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カテゴリー: 生物

動物のペニスから学ぶ人生の教訓

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 エミリー・ウィリンガム 、 出版 作品社
 オーストラリアのヤブツカツクリはペニスが非挿入性であるにもかかわらず、複数のパートナーと分け隔てなく交尾する。ペニスを持たないオーストラリアツカツクリは忠実に一夫一婦制を貫く。
 挿入器を持ち、父親が熱心にヒナの世話をするダチョウやエミューは巣内に不義の子のいる割合が高く、育てているヒナの半数以上は、オスと血がつながっていない。
 何が原則で、何が例外なのか、勘違いしないように…。
 陰茎骨は、脊髄動物の歴史上、もっとも謎に包まれた骨のひとつだ。
 マルミミゾウの求愛に関する観察によると、オスはメスを「愛撫」したあと、鼻を交差させ、先端をお互いの口の中に入れる。交尾の前に、オスはメスの協力のもと、メスの検体の化学検査をする。交尾が終わると、群れのほかにメンバーが周りを取り囲み、おのおのオスとメスから「検体採取」をして、幸せなカップルの交尾を祝う。ゾウにとって、情交は集団全体で育(はぐく)むもの。
 ゾウアザラシのメスは、オス同士の闘争をけしかけ、配偶相手の候補者をふるいにかけ、選択している。
 古代ギリシャでは、ペニスは小さく、きゃしゃであるのが良いとされた。大きく太いペニスは野蛮で、奴隷や未開人の特徴であり、ギリシャ人にはふさわしくないとされた。
 著者は学者であると同時に、妻であり、母親でもあります。
 「3人の息子たちと夫は、私のヒーローだ。生殖器づくしのこの本を私が芝居かかった調子で読みあげ、衝動の赴くままにダジャレを連発するのを、品よく我慢してくれた」と、あとがきに記しています。このように女性が男性のシンボルであるペニスについて研究して発表した本なのです。なので、とてもユニークな視点に満ちみちています。
(2022年8月刊。税込2970円)

イノチのウチガワ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ヤン・パウル・スクッテン、アリー・ファン・ト・リート 、 出版 実業之日本社
 通常のX線よりも波長が長く、透過性が弱いため、骨などの硬い物質ではない、ちょっとした薄い皮膚でもうつるものを軟X線という。この軟X線撮影装置で撮った生物の写真。これまでのX線では採れなかった貴重な写真が満載です。
要するに、生物のウチガワをうつし出すのですから、すごいものです。コンピューターで調整せず、歯も骨も、そっくりそのままの姿で撮られています。
X線写真の撮影では、照射するX線量を調整する。照射線量が多いほど、X線は簡単に物を透過する。硬い物質のX線写真を撮りたいときには、照射線量を多くする。柔らかい物質や薄い物質を撮るには少ない量で足りる。
サソリは、クモに近い節足動物。クモの脚は8本だが、サソリも実は同じで8本、前の大きな「はさみ」は、実はあごから伸びた触覚(触肢)。
トンボには超強力な胸筋がある。これを使って、4枚の翅をそれぞれ個別に動かせるので、空中でどんな曲芸も演じることができる。そして、あらゆる飛び方をするあいだ、まっすぐなしっぽでバランスをとっている。一匹の大きなトンボは、1日で数百匹の蚊を食べている。
イモムシがチョウになるとき、羽化のあと、翅脈の管に体液がたくさん送られてチョウの翅をぴんとさせる。
タツノオトシゴは、食べた物を蓄える胃がない。食べたものは、そのまま腸へ向かう。タツノオトシゴは、小さな口で吸いこむだけ。常に食べていないと、十分なエネルギーが得られなくなる。
カメは、新陳代謝がものすごく低い。新しい細胞をつくり出すのに必要なエネルギー消費が少ない。
セキレイ(鳥)の骨はストローに似ていて、重さもほとんどストロー並み。中身はほとんどスカスカの状態。
鳥は腕の筋肉はほとんど使わず、胸筋を使って胸をはって飛んでいる。
コウモリは骨を細くすることで、できるだけ体を軽くしている。コウモリの翼は、手のひらが大きく進化したもの。コウモリの4本の指は非常に長く、親指だけが短い。
ノウサギとアナウサギは似ているが、少し違う。ノウサギは単独で暮らし、アナウサギは群れで暮らす。ノウサギはくぼみで、アナウサギは地中の巣穴で眠る。
モグラの手の指は各5本ずつのあと、6本目がある。
メンフクロウが実はやせた生き物であること、マルハナバチがくたびれた細い腰をもち、コウモリが大きな両手を使って飛ぶこと、シタビラメの全身の骨は、まるで芸術作品のよう。命の内側がこんなに本当は美しいのですね…。貴重な、未知のものへ誘(いざな)ってくれる大判の生物写真集です。
(2022年12月刊。税込2860円)

