小豆島に住む著者は5頭のヤギと1頭のイノシシを飼っています。
 もちろん、みんな名前がついています。その中心にいるのはメスヤギのカヨ。残り4頭の母親でもあります。
ヤギは孤独に耐えるとみられていますが、実は仲間がほしくて、ひとり(1頭)では寂しがります。ヤギ舎内では単独行動するけれど、基本は団体行動。
ヤギの食べる草にもヤギによって好き嫌いがあり、違っている。つまり、ヤギにも個性がある。ヤギたちの大好物はクズ。マメ科。露草(ツユクサ)は、まるで食べない。ニレの木の葉もアカメガシワやエノキと同じくヤギの大好物。ヤギは地面に落ちた葉っぱは食べたがらない。なので、なるべく枝付きの葉を差し出して食べさせる。ヤギは草よりも実は木の葉を好む。果樹のせん定時に出る枝葉は、どれもヤギの大好物だ。
 ヤギの乳しぼりを手でやるのは大変。乳搾り器を使うとおとなしく乳しぼりが出来てヨーグルトそしてチーズが出来た。ヤギミルクは脂肪の粒子が小さくて消化が容易なので、母乳の代わりになる。
 メスのヤギは21日ごとに発情期が来る。春と秋には、特別強く発情する。
 ヤギたちはみんな人間にされたことを忘れずに憶えている。
 ヤギは、同腹の兄弟の絆はとても強い。兄弟の1頭が事故で亡くなったあと、残る1頭は半年以上もうつ状態で自閉してしまった。
 ヤギたちは、赤ちゃんヤギをとても可愛いがる。
 ヤギのクールな瞳も毎日よく見ていると、実はさまざまに変化する。顔の表情の変化や耳の動きなど、こまやかな感情、そして要求などが読みとれる。
 ヤギは著者の日本語も聞きとり、理解している。
 ヤギはヤブ(藪)が好きではない。見通しの良い平なところにいるのを好む。天敵から早く逃げるため。
 ヤギの糞便と歩き方は毎日チェックする。歩き方がおかしいときは、腰麻痺を疑う。毎日のエサの心配と体調チェックが8割を占める。
ヤギは意思がはっきりしていて、好奇心が強い。おとなしいヤギもいるけれど、人間に対して強く出るヤギもいる。ヤギはかなり気性が荒い。
 そうか、前に『カヨと私』という本も読んだことを思い出しました。その続編になるのですね。ヤギの多頭飼いは大変ですが、面白くもあるようです。
(2024年9月刊。1980円)

あした出会える昆虫

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 森上 信夫 、 出版 山と渓谷社
 庭に来る昆虫が少なくなった気がします。なにより残念なのは、フジバカマの群生をつくって、アサギマダラ(蝶)を迎えようとしているのに、今年も来てくれなかったことです。それでも、いつかきっと来てくれるはず、来年こそはと思ってフジバカマをせっせと育て、増やしています。
 ときどきクロアゲハやアゲハチョウがやってきてくれます。キアゲハやアオスジアゲハも見かけたことはありますが、ジャコウアゲハは見たことがありません。クロアゲハは地面で吸水するのは、すべてオスだそうです。不思議ですね。メスはどこで水を飲んでいるのでしょうか…。
 アオスジアゲハはクスノキと花壇があれば、都市のなかでも育つそうです。同じく、ツマグロヒョウモンも花壇を利用して増えているそうです。
モンシロチョウは、日本の春の公式アンバサダーとされています。幼虫はキャベツの害虫です。昔、私も庭でキャベツを育てたことがあります。春になると、毎朝、割りバシをもってキャベツの葉、裏側まで青虫を探してつまみ出していましたが、ついにかないませんでした。毎朝とっても、必ず翌朝は青虫がいて、どんどんキャベツがかじられてしまうのです。いやあ、キャベツは農薬をふんだんに使うことがよく分かりました。
テントウムシは、わが家の庭にはなぜかあまり見かけません。日本には190種のテントウムシがいるそうです。肉食、草食、菌食など、いろんなものを食べています。ナミテントウは、アブラムシを食べます。驚いたのはその色彩の多様性です。赤地に黒い斑紋、黒地に赤い斑紋という基本ルールの中で、あらゆるパターンがあるのです。同一種だとは思えないほど色とりどりです。
 子どものころ、オニヤンマやギンヤンマを捕まえるのは夢でしたね。ほとんど捕まらないのです。ギンヤンマは、腰のあたりに白い部分があり、そこがほんのり光って銀色に見える。
 オニヤンマは日本最大のトンボで、体長10センチをこえるものがいる。育ち切るまでに3~4年かかる。トンボって、長生きするんですね。
わが家の庭には、モグラ、ヘビ、ダンゴムシそしてアリがいます。小さいアリが台所にまで侵入してきたことが何度もあります。
 大きくて黒いクロオオアリも見かけます。それより少し小さくてグレーなのはクロヤマアリ。サムライアリは見かけません。
空を見上げると、とんでもないところにクモの巣がかかっています。5メートルほども離れた木を結んでクモが巣をつくっているのには驚かされます。コガネグモ、ジョロウグモがいます。でも、クモは昆虫ではないそうです。昆虫は6本脚。クモは8本脚。この違いは大きいようです。
今年の夏はあまりの暑さに、セミがあまり鳴きませんでした。我が家にいるのはアブラゼミがほとんどで、お盆過ぎたら、パッタリ鳴かなくなりました。ニイニイゼミ、そしてヒグラシやツクツクボウシにも鳴いてほしいのですが、クマゼミもふくめて来てくれません。
今年は、アメリカ・シカゴで11年ゼミと17年ゼミが同時発生して、街中セミだらけになったようですね。テレビの『ダーウィンが来た』で紹介していました。
写真がたくさんあって、楽しい小型の昆虫図鑑になっています。
(2024年8月刊。1760円+税)

