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カテゴリー: 生物

匂いが命を決める

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ビル・S・ハンソン 、 出版 亜紀書房
 人間は他の生物ほど嗅覚情報に頼っていない。
 あなたも私も、そう思い込んでいるだろう。しかし、実は、人間の生活の重要な場面の多くで嗅覚に頼っている。
 アホウドリなどの海鳥は、プランクトンの豊富な漁業を匂いを手がかりとして探し当てている。植物だって、匂いを感知できていて、匂いのメッセージを送りあっている。
 ええっ、ホントなの…、驚くばかりの記述が続きます。
人の嗅覚受容体が400種ほどもあるからこそ、何百万種類もの異なる匂いを識別して嗅ぎとることができる。
 プラスチックは、海に漂ってるうちに、数ヶ月もすると、DMS(ジメチルナルファイド)を放出するようになる。なので、自然界の生物たちは、これ(プラスチック)を食べられる物質だと錯覚させてしまう。
 人間の遺伝子の1~3%が匂いを嗅いで、それを識別し、反応を引き起こすために働いている。
 犬にとって、匂いを嗅ぐことは知的刺激の源。匂いを嗅ぐことによって、犬は状況を理解し、その場をうまく切り抜ける。犬は嗅覚だけを使って、過去から現在までに何があったかを理解し、未来さえも見通す。人間が500万個の嗅細胞をもっているのに対して、犬の嗅細胞は数億から10億個もある。犬のほしがりそうな情報のすべてはお尻とその付近にある。
長いあいだ、鳥には嗅覚がないとみられてきた。しかし、アホウドリが進路を知るときは、嗅覚が大きな役割を果たしている。
 サケは必ず、「自分の生まれた」流水の川を探しあてて、そこに卵を産む。視覚的情報と電磁的信号、そして鋭い嗅覚を総合的に利用して故郷に帰る道を探しあてている。
 サメもまた、匂いで方向を探知する高い能力をもっている。サメは、ある種の匂いを2500万分の1の濃度で検知できる。
 サメの脳の3分の2は嗅覚器官蚊を誘引するかどうか、人によって明らかな個人差がある。妊娠中の女性は妊娠していない女性より2倍も蚊を引き寄せやすい。ビールを飲んだ男性は、明らかに他の男性より多くの蚊を引き寄せる。
 植物は攻撃されると、被害を訴える合図として、VOC’Sを放出する。
 私は、自慢にもなりませんが、あまり鼻が利きません。水仙の花の匂いどころか、キンモクセイの香りもなかなか楽しめません。コロナ禍のなかでマスクをしていると、そのせいにも出来ますが、マスクをほとんどしない今、なんで匂いが分からないの…、と非難されると、返すコトバはありません。でも、早春の水仙って、そんなに香り(匂い)がするものなのでしょうか…。
 裁判所で調停事件のとき、待たされているあいだに、300頁ある本書を読了してしまいました。今は調停事件を何件も担当しています。
 
(2023年9月刊。2600円+税)

動物たちは何をしゃべっているのか?

