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カテゴリー: 生物

土と生命の46億年史

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 藤井 一至 、 出版 講談社ブルーバックス新書
 恥ずかしながら知りませんでした。私の身近にありふれている土。私の自慢の庭は、黒々、フカフカの土で埋め尽くされています。だから、すぐに雑草がはびこってしまいます。
全知全能にも思える科学技術をもってしても、作れないものが二つある。それは、生命と土。いやあ生命のほうは、そう簡単に人間が作りだせないとは思いますが、土ならつくるのは簡単じゃないの…、とついつい思ってしまいます。ところが、土は作れないというのです。
そもそも、土とは何なのか…。土は人間には作れない。なぜ、どうして…。
 土とは、岩石が崩壊して生成した砂や粘土と生物遺体に由来する腐植の混合物である。ここで重要なのは、腐植は生物、つまり動植物や微生物に由来するということ。
 これは、地球上に生命が誕生する40億年前まで、いや陸上に植物が上陸する5億年前まで、地球上に腐植はなかった、なので、土も存在しなかった。うむむ、そ、そうなんですか…。
土は主として酸素とケイ素とアルミニウムから出来ている。生命はアミノ酸の集合体。
 ところが、環境中にアミノ酸はごく微量しか存在しない。
粘土がなかったら生命誕生はなかった可能性がある。粘土と砂は、生物のすみかにもなる。
 4億年前に登場した根は土にエネルギー(炭素源)を吹き込む。
 動物は、土と植物に関わりあいながら進化し、土壌の発達に関わってきた。
リンを岩石から取り出す能力は、植物と微生物にしか備わっていなかった。炭素と窒素とリンの循環に余剰が生まれるまで、多くの動物は上陸できなかった。
 ミミズは、4億年ものあいだ生き延びている。ミミズの上陸は画期的だった。ミミズの通路やフンによって団粒が増え、4億年前の硬くて浅い土を透水性や通気性の良いフカフカした土へと変貌させた。
 恐竜の巨大化は、背の高い針葉樹やイチョウを食べ、分解しにくい葉を腸内でゆっくり発酵・消化するのに好都合だった。
 巨大化した恐竜は温暖な環境に適応したスタイルであったので、寒冷化に対応できず、絶滅した。巨大隕石だけでなく、チョーク、石油そして土という身近な存在が恐竜の絶滅に関わった。
鉱物と植物・微生物との相互作用が土をつくる。
 土も変化を続ける。土にも寿命がある。
 成分の50%が鉄であるラテライトは、いわば土の墓標だ。土の最後の姿であり、もはや土ではないので、食料生産は出来ない。
粘土の電気がなくなると、栄養保持力が低下し、肥沃な土ではなくなる。
 人間の身体のリンの4割は、クジラなどの骨の化石に由来している。骨の主成分は、リン酸カルシウムだ。
 生命のない惑星に土はない。土のないところにジャガイモは育たない。
 月に基地をつくっても、土がないので、植物を育てることは出来ない。地球から持っていくには、土は重すぎる。
地球上には1兆種類もの土壌微生物が存在する。しかし、99%の土壌微生物は実験室では培養できない。いやあ知りませんでした。
ジャガイモを先日、大量に収穫し、これからサツマイモをどこに植えつけようかと思案中なのですが、土がこんなにも貴重なものだったとは、恐れ入り屋の鬼子母神でした。
(2025年3月刊。1320円)

ぼっちのアリは死ぬ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 古藤 日子 、 出版 ちくま新書
 アリは他者と出会うと、まず触角を使って注意深く相手が何者なのかを探る。それによって、自分の家族と、そのほかのアリをはっきり認識できる。外から来た侵入者だと分かれば、すぐに攻撃を開始し、殺してしまうことも多々ある。
反対に、自分の家族が窮地にあると知れば、積極的に助けに行く。仲間が負傷すると、巣に連れ戻し、抗菌物質を含む分泌液を塗布され、治療を受ける。仲間の足を切断することもあるが、これも治療の一環として行われる。
 負傷したアリは自分の感染具合いがどれくらい重篤かを判断し、仲間のもとに帰るかどうかを決める。受け入れ側の仲間たちも、受け入れるか、接触するか判断する。
 アリ全体の2割が外勤の仕事を担当する。アリは仲間同士で栄養を交換しあう。口移しで食べものを分けあう。餌(エサ)の共有は、外勤アリから順繰りに巣のなかにいる内勤アリや幼虫そして女王アリにまで続いていく。こうやって巣の仲間全体に餌が行き渡る。アリの社会は女性(メス)社会。
 交尾の季節に向けて、一年のうち一時的にオスアリは誕生する。
 クロオオアリの女王アリの寿命は10年以上。そして、生涯、産卵を続ける。労働アリの寿命は1年ほど。アリの幼虫は(ハチも同じ)、自分で食べることが出来ない。内勤アリから食べさせてもらうだけ。
 ムネボソアリは、10匹で飼育すると、20日たっても半数以上が生存しているのに対して、1匹で飼育すると5日で半数は死に至る。
 この報告書どおりになるのか、著者も飼育室で観察したのです。すると、孤立アリは、7日で半数の個体が死んだ。グループで飼育したら、2ヶ月たっても半数は生き残った。2匹だったら、1ヶ月で半数が死んだ。
 コロニーからひき離されたアリは、生物の根本原則における生きる意味を失ったから、早く死んでしまう。孤立アリは、餌を与えられても、自分で消化してエネルギーに変えることが出来ない。
 孤立アリは、酸化ストレスを増悪させてしまう。エネルギー代謝の中心である脂肪体で大きな酸化ストレスがかかっていることが判明した。労働アリにとって、コロニーや女王アリから離れるということは、すなわち子孫をチャンスを失い、自らの生きる意味を失ったことなのだ。これは、ヒトの孤立とは、生物学的にまったく異なる意味をもつ現象である。
 なーるほど、そういうことなんですか…。それにしても、それを実験で証明することの大変さもよくよく伝わってくる本でした。
(2025年4月刊。840円+税)

