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カテゴリー: 生物

山と獣と肉と皮

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 繁延 あづさ 、 出版 亜紀書房
女性写真家が猟師と一緒に山に入り、「殺す」行為を見たときの衝撃を語っています。
ところが、その直後に、肉を食べるほうに関心が移っていくのでした。まことに人間というのは身勝手な存在です。私も子羊の肉をいつも美味しいと思って食べています(でも最近は、残念なことに久しく食べていません…)が、赤ちゃんのときから羊を育てていたら、とても食べられないでしょうね…。
前に、豚を飼ってペットのように可愛がっていた女性が豚を美味しくいただいた(食べた)という体験記を読みましたが、なかなか出来ることではありません(これには飼って育てることも含みます)。
尖った槍のひと突きで猪の心臓を刺す。鉄パイプを思いきり振って猪の眉間を叩く。素早く銃の安全装置を外して引き金を引いて猪を殺す。現場で身近に「殺す」行為を見たときの「圧倒的な暴力」がびんびんと伝わってきます。
箱罠にかかった猪は目から怒りがあわらしている。あきらめという気配がまったく感じられない。追いくる生気に圧倒される。ところが、猟師が狙いを定めて槍を突き出すと、たちまち猪の動きは止まり、魂が抜けていってしまう…。そして、直後に「肉」が見えると、とたんに「おいしそう…」という喜びに近い感情が湧きあがってくる。ふむふむ、少しだけ分かる気がします。
猟師から、獲れたばかりの猪の心臓、ヒレ、ロース、後脚2本そして首をもらう。心臓は焼肉、ロースは焼肉とぽん酢味のしゃぶしゃぶにして食べる。心臓は、しょうが醤油に付け込んでおく。野生動物の肉は、スーパーで売っている肉と全然ちがって、料理する工夫や手間が多い。心臓は、しっかり血を洗い流し、スライスして焼肉にして食べる。独特の歯ごたえがある。猪の肉は、繁殖期のはじまる12月ころが脂が乗っていて、一番おいしい。
著者がついていく猟師は大型バスの運転手を定年退職する前から始めたベテラン。鹿と猪をあわせて年間100頭以上も獲る。とった肉を好みの人々に配っている。
罠にかかって死んだ獣は決して食べない。あくまでも自分が殺した獣を食べる。食べないときには山に埋める。すると、動物たちが寄ってたかって食べて、たちまち跡かたもなくなってしまう。
子どもたちと一緒に山に入って猟師が猪を殺すところ、肉として解体する場面に出かけ、また自宅で一緒に料理する。すごい家庭教育の実践ですね…。
私の家の近辺にはタヌキが巡回することはあっても、猪は見たことはありません。山中で猪と偶然に出くわしたら、本当に怖いですよね…。
こんな勇気ある女性写真家の作品を一度じっくり見せていただきたいものです。これからも健康に留意して、ご活躍ください。
(2020年10月刊。1600円+税)

マンモスの帰還と蘇る絶滅動物たち

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 トーリル・コーンフェルト 、 出版 A&F
19世紀半ば、アメリカ東部には30億から50億弱のリョコウバトがいた。ところが、人間の乱獲によって絶滅してしまった。安い肉として食べ尽くされてしまったのだ。
そして、1980年にヨーロッパの鳥100羽をニューヨークのセントラルパークに放したところ、今や2億羽も生息して、自然と農業の両方に脅威となっている。ヨーロッパホシムクドリだ。うひゃあ、そんなことが起きるのですね、信じられません。
シベリアの凍土に眠っていたマンモスの牙がどんどん掘られ、中国人バイヤーに高く売られている。毎年60トンものマンモスの牙が中国に売られている。
ある中国の企業は、15キロ以上にはならない遺伝子組換えミニブタを販売している。ブタにどんな斑模様がほしいかを前もって顧客に決めさせ、すべての赤ん坊ブタを注文どおりに組み換えようと計画している。
1876年に、アメリカは日本からクリの木を輸入した。日本のクリはアメリカのクリより小さく、樹木の美しさとその実のためだ。ところが、一緒にクリ胴粘病菌も日本から入ってきた。そのためアメリカの野生のクリは破滅した。日本のクリの菌に耐性がなかったからだ。アメリカでは50年間に300万本ものクリの木が枯れてしまった。
アメリカのイエローストーンにオオカミが放たれたことが自然生態系の保護にいいというのも最近では疑問符がついている。
人間に慣れすぎ、その行動を人間に合わせるようにならないように捕食動物を育てて、放つというのはとても難しいこと。
絶滅したマンモスをよみがえらせるというのは、実にむずかしいこと。マンモスだろうが蚊だろうが、動物が死ぬとその身体はすぐに分解しはじめる。長いDNA分子は、最初に壊れるものの一つだ。DNAは、タンパク質やほかの細胞構造に比べて、弱く不安定なのだ。
恐竜のゲノムを研究するには、DNAに6500万年間も残っていてもらわなければいけないということ。この道のりは遠い。とてもよく保尊された恐竜の化石を対象にして、なんとかほんの少しのタンパク質の固定はできた。コラーゲン、ケラチンなど。しかし、DNAはかけらさえ見つかっていない。
絶滅してしまった種を再び復元することがいかに至難のことなのかが、チョッピリ理解できました。スウェーデンの女性科学ジャーナリストによって書かれた専門的な本です。
(2020年7月刊。2200円+税)