へんてこな生き物

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 川端 裕人 、 出版 中公新書ラクレ
 カラー版なので、カラー写真がたくさんあって、見ても楽しい新書版の生き物図鑑です。
 哺乳類なのに、花の蜜と花粉しか食べない小動物のハニーポッサムは、花の中に突っ込む長い「クチバシ」をもった不思議な格好をしている。
 ハリモグラは、モグラの仲間ではない。卵を産んで、母乳で育てる。赤ちゃんは、母親の腹の袋の中で守られながら、母親のお腹からにじみ出る母乳をなめるようにして飲んで成長する。ハリモグラにはREM睡眠が観測されないので、夢を見ない(はず)。
 ヒロバナジェントルキツネザルは竹を主食にしている。パンダみたいですね。食事の9割以上が竹。この竹は有毒なシアン(青酸)化合物を非常にふくみ、そのうえ猛烈に苦い。なので、地元民は絶対に、この竹は食べない。なのに、このキツネザルは美味しそうにかじる。哺乳類の平均的な致死量の50倍近いシアン化合物を消化できる、つまり毒を分解する腸内細菌をもっているようだ。
 屋久島にすむヤクシマザルは本土のニホンザルより一回り体が小さく、ずんぐりしている。
 ヤクシカはいつもサルの群れの近くにいる。サルが樹上で果物や葉を食べるとき、枝ごと落としてしまうことがある。また、サルの糞もシカが食べる。なので、いつも一緒に行動している。
 チンパンジーは、常時、にぎやかだ。騒々しい大型類人猿だ。
 テングザルは、他の動物が好むであろう糖分の多い、熟した果実はあえて避けている。
 ジンベエザメは、サメと言っても、プランクトンを主食とする「優しい巨人」。人を傷つけたという話はない。
 アマゾンマナティーは、アマゾン川の固有種で、植物だけを食べる。
 カカポは、世界唯一の飛べない鳥。
 ミナミシロアホウドリは体重が9キロもある。威風堂々で、気品あふれる鳥だ。
 サバクトビバッタは、その研究者である前野ウルド浩太郎が詳しい。『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)は、まことに面白い本なので、読んでいない人には超おすすめの本です。
 いやあ面白い本でした。世の中には、こんな奇妙奇天烈な生き物がたくさんいるのですね…。
(2022年8月刊。税込1320円)

病原体の世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 旦部 幸啓 ・ 北川 善紀 、 出版 講談社ブルーバックス新書
 ウィルスは、生物の特徴の一つにあげられる「細胞構造」をもたない。ウィルスは他の生物とはまったく異なる独自の感染・増殖様式をもっている。宿主となる生物の細胞に侵入し、その機能をジャックして「ウィルス生産工場」に変えてしまう。ウィルスは一度に大量の子孫をつくり出す。
 ヒトの体には、いろいろなタイプの病原体や状況に対応できるよう複数の異なる仕組みが備わっていて、それらを組み合わせることで、防壁の一つを突破されても、別の防壁で食い止めるという「多段構え」になっている。
 日本では1899年から1926年までの間にペスト患者が2905人発生し、うち2420人が死んだ。その後は、北里柴三郎らの尽力によって国内発生はない。
 インフルエンザについて、平安時代の歴史書『日本三大実録』(862年)にあるのが最初。インフルエンザウイルスに感染すると、1~3日の潜伏期のあと、38度以上の発熱や全身倦怠感、頭痛、筋肉痛などの症状が現れる。その致死率は、世界平均で0.1%以下、日本では0.001%以下。ただし、患者が多数にのぼれば、決して軽視できない。
 最近、梅毒にひそかに流行しているようです。潜伏期があるので、まさか自分が梅毒だと思わないというケースが少なくない。それに、梅毒は百面相と呼ばれるほど、症状が多様。
 エイズは、これまで3200万人が死亡したと推定されている。結核、マラリアと並ぶ、世界三大感染症の一つ。しかし、今ではエイズの薬は、完全に治せなくても、進行を止めて一生発症させないようにすることができる。
 大腸菌の大部分は、非病原性の無害な腸内細菌。
 コロナウィルスは、2022年6月までの感染者が世界に5億4千万人をこえた(うち死亡者は633万人)。100年前のスペイン風邪に匹敵する。
 ワクチンを5回接種したのにコロナ陽性になった人が身近にいます。また、PCR検査が陰性だったので帰省してきた子どもからコロナをもらった家族もいます。まことにコロナ禍は厄介な存在です。いったい、いつになったら終わるのでしょうか…。
 それにしても岸田政権の「5類移行」はひどいものです。要するに、公費負担はやめる、あとは自己責任だというのです。軍事予算のほうは5年間で43兆円も使うというのに、国民の健康と生命を守るのは国の仕事ではないというのです。本当に許せない自民・公明政権です。黙って、投票所に行かなかったら、自公政権から殺されてしまいます。怒りの声を投票所に足を運んで一票であらわしましょう。
(2022年8月刊。税込1100円)

