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カテゴリー: 朝鮮・韓国

ハルビン

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 キム・フン 、 出版 新潮クレストブックス
 伊藤博文をハルビン駅のホームに待ち構えていて射殺した朝鮮人の安重根を描いた歴史小説です。韓国で33万部も読まれたベストセラーでもあります。安重根は朝鮮では知らぬ人はいないほどの英雄です。
 小説とはいえ、ほとんど史実に則しています。それで、ハルビン駅の警戒の緩さが日本側に原因があったことを知りました。
 当時、ハルビンはロシアの統制下にあり、ロシア警察庁は日本総領事に事前入場券の発行を提案した。しかし、日本側は、すべての日本が自由に入場できるようにしてほしいとして断った。たしかに、ハルビン在住の日本人は大勢がハルビン駅に歓迎のために参集したようです。そして、日本人も朝鮮人も外見からは識別できませんので、日本人の間に朝鮮人が紛れ込むのは容易でした。さらに、駅に入る人の所持品検査はしなかったのです。
ハルビン駅に伊藤博文が来ることは新聞が事前に報道していた。しかし、到着時刻までは書いていない。そこで、安重根の仲間がロシア人の駅員にロシア語で話しかけて聞き出した。
あとは安重根がハルビン駅にたどり着けるか、拳銃に弾(たま)は何発あるかです。
安重根は拳銃の弾を伊藤博文に3発命中させたようです。そして、伊藤博文のそばにいた日本人3人をうち、弾が1発だけ残りました。
ハルビン駅はロシアの管轄区域だけど、犯人の安重根が韓国市民であるため、この事件の裁判権はロシアに属さないとロシア司法裁判所は決定した。
そして、ロシア憲兵隊は安重根をハルビン駐在の日本総領事館に引き渡した。安重根は領事館の地下の拘置所に入れられた。
安重根は死刑宣告を受けたあと、上訴権放棄をして死刑を早々に確定させました。それからの安重根は大忙しだったようです。自分の一代記まで書いています。たいしたものです。
安重根は1910年3月26日、処刑された。31歳だった。
安重根の遺体は現在まで所在不明のままで、発見されていない。
韓国カトリック教会は、1993年8月に安重根の行為は「正当防衛」であり、国権回復のための戦争遂行行為として妥当だったとしました。
(2024年4月刊。2150円+税)

「劇場国家」北朝鮮

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 権 憲益 ・ 鄭 炳浩 、 出版 法政大学 出版局
 北朝鮮の政治体制は長続きするはずはない。まもなく自壊するに決まっている。こんな見方が日本でも有力でした。私もそう考えていました。ところがどっこい、今なお存在していますし、まだまだ当分の間、続きそうです。
 国民が食うや食わず、いえいえ、大量の餓死者すら出したというのに、一見すると、盤石の政治体制であるかのようです。
 ではなぜ、そんな矛盾をかかえながらも存続しているのかを探った本です。この本を読んで驚かされたことの一つとして、北朝鮮には朝鮮戦争で亡くなった兵士や市民のための墓地がないという事実です。あるのは1954年につくられた革命烈士陵。しかし、ここは朝鮮戦争の戦死者ではなく、金日成と一緒に戦った100人の満パルチザンを讃(たた)えるための場所。いやあ驚きました。
 金日成と満州パルチザンのグループが権力を掌握する過程で他のグループが次々に粛清されていった血なまぐさい歴史は知っていましたが、この革命烈士陵は、北朝鮮社会のもっとも特権的な層を形成していることのシンボルでもあるのでした。
そして、「苦難の行軍」です。これは、北朝鮮政府当局の無策・無能によって、少なくとも数十万人の市民が餓死していった時代の状況を示す言葉です。1994年に金日成が亡くなり、その後の1995年から1998年までのあいだのことです。
この食糧危機によって一般市民の間で朝鮮労働党の道徳的権威が墜落した。党の威信は果てしなく墜落した。それはそうでしょう。ともかく大量の餓死者を出すまでに至ったのですからね。
党中央が無為無策のため、下部の党幹部たちでさえ、女性たちの国境を越えてまでの出稼ぎ労働を事実上支援していたというのです。みんな生きるための必死の努力をしていたからです。この餓死との闘いにおいても、人民より軍を優先するという先軍政治がすすめられたのでした。
現地指導についても、これが北朝鮮指導者のカリスマ政治の重要な部分を占めていたことを認識しました。
現地指導によって、国家というものが遠く離れた公的な独裁権力から、父のような存在へと豹変する。父子関係がすべての人間関係を支配する主軸を成している。
これは日本の明治天皇が北海道から九州まで日本中のほとんどをまわったこと、同じく昭和天皇も戦前・戦後、日本各地を訪問しているのと、同じ意義を有する。なーるほど、ですね…。
北朝鮮の2400万人国民と平和共存するのがいかに大変なことかと思いつつ、でも共存するしかないと思い直し、苦労して読みすすめました。
(2024年1月刊。3400円+税)