アリの放浪記

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 オドレー・デュストール、アントワーヌ・ヴィストラール 、 出版 山と渓谷社
 現在確認されているアリは1万3800種もいる。この本には、そのうちの75種が紹介されている。アリを観察することは、アリの知恵を学ぼうとすること。
アフリカのマダベレアリは、仲間のアリが足を怪我すると、看護師さながらに容態を確認したあと、唾液(だえき)で傷口を念入りに消毒する。そして、患者の脚に喰いついたシロアリの9割を取り除く。治療を受けたアリたちの9%が生存し、数日間の療養期間のあと、再び狩りに参加できるようになった。
 北アメリカの砂漠地帯に生息するフタフシアリは、クモの罠にかかってしまうと警報フェロモンを放出して助けを求める。すると、フェロモンを感知した仲間たちがすぐに駆けつけて、命がけの救助を開始する。助けに来たアリの6%は、自らがクモの餌食となってしまう。
 ほとんどの種のアリは、れっきとした墓地を造成する。しかし、この墓地に埋葬するのは死んだ仲間だけ。仲間の死骸は丁寧に扱われ、辱めを受けることなく、安息の地へ運ばれる。これに対して、闘争で命を落とした敵の死骸は、血液をたらふくすすったあと、腹を裂かれてバラバラにされた残骸をゴミ捨て場に投げ捨てる。仲間の死骸を墓地まで運ぶのは、衛生上の理由から、なるべく巣から離れた場所に運んで、病気の蔓延を防ぐためでもある。
 毒アリとして日本でも警戒されているヒアリは、アナフィラキシーショックと呼ばれる激しいアレルギー反応を引き起こすことがある。アメリカでは、年に1000万人がヒアリに刺され、平均して10人が亡くなっている。
 ヒアリは電流に引き寄せられるので、配電盤やパソコンの内部に巣をつくり、甚大な被害を生じさせている。また、ヒアリは、信号機の内部にも棲みつくことがある。
 ヒラズオオアリは、捕食者に襲われたり、縄張り争いで敵と対峙すると、相手にしがみつき、あごの筋肉を一気に収縮させる。その圧力によってアリの腹部の膜が破裂し、分泌腺の中身が放出される。粘性と腐食性のある液体は、炎症を引き起こすだけでなく、空気に触れると固まる特性をもつ。この液体を浴びて身動きがとれなくなった相手は、だんだん体の自由を失っていき、数秒後には死んでしまう。まさに自爆攻撃です。
 多くのアリは、仲間同士で触れあったり、なめあったり、抱きあったりしながら多くの時間を過ごしている。
感染症のもとになる菌を巣にもち込むのは、主として外をまわる採餌アリ。
アリは、太陽光を手がかりとして方角を把握している。そして、それは雲で太陽が隠れても通用する。空の一部分が見えてさえいれば、偏光を検知して方角を把握することができる。偏光とは、振動方向が一定になった光のこと。
アリは、平面上のうねりだけでなく、上下の起伏も計算に入れ、巣までの正しい距離を算出できる。
 オモヒロルアリは、意図して植物(スクアメラリア)を育てている。アリは、死ぬまで、ずっとこの植物に肥料を与え続ける。草食動物が近寄ってきたら、全力で植物を守る。
 このアリはただ運まかせに種を植えているのではなく、影になる場所を避け、日当たりのいい場所を選んで種を植えていた。
こうやってアリの生態を知ると、アリに知性がないなんて、とてもそんなことは言えないと思ってしまいます。
 足元で行列をつくっているアリたちをつくづく見直してしまう本でした。
(2025年1月刊。3190円)