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 鈴木 俊貴 、 出版 集英社
 ゴリラ研究の第一人者と鳥(シジュウカラ)の若き研究者が対談している本です。ゴリラと鳥で、いったいどんな共通項があるのでしょうか…。そう言えば、鳥は現代に生きる恐竜の片割れでしたよね、それと関係があるのかしらん。
 ゴリラ学の権威は、ゴリラに「グッ、グフーム」とゴリラ語で挨拶が出来ます。山極さんを、26年ぶりに再会したオスのゴリラが覚えてくれていて、子どもゴリラ時代のように、あお向けに寝ころんで腹を見せてくれたそうです。親愛の情を示し、一緒に遊ぼうという意思表示です。すごいですよね、ゴリラが26年ぶりに会った人間をしっかり覚えていたのですから…。人間だって覚えているかどうかでしょう。
 鈴木さんは、長いときには8カ月ものあいだ長野県の山にこもって、日の出から日没までシジュウカラを観察しました。そして、ついにシジュウカラの鳴き声には意味があり、そこには文法まであることを発見したのです。
 いやはや、学者の苦労って、底知れませんよね。でも、いったい、どうやって…。
 シジュウカラは森の中の見通しの悪いところに暮らしているので、見つけた天敵の種類によって鳴き声を変えている。ヘビなら、「ジャージャー」、タカなら「ヒヒヒ」といったように。これは、天敵によって対処法が違うから。でも、これは野生の小鳥のことで、飼育下だと、いつだってエサがもらえて安全なので、鳴き声は少なくなる。
 シジュウカラが「ピーッピ・ヂヂヂヂ」と鳴いているのは「警戒して、集まれ」という意味。では、それをパソコン上で操作して「ヂヂヂヂ・ピーッピ」と逆にしたら、シジュウカラはいったいどう反応するか…。
 入れ換えたらシジュウカラは、特段の反応を示しません。ということは、音の並び方には意味がある。したがって、これは文法があるということを意味する。なーるほど、ですね。
 さらに、「ピーッピ」と「ヂヂヂヂ」を別のスタジオで録音して再現してみると、シジュウカラは特段の反応も示さない。つまり、あくまでも「ピーッピ、ヂヂヂヂ」という並び声だけが「警戒して集まれ」という呼びかけだと判明した。いやはや、推理力も必要なんですよね。
 動物には、ストーリー化する力がほぼ「ない」。
 ところが、シジュウカラは人間のように、文法を頼りとしていることが判明した。チンパンジーは、鏡を見て、うつっているものが自分だとは判別できないようです。それでも、鏡のうしろにうつっているものはつかもうとするというのですから、これまた不思議です。
 恐竜のなれの果ての小鳥のさえずりにきちんとした文法があることを発見するなんて、信じられません。
 この本には出てきませんが、小鳥のさえずりにも地方色、つまり方言があるそうです。
 道を究めた2人の学者の対話は、とても興味深いものでした。
(2023年9月刊。1700円+税)

無人島、研究と冒険、半分半分

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 川上 和人 、 出版 東京書籍
 日本にも無人島がたくさんあるようです。本書の舞台となった南硫黄島は、第二次大戦のときの激戦地、硫黄島ではありません。本州から南に1200キロのところにある絶海の孤島。東京都小笠原村に属しているが、過去に人間が定住したことはない。
 この島は、半径1キロ、標高も同じく1キロで、傾斜角度45度の急勾配の島。島の周囲は数百メートルの高さがある崖で囲まれた天然の要塞。
 なので、この島は人間による人為的な撹乱(かくらん)を受けていない、原生の生態系がそのまま維持されている。だから、研究のために島に上陸した人は、自然排泄は許されず、尿はそのままで許されるけれど、固形物のほうは携帯トイレで持ち帰ることが義務づけられている。うひゃあ、そ、そうなんですね…。
 この島の調査は、1936年と1982年、2007年、2017年に4回あっただけ。今回の2023年の調査は5回目。18人による2週間の調査のため、水は1日1日4リットル、予備をふくめて1104リットルを用意。食事は630食分。個人の持ち込みは1人15キロ以内。それでも総計1.6トンの物資を運び込んだ。
 南硫黄島には平地もなければ川もない。もちろん地下洞窟なんてない。崖の上からは、ボロボロと落石が降り注ぐ。
 この島には、タカやハヤブサなどの猛禽(もうきん)類がいない。なので、オナガミズナギドリが繁殖している。これまでのところ、この島にはネズミも侵入していない。ミズナギドリの仲間は、地下にトンネルを掘って、巣をつくる。控え目な鳥だ。
 島の生態系は、海鳥による八面六臂(ろっぴ)の活躍によって形づくられている。
 南硫黄島のウグイスもメジロも、この島だけでしか生きられない。
絶海の孤島で生活するなんて、私には考えられもしませんが、こんな冒険をしてみたい気持ちは、ほんのちょっぴりだけはあるのです。探検隊の一員にでもなったかのような気分で読みすすめました。面白い本です。
(2023年9月刊。1760円)