続・韓国カルチャー

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 伊東 順子 、 出版 集英社新書
 私は韓国映画は比較的よくみているほうだと思います。といっても、Netflixは全然みていません。みるのは、あくまで映画館で上映される映画です。テレビでドラマをみることはありませんし、みるつもりもありません。韓流ドラマもみていません。こちらは、好みの問題です。
 映画を通して韓国社会の実像・実際を知ることができるというのは本当だと私も思います。
 巨大な高層マンション団地の真ん中にある小学校には校門が4つあり、どの校門を利用するかで、その子の家族のステイタスが分かる。
 韓国では、近年、25階建て以上の高層マンション団地が続々と誕生していて、今や韓国人の6割がアパート暮らし。日本に多い5階建の小型マンションは「ビラ」と呼ばれる。
 韓国人にとって家は、住むところではなく、投機の対象。韓国の富裕層の多くが、不動産投機で形成されている。農村地帯でも人々は一軒家ではなく、マンションで暮らすことを望む。韓国は「不動産階級社会」と言われるほど、住まいによる階層の序列化が見える形で進んだ。
 富裕層が江南に住むようになったのは「子どもの教育」に原因がある。政府が15校もの名門高校を半ば強制的に江南に移転させ、「江南は教育環境のよいエリア」という定評ができあがった。しかも、名門中学も江南に移転し、よい進学塾まで密集するようになった。
実際に暮らしてみると、韓国の大型マンション暮らしは快適。効率化、最適化という点で、「タワマン共和国」は理想的。
 同じマンションに暮らす人々の生活スタイルも似ている。高級団地には高級車が並び、庶民向け団地には庶民の車が並んでいる。それはそれで居心地がいいだろう。
 韓国の宗教人口は、1位がプロテスタントで970万人、2位が仏教で760万人、3位はカトリック教で390万人。
 保守系の大統領はプロテスタントで、革新系の金大中、廬武鉉、そして文在寅はカトリックだった。
 統一協会の信者はわずか2万人で、なぜ日本でたくさんの信者を獲得したのか、韓国人は不思議がっている。ひなびた農村に日本人女性の統一協会信者が少なからず今もいる。
 大企業のオフィスが集まり、富裕層が暮らす江南は、ソウル市全体で25区からなるうち3つの区を指す。この3区で徴収される財産税だけでソウル市全体の4割をこえている。それほど富が集中している。
 韓国の高校3年生が大変なのは、そこに「受験のすべて」が集中するから。中学校の入学試験が廃止され、高校受験は実質的になくなった。韓国では大学受験が人生初の大勝負になってしまっている。
 韓国の高校では、基本的に部活動がない。
 ほかにもいろいろありますが、日本と似ているようで、こんなに違うのか・・・と思わせるのが韓国社会のようです。それにしても、韓国映画は面白いものが多いと私も思います。
(2023年7月刊。980円+税)