日本の高山植物

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 工藤 岳 、 出版 光文社新書
 高山植物の背丈が低いのは、高山環境が厳しいから。そりゃあ、そうですよね。
 高山植物に特有な葉の形状は冬の寒さに耐えるだけでなく、夏の強風や強い日射への防御とも関係している。なーるほど、です。アントシアニンをコーティングすることで、葉内細胞を紫外線の影響からガードしている。常線性の高山植物では若葉が緑色をしていないものも多い。赤い色の正体はアントシアニンという色素で、紫外線を吸収する作用がある。
十分に耐寒性を獲得した冬モードの植物では、マイナス196度の超低温にさらされても細胞が壊れずに生存している。
 高山環境で乾燥ストレスは日常的。
葉の表層に花がきれいなのは、花粉を運んでくれる動物を引き寄せるため。その証拠に風媒花には花弁がない。
 高山帯には、1年生植物がほとんどいない。
 多くの高山植物の受粉を支えているのは、ハエ類とハチ類。ハエ類は高山生態系でとても重要なポリネーター。高山植物を訪れる昆虫の6割はハエ類で、3~4割がハチ類。
 ハナアブはハナアブ科とハラハエ目の昆虫。マルハナバチは、ミツバチ科の昆虫。
 ニュージーランドの高山植物が地味で目立たないのは、ハナバチがいないことと関係している。優れた色覚能力をもったハナバチがいないから、カラフルな色の花が進化する必然性がなかった。その代わり、目立たない花たちは、テルペン系化学成分に由来する、かなり強い匂いを出す。それはハエをおびき寄せるため。
 蜜量が花によって違うのは、ポリネーターに長居させないため。
 ウコンウツキという低木の高山植物は、開花期間中に花の色が変わる。オレンジ色はポリネーターに蜜のありかを教えるが、赤色に変わると、ハチには見えなくなる。
 厳しい環境に生きる高山植物は、他家受粉を成功させるためのさまざまな方法を編み出してきた。
 北海道の大雪山では高山植物の生育期間は7月中旬から9月半ばまでの2ヶ月足らず。この間に、芽吹いて、成長し、花を咲かせて、実を結ばなくてはならない。残り10ヵ月間は、雪の下で冬眠している。
 マルハナバチは、ミツバチのようにコロニー(巣)をつくり、そこでは女王バチと働きバチが分業している。卵を産む女王、コロニー内で子育てをする働きバチ。蜜と花粉を集めてくる外勤の働きバチ。夏の短い高山帯では、コロニーが存在するのは、わずか2ヶ月足らずのみ。それ以外の季節は、女王バチだけが孤独に暮らしている。
 日本の高山植物相はベーリンジア起源のものが多い。極地植物は、オホーツク海の両脇の2つのルートをたどって北海道にたどり着いた。日本にいる高山植物は、山域によって移住してきた時期が異なるグループで構成されている。
 高山植物の研究というのは、夏も冬も高山に一人でのぼって、そこにテントを張って観察するということですよね。ヒグマの心配はないのでしょうか。一人でいることの孤独感にどうやって耐えられるのでしょうか…。学者になるって、本当に大変なことですよね。でも、そのおかげで、こうやって美しい高山植物の生態を居ながらに知ることができるわけです。感謝しかありません。
(2022年9月刊。税込1320円)

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