動物のひみつ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 アシュリー・ウォード 、 出版 ダイヤモンド社
 人間は万物の霊長なんかでは決してない。そりゃあ、そうですよね。いつまでたっても人間が人間を殺す、しかも大量に殺す戦争が果てしなく続いていますし、むしろ拡大しています。そのうえ、地球の温暖化がすすんでいて、南極・北極の氷がどんどん溶けていって、ホッキョクグマの生息域を狭くしているのですから…。
 700頁もの分厚い本なので、昼寝の枕にするのにも、ちょっと高すぎかな…と、ついためらってしまいます。ところが、滅法面白くて、ついつい頁をめくる手が止まりません。といっても読み終えるのに、4日間もかかってしまいました。毎日曜日午後の楽しみにていたのです。そんな前口上はほどほどにして、ちょっとばかり内容を紹介します。
 同じネグラを共有するコウモリは、食事ができなかった者がいると、満腹になったコウモリが自分の飲んだ血の一部を吐き戻して、空腹のコウモリに与える。
 オキアミは1匹は人間の小指ほどの大きさしかないが、とてつもなく大量に生存していて、その全部をあわせた重量は、全世界の人間の全体重より重い。そして、このオキアミを、魚もイカも、ペンギンもアホウドリも、アザラシも巨大なクジラも、みな重要な食料としている。
 クジラの糞は、濃い雲のようなもの。鉄・リン・窒素などの栄養分が多く含まれ、植物プランクトンは、この栄養分を利用する。オキアミは、この植物プランクトンを食べている。
 ゴキブリは学習する。ゴキブリの種の数は5000にもなる。ゴキブリの集団には明確な階層がなく、リータンもいない。
アリとシロアリは、何百万年と戦い続けている。
 グンタイアリの女王は、わずか4日か5日のうちに、なんと30万個もの卵を産む。コロニーが50万匹を超えるころ、3年周期で、コロニーが二つに分裂する。
 地球には、100兆匹ものアリがいる。南極を除く、すべての陸地にアリはいる。
 魚は、身体に占める筋肉の割合がもっとも多い動物である。全体重の80%が筋肉。
ムクドリは大集団になって空を飛んでいるが、どの個も自分のそばの7羽ほどの個体の動きに反応しているだけ。それによって仲間同士が衝突しないように予防する。
 鳥たちにとって、上昇気流は、踏石、あるいは燃料補給基地のようになっている。
ニワトリの間には序列がある。ニワトリの序列は、一度決まったら、数ヶ月いや年数も続くことが多い。
 ニワトリを大集団で飼うこと自体が、ニワトリの自然な習性に反すること。
 ネズミは賢く、さまざまな環境に適応できる。ネズミの嗅覚は非常に鋭い。ネズミは用心深い動物でもあり、巧みに毒餌(エサ)を避ける。
 ネズミは、仲間が飢えていると、気前よく食べ物を分け与える。あれれ、これってコウモリもやっていましたよね。
 母親に大切に育てられた子どもたちは、穏やかな、精神のバランスの取れた大人になる。これは、50年も弁護士をしている私の実感でもあります。逆に言うと、親から見捨てられていると感じた子どもは大きくなってから、親と大人社会に復讐しようとする傾向にあります。
 ハダカデバネズミは、30年以上も生きるのが珍しくない、というように長生きする。
ハダカデバネズミは、ガンにならないし、皮膚には痛覚がない。ハダカデバネズミは糞をよく食べる。ワーカーが女王の糞を食べると、女性ホルモンによって、多くのエストロゲンが入ったとき、子ネズミたちにとっての良き代理母となる。なーるほど、ですね。
 全世界に10億頭以上もいるウシ(牛)の血流は、肥沃(ひよく)な三日月地帯にいた80頭のオーロックスにまでさかのぼれる。
 牛は個体の違いを見極めることが出来る。牛は、群れの仲間の顔を少なくとも50頭、識別できる。写真であっても見事に個体を識別できる。これは人間についても同じ。自分への態度の悪かった人間、美味しい食べ物をくれるなど良くしてくれた人も、きちんと覚えていて、区分できる。
 象の嗅覚は、とてつもなく鋭い。数十キロメートル先に水たまりがあると察知できる。象は10キロメートル離れた仲間の発する可聴可音を察知できる。象には驚異的な記憶力がある。
 シンガポールというのはライオンの街という意味。シンはライオンのこと。雄ライオンの全盛期は、わずか2年か3年。ライオンの雄も狩りをする。ただ、雌とは方法が違う。
 ハイエナの社会ではメスのほうがオスより攻撃的で、全体として優勢。最下位のメスですら、最高位のオスよりも地位が上。ハイエナが笑い声をあげるのは、恐怖を感じていたり、緊張しているという合図。
 ハイエナは標的とした動物集団をよく観察し、「こいつは弱い」と判断した標的をしぼる。
 クジラの子どもは、母クジラの乳を吸うのではなく、食べる。カッテージチーズのようになっているから。
 バンドウイルカには、高度で複雑な言語があり、絶えず近況を伝えあっている。
 著者はシドニー大学の動物行動学の教授。対象とする動物の幅広さ、そして、その認識の深さには驚嘆するばかりです。
(2024年4月刊。2200円)