金正恩の核兵器

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 井上 智太郎 、 出版 ちくま新書
 北朝鮮が宇宙空間に衛星を打ち上げると、日本政府は日本の上空を通過する(した)といって、Jアラートを発令します。「ミサイルが落下するかもしれませんから、地下壕や地下室に避難しましょう。机の下に潜り込みましょう」などと危機をあおり立てます。でも、私の身近に地下室なんてありませんし、テーブルの下に潜り込んで助かるミサイルなんて一体あるのでしょうか(ありえません)。
 はっきり言えることは、北朝鮮の軍事的脅威をあおり立てることによって、日本の大軍拡予算に賛同するよう国民を誘導(誤導です)していること、それにNHKを初めとする日本マスコミが乗せられ、電波ジャックさせられていることです。なにしろ、少し前まで年間3兆円台だったのが、4兆円となり、来年度は何と8兆円近い、今では大軍拡予算に驚かなくなっている日本人ばかりになってしまいました。危険な徴候です。
 金正日体制のときは18年間で16発のミサイルが発射された。ところが金正恩体制下では、ミサイル発射が11年間に150発、2022年の弾道ミサイル発射は59発にのぼった。また、核実験のほうは6回も行った。
 アメリカは、1958年から1991年までの34年間にわたって韓国に戦術核兵器を配備していた。ピークの1967年には、核兵器システムが8種類そして核弾頭950個が沖縄にあった。
 北朝鮮は、1950年代にソ連の支援で核開発に着手した。
 北朝鮮での核兵器開発には100~150の組織、人員にして9000人から1万5000人が従事しているようだ。ミサイル開発にしても同じように50の研究機関、3000人の科学者・技術者を含む1万5000人が従事しているとみられている。合計3万人規模だ。
 金正恩は、これらの科学者や技術者を厚遇し、優先的に住宅を供給している。
 朝鮮人民軍の総兵力は128万人。人口(2544万人)の5%にあたる。北朝鮮の兵役は、男性8~9年、女性6~7年だったが、今は、男性7年、女性は5年に短縮されている。人的資源を経済活動に振り分けるためだ。
 中国の地方都市で働く北朝鮮人労働者の月給は2000元(4万円)ほど。国への上納金などを含めると、1割も残るかどうかという実情にある。
 北朝鮮では政府公認のハッカー集団が活躍している。そのうえで、仮想通貨を窃取している。
 ロケット(ミサイル)の液体燃料は発射直前に燃料を注入する必要があり、発射まで時間がかかるし、その分、敵に見つかりやすくなる。
 朝鮮人民軍は食料や弾薬など、あらゆる物質を6ヶ月分備蓄するように定めている。
北朝鮮の核開発を、実は私たち日本人が主体的に支えているのではないかと、本書でも指摘されています。それは民間も政府も、です。闇の部分があるのです。
いろいろ実際と、裏に隠されているところを見抜く必要があると思いました。
(2023年4月刊。940円+税)

「三人の女」(下)

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 チョ・ソニ 、 出版 アジュマブックス
 「三人の女」とは、許貞淑、朱世竹、高明子。
 許貞淑の父親は許憲という弁護士。日本敗戦朝鮮開放後は、朴憲永や呂運亨たちと主に民主主義民族戦線を結成した。許貞淑は朴憲永との関係も深く、中国共産党との関係が深い廷安派に属していたが、金日成の信頼を得て、北朝鮮のエリートとして生き延び、1991年に天寿を全うした。その経歴を知ると、奇跡的な長命です。
 朱世竹は、ソ連へ2番目の夫・金丹治とともに移住したが、金丹治はスターリンの粛正の嵐にとらわれ、日帝スパイとして処刑された。朱世竹は1番目の夫、朴憲永との間の娘、ビビアンナ・パクをもうけるが、娘ビビアンナは父を知らず、母とは疎遠のままソ連で民族舞踊団員として活躍する。そして、朱世竹はソ連の流刑地に長く暮らす。
 高明子は朝鮮共産党の活動をしているうちに逮捕され、拷問を受けて転向書にサインして釈放された。
 「三人の女」たちの複雑な歩みがからまりあいながら、戦前・戦後の朝鮮、韓国と北朝鮮、そして朝鮮戦争、さらには戦後を生きていく状況が活写されています。
 北朝鮮で、金日成は主体思想を唱えます。著者は、主体思想について、マルクス主義やマルクス・レーニン主義とは異なる朝鮮の土着思想だとしています。儒教、カルヴィニズム・フォイエルバッハ流の人間主義、スターリン主義が奇妙に融合したアマルガム(合金)。
 朝鮮戦争は、金日成が発議し、推進した。この戦争は短期間で終わるし、アメリカは介入しないと言って、金日成はスターリンと毛沢東を説得したが、この予想ははずれた。
 スターリンは田舎の若者を抜擢(ばってき)して国家権力を与え、その若者(まだ30代後半だった)が有頂天になって戦争を起こし、結局、破局、国の破滅を招いた。金日成がせめて40歳になっていたら、戦争は起きなかっただろうと著者はみています。
 複雑怪奇な韓国・朝鮮の政治を「3人の女性」を通して描いている、いかにもスケールの大きい小説でした。韓国で4万部も売れたベストセラーというのは、よく分かります。
(2023年8月刊。2640円)

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