散歩の愉しみ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 出井 得正 、 出版 本の泉社
 カワセミと里山の仲間たち。こんなサブタイトルのついた、気軽に楽しめる写真集です。
カワセミはわが家から歩いて5分ほど、少し離れたところを流れる小川でも見かけます。もう少ししたらホタルが飛びかう小さな清流です。鮮やかなブルーがすぐに目を惹きつけます。
わが家の庭の常連客は、冬のジョウビタキ、そして春のメジロ、ちょっと忌々しいのはヒヨドリです。サクランボの木があったときは、もう少しで食べられると思った矢先にヒヨドリ軍団に先に食べられてしまいました。一度や二度ではありません。
 著者の自宅は茨城。公園に出かけ遊歩道やため池で野鳥たちに出会う。なかでもエメラルドブルーのカワセミに出会うと、うれしくなる。
 カワセミはばたばたとは飛ばない。矢のように、機(俊)敏に飛ぶ。その飛ぶ姿はいつだって優雅だ。寒いときのほうがカワセミをよく見かける。
 カワセミのオスとメスの見分け方は、下くちばしの色が赤いのがメス。
背中全体が青紺色で、背中のまん中はエメラルドブルーの光沢のある帯。そして、お腹まわりは赤褐色で、脚は短くて赤い。カワセミは俳句の季語では夏。
 主食は小魚で、水中にダイビングして捕らえる。いったん水中に全身が潜ってしまい、すぐに水の中から小魚を口にくわえて出てくる。
 ティーティーと鋭く鳴く。ふだんは単独行動しているが、繁殖時はペアで縄張りをもち、水辺の崖に穴を掘って、そこで子育てする。卵は4~7個も産んで、20日ほどで孵化する。年に2回繁殖する。
 平均の寿命は2年。生まれてわずか数か月内に半数は死ぬ。成鳥になる前に死亡することが多い。無事だと7~8年は生きる。
 カワセミの飛ぶテクニックは見事。狭いところも、縦横無尽にコントロールして飛び回る。空中に、ホバリングして、一気に時速100キロで急降下する。狙った獲物は逃さない。
 大きなくちばしに短い尾を持つ、愛らしい姿。
 新幹線の先頭車両のデザインは、カワセミの長いくちばしを参考にして設計されている。
カワセミが糞を飛ばしている写真まであります。カワセミはお尻を上げて白い糞を勢いよく飛ばすのです。
私がジョウビタキが大好きなのは、この小鳥は、庭仕事をしていると、すぐそばまでやってきて、チョンチョンと尻っぽを下げて、「何してんの?」という仕草をしてくれるからです。可愛いったらありゃしません。
 カワセミのいろんなポーズの写真が満載の、ブックレットのような本です。
(2025年2月刊。1500円)

ハチは心をもっている

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ラース・チットカ 、 出版 みすず書房
 ハチは、1匹1匹が「心」を持っている。決して本能に従って反射的に動く機械なんかじゃない。これを徹底的に明らかにした本です。
今や、ハチの背中に電波発信機を取りつけて行動経路を探索できる(する)状況なんです。それが出来るの前の行動観察は本当に大変だったようです。その苦労も語られています。
あんなに小さいハチの身体を、それも脳の内部構造を調べあげ、ニューロンの樹状分岐パターンまで究明した学者がいるなんて、驚きそのものです。
 私たち人間は、ハチから多大な恩を受けている。これは間違いなく本当です。イチゴも梨もハチがいないと受粉できず、実がなりません。
脳内の糸球体密度の高いハチは、学習速度が速いだけでなく、記憶が長く保持された。ところが賢いハチは寿命が短く、採餌活動に関わる日数が少ない。すると、むしろ「のろい」個体のほうが、コロニーの採餌成績への貢献度が高い。学習速度の遅い「のろま」なハチのほうがハチの種族の生存に貢献しているというわけです。なーるほど、自然はよく出来ています。
 ハチの個体間にも、コロニー間にも、感覚系、行動、学習面において非常に大きな差がある。
ハチは温血動物。飛行中の正常体温は40度Cもある。
 ハチは、温かい蜜を出す花のほうを好む。
 マハハナバチは、ミツバチの花選択をまねている。
 ハチの脳を研究した成果として、たとえ微小な脳であっても、その神経配線しだいで高い認知能力を発達させ、周囲の状況を探って規則性を見つけたり、未来を予測したり、情報を効率的に蓄積したり、引き出したりできるようになることが明らかとなった。
 ハチの背中に取りつけるトランスポンダーは、重さが15ミリグラムしかない。これは、運搬可能な花蜜の重さよりも、はるかに軽い。
 ハチは飛んで上空に舞い上がると、巣の外観や近くのランドマークを記憶する。
 ハチに全身麻酔剤を投与して人工的に眠らせ、時差ボケになったミツバチをつくりあげて観察した。すると、自分が予想外の場所にいることを気づいたハチは、見なれたランドマークを探して輪を描くように飛んだあと、やがて巣に向かって一直線に飛んでいった。
 ミツバチの巣に敵が出現したら、警報ホルモンを分泌するが、これは、内因性鎮痛物質を大量に分泌させ、戦闘による外傷に気づかせないようになっている。こうやって番兵バチを敵を恐れ知らずの自爆攻撃者にしてしまうというわけ。
ハチの世界をじっくり観察した研究成果が示されています。
 ハチが絶滅危惧種になったら、人間の生存も難しくなりますよね…。そうならないよう、人間は農薬を使うのもほどほどにしたいものです。
(2025年2月刊。3600円+税)

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