おどろきダンゴムシ図鑑

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 奥山 風太郎 、 出版 幻冬舎
わが家にもダンゴ虫はたくさんいます。犬走りのあたり、また、小石を取りあげると、もぞもぞとうごめいています。孫たちは喜んで、ダンゴ虫を手のひらに乗せて、じっと眺めます。
ダンゴ虫は小さい子どもたちに大人気です。決して踏みつぶして殺そうとはしません。あくまでも可愛い仲間なのです。
この本は、いえ、この図鑑は世界のダンゴムシ(虫)のオンパレードなんです。うひゃあ、こ、こんなにいろんな形のダンゴムシがいるんだ…、おどろきました。
ダンゴムシは世界に1350種ばかり。甲殻類のなかのワラジムシ亜目(3700種いる)に属する。
著者は、ダンゴムシを自宅で飼育中とのこと。南西諸島の種を中心として200以上の地域のダンゴムシを、5万か10万か、20万か…。数えきれないほど…。うひゃあ、これはたまりませんね。いくら可愛いといっても、20万もいたら…、ぞぞっとしてきます。
でも、ダンゴムシの飼育は楽しいし、そんなに難しくはないとのこと。
ある程度の湿度を保つことが可能な湿らせた落ち葉や腐葉土を敷けば、どんな容器でも飼育できる。乾燥させないこと、落ち葉や隠れ家をつくることができればいい。餌はニンジンのかけらでいい。
ダンゴムシは、常に穏やかで平和に暮らしている。その様子を眺めていると、日頃のストレスなんて吹っ飛んでいってしまう。
ダンゴムシの一生は意外に長く、飼育下では3年も生きる。
ダンゴムシのほとんどは、社会性のある集団生活を送ることはなく、1ヶ所にたくさんいても、それは結果として集まっているだけで、単独行動を好む。
世界最大のダンゴムシは体長2センチもあり、イタリアに多く、フランスにも少しいる。
ダンゴムシは雑食性で、カルシウム含有量の多い落ち葉ほど、よく食べる。
わが家で見かけるのは、黒光りのするオカダンゴムシ。なんと日本には明治時代に入ってきた外来種だといいます。もとは、地中海が原産地なのです。
いかにも愛くるしい、丸まった姿のダンゴムシは、防禦こそ生きのびるための最大の保障と考えています。いやはや、いったい誰が、そんなことを考えついたのでしょうか…。
ダンゴムシのカラー写真を眺めているだけで、ついつい楽しくなるダンゴムシの図鑑でした。
(2020年6月刊。1300円+税)