「利他」の生物学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 鈴木 正彦 ・ 末光 隆志 、 出版 中公新書
 人間にとって腸内細菌の多様性を保持したほうが病気になりにくい。そこで、腸内バランスの改善のため、健康な人の糞便を移植するという治療法が注目されているそうです。健康な人の糞便を溶かして大腸に直接挿入したり、カプセルに入れて口から摂取したりします。
 腸内細菌とヒトの免疫系はお互いに協力しあって、外部からの菌の侵入を防いでいる。腸内細菌は、直接、病原菌を駆除することもしている。
腸内細菌は、脳と密接に関わっていて、感情面にも影響している。そもそも脳は腸の先端部分が進化した器官とも言われている。腸には、腸管を取り巻く腸管神経系があり、腸管神経系は5000万個の神経細胞から成り立っている。腸管神経系は迷走神経系と密接につながっていて、迷走神経系は脳にもつながっている。
 精神を安定化するホルモンとして知られるセロトニンは腸管でつくられる。これには、腸内細菌のビフィズス菌が関わっている。ビフィズス菌はセロトニンを自らつくり出す。このセロトニンは、迷走神経の発達を促して、脳を育てている。
植物の9割は、何らかの菌根菌と共存している。どの菌根菌も、植物と共生しないと生きていけない絶対共生性の菌類。外生菌根菌としては、あの有名な松茸、フランス料理に使われるトリュフ、イタリア料理のボルチーニなどが有名。これらが高価なのは、生きた植物にしか共生できないというのが、大きな理由。
原始地球の環境は、高温かつ酸素が少なかった。今でも、この原始地球環境に似た場所がある。深海にある熱水噴出孔周辺。栄養分の乏しい熱水噴出孔周辺には、ジャンルの生物量に匹敵するほどのものがある。なぜか…。口も消化管も肛門も持たないチューブワームは、口がなくてもエラから硫化水素や酸素を吸収できる。
花と昆虫は、お互いに利他的で、仲が良さそう。でも、実は決して安穏な関係ではない。なぜなら、両者の目的が異なるから。花は甘い蜜や栄養豊富な花粉を用意して昆虫の訪花を待つ。その目的は、あくまで花粉を運んでもらうため。
昆虫にとっては、花粉の運搬なんて、どうでもよいこと。花の蜜や花粉さえもらえればよいことなのだ…。
花と昆虫、そして人間の身体までを広く統一してとらえることのできる本(新書)です。
(2023年7月刊。880円+税)

植物に死はあるのか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 稲垣 栄洋 、 出版 SB新書
 植物の葉っぱが当たり前に行っている光合成の反応を完全に再現することは、現代の科学技術をもってしても、出来ない。これって意外ですよね。宇宙にロケットを飛ばして、はるか彼方から極小の粒々を地球にもって帰ることの出来る人間が、たかが植物の葉っぱにかなわないとは…。信じられません。
 この光合成によって、酸素が廃棄物として植物から排出される。そして、酸素は生命を脅かす猛毒の存在なのだ。ええっ、そ、そうは言っても、疲れをとるため酸素マスクを口にあてかっているでしょ。あれは何なのでしょうか…。
 酸素は生物にとって危険な物質ではあるが、爆発的なエネルギーを生み出す力がある。
ソクラテア・エクソリザという植物は、「歩く植物」とも言われ、光の当たる方に移動する能力があり、1年間で数十センチも移動する。
 植物が巨木になれるのは、細胞壁のおかげ。
ウミウシの仲間は、細胞の中に葉緑体をもっていて、それが光合成をし、そこから養分を得ている。
 光合成を行う小さな単細胞生物は、シアノバクテリアと呼ばれている。このシアノバクテリアを体内に取り込んだか、取り込まなかったか、それだけが植物と動物の違い。
 木から草が進化した。草のほうが、木よりも進化した形である。
 生きている木のほとんどは、死んだ細胞から出来ている。木の中心部分は、実は樹木として立っているときから死んでいる。木のうちの生きている細胞は木の外側のやわらかい細胞であり、この外側の部分だけが生きている。人間の場合には、死んだ細胞が生きた細胞を包んでいる。
植物には、脳がない。脳細胞は、1000億個あまりの細胞がある。
 いま、身近な田で稲穂の刈り入れが始まっています。その田の畔に咲くヒガンバナは、縄文時代に日本に渡来した。ヒガンバナは三倍体なので、種子を作ることができない。
 サツマイモは根っこが太っただけで、ジャガイモは茎が太ったもの。
 生命の源は、星の死によって生み出されたもの。植物も星のかけらから出来ている。ええっ、空を飛んでいる「かけら」が地上の植物に一大変身するというのですね。本当ですか…。
 1週間をたどるうちに、植物という存在の出現、そしてその意義と問題点を学生からの質問にこたえる形式で明らかにしている楽しい新書です。
(2023年8月刊。990円)

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