著者:葉室 麟、出版社:文藝春秋
第14回の松本清張賞を受賞した作品です。なるほど、なかなかよくできていると感心しました。
江戸時代の藩内の政治が語られます。百姓一揆もあります。藩主交代による政争があります。いかに英邁な藩主であっても、その子どもが成長すると、安穏ではいられません。息子を藩主として擁立し、父親を早く隠退させようとする勢力が出てきます。
藩の経済状況の改善も重要な課題です。新田開発、そして、商人の活用が重要な施策となります。しかし、それは商人との癒着を生み、賄賂政治につながります。田沼政治は悪政だったのか、その次の定信の寛政の改革は善政だったのか、難しいところです。
この本は小説なので、アラスジを紹介するのは遠慮しておきます。印象的にいうと、山田洋次監督の最近のサムライ映画・三部作の原作である藤沢周平の小説をもう少し明るくして、青春時代小説「藩校早春賦」(宮本昌孝、集英社)のイメージをつけ加えた感じです。
暮雲収盡 溢清寒
銀漠無声 転玉盤
此生此夜 不長好
明月明年 何処看
日暮れ方、雲がなくなり、さわやかな涼気が満ち、銀河には玉の盆のような明月が音もなくのぼる。この楽しい人生、この楽しい夜も永遠に続くわけではない。この明月を、明年はどこで眺めることだろう。
著者は北九州に生まれ、西南学院大学を卒業して地方紙記者などを経て作家としてデビューしたとのことです。なかなかの筆力だと感心しました。
ただ、松本清張賞というより直木賞ではないのかと、素人ながら私は疑問に思いました。
2007年8月10日