オオカマキリと同伴出勤

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 森上 信夫 、 出版 築地書館
昆虫カメラマンというのが、いかに大変なものか、よーく分かりました。タイトルのオオカマキリと同伴出勤というのも事実そのとおりにあったことで、ウソでも誇張でもないのです。
オオカマキリの産卵シーンの撮影のときのこと。おなかがパンパンにふくれ、今にも卵を産みそうなオオカマキリのメスを一晩中見張っていたが、結局、朝まで産卵しなかった。このまま放っておくと出勤中に産卵してしまうのは確実。それで、オオカマキリをミニ水槽に入れて職場に同伴させた。そして、足もとに水槽を置き、水槽のフタに足をのせ、ずっとずっと貧乏ゆすりをしながら、職場で一日を過ごした。メスが落ちついて産卵できないようにゆすっていたのだ。
帰宅して3時間たち、ついにオオカマキリは産卵をはじめた。お尻から真っ白い泡を噴き出しはじめたのだ。一日徹夜して、貧乏ゆすりしながら仕事をして、帰宅してからもずっと眺めていたのが、ついに報われたのです。いやはや、なんという苦労でしょうか…。私には、とても出来そうもありません。
おお名人芸!すごいぞ自分!今日も完璧!ひとり自分をほめて悦に入る。
いやあ、なんだか怪しい気分ですよね…。
生きものカメラマンは、ことばの通じない相手に何もかも合わせる必要があり、仕事の時間をコントロールすることができない。
昆虫カメラマンは、カメラマンだけの収入では生活できず、やむなくサラリーマンと兼業せざるをえない。なので、夜と休日だけのカメラマンとなる。
モデルの昆虫は、なるべく自宅で飼う。自宅マンションのベランダには、たくさんの鉢植えや飼育ケースが並ぶ。そして、それを集中管理するのは大変。
昆虫カメラマンの世界は、なかなか代替わりしない。40代までは若手と呼ばれる。著者は58歳(のはず)。
ウスバカゲロウは謎の多い虫。その幼虫はアリジゴクと呼ばれる。ウスバカゲロウは、エサを食べている姿、交尾している姿、卵を産んでいる姿を見せない。
そんなウスバカゲロウの産卵シーンを夜のお寺の境内で三日三晩すごして、ついに撮影したのです。いやあ、すごい。そして、そのお寺の場所も撮影の時間も書かれていません。まさに、著者の「専売特許」なのです。いやはや…。
著者は昆虫を一度も「かわいい」と思ったことはないとのこと。「かわいい」のではなく、「カッコいい」のです。なーるほど、微妙に違いますよね…。
著者は、高校時代には数学で苦しめられ、ついには落第。ところが生物は、いつだって「五」、そして現代国語のほうも学年2位になったこともある。それで生物が好きだったのに、理学部生物学科ではなく、立教大学の文学部に進学。ええっ、大変でしたね…。
昆虫少年だった著者にとって、昆虫図鑑は、まさしくアイドル図鑑だった。
昆虫少年が終生「虫と添い遂げる」には、受験、就職そして結婚という三大関門がある。でも、その前に昆虫愛をたしかなものにする必要がある。
うむうむ、なかなか壁はあついのですね。
著者の家には、30年来、飼育昆虫がいなかったという日は一日もないとのこと。
昆虫がエサを夢中になって食べてくれる姿は非常に心癒される…。
読んでいるほうまで、なんだかホワッと心が温まってくるのです。いやあ、昆虫少年のまま大人になったって幸せな人生ですよね。
(2020年8月刊。1600円+税)

アリ語で寝言を言いました

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 村上 貴弘 、 出版 扶桑社新書
アリ語で寝言(ねごと)を言ったなんて、なんと寝とぼけたタイトルなんだろうと思って読みすすめていると、なんとなんと、本当の話だったのです。
いやはや、アリを研究する学者って、寝言でまでアリを語っているのですね…。でも、ちょっと違うんです。寝言そのものがアリ語だというのです。ええっ、アリが話せるなんて、聞いたことないよ。そう、そうでしょ。でも、でも、アリって仲間同士で話しているっていうんですよ、本当に。
娘が「お父さん」と起こそうとしたとき著者は寝ぼけながら、「キュキュキュキュ、チャチャチャチャ」と答えてしまった。
「お父さん、起きて!アリ語をしゃべっているよ」
娘の、その言葉で、はっと目が覚めた。
キュキュキュキュ キュッキュキュキュキュキュ チョキュキュキュ キュッキュキュキュキュ
キュンキュンギョギョ
これはハキリアリたちが個体間で鳴きかれている音を特製の録音装置で聴きとったもの。
アリは腹柄節(ふくへいせつ)で音を出し、脚と触覚に耳(基質振動と空気振動を受容する器官)がある。
たとえば、いま判明しているのは、「この葉っぱはうまい」というと、働きアリは集まり、「この葉は、それほどでもない」と聞くと、別のところに移動する。
このように、音にはちゃんと意味があるのです。いやあ、これって本当でしょうか…。
アリはハチ目アリ亜科に属し、アリ亜科は1億5千万年前にハチとの共通祖先から分岐した。アリが出現したのは1億5千万年前で、5千万年前にはほぼ現在のアリの姿・形のものが出そろっている。そして、現在、地球上には1万1千種、1京個体のアリがいる。
著者は、アリを大学4年生のとき以来、28年間も飼育している。アリの飼育はむずかしい。
働きアリは、すべてメス。オスアリが生まれてくるのは、1年のうち繁殖期のみ。オスは地上に出てから数日から1週間ほど、長ければ2週間の生涯を終える。
働きアリが割り当てられる仕事は年齢によって決められている。たとえば、エサ探しや偵察など、巣から出る危険な仕事は老齢なアリが担当する。アリ社会の仕事は、効率よく分業されている。
アリといえば、ひとつの巣に1個体の女王アリが住んでいるというイメージが強いが、実は一つの巣に複数の女王アリが20~30個体いるというのも珍しくない。
ハキリアリでは、菌を食べるのは、幼虫だ。
昔、アメリカの牧場で6メートル四方で、深さが3メートルという巣穴を掘ったという記録がある。
ハキリアリは、畑を耕し、苗を植え、栄養を与えながら子育てし、雑草や害虫がでたら、とり除く。人間と同じだ。死んでしまったアリや、寿命が尽きそうなアリは外に出されてゴミ捨て場所に捨てられる。そして、ハキリアリの女王アリの寿命は10~15年。
アリと一言で言っても、こんなに多様なんです…、しびれます。
(2020年7月刊。900円+税)

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