裏山の奇人

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小松 貴 、 出版 幻冬舎新書
 新書版としては新刊なのですが、実は10年前に東海大学出版会から同じタイトルで出版されていて、その復刊本(新書)なのです。カラー印刷なので、見てるだけでも楽しい新書になっています。
10年前は九大につとめていた著者は、関東に移り、また、結婚して、2人の息子がいるとのこと。奥様のコトバがすばらしいです。
 「コマツは組織に飼われたら絶対ダメ。自由におやり、私が養ってあげる」
 そのコトバのおかげで、著者は相変わらず、裏山で自由に生き物(昆虫)たちとの悦楽の時間を過ごしているようです。すごいですね。幼いころから昆虫好きだったとのこと。私もアリの行列に見とれ、その行き先をたどった記憶はありますが、石をひっくり返し、巣穴をのぞいたことはありません。そして、著者はなんと、アリに寄生する虫を発見したらしいのです。好蟻性昆虫と呼びます。このアリヅカコオロギの研究で20数年後に、飯を食うなど想像もしていなかったとのこと。そりゃあ、そうでしょう…。
 昆虫観察を成功させるコツは地元の人を決して敵にまわさないこと。いかに地元の人たちに赦(ゆる)されるかが肝心。要するに、変な奴と警戒されないようにすることなんですね。
 わが家の庭にはモグラが棲みついています。先日もチューリップの球根を植えたところが大きく盛り上がっていて、球根が地上に放り出されていました。トンネル内にあった泥を地上に押し出した後です。モグラはミミズを食べて生きていますので、決して球根なんか食べませんが、球根を邪魔者扱いにして地上に放り出すので困ります。
 このモグラの小型をヒミズと呼び、著者はずっと観察しました。
 ヒミズは、ある面ではとても賢いけれど、別の面ではとてもバカな生き物らしい。
 著者は森の中で、野ネズミを観察しようと夜に待ち伏せした。たった1人、暗い夜の森にじっと座って待つ。足を動かすと地面を振動が伝わるので、足は動かせない。鼻水が流れてもすすると、その音で警戒されるので垂れ流しのまま…。いやあ、寒い中、大変な作業ですね。おかげで動かず、音を出さないと、人慣れしていない野生動物でも至近で観察できることを学んだそうです。
いま、西日本新聞に連載中の昆虫博士・九山宗利先生に手ほどきしてもらい、今は尊敬しているとのことですが、初対象の印象は次のとおり。
 その見た目の胡散(うさん)臭さ、まがまがしさ…。いやはや、なんということでしょう。でも、恐ろしく博識で頭が切れるというホメコトバが続くのです。
 好蟻性昆虫の研究なんかして何の役に立つのか、そんなもの研究する価値があるのか…。よくある疑問です。でもでも、すぐに役に立たなくても、ひょっとして何かの役に立つかもしれないし…。学問って、すぐ目の前の役に立つ者ばかりではありませんよね。
 好蟻性生物は、いずれもアリに寄り添い、利用するために特殊な進化を遂げた、選りすぐりの精鋭ぞろい。アルゼンチンアリのようなアリの放浪種には、1コロニー内に女王が何十匹もいるので、たった1匹でも女王を駆除しそうになったら、すぐに増えてしまう。
天敵というのは、害虫の密度を抑えるのには役立つけれど、滅ぼすことはできない。
ツノゼミは、アリに守られた状態でよく見つかる。ツノガミが排泄する甘露をなめるため、アリがたかるのだ。
 奇人・変人がいるからこそ世の中の進化はあるのです。常識人ばかりでは困るのですよね。そのことがよく分かる本でもありました。
(2024年7月刊。1400円+税)

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